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【新婚旅行編】十日目:バアルなら、そう言ってくれるだろうなと思ってはいたけれど
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「……重い? 私のアオイが?」
確かめるように呟いたバアルの瞳がきょとんと丸くなる。
長い睫毛が瞬いてから、目尻がふっと下がっていった。緩やかな笑みを形作った唇から笑みがこぼれた。
「ふふ、優しいお気遣いありがとうございます。何の支障もございませんよ。私の愛らしい妻は、羽よりも軽く繊細でございます故」
「んっ……そ、そう……それなら、いいんだけどさ……」
周囲に花が舞っていそうなほどにご機嫌で、歌うように饒舌に紡がれた言葉は甘い。穏やかな低音が鼓膜を揺らしただけで、また心臓が喜びの声を上げながらはしゃぎまくってしまっている。
バアルなら、そう言ってくれるだろうなと思ってはいたけれど。
「……じゃあ……手を」
「はいっ、宜しくお願い致します」
お願いするよりも早く、白い手が俺の手元へと伸ばされていた。尻尾をブンブン振りながらお手を披露する大きなわんこ。そんな可愛らしくてほっこりする想像が、頭の中で勝手に繰り広げられてしまう。
「あっ、ありがとう」
「いえ」
返ってきた声はやっぱりいつもより高いというか、明るいというか。嬉しいっていう気持ちが滲み出ちゃっているというか。
いつもならば平然と隠してみせるそれを、俺でも分かるくらいに出してくれている。その事実が余計に俺の胸の奥をきゅうきゅうと締め付けていた。
とはいえ、いつまでも情けなく胸元を手で押さえてばかりではいられない。差し出されている白い手を、バアルがしてくれる時のように恭しく、俺なりに優しい手つきで握ってみた。ぱたぱたと羽のはためく音が大きくなる。
さて、この後、バアルは。思い出そうとしてみて、何パターンかあることに気がついた。
大抵は手の甲へとしてくれている。まるで物語に出てくる騎士や王子様が誓いの際にしてくれるように。
次に多いのはお揃いの指輪や、その根元。レアなのは手のひらだろうか。最初っからいっぱいしてくれるつもりな時は指先から始まって、順々に全部をしてくれている。じゃあ、俺は。
エスコートする形で握っていたのは、都合がいいことに彼の左手だった。持ち上げるのではなく、俺から彼の指先へと顔を寄せていく。唇にツルツルとした硬さが触れた。
整えられた爪から今度は少し上へ、薬指の根元で輝く魔宝石へと口づけた。温かかった爪とは違って、緑からオレンジ色へとグラデーションのように変わっていくバイカラーの魔宝石はひんやりと冷たい。触れた時の感触は似ているのに。
次は手の甲にと、そっと口を寄せたところで小さな笑みが聞こえてきた。
口づけてから声のする方を見下ろせば、緑の瞳とかち合った。ゆるりと細められているその煌めきは魔宝石よりも美しい。
「……擽ったかった?」
「いえ、貴方様の可憐な唇から御慈悲を頂く度に、得も言われぬ喜びを感じております」
「そ、そっか……良かった……」
何だか丸めこまれたような、はぐらかされたような。
とはいえ、バアル自身が違うと言うのならば、そう受け止めるしかない。たとえ、緩やかに微笑む唇から悪戯っぽい笑みがこぼれてしまっていても。
気を取り直して今度は手のひらに、それから左手だけじゃあいけない気がしたから右手にも同じように口づけていった。右手には永遠を誓った証はないから、薬指の根元にだけしてみた。
俺が拙いリップ音を鳴らしている間、やっぱりバアルはくすくすと声を抑えて笑っていた。
でも、喜んでくれていることには違いない。それは表情からも、ずっと賑やかな触角と羽からも伝わってきた。だから、気にしないことにした。
「……お次は、羽にして頂けるので?」
「うん、したいんだけど……ホントに」
大丈夫? と尋ねようとした言葉は遮られた。口にしようとしていたまさにその時に、ツルリとした硬さが唇に触れてきたのだ。
確かめるように呟いたバアルの瞳がきょとんと丸くなる。
長い睫毛が瞬いてから、目尻がふっと下がっていった。緩やかな笑みを形作った唇から笑みがこぼれた。
「ふふ、優しいお気遣いありがとうございます。何の支障もございませんよ。私の愛らしい妻は、羽よりも軽く繊細でございます故」
「んっ……そ、そう……それなら、いいんだけどさ……」
周囲に花が舞っていそうなほどにご機嫌で、歌うように饒舌に紡がれた言葉は甘い。穏やかな低音が鼓膜を揺らしただけで、また心臓が喜びの声を上げながらはしゃぎまくってしまっている。
バアルなら、そう言ってくれるだろうなと思ってはいたけれど。
「……じゃあ……手を」
「はいっ、宜しくお願い致します」
お願いするよりも早く、白い手が俺の手元へと伸ばされていた。尻尾をブンブン振りながらお手を披露する大きなわんこ。そんな可愛らしくてほっこりする想像が、頭の中で勝手に繰り広げられてしまう。
「あっ、ありがとう」
「いえ」
返ってきた声はやっぱりいつもより高いというか、明るいというか。嬉しいっていう気持ちが滲み出ちゃっているというか。
いつもならば平然と隠してみせるそれを、俺でも分かるくらいに出してくれている。その事実が余計に俺の胸の奥をきゅうきゅうと締め付けていた。
とはいえ、いつまでも情けなく胸元を手で押さえてばかりではいられない。差し出されている白い手を、バアルがしてくれる時のように恭しく、俺なりに優しい手つきで握ってみた。ぱたぱたと羽のはためく音が大きくなる。
さて、この後、バアルは。思い出そうとしてみて、何パターンかあることに気がついた。
大抵は手の甲へとしてくれている。まるで物語に出てくる騎士や王子様が誓いの際にしてくれるように。
次に多いのはお揃いの指輪や、その根元。レアなのは手のひらだろうか。最初っからいっぱいしてくれるつもりな時は指先から始まって、順々に全部をしてくれている。じゃあ、俺は。
エスコートする形で握っていたのは、都合がいいことに彼の左手だった。持ち上げるのではなく、俺から彼の指先へと顔を寄せていく。唇にツルツルとした硬さが触れた。
整えられた爪から今度は少し上へ、薬指の根元で輝く魔宝石へと口づけた。温かかった爪とは違って、緑からオレンジ色へとグラデーションのように変わっていくバイカラーの魔宝石はひんやりと冷たい。触れた時の感触は似ているのに。
次は手の甲にと、そっと口を寄せたところで小さな笑みが聞こえてきた。
口づけてから声のする方を見下ろせば、緑の瞳とかち合った。ゆるりと細められているその煌めきは魔宝石よりも美しい。
「……擽ったかった?」
「いえ、貴方様の可憐な唇から御慈悲を頂く度に、得も言われぬ喜びを感じております」
「そ、そっか……良かった……」
何だか丸めこまれたような、はぐらかされたような。
とはいえ、バアル自身が違うと言うのならば、そう受け止めるしかない。たとえ、緩やかに微笑む唇から悪戯っぽい笑みがこぼれてしまっていても。
気を取り直して今度は手のひらに、それから左手だけじゃあいけない気がしたから右手にも同じように口づけていった。右手には永遠を誓った証はないから、薬指の根元にだけしてみた。
俺が拙いリップ音を鳴らしている間、やっぱりバアルはくすくすと声を抑えて笑っていた。
でも、喜んでくれていることには違いない。それは表情からも、ずっと賑やかな触角と羽からも伝わってきた。だから、気にしないことにした。
「……お次は、羽にして頂けるので?」
「うん、したいんだけど……ホントに」
大丈夫? と尋ねようとした言葉は遮られた。口にしようとしていたまさにその時に、ツルリとした硬さが唇に触れてきたのだ。
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