【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】三日目:とある兵士は感極まる

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 今思い出しても身震いしてしまう。尻尾の毛が一本一本までブワリと広がってしまう。背中に嫌な汗をかいてしまう。

「よいな? 何人たりとも、絶対に二人の時間を邪魔立てさせるでないぞ? 魔力の花で牽制しているとはいえ、万が一があってはならぬからな……」

 俺達に重大なミッションを告げられた声は地を這うどころか、地底の底から響いてくるような。鋭く釣り上がった眼差しは、ひと睨みするだけで、その命を亡き者にしてしまいそう。

 靡く長髪は、大きく広がった羽は、常闇のように黒く、暗く……美しいけれども、決して覗いてはいけない深淵を覗いているようで。

「よいな? 皆の者」

 作戦室に居た全員が、隊長でさえ、我らが主の威厳に飲み込まれていた。畏怖のあまり自然と膝を折り、一斉に叫んでいた。

「承知致しました!!」

 音が割れるような、喉が潰れてしまいそうな大声で。

 バアル様とアオイ様はヨミ様にとって家族同然。俺だって、お二方の幸せを守る為ならば、この身がどうなろうと構いやしない。皆だって同じ気持ちだろう。

 そんなお二方の新婚旅行ともなれば、どこぞの不埒な輩共には、ほんの一秒ですら水を差させる訳にはいかない。少しでも声をかけるような素振りが見えたら、迅速に確実に追いやるつもり、だったんだが。

「バアルふぁんっ、ふぉれ、すっごくおいひいでふよ!」

「ふふ、ええ……お肉の旨味もさることながら、チーズが濃厚で……しかし、トマトやレタスのお陰でしつこくなく頂けますね」

「ふぁいっ」

 耳を澄ませば聞こえてくる、アオイ様とバアル様の和やかな会話。少し離れた距離にあるベンチに腰掛けているお二方は、相変わらず仲睦まじい。アオイ様の愛らしい顔くらい簡単に隠せてしまいそうなハンバーガーを、半分こにして召し上がっている。

 アオイ様が、両手いっぱいに持ったハンバーガーを、小さなお口を一生懸命に開けてかぶりつく様は、愛らしいことこの上ない。

 いや、どの瞬間を切り取っても可愛いがあふれている。今もまた、ぱんぱんに膨らませた頬をもぐもぐと動かして……っ。

 感極まっていたところで、さらに心を鷲掴みにされる光景を目撃させてもらってしまった。

「アオイ、少し失礼致しますね」

「はい……? あっ……ありがとう、ございます……」

 バアル様がアオイ様の口元をっ……ちょこんとついていたソースをハンカチーフで拭って差し上げてっ……

 アオイ様を見つめるバアル様の慈愛に満ちた眼差しも素晴らしい……が、照れくさそうに、嬉しそうに、はにかむアオイ様のなんとお可愛いらしいことか……

 うっかり崩れ落ちかけていた膝を踏ん張り、滲みかけていた目元を拭う。いくらなんでも気を抜き過ぎだ。しっかりしなければ。この素晴らしい光景を守る為に、お二人が旅行を最後まで楽しむことが出来るように、俺達がついているのだから。

 気を引き締めて、背筋を伸ばす。改めて周囲をぐるりと確認したが、問題はなさそうだ。遠巻きに、お二人へと熱い眼差しを向けている輩はちらほらいるものの、近づくような素振りは見えない。

 安堵しながら、再びお二人へと視線を戻したところで気がついた。ハンバーガーを食べるのを止めて、どこか落ち着きがなさそうにそわそわしているアオイ様に。

 ん? アオイ様、さっきからずっとバアル様を見つめていらっしゃるな……しかも、口元ばかり…………もしや、待っていらっしゃる? 今度は自分がお拭きしようと?

 バアル様も私と同じ考えに至ったのだろうか。アオイ様を一瞥してから、鋭い牙が見えるほどに豪快な一口でハンバーガーを頬張った。

 狙い通りに、お髭の端にちょっぴりとついてしまわれたソース。それを発見したアオイ様の、ただでさえ綺麗な琥珀色の瞳がますます煌めいた。

 慌てて小さな手で浴衣の袖の中をまさぐり、取り出したのはハンカチーフ。バアル様の瞳のように鮮やかな緑の布地を手に、声を弾ませた。

「バアルさんっ、ちょっと失礼しますね」

「はい? ……おや、これはこれは私としたことが……ありがとうございます、アオイ」

「ふふ、どういたしまして」

 可愛いッ…………いかにも失敗したかのように装われながら、アオイ様に身を任せているバアル様も……腰を上げて手を伸ばして、慎重に慎重にソースを拭ってから、満足そうに微笑むアオイ様も……全部が全部可愛くて……

「いやぁ、平和だね」
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