お家の大精霊さんのまったり異世界暮らし

観測オニーちゃん

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第一章 気まぐれな白き虎

011話 ワイバーンのステーキ

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 冒険者登録を終え、無事Eランク冒険者になれた優は約束のモフモフタイムに移行する。

「それでは失礼します」

「仕方ない。約束だからな」

 ダンは片膝をつき優の目の前に頭を下げる。ぴょこんと虎特有の丸みを帯びた耳が生えており白虎のためとても白い。

 優は遠慮なく触らせてもらった。

「モフモフだぁー」

 ジンさんのツノも良いけどやはりモフモフも良い。また違った感触を味わえる。とても癒されるなぁ。

「耳のレンタルってできます?」

「残念ながら取り外しは出来ないんだわ」

「ジンさんはできるのに?」

「いや、出来ねーよ。てか、いつ出来るつったよ?」

 なんだ、てっきり取り外し可能なのかと……

「尻尾も良いですか?」

「あぁ良いぜ」

 ダンは立ち上がり尻尾をマフラーのように優の首に巻きつけた。

「暖かいです」

 そして、モフモフというより少し弾力のあるモコっとした毛並みだった。これもまた手触りが良くずっと触っていたいと思わせる中毒性を秘めている。

「息子にな、たまにこれをやると喜ぶんだ」

「息子さんがいるんですか?」

 ぜひ息子さんもモフらせていただきたい。

「今年で5歳になる」

「へぇ。モフッても良いですか?」

「噛まれる覚悟があるんならな」

「噛むのかあ」

 噛まれるのは嫌だな。でもなぁ。獣人の子って絶対可愛いじゃん。モフりたいなあ。

「そうだ、お前ら昼飯まだだよな?」
 
 この場にはカインとフランそしてジンと優の四人居る。本来、冒険者登録後にはギルドマスターに挨拶しなきゃいけないらしいのだが現在、マスターが不在のため受付のすぐ横に併設されてある待合室にてマスターが帰ってくるのを待っていた。

「まだですけど」

「そんじゃあうちで食べてかないか?妻が食堂を経営しててな。ワイバーンのステーキが格別なんだ」

 ワイバーンのステーキだと?
 めちゃくちゃ気になるんですけど

「あ、俺急用思い出した。今日は遠慮しとくわ」

「私もこれから教会に顔出さなきゃだから……ごめんね」

 そしてフランとカインはスタスタとこの場を離れていった。

「あの二人、顔が青かったけど?」

「気のせいだろ?二人は行くってことで良いか?」

 あの二人のリアクションから少しばかり不安を抱いてしまうが異世界に転生してはじめてのファンタジー料理。

「行きます」

 優は好奇心に負け、ジンもまた気になるのかダンの誘いを受けることにした。

 ◇◇◇◇◇◇◇

 三人は白虎亭に到着する。
 
 煉瓦造りの二階建て家屋で屋根は三角形になっており木製のドアが設置されている。

 見た目からの印象で言えば隠れた名店のような雰囲気を漂わせておりとても家庭的な外装だ。店先にメニュー表を貼り付けたA型看板が無ければここが飲食店だと気づかないほどである。

 ダンはドアを開け中へと入る。優達二人もダンに続いて入店した。

「あらダンさんおかえりなさい」

 厨房からひょっこりと顔お覗かせたのはダンと同じ白虎の獣人さんだった。少しふくよかな体型でとても快活そうな女性だ。恐らくあの人がダンさんの奥さんなのだろう。

「ただいま、マリア。早速で悪いんだがワイバーンのステーキ三つ作れるか?」

「えぇ大丈夫よ。すぐ作るわね」

 待つこと数分で出てきたのはエアーズロックを彷彿とさせる巨大なステーキだった。主食にはロールパンが二つ出された。

「さぁ、たんと召し上がれ」

 デカい。
 そして、このなんとも言い難いこの芳醇な香りが優の食欲を刺激した。
 はっきり言ってフランとカインが逃げた理由がわからない。とても美味しそうじゃないか。

「いただきます」

 優はナイフとフォークを持ちスッとステーキを一口サイズに切り分ける。

 切り口から溢れんばかりの肉汁が吹き出し、たまらず優はワイバーンを頬張った。

「?!」

 美味い。
 少々肉質は硬めだが下処理がしっかりとされているからなのかちゃんと噛める。そして食べ応えがあって逆にそれがより、肉を食ってるんだなって感じれてとても良い。

 それに、下味に使われているスパイスもかなりパンチが効いていてさらに優の食欲を刺激してくる。

 その後、優はフォークとナイフを動かし続けペロッとステーキとロールパンを平らげた。

「おいしかった」

 精霊だからなのか明らかに体格に見合わないキャパオーバーな量のステーキを完食してもまだまだ余裕だった。なんならあと十皿は食えそうだ。

「ありがとう。大精霊様のお口にあったみたいでよかったよ。私はマリア。ダンの妻にしてこの白虎亭のオーナーをやっているものよ」

「僕はお家の大精霊の優です」

「そう、ユウちゃんね!お隣の方は?」

「俺はジンだ。ただの冒険者さ」

「ジンさんも冒険者の方だったのね。そういえばフランちゃんとカインくんは今日は一緒じゃないのね?」

「あー用事があるっつうから断られたぜ」

ん?今日はってことはあの二人は常連さんだったなのかな?

「そう……オープン以降毎日来てくれてたから珍しいわね」

 確かにこのステーキはリピートしたくなる美味しさだった。しかし、それにしてもあの反応は一体なんだったのだろうか?

 優が思い浮かべるは別れ際の二人の顔だった。
 これほどおいしいのだから逆に嬉しいのでは?

「まだまだ食べれそうなので違う料理も食べてみたいな」

 考えても仕方ないし、とりあえずこの店の料理を全制覇させてもらおう。お代は全てダンさんが払ってくれるみたいだし遠慮はしない。僕に地獄の実地訓練をさせようとうとしてきた相手だからね。慈悲はない。

「ごめんなさい。うちね、ワイバーンのステーキしかメニューが無いのよ」

 まじで?
 あの二人はオープン以降毎日通っているって聞いたけどこれが理由か。
 ダンさんの性格上二人は断りづらかったんだなきっと。

「メニュー増やさないんですか?」

「そうね、最初は増やす気はなかったんだけど意外にも少し人気が出ちゃってね。ユウちゃんみたいに他のメニューは?って効いてくる人達がいるから、その人たちのためにも試作品を作ったりはしているのだけど本当にこれで良いのか出すのが不安で」

 なるほど。
 話を聞くに白虎亭は本来マリアさんが得意とするワイバーンのステーキを、みんなに食べてもらいたく趣味程度で開業したものであり、そこまで本格的に営業しようとは思ってはいなかったらしい。

 しかし、どこかのお偉いさんが白虎亭を絶賛し噂が広まってしまったため人気が出てしまったとのこと。

「マリアの作る料理はみんなうまい。まずいって言ったやつは全員血祭りにすりから心配するな」

「ダンさん。そんなことしたらあなたを血祭りにするわよ?」

「すみません」

「気持ちは嬉しいけどね」

「マリア」

「あなた」

 なんか尻尾を絡ませイチャイチャし始めた。

 帰りたい。
 いや、僕も尻尾に絡みたい。

「だからもう少しだけ待ってもらえるかしら」

 ふむ。
 ひょっとしてこれはチャンスなのでは?
 料理革命の第一歩としてこの白虎亭を利用すれば料理の大精霊の誕生を促すことができるのではないだろうか。

 料理の大精霊が生まれさえすれば食文化が衰退する心配がなくなる。さらには飢饉もなくなるかもと考えればここは手伝わざるをえないだろう。

「よかったらお手伝いしましょうか?」

「あら、良いの?」

「はい。僕はお家の大精霊ですので一応料理はできます」

「ユウの作る料理はめちゃくちゃうまいぞ」

「ぜひ食べてみたいわ!それじゃあ明日は定休日だから10時ごろに来てくれるかしら?」

「了解!」

 話は纏まり、優はステーキのおかわりをマリアさんに頼もうとしたが……

「ダンさん!大変だ!ルイくんが!」

 ドアが勢いよく開かれカインが息を荒げながらそう告げた。
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