俺と友と追放と

理太郎

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09 雪に閉ざされた村で ④

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翌日から友は俺をほとんど無視するようになった。

雑談は全くできない。必要最低限の会話のみ。空気は悪かったが、俺がそうさせたのだ。
何も言う資格はない。友の気が済むまで受け入れるしかない。

「おい、俺は今日村長との話し合いがある。俺一人でだ。理由は分かるな?お前は勝手にどこにでも行ってろ」

昨日の話し合いのあとから、俺を見る村人の目には、明らかに負の感情が宿っていた。

俺は雪女の手先、村人を苦しめる原因。そう思われている。
俺がいたら、村人との関係を改善するための話し合いもうまくいかないのだろう。

俺達は雪女の涙が必要なのだ。そのためには、まだこの村から追い出されるわけにはいかない。


「分かった・・・迷惑をかけてすまない」





俺は森に来ていた。
家にいても何もする事はない。外に出ても厳しい目にさらされるだけだ。

いや、色々言い訳をしてしまったが、結局俺は彼女と話したかっただけなんだ。



「お兄さん、暗い顔してどうしたの?」

「・・・やぁ、色々あってね・・・俺が悪いんだけど、ちょっとだけ落ち込んでた」

「そう・・・」

「・・・ごめん」

「なんでお兄さんが謝るの?」

「・・・うん、その・・・村のみんなとの事だけど・・・」

俺の頬に、ひんやりとした彼女の冷たい手が触れる。


「うん。いいの・・・分かってるから・・・お兄さん、私・・・出て行くわ」




「・・・え、いや、ちょっと待ってくれ!なんで・・・」

「これ以上、村のみんなに迷惑をかけられないわ。いいの・・・本当はもっと前から分かってた。私は雪女だから・・・やっぱり人間には受け入れてもらえないのよ」

彼女は微笑んでいたけれど、空を見上げ振り続ける雪を眺めるその姿は、ひどく悲し気で、俺には泣いているようにしか見えなかった。


「最後に、お兄さんのような人に出会えたのは嬉しかったわ・・・ありがとう、お兄さん」


気が付いたら俺は彼女を抱きしめていた。

一瞬、彼女が驚いたように身をこわばらせたけれど、すぐに力を抜いて、俺の背中にそっと手を回してくれた。



「最後なんて・・・最後なんて言わないでくれ・・・俺は、キミの事が・・・」

そっと俺の唇に彼女の指先が当てられる。

「・・・嬉しいわ。でも、私は雪女だから・・・・・あなたには、きっと素敵な女性が現れると思う・・・だから、私の事は忘れて・・・」


お互いの目が合う。
俺は彼女の目に浮かぶ涙を見て、どうしようもない気持ちになった。

今、彼女を抱きしめているこの腕を離せば、二度と会う事はできないだろう。


この時、俺は魔王退治も何もかも全て捨てて、彼女と一緒に逃げ出そうかとも思った。

出会ってほんの数日だが、それほど強く彼女に惹かれていた。

だが、投げ出していいのか?世界中が魔王に苦しめられているんだぞ?
そう思い悩む部分も確かに心にあるのだ。


やがて彼女は俺の背中から手を離すと、そっと俺の腕を離して一歩後ろに下がった。

俺の心の迷いを敏感に感じ取ったのだろう。


この時、俺は何を捨ててでも彼女を選ぶべきだったと、激しく後悔する事になる。


「お兄さんはお友達と旅を続けるべきだと思う」


・・・・・さようなら



「ま、待ってく・・・!?」



彼女が俺に別れの言葉を告げたその時、俺の顔のすぐ横を、風を切る音が通り、次の瞬間彼女の胸を矢が貫いていた。

何が起きたのか分からなかった。

ただ、俺の後ろの樹々の間から大勢の村人が飛び出してきて、雄たけびを上げながらこちらに向かって走ってくるのだ。

手には包丁や鎌を持ち、その顔をみると誰もがひどい興奮状態にあるのが分かる。

そして、そんな村人達の後ろでは、友が歪(いびつ)な笑みを浮かべ腕を組み立っていた。


俺はすぐに理解した。


友は俺を切ったんだ。
村人の不安をあおり、雪女をすぐに殺した方がいいと言う結論へ誘導したのだろう。



俺は走った。

彼女が村人達に捕まれば、あの凶器でメッタ刺しにされるだろう。
それだけは許さない。絶対に許す事ができない!


間一髪、俺の方が早く彼女を抱き上げる事ができた。

だが、村人から逃げようと一歩踏み出した時、背中に鋭く熱い痛みを感じた。
振り返ると、村人が包丁を振り下ろしていて、刃が赤く濡れていた。

それを見て、村人の包丁が俺の背中を切ったと分かる。


「ッ!そんなっ!?」

雪女をかばうなら、俺も一緒に殺す気なのか!?

血走った目で襲い掛かって来る村人達に足がすくみそうになる。

「う、おぉぉぉぉぉーッツ!」

押し寄せる恐怖に呑み込まれないように、叫び声を上げて自分を奮い立たせると、俺はそのまま真っすぐに駆けだした。






・・・・・そこから先は記憶が途切れがちで、あまり覚えていない。


ただ、魔王を倒すために魔物と戦い旅をしている俺の足には、村人達ではとても追いつけなかったようだ。

森の奥深くまで逃げ、追ってが見えなくなったところで、俺は腰をおろして彼女と向き合った。

胸の矢は致命傷だった。

とても助からないのは一目で分かった。


浅く速い呼吸を繰り返す彼女に、俺はただ、死なないでくれと言葉を繰り返していた。



・・・おにいさん・・・泣いてるの?

・・・うぅ・・・す、すまない・・・俺が・・・俺がよけいな、事を・・・

・・・私、お兄さんと会えて・・・よかった・・・・・

・・・し、なないで・・・死なないで、くれ・・・・・

・・・お兄さん・・・だ、抱きしめて、くれない、かな・・・・・・


彼女の息遣いが弱くなってくる

もうほとんど聞こえない

きっと、この時の俺は涙と鼻水でよほどひどい顔をしていたのだろう
抱きしめたはずの俺が、抱きしめられていた



・・・・・お兄さん、ありがとう



彼女の頬を伝う一滴の涙が、透明な石となって落ちた


まるで粉雪が風に舞うように、彼女の身体は俺の腕の中から消えていった

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