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3章
28話 vsグレイス 終
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「ハアァアッ!!」
幾十、幾百と続く剣戟は数分経って尚、未だに展開されていた。
互いに一歩も引かぬ斬り合い。
グレイスが意図的に急所を狙わないようにしているとはいえ、この拮抗状態を誰が予想しただろうか。
——攻めきれない。
相手は自分の半生も生きていない子供だ。
技量も、経験も、知識も全てが勝っている。
負ける道理はない。が、それでも攻めきれない。
どんなトリックを使ったのか。
それは知る由もないが、ひとつ言える事は今、目に映るものこそが現実に他ならないという一点。
奇想天外な現実に気を奪われそうではあるが、それでも幾十と切り結んでいれば相手の剣の全体像は見えてくる。
これは断じて天才の剣でなければ、長く経験を積んだ歴戦の猛者のようなものでもない。
厳しい事を言えばナガレは戦う技術はある。
それは現時点において誰もが認める周知の事実だろう。
だけれど、ナガレの剣は戦士の剣ではない。
一括りに言えば戦士に不可欠な「絶対に勝つ」という意思が感じれないのだ。
歴史に名を残す事なく死んで逝く凡百の雑兵ですら持ち得るものがナガレには欠落している。
武名轟く猛者達が凡百の雑兵に討ち取られたという話は決して珍しい事ではない。
彼らは決して油断していたわけではない。
ただ、腕をもがれようと、腹に風穴を開けられようと、足が千切れていようと、「絶対に勝つ」という執念が己の限界を超えさせただけ。
そしてそれは戦士にとって何よりも不可欠なものでもある。
その意思の力が、ナガレからは感じられなかった。
彼の師匠であるローレン=ヘクスティアも問題視している事であるが、ナガレは誰かを守る為に。その「守る」の一点だけに限って言えば無類の才能を発揮する。
しかし、勝つ気がないのだ。
誤謬はあるが、それでも彼は勝つ気がない。
ナガレの勝ちとは、己の守りたいものを守りきる事であり、戦士としての勝ちを勝ちと考えてないのだ。
そんな想いを根底に据えた剣。
剣に人生の大半を捧げ、今の地位を己の武をもって認められたグレイスだからこそ、不可解さを感じずにはいられなかった。
この世界において最も身近に、ありふれている「死」
それに対する死生観という自身を構成していた本質が常人とは異なっていた少年。
剣の才能は無いと断言されて尚、剣を手にすると。
剣をとった理由は決して褒められたものではなかった。
ただ自分の都合のために。目的の為にと剣をとった。
戦士からしてしみれば侮辱に他ならないだろう。
だが、半年前のあの日を境に剣に込める想いは変わった。あの日、あの出来事があっての今。
誰かを。せめて自分の周囲の人間だけは守れるようにと愚直にも剣を握り続け、鍛え上げた事で生まれた非凡な少年の努力の成れの果て。その経過途中。
「中々に、やりやすねえ坊ちゃん」
好戦的に笑い、吊り上がった口角からぎらりとした犬歯を覗かせる。
建前は。過程など、些細な事だと思えてしまう。
ただ一つ。自分と打ち合える技量をナガレが持っていたという事がグレイスをどうしようもない程に楽しませていた。
愉悦という名の底なし沼に浸からせていた。
——はぁ。はぁ。
息が上がる。
体力はそれなりにつけたつもりだった。
でも、この緊張感。この勘を頼りにした極限状態を維持する事にはどうしようもなく体力を削られる。
それに、グレイスの剣は一撃一撃が重い。
キチンと修練を積んできた騎士の一撃は相当に重いものだと師匠から聞いてはいたが、想像以上だ。
体重の乗った一撃は、剣でいなすだけでも腕が悲鳴をあげてる。
まともに受ければ、なんて事は考えたくもない。
(もっと、強くなりたいな……)
「もしも」の時に。
俺だけは何があっても足手纏いにはなりたくはない。
守られる存在はもう懲り懲りなんだ。
自分の身は自分で守る。
周りの人間だけでも、出来る事なら俺が守りたい。
その考えは少し、傲慢が過ぎるか?
と、自問自答する。
返答は聞こえてこないが、まだお前は弱いぞとグレイスの剣が俺に教えてくる。
手加減をされているというのにも拘らず、俺は防戦一方。
防戦を考えた戦い方しかまだ教わっていないが、それでもカウンターも教え込まれている。
でも、それに転じる隙が見当たらない。
神経を研ぎ澄まし、襲い来る猛攻をいなし、避けるだけで精一杯だった。
絶えず、金属音が鳴り響く。
そう思われていた刹那。
「少し、本気だしますぜ」
不敵に笑いながら、2合程更に打ち合ってからグレイスが距離を取る。
追撃をしても良かったが、俺の本領は守り。
ここで攻撃をせんと深入りするのは悪手と判断し、俺はその場に留まった。
本気を出すと、言っていた。
思考が高速化する。
今以上に攻撃が早く? それとも重く?
それとも何か別の攻撃手段を?
思考は数秒にも満たない。
だが、その間にもグレイスの纏う雰囲気のようなものがガラリと変わる。
先程までとは何かが違う。
というよりも、これは騎士というよりも貪狼に近——。
思考が途切れると同時、グレイスの姿がその場から搔き消える。
——頭を冷やせッ!! グレイスッ!!!
ボルグの叫び声が頭に入って来るよりも早く、俺は顔を強張らせながらも神経を研ぎ澄ませる。
一子相伝の武術やら、魔法やら、なんでも使ってくる師匠を相手にし続けていたからこそ、反応が出来たのだと思う。
俺の背中——背後から独特の、言葉には形容できないナニカがあると。
最早、勘頼り。
だけど、確信が脳裏を過ぎった。
背後から一撃が飛んでくる、と。
慌てて背後へと向き直り、双剣をクロスさせて防御の構えを取る。そして、もし、俺の勘が正しいならば。
グレイスという騎士は恐らく、
「魔法使い、か!!」
この仕合において初めて声を張り上げた。
急接近してきたグレイスの足元に、濃く圧縮された風のようなものがまとわりついている。
風を操る魔法使い。
そこに瞬時にたどり着いた思考に。
想定し、攻撃を読みきって防御の構えをとった事に驚愕しながらも、グレイスは勢いを殺さずそのまま剣を振り下ろす。
ガキンッと鈍い金属音が響くと同時。
「あっ、が、ッ?!」
攻撃を殺しきれずに勢いよく、砂ぼこりを巻き込みながらも後方へと吹き飛ばされる。
壁のようなものに衝突しながらも俺は。
「……おいおい、アレも防ぐんですかい」
信じれないとばかりに目を剥くグレイスと。
何やってるんだと怒鳴り声をあげるボルグの声を聞きながら、痛みから逃げるように意識を手放した。
幾十、幾百と続く剣戟は数分経って尚、未だに展開されていた。
互いに一歩も引かぬ斬り合い。
グレイスが意図的に急所を狙わないようにしているとはいえ、この拮抗状態を誰が予想しただろうか。
——攻めきれない。
相手は自分の半生も生きていない子供だ。
技量も、経験も、知識も全てが勝っている。
負ける道理はない。が、それでも攻めきれない。
どんなトリックを使ったのか。
それは知る由もないが、ひとつ言える事は今、目に映るものこそが現実に他ならないという一点。
奇想天外な現実に気を奪われそうではあるが、それでも幾十と切り結んでいれば相手の剣の全体像は見えてくる。
これは断じて天才の剣でなければ、長く経験を積んだ歴戦の猛者のようなものでもない。
厳しい事を言えばナガレは戦う技術はある。
それは現時点において誰もが認める周知の事実だろう。
だけれど、ナガレの剣は戦士の剣ではない。
一括りに言えば戦士に不可欠な「絶対に勝つ」という意思が感じれないのだ。
歴史に名を残す事なく死んで逝く凡百の雑兵ですら持ち得るものがナガレには欠落している。
武名轟く猛者達が凡百の雑兵に討ち取られたという話は決して珍しい事ではない。
彼らは決して油断していたわけではない。
ただ、腕をもがれようと、腹に風穴を開けられようと、足が千切れていようと、「絶対に勝つ」という執念が己の限界を超えさせただけ。
そしてそれは戦士にとって何よりも不可欠なものでもある。
その意思の力が、ナガレからは感じられなかった。
彼の師匠であるローレン=ヘクスティアも問題視している事であるが、ナガレは誰かを守る為に。その「守る」の一点だけに限って言えば無類の才能を発揮する。
しかし、勝つ気がないのだ。
誤謬はあるが、それでも彼は勝つ気がない。
ナガレの勝ちとは、己の守りたいものを守りきる事であり、戦士としての勝ちを勝ちと考えてないのだ。
そんな想いを根底に据えた剣。
剣に人生の大半を捧げ、今の地位を己の武をもって認められたグレイスだからこそ、不可解さを感じずにはいられなかった。
この世界において最も身近に、ありふれている「死」
それに対する死生観という自身を構成していた本質が常人とは異なっていた少年。
剣の才能は無いと断言されて尚、剣を手にすると。
剣をとった理由は決して褒められたものではなかった。
ただ自分の都合のために。目的の為にと剣をとった。
戦士からしてしみれば侮辱に他ならないだろう。
だが、半年前のあの日を境に剣に込める想いは変わった。あの日、あの出来事があっての今。
誰かを。せめて自分の周囲の人間だけは守れるようにと愚直にも剣を握り続け、鍛え上げた事で生まれた非凡な少年の努力の成れの果て。その経過途中。
「中々に、やりやすねえ坊ちゃん」
好戦的に笑い、吊り上がった口角からぎらりとした犬歯を覗かせる。
建前は。過程など、些細な事だと思えてしまう。
ただ一つ。自分と打ち合える技量をナガレが持っていたという事がグレイスをどうしようもない程に楽しませていた。
愉悦という名の底なし沼に浸からせていた。
——はぁ。はぁ。
息が上がる。
体力はそれなりにつけたつもりだった。
でも、この緊張感。この勘を頼りにした極限状態を維持する事にはどうしようもなく体力を削られる。
それに、グレイスの剣は一撃一撃が重い。
キチンと修練を積んできた騎士の一撃は相当に重いものだと師匠から聞いてはいたが、想像以上だ。
体重の乗った一撃は、剣でいなすだけでも腕が悲鳴をあげてる。
まともに受ければ、なんて事は考えたくもない。
(もっと、強くなりたいな……)
「もしも」の時に。
俺だけは何があっても足手纏いにはなりたくはない。
守られる存在はもう懲り懲りなんだ。
自分の身は自分で守る。
周りの人間だけでも、出来る事なら俺が守りたい。
その考えは少し、傲慢が過ぎるか?
と、自問自答する。
返答は聞こえてこないが、まだお前は弱いぞとグレイスの剣が俺に教えてくる。
手加減をされているというのにも拘らず、俺は防戦一方。
防戦を考えた戦い方しかまだ教わっていないが、それでもカウンターも教え込まれている。
でも、それに転じる隙が見当たらない。
神経を研ぎ澄まし、襲い来る猛攻をいなし、避けるだけで精一杯だった。
絶えず、金属音が鳴り響く。
そう思われていた刹那。
「少し、本気だしますぜ」
不敵に笑いながら、2合程更に打ち合ってからグレイスが距離を取る。
追撃をしても良かったが、俺の本領は守り。
ここで攻撃をせんと深入りするのは悪手と判断し、俺はその場に留まった。
本気を出すと、言っていた。
思考が高速化する。
今以上に攻撃が早く? それとも重く?
それとも何か別の攻撃手段を?
思考は数秒にも満たない。
だが、その間にもグレイスの纏う雰囲気のようなものがガラリと変わる。
先程までとは何かが違う。
というよりも、これは騎士というよりも貪狼に近——。
思考が途切れると同時、グレイスの姿がその場から搔き消える。
——頭を冷やせッ!! グレイスッ!!!
ボルグの叫び声が頭に入って来るよりも早く、俺は顔を強張らせながらも神経を研ぎ澄ませる。
一子相伝の武術やら、魔法やら、なんでも使ってくる師匠を相手にし続けていたからこそ、反応が出来たのだと思う。
俺の背中——背後から独特の、言葉には形容できないナニカがあると。
最早、勘頼り。
だけど、確信が脳裏を過ぎった。
背後から一撃が飛んでくる、と。
慌てて背後へと向き直り、双剣をクロスさせて防御の構えを取る。そして、もし、俺の勘が正しいならば。
グレイスという騎士は恐らく、
「魔法使い、か!!」
この仕合において初めて声を張り上げた。
急接近してきたグレイスの足元に、濃く圧縮された風のようなものがまとわりついている。
風を操る魔法使い。
そこに瞬時にたどり着いた思考に。
想定し、攻撃を読みきって防御の構えをとった事に驚愕しながらも、グレイスは勢いを殺さずそのまま剣を振り下ろす。
ガキンッと鈍い金属音が響くと同時。
「あっ、が、ッ?!」
攻撃を殺しきれずに勢いよく、砂ぼこりを巻き込みながらも後方へと吹き飛ばされる。
壁のようなものに衝突しながらも俺は。
「……おいおい、アレも防ぐんですかい」
信じれないとばかりに目を剥くグレイスと。
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