俺と友と追放と

理太郎

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10 雪

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友が回想している間、俺は一言も言葉をはさむ事ができなかった。

雪女を忘れた事は一日として無かった。毎晩寝る前には彼女の顔が目に浮かび、俺はひどい喪失感にさいなまれる。

喉の奥がカラカラに渇き、嫌な汗が体中に滲み出る。
自分ではない、他の誰かに言葉にされる事がこれほど苦痛だとは思わなかった。


「あの後、森の奥で一人泣き崩れているお前を見つけて、俺が引きずって連れ出したんだ。
しかしよ、お前は俺に感謝するどころか殴りかかってきたよな?よくできるよな?お前が雪女の涙をもっていたから、俺は村には戻らずお前を連れて逃げる事をえらんだのによ。もし、お前を連れて戻っていたら・・・お前、殺されていたんじゃねぇか?」

そうだ。あの後の俺を見つけた友は、面倒くさそうに吐き捨てるように俺に言葉をかけてきたんだ。

口にする事も躊躇われる雪女を馬鹿にした言葉だった。

それを聞いた俺は、頭が真っ白になって友に殴りかかっていったんだ。
結局、勇者だけが使える電の魔法を浴びて俺はそこで意識を失ったが、友の顔に一発食らわせた事は覚えている。

そして次に目を覚ました時は、あの村から離れた知らない町の宿だった。



「おい、なんとか言えよ?お前、俺が三本角の鬼の話しを避けてたのに話したよな?だったら、お前も雪女の話しに答えるべきだろ?なんとか言えよ?今日はとことん話すんだろ?」

指先でテーブルを叩きながら、友は俺に言葉をぶつけて来る。

正論だ。
そして友に三本角の鬼の話しと向き合わせたのだから、俺も彼女との過去に向き合わなくてはならないだろう。


「・・・直接手を下していなくても、雪女を殺したのはお前だ。俺は一生許さない」

「・・・あぁ?まだこだわってんのかよ?あの女が死んだのは、お前の勝手な行動が原因だ。最初から俺にも話しておけばよかったんよ」

ニヤニヤとした嫌な笑いを作る友を見て、俺の心がざわりと波立つ。
だが、それ以上にもう彼女との思い出を汚したくない気持ちが勝る。


「お前に黙って雪女と会っていた事は・・・それは俺が悪い。勝手に雪女と村の関係を良くしようと動いた事も俺の独断だ。だけど・・・・・お前が彼女を殺すために村人をけしかけた事だけは、俺は決して許す事はない」

友の目を真っすぐに見てそう告げると、友もそれまでの薄ら笑いが消え、眉間にシワを寄せて俺を睨み付けて来た。

「へぇ・・・まぁ、いいけどよ。それなら猶更もう俺との関係は終わりにした方がいいんじゃねぇのか?お互い嫌いあってんだ。このまま旅を続ける事もねぇだろ?」


「・・・本当はそうすべきなのかもしれない。だが、俺はあの時・・・彼女に言われたんだ。俺はお前と旅を続けるべきだと・・・俺が魔王退治の旅をしている事を彼女には話していたからな。俺にとっては彼女の遺言だ。だから、魔王を退治するまでは俺は旅をつづけなければならない」

俺の言葉に、友は心底不愉快そうに舌打ちをすると、グラスの酒を一息に飲み干し、グラスを握ったままテーブルを強く叩いた。
そのはずみで、グラスの中の氷が飛び出し床に落ちて散らばる。

友よ・・・お前は何回同じ事を繰り返せば気が済むんだ?

俺がカウンターに顔を向けると、スッと台拭きが目の前に出される。

「はい、お兄さん。私は床を拭きますから、テーブルの上はお願いしてもいいですか?」

「あ・・・うん。ありがとう。待ち構えていたようなタイミングだね?」

いつもの女性店員さんだった。
彼女はクスクス笑うと目を細めて、こう続けば分かりますよ、と答えて床の氷を取って拭き始めた。

拭き終わると彼女は、お兄さん元気だしてね。と小声でささやいてカウンターへ戻って行った。



お兄さん・・・か



懐かしさと悲しさが胸に押し寄せる

この心に空いた穴は、きっと一生埋まる事はないだろう

あの森で彼女と出会い、語り合った時間はほんの数日だった
けれど、俺にはその数日がかけがえのない宝物となって心に残っている



ふいに、テーブルに乗せた手に冷たさを感じて目を向ける

一つまみ程の小さな雪が俺の手に触れていた

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