【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】五日目:全然想像出来ないけれど、バアルさんが怒るところなんて

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 長い腕が俺の背を支えるように回された。先ほどの続きですが、と前置きをしてからバアルさんが続ける。

「私とアオイは夫婦として、永遠に共に歩んで参りますよね? この旅行が終わっても」

「はいっ、それは、勿論! 歩まさせていただきます!」

「ふふ、良いお返事、ありがとうございます」

 くすくすと擽ったそうな笑みをこぼしていた唇が、そっと引き締められてから、また微笑む。穏やかな低音が、ゆっくりとした口調で紡いでいった。

「……ですから、いつまでも仲の良い夫婦で居られるよう、いくつかのルールを設けてみてはと。例えば、このような際はこうして欲しい、こうして欲しくはない……等と、予めお互いに決めておけば、些細な擦れ違いを起こさずに済むかと……喧嘩にならずに済むかと存じます」

 そっか、親しき仲にも礼儀ありって言うもんな。特にバアルさんは、俺ばっかりを優先してくれてしまう優しい人だ。今後の為にも今の内に、踏み越えてはいけないラインというか、譲れないことってのを話し合ってみておいた方が良いだろう。

 ……正直、バアルさんと喧嘩になるなんて考えられないけど…………考えたくない、けど。

「いいですね。決めましょう、俺達だけのルール。っていっても、バアルさんが怒るところなんて、全然想像が出来ないですけど」

「おや、私だって怒る時はございますよ?」

「え……?」

 急に変わった気がした。彼が纏う空気が、陽だまりのように温かな微笑みが。

 彫りの深い顔に影が落ちる。トーンの下がった声で紡がれた新事実に、俺は思わず身体を縮こめてしまっていた。

「……現に、あの時は少々触角にきておりましたよ。ヨミ様を、世界をお助けする為とはいえ、貴方様が御身を省みずに生命力を捧げようとなされた時は」

「うっ……その節は、何の相談もせずに大変申し訳ございませんでした」

「……いえ、私の方こそ申し訳ございませんでした」

 ピリピリとした空気が緩んでいく。優しく頬を撫でられて、釣られるように顔を上げた時には、もういつもの穏やかな彼が戻ってきてくれていた。

 やっぱり、普段優しい人ほど怒らせると怖いってのはホントのことなんだなぁ……気をつけないと。

「……それじゃあ、一個目は……必ず相談する、ですかね?」

「ええ、勝手にお一人で決めてしまわない、も付け足しておきましょう」

「はい」

「では、コルテ。お願い致します」

 バアルさんの呼びかけに、すぐさま応えた彼の従者。夜空の星のように緑色に輝く、小さなハエのコルテがどこからともなく現れた。

 硝子細工のように透き通った小さな羽をはためかせ、俺達の頭上で飛んでいる。針よりも細い手足をんばっと上げたかと思えば、また新たな物がどこからともなく宙に現れる。

 それは、博物館でしか見ないような巻物。宝の地図でも描かれていそうな古びた薄茶色の紙だった。ふわふわと浮かんでいる、まだ何にも書かれていないそこへ、小さな小さな万年筆を持ったコルテが近づいていく。

 紙の右端の辺りをコルテがキラキラ瞬きながら飛んでいくと、そこには文字が。

『何かあったら必ず相談、一人で勝手に決めてしまわない』

 こちらの文字で、そう書かれていた。紙の上に刻まれた文字列が、緑色とオレンジのグラデーションに輝いている。

「おお、何だか本格的ですね」

「ふふ、ええ。誓約とは違って此方はあくまでもルールですので、形だけではございますが」

 はて、誓約とは? 何だか目茶苦茶重たそうな感じはするけれども。ニュアンス的に。

「誓約とは、必ず守ると互いに誓う約束。破れば罰を伴う約束のことでございます」

 ニュアンスだけじゃない。しっかり重かった。

「罰、ですか……」

「はい。聞いた話ではございますが、とある兵士の方がパートナーの方と誓約を交わしたものの、仕事の都合で止むを得ず破ってしまったとのこと……そして、罰として」

「罰として……?」
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