お家の大精霊さんのまったり異世界暮らし

観測オニーちゃん

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第一章 気まぐれな白き虎

09話 ギルド暁の星

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 クラーク領中央区より少しばかり西へ外れると黒地に金丸が描かれている旗を掲げた建造物が見えてくる。そこが冒険者ギルド【暁の星】のギルドハウスだ。作りは三階建ての木造で見た目は完全にログハウスである。

 しかし……

「デカすぎじゃない?」

 近づくとより迫力感が増す。それに扉の作りがおかしい。8メートルぐらいはあるんじゃなかろうか?

「あぁ~そっちはマスター用の扉な。横にあるのが俺たちが出入りできる扉だ」

 カインが向けている視線に合わせると通常サイズの扉が併設されていた。

「うちのマスターは巨人族だから全体的に大きめに作られているのよ」

 巨人族か……人を食べる怪物のイメージしかない。食べられたらどうしよう。

「呆気に取られるのはわかるがまず中に入るぞ」

 カインは扉を開き中へと入る。僕たちもカインに続いてギルド内へと足を踏み入れた。

 中はとても年季を感じさせる味わい深い雰囲気でとてもモダンな内装。天井は三階まで吹き抜けで開放感がある。恐らくマスターのためなのだろう。
 

「カイン君にフランちゃん!おかえり。あら?そちらの方達は?」
 
 味のある内装に見惚れていると受付カウンターから女性らしき声が聞こえてきた。
 
 声がした方へ振り向くとそこには銀髪紫眼で紫色を基調としたジャケットに黒色のワンピースを着たナイスバディな女性が立っていた。いかにも仕事ができそうな雰囲気を纏っている。

「ただいま。この二人は友人だ。先の依頼で少しトラブっちゃってな。その際に二人に助けられたんだ」

 カインとフランは森であった出来事を受付のお姉さんに説明する。

「ギルドを代表して御礼申し上げます」

 受付カウンターから出てきた彼女は優達二人の前で深々と頭を下げる。その一連の動作からラベンダーの香りがふわりと二人を包み込んだ。

「どういたしまして。お礼ならジルさんから貰いましたしね。ところで、お姉さんは受付嬢さんですよね?冒険者登録をしたいのですが……」

 そのために街に来たようなものだしね。

「はい。私は暁の星の受付嬢をしているミニエラと申します。冒険者登録でしたら受付の方で私が対応いたしますので付いてきてください」

 そして優はミニエラさんに付いていき受付で冒険者について色々説明された。基本的にはジンさんから聞いたことと同じだったためすんなりと優の頭に入る。

 ただ……

「試験があるのですか?」

「試験といっても現時点の実力を見極めるためにある実力調査のようなものでして結果が悪くても短期間の実地訓練をこなしていただければ登録することが可能です」

 実施訓練かぁ。
 正直めんどい。
 てか嫌だ。

「その他にもBランク以上になりますと昇格に必要な試験がございますのでご注意下さい」

 Cランクまでは依頼の達成数等の実績で昇格するらしい。

「なるほど……僕、0歳児なんですが試験をパスになんか」

「できません」

 チッ!

「何ズルしようとしてんだ!喋る0歳児なんかいねーだろ?」

 ジンは優の頭をガシリ!と鷲掴みにする

「ひどい!わかったよ。やれば良いんでしょ?」

「大精霊様であれば容易かと思いますよ?」

「そうですかね?」

 優は少しばかりの不安を抱えギルドハウスの地下にある修練場に連れてかれた。そこでは屈強な冒険者が汗水垂らし剣を振ったり人形に向かって魔法をぶっ放したり等イカつい光景が広がっていた。

 魔法使いに関してはヒャッハーとかわけわからん掛け声を出してるし。

「ダンさん!今空いてますか?」

 ミニエラさんが声をかけたのは白虎の獣人さんだった。白くフワッとした耳と尻尾が生えている以外は普通のイカついお兄さん。頬にある傷がより厳つさを底上げしている。

 耳と尻尾があってよかったね。なかったら絶対子供に泣かれてるよ。

「ミニエラか。何か用か?」

「試験官を頼みたいのだけど良い?」

「良いぜ。相手は誰なんだ?」

「僕です。ちなみに0だよ」

 優はひょいっと前に出る。

「ヘェ~大精霊か。……面白れぇ」

 ダンは犬歯を剥き出しに獰猛な笑みを浮かべる。

「僕は今まで戦ったことなんて一度もありません。なんせ一昨日生まれたばかりの0だからね」

「よし。今修練場を空けるから待っていろ!」

 ダンはそう言い残し修練場内にいる者たちへ声がけに行った。

「話聞かんやん!」
 
 アレ、絶対タマ取りにくるじゃん。

「獣人族ってみんなあんな感じだろ。まぁ、手加減はしてくれんじゃないか?」

 全然信用できん。

 そして優は腹を決めることにした。こうなったら大精霊として出来うる限りを尽くそうと。
 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 修練場中央には優とダン、そして観客席には先程まで修練場を使っていた人達(暁の星のギルドメンバー)で溢れていた。その中にはもちろんカインとフラン、ジンもいる。

「勝利条件は俺を倒すか、満足させることだ。もしその条件に満たなかった場合地獄の実地訓練を長期間やらせる」

 それを聞いた観客達が何故かざわつき始めた。

「おい嘘だろ?!地獄の実地訓練ってまさかあの?!」
 
「獣風情が大精霊様にそんなことをさせるのか!」

「アレを長期間だなんてまだ子供なのに可哀想」

 え?何?地獄の実施訓練って何?!
 会場がめちゃくちゃざわついてんだけど?!

「安心しろ。お前は大精霊とはいえまだ子供だ。手加減はしてやる。……………………多分」

 絶対しないな。
 もう、こうなったらやるしかない。
 地獄の実地訓練なんて真っ平御免だ。
 それに僕が受験者とはいえ条件が厳しすぎる。
 こちらからも何か要求してもバチは当たらないだろう。
 
「もし、僕が勝ったらその耳と尻尾をモフらせてもらいますからね!」

 一眼見た時からずっと気になってはいた。

 触り心地は一体どんななのだろうかと。

「あぁ、良いぞ。それぐらいなら問題ない」

 しかし牙はダメみたい。
 獣人族にとって牙は神聖なもので触れて良いのは生涯を誓い合った者や家族だけらしい。

「準備が整ったらいつでも言うと良い」

「大丈夫ですよ。いつでも始めてください」

 今回、審判役としてミニエラさんがやってくれるみたいだ。

「これより、登録前実力試験を開始します。位置についてください」

 優とダンは定位置に向かう。
 互いの距離は20メートル程だ。ダンの武器は木製の大太刀で一方優は手ぶらだ。何故かって?どれも重すぎて持てなかったからだよ。

「始め!」

 ミニエラさんの号令と共にダンは優との距離を詰めようと駆けるが優の転移魔法で元の定位置へと戻らされる。

「転移魔法か」

「こんなこともできるよ」

 優はすかさずダンが担う大太刀のみを転移させた。転移先は宿木亭の物置だ。

「部分的な転移も可能なのか。器用な奴だ」

 武器を失ったダンは素直に優を称賛する。

 だが、忘れてはならない。ダンもまたジンと同じトップギルドのSランク冒険者であることを。

 トップギルドのSランク冒険者の実力は精霊を含む天使、悪魔、竜、聖獣等の上位種族と呼ばれる者達を容易く捻り潰せるほどの強さを持つと言われている。

 故に最近生まれた赤子当然の大精霊なんか敵ではないのだ。

 本来であれば。

「魔力の質からわかる。お前はただの大精霊なんかじゃあない。概念の中でもトップクラスの概念だな。【時】と同等か……いやそれ以上か。聞いても良いか?お前が司る概念はなんだ?」

 ジロリと優を睨む瞳からは司る概念によっては殺さんと言わんばかりの殺気が込められていた。

「【家】ですけど?」

 その答えにダンはおろか会場の全員までも静まり返ってしまった。一人だけ大笑いしている魔人族がいるけど帰ったら覚えとけよ。

「【家】か。良い概念だ!」

 先程の剣呑な雰囲気がなくなりダンは破顔した。

 精霊は概念の化身だ。概念の数ほど精霊が生まれる可能性があると言われている。中には【戦争】や【飢餓】と言った人類にとって不利益をもたらす精霊が生まれる可能性もある訳でそのような精霊が現れたら完全に討伐対象とされる。一部批判的な意見はあるがそれらのような概念から生まれた精霊は基本性格が捻じ曲がっているためいずれは人類と敵対する羽目になる。

 今回、ダンが概念について聞いたのもそれが理由であり、【家】とい聞いてダンだけでなく皆が安堵した。
 
「【家】結構気に入ってるんですけど」

 しかし、優はそれを侮辱として受け取ってしまった。会場のゆるっとした空気感とジンの笑い声とダンのニヤケ面が優の勘違いを促進させてしまったのだ。

「もう怒りました。【お家魔法】の恐ろしさをその身に叩き込んでやります」

 その瞬間、優の保有する魔力がギルドハウスだけでなく城塞都市クラーク全体を飲み込んだ。

 


 

 
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