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ただひたすらに愛する息子を想う父親が、そこにいた
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グリムさん達は、俺達に向かって軽く手を振り返してくれたものの、レタリーさんの様子がおかしい。目が合った途端にすぐに逸らされてしまった。何だかバツの悪そうな顔をしている。
「アオイ様の目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せませんよ。斯様に限界まで魔力を抽出なさって……もはや立っているのもやっとでしょうに……」
「ほ、ホントなんですか? レタリーさんっ」
慌てて駆け寄ろうとしていた俺を安心させるようにレタリーさんは微笑んだ。手を振るように黄緑色の長い尾羽根を揺らしながら、拗ねたような目でバアルさんを見つめる。
「いくらバアル様とはいえ、あまり私を見くびらないで頂きたいですね……アオイ様をヨミ様の元へとお連れするくらい、お茶の子さいさいで」
ツラツラと言葉を紡いでいた彼の長身がぐらりと傾いていく。よろけた足で堪らえようとしたものの、踏ん張り切れずに重力に従って青い石畳へと倒れ込んでいく。
スローモーションに見えたその様は、細長い手足が力なくだらりと揺れ動く様は、糸の切れた操り人形のように見えた。
「レタリーさんっ」
俺が、グリムさんとクロウさんが、手を伸ばすよりも早かった。
「それで? 何が、お茶の子さいさいなのでしょうか?」
瞬きの間に俺の隣に居たハズのバアルさんが、レタリーさんを抱き止めていたのだ。
あまり見たことのないバアルさんの咎めるような鋭い視線に、流石のレタリーさんも観念したらしかった。
「……申し訳ございません」
「私がアオイと共に向かいます。必ずやヨミ様をお連れし、三人で帰って参ります……異存はございませんね?」
「……はい」
「……全く……一体、誰に似たのでしょうかね? アオイ様に一切気取られなかった我慢強さと、大切な者の為ならば我が身を顧みぬところは」
バアルさんは呆れたようにぼやきながらレタリーさんを支え起こした。けれども隠し切れてはいなかった。白い髭を蓄えた口元にも、レタリーさんを通して誰かを見つめる眼差しにも、確かな愛情が滲んでいたのだから。
「それを言うのならば……バアル、おぬしだってレタリーのことは言えんぞ」
不意に後ろから聞こえた重低音に、バアルさんの元へと向かおうとしていた足を止める。
「サタン様、レダさん」
振り向いた先には、縦にも横にも大柄な身体に重厚なマントを纏ったサタン様。そして彼に付き従うように一歩下がり、軍服を纏う左胸に手を当て会釈するレダさんが。眼下に広がっている、茜色に包まれた城下町を背に立っていた。
尖った顎を覆うほどに立派な髭を撫でながら、サタン様が男らしい眉を八の字にする。
「遅くなって済まんのう、アオイ殿」
「皆、魔力の抽出には積極的に協力していただけたのですが……いかんせん全エリアともなりますと回収に時間がかかってしまいまして……申し訳ございません」
サタン様に続いて頭を下げ、口を開いたレダさんが俺達に向かって手を差し出した。彼の鋭い爪が、宙に突然現れた眩い光に照らされ鋭く光る。
温かい光が、色鮮やかな煌めきが、花の形を成していく。バアルさんが手にしていたものと同サイズの魔力の結晶が、筋骨隆々な彼の体躯の前で咲き誇っていた。
「……アオイ殿」
「……はい」
「どうか、わしらの想いを、願いを、受け取って欲しい」
祈るような声と共にサタン様の胸元からも一際大きな結晶が現れる。今までのよりも赤色が強い。まるで、サタン様の瞳のような。彼の魔力が色濃く現れているのだろうか。
俺の方へと、頭上へと浮かび上がった魔力の結晶。サタン様から託された煌めきに呼応するように、レタリーさん達からいただいた結晶が俺の手元を離れていく。
バアルさんが、レダさんが、シアンさん達が、それぞれ手にしている結晶を掲げた。全ての結晶が集い、瞬いた。
この世全ての色を宿したような。美しい光の帯がオーロラのように広がっていく。茜色に染まっていた俺達を、いくつもの色に染め上げていく。
瞬きすることすら惜しい、幻想的な色彩の輝きが収まった頃。俺の前には、巨大な花の結晶が生まれていた。
俺くらいの身の丈ならば、隠せてしまいそうな。絶えず優しい光を放ち続けているそれからは、不思議な感覚がした。
この結晶さえあれば、どんなに離れていても皆さんが側にいてくれるような……そんな安心感と心強さを感じるような……
神秘的な美しさを前に、誰もが言葉を失っていた。溜め息すら出ない。ただただ頭上で煌めいている輝きに見惚れながら、自然と涙をこぼしていたのだ。
どこか清らかな空気すら漂う沈黙を破ったのは、威厳に満ちた声だった。
「アオイ殿……改めてお願い申し上げる」
サタン様が俺達の元へ歩み出る。大岩のような身体を屈め、鋭い角が生えた頭を深く下げる。その姿勢は、縋るような声は、この国を守る王族のそれではなかった。
「どうか、おぬしの力を貸して欲しい……どうか、バアルと共にヨミを……わしの息子を救ってはくれまいか?」
ただひたすらに愛する息子を想う父親が、そこにいた。
「はい……絶対に、一緒に帰ってきます。三人で」
「すまない……ありがとう……本当にありがとう」
初めて握ったサタン様の手は見た目以上に大きくて、分厚くて……とても温かかった。
「アオイ様の目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せませんよ。斯様に限界まで魔力を抽出なさって……もはや立っているのもやっとでしょうに……」
「ほ、ホントなんですか? レタリーさんっ」
慌てて駆け寄ろうとしていた俺を安心させるようにレタリーさんは微笑んだ。手を振るように黄緑色の長い尾羽根を揺らしながら、拗ねたような目でバアルさんを見つめる。
「いくらバアル様とはいえ、あまり私を見くびらないで頂きたいですね……アオイ様をヨミ様の元へとお連れするくらい、お茶の子さいさいで」
ツラツラと言葉を紡いでいた彼の長身がぐらりと傾いていく。よろけた足で堪らえようとしたものの、踏ん張り切れずに重力に従って青い石畳へと倒れ込んでいく。
スローモーションに見えたその様は、細長い手足が力なくだらりと揺れ動く様は、糸の切れた操り人形のように見えた。
「レタリーさんっ」
俺が、グリムさんとクロウさんが、手を伸ばすよりも早かった。
「それで? 何が、お茶の子さいさいなのでしょうか?」
瞬きの間に俺の隣に居たハズのバアルさんが、レタリーさんを抱き止めていたのだ。
あまり見たことのないバアルさんの咎めるような鋭い視線に、流石のレタリーさんも観念したらしかった。
「……申し訳ございません」
「私がアオイと共に向かいます。必ずやヨミ様をお連れし、三人で帰って参ります……異存はございませんね?」
「……はい」
「……全く……一体、誰に似たのでしょうかね? アオイ様に一切気取られなかった我慢強さと、大切な者の為ならば我が身を顧みぬところは」
バアルさんは呆れたようにぼやきながらレタリーさんを支え起こした。けれども隠し切れてはいなかった。白い髭を蓄えた口元にも、レタリーさんを通して誰かを見つめる眼差しにも、確かな愛情が滲んでいたのだから。
「それを言うのならば……バアル、おぬしだってレタリーのことは言えんぞ」
不意に後ろから聞こえた重低音に、バアルさんの元へと向かおうとしていた足を止める。
「サタン様、レダさん」
振り向いた先には、縦にも横にも大柄な身体に重厚なマントを纏ったサタン様。そして彼に付き従うように一歩下がり、軍服を纏う左胸に手を当て会釈するレダさんが。眼下に広がっている、茜色に包まれた城下町を背に立っていた。
尖った顎を覆うほどに立派な髭を撫でながら、サタン様が男らしい眉を八の字にする。
「遅くなって済まんのう、アオイ殿」
「皆、魔力の抽出には積極的に協力していただけたのですが……いかんせん全エリアともなりますと回収に時間がかかってしまいまして……申し訳ございません」
サタン様に続いて頭を下げ、口を開いたレダさんが俺達に向かって手を差し出した。彼の鋭い爪が、宙に突然現れた眩い光に照らされ鋭く光る。
温かい光が、色鮮やかな煌めきが、花の形を成していく。バアルさんが手にしていたものと同サイズの魔力の結晶が、筋骨隆々な彼の体躯の前で咲き誇っていた。
「……アオイ殿」
「……はい」
「どうか、わしらの想いを、願いを、受け取って欲しい」
祈るような声と共にサタン様の胸元からも一際大きな結晶が現れる。今までのよりも赤色が強い。まるで、サタン様の瞳のような。彼の魔力が色濃く現れているのだろうか。
俺の方へと、頭上へと浮かび上がった魔力の結晶。サタン様から託された煌めきに呼応するように、レタリーさん達からいただいた結晶が俺の手元を離れていく。
バアルさんが、レダさんが、シアンさん達が、それぞれ手にしている結晶を掲げた。全ての結晶が集い、瞬いた。
この世全ての色を宿したような。美しい光の帯がオーロラのように広がっていく。茜色に染まっていた俺達を、いくつもの色に染め上げていく。
瞬きすることすら惜しい、幻想的な色彩の輝きが収まった頃。俺の前には、巨大な花の結晶が生まれていた。
俺くらいの身の丈ならば、隠せてしまいそうな。絶えず優しい光を放ち続けているそれからは、不思議な感覚がした。
この結晶さえあれば、どんなに離れていても皆さんが側にいてくれるような……そんな安心感と心強さを感じるような……
神秘的な美しさを前に、誰もが言葉を失っていた。溜め息すら出ない。ただただ頭上で煌めいている輝きに見惚れながら、自然と涙をこぼしていたのだ。
どこか清らかな空気すら漂う沈黙を破ったのは、威厳に満ちた声だった。
「アオイ殿……改めてお願い申し上げる」
サタン様が俺達の元へ歩み出る。大岩のような身体を屈め、鋭い角が生えた頭を深く下げる。その姿勢は、縋るような声は、この国を守る王族のそれではなかった。
「どうか、おぬしの力を貸して欲しい……どうか、バアルと共にヨミを……わしの息子を救ってはくれまいか?」
ただひたすらに愛する息子を想う父親が、そこにいた。
「はい……絶対に、一緒に帰ってきます。三人で」
「すまない……ありがとう……本当にありがとう」
初めて握ったサタン様の手は見た目以上に大きくて、分厚くて……とても温かかった。
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