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【新婚旅行編】六日目:海の冷たさなんて、もうこれっぽっちも感じやしない
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楽しげな声に尋ねられた瞬間に、新鮮な空気がはっと肺に流れ込んでくる。ずっと、まごまごしていた喉も自然と開いていたのだが、気付けなかった俺はいつもよりも大きな声を上げてしまっていた。
「ご、ごめんっ! バアルは? バアルは、大丈夫なの? 痛くない? 重かったよね?」
「ふふ、私めは何とも……」
長く引き締まった腕が、慌てる俺を宥めるように優しく抱き寄せてくれる。
海の匂いに混じって香ってきたハーブの匂い。彼の匂いが、伝わってくる温もりが、俺の心を落ち着かせてくれた。合わせられた眼差しには、慈しむような光が宿っている。
「私の身体は丈夫に出来ております。何より、御身は羽のように軽くいらっしゃる……重みなど全く持って感じておりませんよ。寧ろ、もっとご遠慮なく身を預けて欲しいくらいでございます」
「あ、ありがとう……俺も大丈夫だよ、バアルが庇ってくれたお陰で」
「それは何より」
擦り寄ってきてくれた高い鼻先は、まだひんやりとしていた。自然と重ねられていた柔らかな唇も。
「あ……ん、ふ……」
でも、すぐに温かさを通り越えてしまう。優しく食まれる度に、唇がジンと痺れるような熱を持ってしまう。
「……バアル」
唐突に離れていった彼を追うように顔を寄せようとして止められた。長くて白い人差し指が、口にちょこんと触れている。幼子に、静かにと言い聞かせているように。
「……ところで、いかがなさいますか?」
「え……?」
「続けて、練習なさいますか?」
バアルさんが小首を傾げて尋ねてくる。緩やかなラインを描いている微笑の悪戯っぽさに、すぐにピンときてしまった。
俺の口から言わせたいヤツだって。これから何をしたいのか。どうして欲しいのか。
分かってしまった途端に、ますます身体が熱を帯びていく。緩やかに波打って俺達をますますずぶ濡れにしていく海の冷たさなんて、もうこれっぽっちも感じやしない。
「……その、もう大分暗くなっちゃったし……俺のせいで、服、濡らしちゃったし……」
「はい」
「…………お部屋、帰りませんか? まだ、今日だから……有効、だよね? バアルにとびきり甘やかしてもらえるの……」
なけなしの勇気を振り絞ったところで、言えた誘い文句は随分と遠回しなものだった。
それでも、俺に対しての採点が極甘な彼は満足そう。先がくるっと反った触角をふわふわと弾ませながら目尻のシワを深くしている。
「ええ、私と致しましては、大歓迎ではございます……貴方様さえ望んで頂けるのであれば、毎日でもとびきり甘やかして差し上げますが?」
「そ、それはっ……嬉しいっ、けど……俺だって、バアルのこと甘やかしたいから……」
「ふふ、ええ、存じておりますよ。夫婦の約束でございます故。無論私も、遠慮なく貴方様に甘えさせて頂きます」
「うん……ありがとう……」
「いえ」
額に優しく口づけてくれてから、バアルさんは俺を抱き上げながら器用に立ち上がった。相変わらずの体幹の良さと力持ち加減に惚れ惚れする。
「では、先ずはお風呂に入りましょうか……その後に、ゆっくりと甘やかさせて頂きます……愛しい御身を余すことなく」
「はひ……よろしくお願いしまふ……」
「ええ、此方こそ」
寄せては返す波にザブザブと逆らっていって、オレンジに染まった砂浜に戻った時、柔らかな風が素肌を撫でていった。
バアルさんが術を施してくれているんだろう。馴染みのある心地よさにそっと目を閉じて、ふと開けた頃にはすっかり服が乾いていた。
「ご、ごめんっ! バアルは? バアルは、大丈夫なの? 痛くない? 重かったよね?」
「ふふ、私めは何とも……」
長く引き締まった腕が、慌てる俺を宥めるように優しく抱き寄せてくれる。
海の匂いに混じって香ってきたハーブの匂い。彼の匂いが、伝わってくる温もりが、俺の心を落ち着かせてくれた。合わせられた眼差しには、慈しむような光が宿っている。
「私の身体は丈夫に出来ております。何より、御身は羽のように軽くいらっしゃる……重みなど全く持って感じておりませんよ。寧ろ、もっとご遠慮なく身を預けて欲しいくらいでございます」
「あ、ありがとう……俺も大丈夫だよ、バアルが庇ってくれたお陰で」
「それは何より」
擦り寄ってきてくれた高い鼻先は、まだひんやりとしていた。自然と重ねられていた柔らかな唇も。
「あ……ん、ふ……」
でも、すぐに温かさを通り越えてしまう。優しく食まれる度に、唇がジンと痺れるような熱を持ってしまう。
「……バアル」
唐突に離れていった彼を追うように顔を寄せようとして止められた。長くて白い人差し指が、口にちょこんと触れている。幼子に、静かにと言い聞かせているように。
「……ところで、いかがなさいますか?」
「え……?」
「続けて、練習なさいますか?」
バアルさんが小首を傾げて尋ねてくる。緩やかなラインを描いている微笑の悪戯っぽさに、すぐにピンときてしまった。
俺の口から言わせたいヤツだって。これから何をしたいのか。どうして欲しいのか。
分かってしまった途端に、ますます身体が熱を帯びていく。緩やかに波打って俺達をますますずぶ濡れにしていく海の冷たさなんて、もうこれっぽっちも感じやしない。
「……その、もう大分暗くなっちゃったし……俺のせいで、服、濡らしちゃったし……」
「はい」
「…………お部屋、帰りませんか? まだ、今日だから……有効、だよね? バアルにとびきり甘やかしてもらえるの……」
なけなしの勇気を振り絞ったところで、言えた誘い文句は随分と遠回しなものだった。
それでも、俺に対しての採点が極甘な彼は満足そう。先がくるっと反った触角をふわふわと弾ませながら目尻のシワを深くしている。
「ええ、私と致しましては、大歓迎ではございます……貴方様さえ望んで頂けるのであれば、毎日でもとびきり甘やかして差し上げますが?」
「そ、それはっ……嬉しいっ、けど……俺だって、バアルのこと甘やかしたいから……」
「ふふ、ええ、存じておりますよ。夫婦の約束でございます故。無論私も、遠慮なく貴方様に甘えさせて頂きます」
「うん……ありがとう……」
「いえ」
額に優しく口づけてくれてから、バアルさんは俺を抱き上げながら器用に立ち上がった。相変わらずの体幹の良さと力持ち加減に惚れ惚れする。
「では、先ずはお風呂に入りましょうか……その後に、ゆっくりと甘やかさせて頂きます……愛しい御身を余すことなく」
「はひ……よろしくお願いしまふ……」
「ええ、此方こそ」
寄せては返す波にザブザブと逆らっていって、オレンジに染まった砂浜に戻った時、柔らかな風が素肌を撫でていった。
バアルさんが術を施してくれているんだろう。馴染みのある心地よさにそっと目を閉じて、ふと開けた頃にはすっかり服が乾いていた。
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