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【新婚旅行編】八日目:あまりにもレアな光景に、一瞬、理解が追いつかなかった
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「マッサージ。ほら、バアルがさ、俺が眠れない時にしてくれて……その後もちょくちょくしてくれてるじゃん? だからさ、俺も、もっとバアルのこと癒したいなって」
有り難く俺は、そのひと回り大きな手を両手で握りながら、親指で手のひらのくぼみを軽く押した。バアル曰くこの辺りに、押すとリラックス効果のあるツボがあるらしい。名前はうっかり忘れちゃったけれども。
バアルは納得したように頷いてから、俺の好きにさせてくれていた。アドバイスも何もしてこないということは、押す場所は合っているんだろう。
「どう? 力加減とか、もっと強くした方がいい?」
「そうですね……今のままでも大変心地よくはありますが……」
「オッケー、もっと力を入れた方が良いんだね?」
濁したということは、俺の力が足りないということだろう。肌やら筋肉やら、体力やら何もかも俺よりも遥かにタフなバアルにとっては、俺が力を込めても赤ちゃんに戯れられている程度のものらしいからな。キスマークも中々付けられないし。
「アオイ……そのお気持ちは、嬉しことこの上ないのですが……あまり、頑張り過ぎないで下さいね」
「分かってるって」
元々、俺が甘やかしたいって宣言していたし、バアルなりに甘えてもくれていたんだろう。心配そうに一言言ってからは、また黙って見守ってくれた。俺の好きにさせてくれていた。
気合が入った俺は、いつしか額に汗が滲むほどに彼の手のひらを指の腹で揉んでは、時にはぐるぐると撫で回していた。
夢中になってしまっていたとはいえ、体感としては十分も経っていないように感じていたのだけれども。
「バアル、どうかな? ちょっとは気持ちよくなって、もらえ」
一瞬、理解が追いつかなかった。
顔を上げた先に見えた光景が、うつらうつらと、今にも夢の世界へと旅立っていってしまいそうなバアルのあどけない表情が、あまりにもレア過ぎて。
凛々しい眉毛は、安心しきったように緩やかなアーチを描いている。ずっと嬉しそうに俺を見つめていた緑の瞳は、すでに白い睫毛によって隠されてしまいそうになっていた。形のいい唇からも微かな寝息が聞こえ始めていて。
握っている手から高鳴っている俺の心音が伝わってしまったのかもしれない。
「ん……アオイ……」
折角、気持ちよく眠ってくれそうだったのに、バアルを起こしてしまって。
「わ、ごめ……っ」
そこで黙っておけば、マッサージを続けていればよかったのに。慌てた俺は、更に言葉を重ねてしまっていた。
「だ、大丈夫、そのまま寝てていいよ? 俺、このまま頑張って、うぷ」
忙しなく喋っていた俺の口を遮ったのは、柔らかいけれども弾力のある胸板だった。
いつの間に、俺が握っていた手を払われてしまったのかは分からない。それくらいに瞬く間に、筋肉質な長い腕から抱き寄せられてしまっていたのだ。逞しい筋肉の膨らみがある彼の胸元へと、顔を埋めてしまう形で。
濃くなったハーブの匂いと大好きな温もりに包まれながら、すっかり俺は身動きが取れなくなってしまっていた。背中に回されている腕が、後頭部に添えられている大きな手が、決して離さないと言わんばかりに俺を抱き寄せてくれているもんだから。
「アオイ……どうか、私めのお側に……」
縋るような声でそう呟いてから、バアルは今度こそお先に眠りについてしまったようだ。その証拠に、今は規則正しい寝息しか聞こえてこない。
眠る前の最後の言葉は果たして現実の俺に願っていたのか、それとも夢の中の俺へと願っていたのか、俺には知ることは出来ない。
「あ、ぅ……バアル……」
今の俺が出来ることといえば、彼の眠りの邪魔をしてしまわないように出来るだけ早くこの踊り狂ってしまっている鼓動を落ち着かせることくらいだろう。
有り難く俺は、そのひと回り大きな手を両手で握りながら、親指で手のひらのくぼみを軽く押した。バアル曰くこの辺りに、押すとリラックス効果のあるツボがあるらしい。名前はうっかり忘れちゃったけれども。
バアルは納得したように頷いてから、俺の好きにさせてくれていた。アドバイスも何もしてこないということは、押す場所は合っているんだろう。
「どう? 力加減とか、もっと強くした方がいい?」
「そうですね……今のままでも大変心地よくはありますが……」
「オッケー、もっと力を入れた方が良いんだね?」
濁したということは、俺の力が足りないということだろう。肌やら筋肉やら、体力やら何もかも俺よりも遥かにタフなバアルにとっては、俺が力を込めても赤ちゃんに戯れられている程度のものらしいからな。キスマークも中々付けられないし。
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「分かってるって」
元々、俺が甘やかしたいって宣言していたし、バアルなりに甘えてもくれていたんだろう。心配そうに一言言ってからは、また黙って見守ってくれた。俺の好きにさせてくれていた。
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夢中になってしまっていたとはいえ、体感としては十分も経っていないように感じていたのだけれども。
「バアル、どうかな? ちょっとは気持ちよくなって、もらえ」
一瞬、理解が追いつかなかった。
顔を上げた先に見えた光景が、うつらうつらと、今にも夢の世界へと旅立っていってしまいそうなバアルのあどけない表情が、あまりにもレア過ぎて。
凛々しい眉毛は、安心しきったように緩やかなアーチを描いている。ずっと嬉しそうに俺を見つめていた緑の瞳は、すでに白い睫毛によって隠されてしまいそうになっていた。形のいい唇からも微かな寝息が聞こえ始めていて。
握っている手から高鳴っている俺の心音が伝わってしまったのかもしれない。
「ん……アオイ……」
折角、気持ちよく眠ってくれそうだったのに、バアルを起こしてしまって。
「わ、ごめ……っ」
そこで黙っておけば、マッサージを続けていればよかったのに。慌てた俺は、更に言葉を重ねてしまっていた。
「だ、大丈夫、そのまま寝てていいよ? 俺、このまま頑張って、うぷ」
忙しなく喋っていた俺の口を遮ったのは、柔らかいけれども弾力のある胸板だった。
いつの間に、俺が握っていた手を払われてしまったのかは分からない。それくらいに瞬く間に、筋肉質な長い腕から抱き寄せられてしまっていたのだ。逞しい筋肉の膨らみがある彼の胸元へと、顔を埋めてしまう形で。
濃くなったハーブの匂いと大好きな温もりに包まれながら、すっかり俺は身動きが取れなくなってしまっていた。背中に回されている腕が、後頭部に添えられている大きな手が、決して離さないと言わんばかりに俺を抱き寄せてくれているもんだから。
「アオイ……どうか、私めのお側に……」
縋るような声でそう呟いてから、バアルは今度こそお先に眠りについてしまったようだ。その証拠に、今は規則正しい寝息しか聞こえてこない。
眠る前の最後の言葉は果たして現実の俺に願っていたのか、それとも夢の中の俺へと願っていたのか、俺には知ることは出来ない。
「あ、ぅ……バアル……」
今の俺が出来ることといえば、彼の眠りの邪魔をしてしまわないように出来るだけ早くこの踊り狂ってしまっている鼓動を落ち着かせることくらいだろう。
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