お家の大精霊さんのまったり異世界暮らし

観測オニーちゃん

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第一章 気まぐれな白き虎

010話 ニート

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(ぐっ!なんて魔力だ!本当に生まれたての大精霊なのか?)

 ダンは優の魔力量に戦慄した。生まれたての大精霊は基本自身の体を形成するために莫大な魔力を消費し続けなければならない。故に優が保有する魔力は本来であれば通常の魔法使いと大差ないはずであった。だが、それは魔力操作の熟練度が低いから燃費が悪いだけであり熟練度が上がればより少ない魔力量で体の形成ができる。

 大精霊は長き時を生き魔力操作の熟練度を上げていくものだが優にはすでに一般的な大精霊よりも遥かに魔力の操作に長けていた。まるで何千何万年の時を生きた大精霊の如く。

(考えてみればおかしなことだ。【家】ってのはかなり強い概念のはず。もっと早く生まれてきても良かったんじゃないか?何故今まで生まれてこなかったんだ?)

 その疑問を抱いたのはダンだけではなかった。観客席で見物していたジンやその他高ランク冒険者達も同様に同じ疑問を抱いていた。

 (まぁ、今はそんなことはどうでも良い。なんか誤解されてるみたいだが相手がやる気になったんだから俺もそれに応えなきゃな!)

 ダンは懐からメリケンサックを取り出した。

「良いねぇ~。沸るぜ!」

「モフられる準備は?OK?」

 そして二人の戦いの火蓋が真に切られたのだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「くらえ!包丁の大雨だ!」

「甘い!」

 無数の包丁がダンを襲うがその全てを紙一重で避けられてしまう。そして、すかさず優へと距離を詰め今までとは比べ物にならないほどの素早い正拳突きを繰り出してきた。

「危ない!」

「ちっ!」

 あまりの速さにダンを転移させることができず自身が転移で回避せざるを得なかった。今の優の実力では視界で捕捉できない相手やものを転移させることができないのだ。
  
 はそこまで攻撃性の高い魔法ではない。利便性が高く守りに特化した魔法と言えるだろう。故に、優ができる攻撃となれば限りがある。

 《お家創造・改造》による搦手を用いる手法。例えば落とし穴を作ったり包丁を創造して相手に射出したりなどだ。しかし、どの攻撃もダンには届かない。避けられては距離を詰められ転移で離れるを繰り返し。

 堂々巡りな戦いがかれこれ30分は続いている。膨大な魔力を持っている優ではあるが流石にこの状態が続けばいずれ魔力が尽き優の負けが確定する。それだけは絶対に阻止したい。全てはモフモフのために。

 故に、優はとある賭けに出た。

「御業を使います」

「ほう」

 御業。

 それは大精霊にのみ扱うことのできる概念魔法の真髄。以前、フランとカインに使った《大精霊の救急箱》がそれにあたり、基本頭に《大精霊の》がつくため大精霊魔法とも呼ばれたりしている。

 優は通常のお家魔法に関してはあらかた把握しているが御業だけは未だ把握しきれていなかった。使う機会がなかったというのが主な理由だが正直言って旅館の立て直しに気を取られていて確認するのを忘れていた。

 故に、今の優は魔法名だけはわかるけど効力が分からない状態なのである。

 だが、魔法名からでもそれがどんな魔法なのかは推測はできる。例えば、《大精霊の家訓》なんてチートの香りがぷんぷんするぜ。

 正直これ使えば良いんじゃねとは思ったけどあくまでもこれは試験であって自身の実力の調査を兼ねている。だから、ただ勝つのではなくどのようにして勝つことができるかがポイントなのだ。

 故に魅せなければならない。お家魔法は戦うことも出来るんだぞってね。

 ……まぁ、負けたら元も子もないから賭けに負けたら使うけどね。

「《大精霊の自宅警備員》!!」

 優は地面に手を当て目の前に幾何学模様の召喚魔法陣を展開した。

 お願い!ニートだけは勘弁して~!!

 最初この不穏な魔法名を知った時はかなり動揺した。てか現在進行形で動揺している。なんせ自宅警備員ってのは引きこもりやニートが自宅にずっと居ることを意味する日本のインターネットスラングだからである。

 もしかすると、ニートが召喚されるかもしれないという不安と【警備員】という戦えそうなニュアンスの単語から来る期待もあり優は賭けに出たのだ。

 魔法陣から漏れ出る光が強まり視界を黄金色で埋め尽くす。そして視界が晴れると優の目の前には2メートル越えの黄金の騎士が佇んでいた。左腕には大きな盾を取り付け右手には黄金に輝く大太刀を担っている。

 そう、優は賭けに勝ったのである。

 おおー!!
 なんか強そうな重装騎士がでてきたあー!

「なんだそりゃ?騎士?」

「賭けは勝ったみたいですね。さぁ、やっておしまい!」

 優は、その重装騎士に命令を下す。

「……」

 あれ?動かないな?

「我が敵を殲滅せよ!」

「…………」

 あれー?違ったか?

「サーチアンドデストロイ!サーチアンドデストロイ!」

「………………」

「…………………………ちょっとタンマ!」

「却下だ」

 ダンは動き出しそうもない重装騎士の横を通り抜け優に向かって駆けてくる。

 クソ!もしかしてなんかミスったかな?まさか、あの鎧の中身は実はコスプレ趣味のただのニートだったんじゃ?!

 優は転移でダンとの距離を空けようとするが……

「もう、それは慣れたぜ!」

 ダンはさらなる加速を持って優の転移先を予測し拳を振り上げる。

「まずい」

 転移先に移動した優だが時すでに遅し。ダンの拳が目の前に迫っていた。

 うっ?!

 そして、優はたまらず目を瞑ってしまった。

 ドゴーーーーーン!

 しかし、優は目の前で強い衝撃破を感じたが痛みが来ることはなかった。恐る恐る目を開けると不思議なことに吹き飛んでいくダンの姿が映し出され、そしてうんともすんとも言わなかった黄金の重装騎士が剣を振り抜いていたのだ。

「危険を察知しました。セキュリティレベル5。相手の完全沈黙の間稼働します」

 とても無機質な声が鎧の中から聞こえてきた。

「う、動いた」

 ひょっとして主人である僕に危険が迫った時にだけ動いてくれる仕組みなのかな?

「イテテ。まさか動けるとはな。油断したわ!」

 ダンは騎士に薙ぎ払われる瞬間後ろに飛び衝撃を和らげていた。しかし、思いの外騎士の一撃が重かったためノーダメージとはいかなかったらしい。

 重装騎……いや、自宅警備員はダンに向けて大太刀を構える。先程とは打って変わって闘気を漲らせて。

「いくぞ!」

 ダンの掛け声と共に両者は動き出す。

「戦技《豪炎突き》!」

「戦技《アテナの障壁》!」

 赤黒い炎を纏ったダンの正拳突きを自宅警備員は青白く輝く大楯でそれを防ぐ。

 戦技。

 戦士系種族の魔法とも言うべきものであり発動に成功すると身体能力の向上や攻撃に特定の属性を加えるなど様々な効果を得ることが出来る。

 この場合ダンは拳に炎の属性を、自宅警備員は大楯に氷の属性を纏っていた。両者の激しい衝撃に優は吹き飛ばされないよう身を屈ませる。

 その後、両者の激しい戦技の衝突が続いた。幾千幾万の戦技の衝突にお互いズタボロである。

 自宅警備員は右腕を失い鎧全体にヒビが入っている。ここでわかったことだが自宅警備員の中身はすっからかん。恐らくリビングアーマー系統の召喚獣と見て良いだろう。

 一方ダンはという四肢の欠損は見当たらないものの全身切り傷だらけで左腕に関しては千切れかけている。

 だが、この修練場にはある遺宝《アイテム》を使って特殊な結界が貼られている。致命傷を受けると強制的に結界外へ放り出され結界内で受けた傷はなかったことにされるらしい。ちなみに神話級の遺宝アイテムと言われている。

「次で……終わりにしよう」

 次の瞬間、ダンから猛烈な熱気を感じ取った。右拳から青白い炎が出現しダンの全身を燃え上がらせる。しかし、ダン自身には暑さを感じておらずダメージはない。

「……」

 そして、自宅警備員もダンの言葉通り次で終わらさんと言わんばかりの金色の闘気を放出する。

「《蒼月》!」

「《月墜》!」

 両者の拳と剣が交わり今までとは比べ物にならない程の衝撃破を生み出した。

 そして両者の戦技が拮抗し、幾許かの時が過ぎた頃分配を上げたのは自宅警備員の方だった。

「ぬおおおお!」

 ダンは場外へと吹き飛ばされ淡い光の粒となり優の勝利として試験は終了した。

「相手の完全沈黙を確認」

 そう言い残し、自宅警備員は再び召喚陣の中へと消えていった。
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