【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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それほどまでに、お気に召しましたか? 今、目の前に居る私よりも……映像の私が

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 あれだけぶっ飛ばされたり、ぶん投げられたりしていたにもかかわらず、兵士さん達には大した怪我もなく、皆かすり傷程度で済んでいた。

 やっぱり人と悪魔じゃ、身体の丈夫さが違うんだろう。前にバアルさんを押し倒そうとして、めいいっぱい力を込めても、ビクともしなかったからなぁ。因みに動体視力も高いようだ。最後のやつ、俺以外は皆、見えていたらしいからさ。

 ヨミ様いわく、本気になったバアルさんが「ズバーンとやったら、ギュオーンってなって、ババババーンだったぞ!」と。とにかくカッコよかったらしい。

 素直に羨ましい。目で追えなかったことが滅茶苦茶悲しい。俺も見たかったなぁ……本気のバアルさん。

 しょぼくれたまま当の本人に抱き抱えられ、おまけによしよしと慰めてもらっていた俺に、救いの手が差し伸べられた。レダさんが投影石というものをくれたんだ。

 投影石ってのは、要はビデオカメラだった。レダさんは、観戦していた部下の方が収めていたバアルさんの映像を、新しい投影石にコピーしてきてくれたらしい。撮った映像はコマ送りにして見ることも出来るらしいから、ゆっくり拝見なさってくださいとのことだった。

 思わず拝んでしまっていた俺に、レダさんは「いつも部下達に、美味しい焼き菓子を差し入れして頂いている、せめてものお礼です」って言ってくれたから。今度は、挑戦しようとしていたフィナンシェを、お礼に持って行こうと心に決めたんだ。

 それから、今日行う予定だった顔合わせというか……正式な自己紹介? は明日に延期された。まぁ、気絶していただけとはいえ、怪我は無かったとはいえ、兵士さん達も、勿論バアルさんも疲れているだろうからな。今日は、もう休んだ方がいいだろう。



 シャンデリアの明かりを受け、手のひらの上でほのかに輝く投影石へと魔力を込める。

 淡いオレンジ色の光を帯びた石の表面を、教えてもらった通りにちょんと指先でつつく。すると、石から放たれている光の中に、ぼんやりとバアルさんの姿が現れた。常に、穏やかな微笑みばかり浮かんでいる唇がきつく結ばれ、瞳には研ぎ澄まされた光が宿っている。

 映像のバアルさんが、左足を軸にしてその場でぐるりと足を回す。途端に彼を中心に竜巻が起こり、ドミノ倒しのように周りにいた兵士さん達がバタバタと倒れていった。ヨミ様の言った通りだった。本当にズバーンとやったらギュオーンってなってババババーンだったな。

 それにしても、カッコいいなぁ……このバアルさん。勿論、普段の物腰が柔らかく、紳士的な彼も素敵だ。贈ってくれる甘く嬉しいお言葉の数々と優しい仕草に、いつもときめかされてばかりだけれどさ。

 鋭い眼差しと表情のまま、踊るように、軽やかに戦うバアルさんを見ていると、いつもと違う気持ちが込み上げてくるというか。なんだか、胸が熱くなるな。

 …………よし、もう一回最初っから見よう。

「……それほどまでに、お気に召しましたか? 今、目の前に居る私よりも……映像の私が」

 ぽつりと隣から聞こえてきた寂しそうな声と共に伸びてきた細く長い指が、ひょいっと石を摘んで手品のように何処かへとパッと消す。

 そして、触れることが出来ずに行き場を無くしていた俺の指を、するりと手ごと絡め取ってからぎゅっと繋いできた。少し見上げた先で、しょんぼりと触覚を下げ、切なそうに細められた瞳とかち合う。

「あ……ご、ごめんなさい……その……今日のカッコいいバアルさんも、普段の優しいバアルさんもどちらも好きというか……いや勿論、いつものバアルさんもカッコよくて素敵なんですけど……」

 口を閉ざしたまま、ただひたすらじっと見つめてくる瞳に、頭の中がとっ散らかり、だんだんと目の奥が熱くなってくる。

 いや完全に、100%俺が悪いんだけどさ。部屋に戻ってきてから着替える時間すら惜しんで、ふかふかのソファーですっかりバアルさんの雄姿に夢中になってしまっていた俺が。

 不意に視界がぐらりと揺れる。ぽすんと頬が逞しい胸板に受け止められ、全身が優しいハーブの香りと安心する温もりに包まれる。耳元でトクトクと少し速い鼓動が聞こえた。

「……バアル、さん?」

 どうして抱き締めてもらえているのか、分からない俺に、どこか上機嫌に触覚を揺らしている彼が尋ねる。

「アオイ様……私は、ちゃんと最後まで戦い抜きましたよね?」

「は、はい。とってもカッコよかったです!」

 頭の中に浮かんだ彼の、初めて見ることが出来た新たな一面に、つい大きな声で返してしまっていた。

 柔らかい笑みを浮かべた彼の大きな手が、俺の頭を優しく撫でてくれる。浮かれた熱で頭がぽやぽやしてきている俺に、あふれそうな喜びを湛えている唇が再び尋ねる。

「約束……覚えていらっしゃいますか?」

「ご褒美、ですよね……特別な。俺、どんなのがいいか浮かばなくて……だから、その……教えてくれませんか?」

「……畏まりました。では、頭を撫でて頂けますか?」

「はい……」

 ドキドキと心臓が高鳴り、伸ばした指の先が震えてしまう。

 やっぱり緊張するな……前に比べれば、俺から彼に触れる機会が増えたとはいえ。

 そっと触れた指先を、綺麗に後ろに撫でつけられた髪型を崩さないように、慎重に頭の形に沿って滑らせる。艷やかで触り心地のいい髪につい、思いっきり撫で回したくなる衝動を必死に抑えていると、押し殺して静かに笑う声が耳に届いた。

「ふふ、ご遠慮なさらないで。貴方様のお望みのままに触れて頂けた方が、私は大変嬉しく存じます」

「で、でも……それだと俺へのご褒美になっちゃいますし……」

「何も問題はございませんよ。アオイ様の喜びが、私にとって至上の喜びでございますので」

 俺の考えていることなんて、まるっとお見通しの彼は見逃さない。もう、ほとんど俺の気持ちが、思いっきり撫でちゃってもいいのかな? って方に傾いてしまっているのを。

 だから、畳みかけるように囁いてきたんだ。いつもより低く、甘さを含んだ声で。

「……アオイ、どうか……もっと私めに触れてい頂けませんか?」

「……は、はぃ……」

 結局、俺は欲望に抗うことが出来なかった。

 好きな人に熱のこもった瞳で見つめられ「お願いします……」と強請られて、抗える訳がなかった。

 両方の手のひらで全体を撫で回し、指の間をさらりと通る柔らかく綺麗な白い髪の感触を、思う存分堪能してしまったんだ。カッチリ整えられていたオールバックの原型がなくなり、ぐしゃぐしゃになってしまうまでずっと。
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