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間章1
間章1 レカント卿その後
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「ふ、ふふふ、ふははははッ!! 父親に似て愚図なのかと思えば、子はとんだ道化であったわ!」
「……爺は楽しそうだな」
「楽しくない訳がなかろう。あんな子供が儂相手に口上で喧嘩をふっかけてきおった。それも言葉に逃げ道すら残して」
月明かりに照らされた伯爵邸。
静寂に包まれた中で、屋敷の主たる老人は愉快に笑う。
老人を爺と呼ぶは、12、3歳ほどの少年。
彼は対照的に不満そうに哄笑を聞き流す。
「あやつは、レミューゼめが鎧袖一触したと聞き及び、儂もと値踏みする場を設けられたという事に気付いておった。にもかかわらず、直接的に言及はせなんだ。単なる後先省みない阿呆ではない。胆力も申し分なし。とすればあやつは狸よ。警戒しておいて損は無いと思うぞベリル」
ベリルと呼ばれた少年は老人の言葉に対し、更に眉をしかめた。
表情が全てを物語っている。
不満だと。気に入らないと。
「警戒、か。随分と高評価だけど、その訳は?」
「一言で表すならば、
——異常過ぎる。これに尽きるであろうよ」
「異常過ぎる?」
「そう、異常過ぎるその一点が儂を警戒させる所以に他ならん」
老人は全てを理解している。
ゆえに己の言葉を理解出来るが、何も知らないベリルは「異常」と言われたところでイマイチピンとこない。
「ふむ、例えばベリル。お前は侯爵家、もしくは公爵家の現当主相手に不遜な態度を取れるか?」
「そんな恐れ多い事は出来る筈もない。下手すれば打ち首だぞ爺諸共」
「それよ。その考えが普通であり、限界よ」
「……意味がわからない」
まだベリルには早い話だったかと考え込む。
決してベリルの考えが間違っているわけではない。
むしろこれ以上なく正しい。
だが、老人の脳裏にはひとりの少年。
ナガレ=ハーヴェンが今もなお存在している。
あの不遜な態度、口調。
決して褒められたものではないが、裏付ける何かがあったのは確かな事実として存在している。
例えば戦争中の酒の席において。
決まり文句のように無礼講と叫んでおいて部下が少し粗相を働いたからと打ち首にしてしまえばどうなるか。
打ち首とした上司の格の低下はもちろん、兵達の士気向上もままならなくなる。今回の件はそれに似ている。
子弟子女を出来る限り連れてきてくれと言っておきながら、幼子が少し粗相をしたからといって罰せるだろうか。
否、それは出来ないし、してはならない。
きちんと懐の大きさを見せる事こそ、主催者に求められるものであり、あえて呼びつけた物心のついたばかりの子供を少し粗相したからといって罰してしまえば、子弟子女を連れたパーティーなど二度と開けないだろうし、参加さえも渋られるかもしれない。
それを見越しての尊大な口調だったのか。
はたまた元からの気質なのか。
答えは謎だが、一つ言える事はナガレ=ハーヴェンが異常である事だけ。少し考えれば分かるが、実際行為に移したとして肝心のベット。つまりは負うリスクであり賭け金。
無茶苦茶とも取れる行為によって、己が賭けるものは何になるのかなんてものは自明の理だろう。
相手を試す為だけに「命」を賭けるものなぞ、そうはいない。
もしいるとすれば、そいつは紛れもない「異常者」だ。
意図してのことで無かったとしても、老人からしてみれば意図していたしていないは瑣末な事。
「……要するに、恐ろしく頭の回転が速い奴という事になるか」
加えて言えば、やられっぱなしは認めないとばかりにやり返してくる負けず嫌い。
いついかなる手段を用いようと、退路は用意する慎重気質。
これらが老人がナガレにに抱いた感情であり、同時に不可解な点でもあった。
「であるが、イヤに引っかかりを覚える」
性格に難ありのように感じたが、当人の能力自体は群を抜いてズバ抜けている。
そんな子供を婚約者にしなかった? 鎧袖一触?
性格は許容するか矯正すれば良いだけの話。
下手に愚図を婚約者として引くぐらいならばと考えて老人がレミューゼ卿の立場ならば間違いなくナガレを婚約者として認めただろう。
それを何故、レミューゼ卿は認めなかったのだろうか。
「気づかなかった? いや、それはあり得ない」
犬猿の仲であるからこそ分かる。
レミューゼ卿は、一目も見ずにダメだダメだと切り捨てるような馬鹿ではない。脳筋な部分が目立つが、アレも一応は伯爵。
有用であるかどうかくらいの見極めくらいはつけれたはずだ。
ならば。
「気づけ、なかった? もしや、あの少年が凡夫を演じていた?」
レミューゼ卿を欺く理由は不明だ。
だが、それならば理解はいく。
しかし、ならばレミューゼ卿の息女と婚約をしたであろうボルソッチェオ男爵家と仲良くする理由は?
レミューゼ伯爵家に何らかの恨みがあって、嫌悪があって凡夫を演じたのであれば、その縁戚となるボルソッチェオ男爵家となぜ関わりを持った?
老人から見ても、ボルソッチェオ卿の倅とナガレはどう見ても初対面であると断言できた。
ナガレの父であるハーヴェン卿が考えそうな事で言えば、目の上のたんこぶ的存在である伯爵家を引き摺り下ろし、その座に己がつかんとしている。という具合の俗物過ぎる理由しか思いつかない。
「あやつは何を考えとる……! 何を見ておるのだ。いや、何が見えとる」
考えれば考えるほどドツボにはまっていく。
例えどんな立派な巨城だろうと、その設計図を。中を知っていれば然程怖くはない。
しかし、どれだけオンボロな砦だろうと、何も知らなければ容易に攻め入る事が出来ない。
ナガレは後者だ。
道化であると知るがゆえに、彼の思考を簡単に断言ができない。
情報があまりの少ない為に考えるだけ疑心暗鬼に陥る。
「爺。さっきから一人でなにボソボソ喋ってる?」
すっかり空気と化していたベリルが老人に話しかけるが、返答はなし。考え事を始めるといつもこれだとばかりに溜息を漏らす。
そんな折。
コンコンとノックが響く。
「旦那様。遅ればせながら報告書をお持ち致しました」
若い使用人。
口にした通り、報告書のようなモノを手にしており、老人の許可をドア越しにじっと待つ。
「……報告書?」
「ええ。1週間ほど前でしょうか。ある少年を調べて欲しいと仰られてたでは御座いませんか」
「あ、ああ! ああ! ああ! そうであった! そうであったな! 報告書とやらをはよう持ってこい!」
すっかりその存在自体を忘れていた老人の表情は歓喜。
未だ実態掴めぬ少年の手掛かりを得た事で感情の起伏は最絶頂へと至る。
「は、はい! 失礼します!」
今までにない老人の調子の良さにたじろぎながらも、若い使用人は報告書を手渡し、早々にその場を立ち去った。
報告書によって気分を害してしまった場合、感情という矛が向く先は彼であるからだ。
それならばと、逃げるに限るという行動原理だろう。
ペラペラと複数枚重ねられた報告書に目を通す。
書かれていた内容は矛盾。矛盾。矛盾。矛盾。
まるで工作されたかのように矛盾に塗れていた。
「く、くくくくくッ。はははははははっ!!! 面白い! まっ事面白いやつよナガレ=ハーヴェン!!」
静まり返った屋敷内に再び哄笑が轟く。
「領民には酷く嫌われているが、側近に一人の平民を置いている? そやつからは全幅の信頼を置かれ、側近の執事からも好まれているが、他の使用人からは腫れ物のように避けられている?」
書き綴られた報告書を読む。
もちろん、その不可解な事実に対する結論も調査した人間なりに書かれている。
——懐柔が上手いのではないか、と。
「は、はははッ!! お主らもあやつにまんまと踊らされとるわ。あやつは遜るようなヤツではない。我が道を突き進む意地っ張りなヤツよ。たかが使用人如きに媚びを売る童ではないわ!」
何かがある。
改めてそう確信した。
そして報告書に綴られた最後の一文。
——ナガレ=ハーヴェンがかの「貴族殺し」
貪狼と揶揄されたローレン=ヘクスティアに師事している、と。
「—————ッ」
衝撃過ぎるその一文に流石の老人も瞠目。
かつてローレン=ヘクスティアをお抱えにせんと躍起になった辺境貴族がいた。意固地に断るローレンを見兼ねた貴族は半ば脅すように詰め寄ったらしい。
彼の知己を人質に、私に仕えろ、と。
返答は惨殺。
貪狼の怒りを買った哀れな貴族の死に様だ。
もちろん、貴族のプライド的に貪狼を仕留めんと追っ手を向けたらしいが、追っ手はそれ一度のみ。
お抱えにする為だけに人質をとり、脅したとあっては世間体的に醜聞が立つ。醜態を晒すわけにもいかず、表向きは不慮の事故として扱われたが、当時の出来事を知る人間はそれ以来過分に貴族を嫌う彼をアンタッチャブルとして認識していた。
ナガレがもしや貪狼を飼い慣らしている?
と、思うも一瞬。
飼い慣らせるのはペットまでであり、狼は不可能だ。
あの貪狼を飼い慣らせるはずが無い。
であるならば、事実を知っているか知っていないかは知らないが、ナガレは危険な橋をひたすら渡っているという事。
あやつは。
「命が惜しくないのか……ッ! いや、待て」
ここで一つの予測が生まれる。
貪狼に師事しているという事は武術にも覚えがあるという事。
加えてボルソッチェオ男爵家とも繋がりを持った。
ハーヴェン子爵家はつい先日、レミューゼ卿めに泥を塗られたばかり。
そんなハーヴェン子爵家の倅が、「武」で知られるレミューゼ伯爵家を己の「武」を以って打ち負かしたとあればどうなるか。
貪狼の足取りは僅かであるが老人も聞き及んでいる。
そこから推測するに、ナガレが師事したというのもつい最近だろう。
おそらく、あの少年はレミューゼ卿にやり返そうとしてるのだ。
ああ、実にあの少年らしいではないか。
「そうか、そういう事か!!」
この歳になってしまうと何もかもが冷めて見えてしまっていた。
あとは病気で早逝した倅に変わって孫の行く末を見守るだけと思っていたのだが——。
「全く、楽しませてくれるわ」
「……爺は楽しそうだな」
「楽しくない訳がなかろう。あんな子供が儂相手に口上で喧嘩をふっかけてきおった。それも言葉に逃げ道すら残して」
月明かりに照らされた伯爵邸。
静寂に包まれた中で、屋敷の主たる老人は愉快に笑う。
老人を爺と呼ぶは、12、3歳ほどの少年。
彼は対照的に不満そうに哄笑を聞き流す。
「あやつは、レミューゼめが鎧袖一触したと聞き及び、儂もと値踏みする場を設けられたという事に気付いておった。にもかかわらず、直接的に言及はせなんだ。単なる後先省みない阿呆ではない。胆力も申し分なし。とすればあやつは狸よ。警戒しておいて損は無いと思うぞベリル」
ベリルと呼ばれた少年は老人の言葉に対し、更に眉をしかめた。
表情が全てを物語っている。
不満だと。気に入らないと。
「警戒、か。随分と高評価だけど、その訳は?」
「一言で表すならば、
——異常過ぎる。これに尽きるであろうよ」
「異常過ぎる?」
「そう、異常過ぎるその一点が儂を警戒させる所以に他ならん」
老人は全てを理解している。
ゆえに己の言葉を理解出来るが、何も知らないベリルは「異常」と言われたところでイマイチピンとこない。
「ふむ、例えばベリル。お前は侯爵家、もしくは公爵家の現当主相手に不遜な態度を取れるか?」
「そんな恐れ多い事は出来る筈もない。下手すれば打ち首だぞ爺諸共」
「それよ。その考えが普通であり、限界よ」
「……意味がわからない」
まだベリルには早い話だったかと考え込む。
決してベリルの考えが間違っているわけではない。
むしろこれ以上なく正しい。
だが、老人の脳裏にはひとりの少年。
ナガレ=ハーヴェンが今もなお存在している。
あの不遜な態度、口調。
決して褒められたものではないが、裏付ける何かがあったのは確かな事実として存在している。
例えば戦争中の酒の席において。
決まり文句のように無礼講と叫んでおいて部下が少し粗相を働いたからと打ち首にしてしまえばどうなるか。
打ち首とした上司の格の低下はもちろん、兵達の士気向上もままならなくなる。今回の件はそれに似ている。
子弟子女を出来る限り連れてきてくれと言っておきながら、幼子が少し粗相をしたからといって罰せるだろうか。
否、それは出来ないし、してはならない。
きちんと懐の大きさを見せる事こそ、主催者に求められるものであり、あえて呼びつけた物心のついたばかりの子供を少し粗相したからといって罰してしまえば、子弟子女を連れたパーティーなど二度と開けないだろうし、参加さえも渋られるかもしれない。
それを見越しての尊大な口調だったのか。
はたまた元からの気質なのか。
答えは謎だが、一つ言える事はナガレ=ハーヴェンが異常である事だけ。少し考えれば分かるが、実際行為に移したとして肝心のベット。つまりは負うリスクであり賭け金。
無茶苦茶とも取れる行為によって、己が賭けるものは何になるのかなんてものは自明の理だろう。
相手を試す為だけに「命」を賭けるものなぞ、そうはいない。
もしいるとすれば、そいつは紛れもない「異常者」だ。
意図してのことで無かったとしても、老人からしてみれば意図していたしていないは瑣末な事。
「……要するに、恐ろしく頭の回転が速い奴という事になるか」
加えて言えば、やられっぱなしは認めないとばかりにやり返してくる負けず嫌い。
いついかなる手段を用いようと、退路は用意する慎重気質。
これらが老人がナガレにに抱いた感情であり、同時に不可解な点でもあった。
「であるが、イヤに引っかかりを覚える」
性格に難ありのように感じたが、当人の能力自体は群を抜いてズバ抜けている。
そんな子供を婚約者にしなかった? 鎧袖一触?
性格は許容するか矯正すれば良いだけの話。
下手に愚図を婚約者として引くぐらいならばと考えて老人がレミューゼ卿の立場ならば間違いなくナガレを婚約者として認めただろう。
それを何故、レミューゼ卿は認めなかったのだろうか。
「気づかなかった? いや、それはあり得ない」
犬猿の仲であるからこそ分かる。
レミューゼ卿は、一目も見ずにダメだダメだと切り捨てるような馬鹿ではない。脳筋な部分が目立つが、アレも一応は伯爵。
有用であるかどうかくらいの見極めくらいはつけれたはずだ。
ならば。
「気づけ、なかった? もしや、あの少年が凡夫を演じていた?」
レミューゼ卿を欺く理由は不明だ。
だが、それならば理解はいく。
しかし、ならばレミューゼ卿の息女と婚約をしたであろうボルソッチェオ男爵家と仲良くする理由は?
レミューゼ伯爵家に何らかの恨みがあって、嫌悪があって凡夫を演じたのであれば、その縁戚となるボルソッチェオ男爵家となぜ関わりを持った?
老人から見ても、ボルソッチェオ卿の倅とナガレはどう見ても初対面であると断言できた。
ナガレの父であるハーヴェン卿が考えそうな事で言えば、目の上のたんこぶ的存在である伯爵家を引き摺り下ろし、その座に己がつかんとしている。という具合の俗物過ぎる理由しか思いつかない。
「あやつは何を考えとる……! 何を見ておるのだ。いや、何が見えとる」
考えれば考えるほどドツボにはまっていく。
例えどんな立派な巨城だろうと、その設計図を。中を知っていれば然程怖くはない。
しかし、どれだけオンボロな砦だろうと、何も知らなければ容易に攻め入る事が出来ない。
ナガレは後者だ。
道化であると知るがゆえに、彼の思考を簡単に断言ができない。
情報があまりの少ない為に考えるだけ疑心暗鬼に陥る。
「爺。さっきから一人でなにボソボソ喋ってる?」
すっかり空気と化していたベリルが老人に話しかけるが、返答はなし。考え事を始めるといつもこれだとばかりに溜息を漏らす。
そんな折。
コンコンとノックが響く。
「旦那様。遅ればせながら報告書をお持ち致しました」
若い使用人。
口にした通り、報告書のようなモノを手にしており、老人の許可をドア越しにじっと待つ。
「……報告書?」
「ええ。1週間ほど前でしょうか。ある少年を調べて欲しいと仰られてたでは御座いませんか」
「あ、ああ! ああ! ああ! そうであった! そうであったな! 報告書とやらをはよう持ってこい!」
すっかりその存在自体を忘れていた老人の表情は歓喜。
未だ実態掴めぬ少年の手掛かりを得た事で感情の起伏は最絶頂へと至る。
「は、はい! 失礼します!」
今までにない老人の調子の良さにたじろぎながらも、若い使用人は報告書を手渡し、早々にその場を立ち去った。
報告書によって気分を害してしまった場合、感情という矛が向く先は彼であるからだ。
それならばと、逃げるに限るという行動原理だろう。
ペラペラと複数枚重ねられた報告書に目を通す。
書かれていた内容は矛盾。矛盾。矛盾。矛盾。
まるで工作されたかのように矛盾に塗れていた。
「く、くくくくくッ。はははははははっ!!! 面白い! まっ事面白いやつよナガレ=ハーヴェン!!」
静まり返った屋敷内に再び哄笑が轟く。
「領民には酷く嫌われているが、側近に一人の平民を置いている? そやつからは全幅の信頼を置かれ、側近の執事からも好まれているが、他の使用人からは腫れ物のように避けられている?」
書き綴られた報告書を読む。
もちろん、その不可解な事実に対する結論も調査した人間なりに書かれている。
——懐柔が上手いのではないか、と。
「は、はははッ!! お主らもあやつにまんまと踊らされとるわ。あやつは遜るようなヤツではない。我が道を突き進む意地っ張りなヤツよ。たかが使用人如きに媚びを売る童ではないわ!」
何かがある。
改めてそう確信した。
そして報告書に綴られた最後の一文。
——ナガレ=ハーヴェンがかの「貴族殺し」
貪狼と揶揄されたローレン=ヘクスティアに師事している、と。
「—————ッ」
衝撃過ぎるその一文に流石の老人も瞠目。
かつてローレン=ヘクスティアをお抱えにせんと躍起になった辺境貴族がいた。意固地に断るローレンを見兼ねた貴族は半ば脅すように詰め寄ったらしい。
彼の知己を人質に、私に仕えろ、と。
返答は惨殺。
貪狼の怒りを買った哀れな貴族の死に様だ。
もちろん、貴族のプライド的に貪狼を仕留めんと追っ手を向けたらしいが、追っ手はそれ一度のみ。
お抱えにする為だけに人質をとり、脅したとあっては世間体的に醜聞が立つ。醜態を晒すわけにもいかず、表向きは不慮の事故として扱われたが、当時の出来事を知る人間はそれ以来過分に貴族を嫌う彼をアンタッチャブルとして認識していた。
ナガレがもしや貪狼を飼い慣らしている?
と、思うも一瞬。
飼い慣らせるのはペットまでであり、狼は不可能だ。
あの貪狼を飼い慣らせるはずが無い。
であるならば、事実を知っているか知っていないかは知らないが、ナガレは危険な橋をひたすら渡っているという事。
あやつは。
「命が惜しくないのか……ッ! いや、待て」
ここで一つの予測が生まれる。
貪狼に師事しているという事は武術にも覚えがあるという事。
加えてボルソッチェオ男爵家とも繋がりを持った。
ハーヴェン子爵家はつい先日、レミューゼ卿めに泥を塗られたばかり。
そんなハーヴェン子爵家の倅が、「武」で知られるレミューゼ伯爵家を己の「武」を以って打ち負かしたとあればどうなるか。
貪狼の足取りは僅かであるが老人も聞き及んでいる。
そこから推測するに、ナガレが師事したというのもつい最近だろう。
おそらく、あの少年はレミューゼ卿にやり返そうとしてるのだ。
ああ、実にあの少年らしいではないか。
「そうか、そういう事か!!」
この歳になってしまうと何もかもが冷めて見えてしまっていた。
あとは病気で早逝した倅に変わって孫の行く末を見守るだけと思っていたのだが——。
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