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【新婚旅行編】十日目:失礼、お先に奪ってしまいました
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バアルの笑顔がボヤけてしまっている。淡い光を帯びた、磨き上げられた硝子のようなものに目の前を覆われてしまっていて。いや、これは。
聞こえてきた声は楽しげだった。
「失礼、お先に奪ってしまいました」
その言葉で確信が持てた。
突然、俺とバアルとの間に現れた薄い隔たり。その正体がバアルの羽だということに。
「あ……ぅ……」
一気に顔が熱を持つ。変な汗まで額に滲んできてしまう。
胸の内もぐちゃぐちゃだ。喜びやら、驚きやら、してはいけないことをしてしまったような、色々な気持ちが入り混じっているだけじゃない。熱く滾ってあふれてしまいそう。
触れてしまった。いや、バアルの方から触れてきてくれたんだけれども。
俺にとってバアルの羽と触角は特別なところだった。
俺が望めば大抵のことは笑顔で了承してくれていた彼が、それらのお手入れの時だけは別室で行なっていた。それも俺には考えられないほどに長い年月を共にしたコルテを伴ってだ。
そんな聖域とも呼べそうなプライベートなことがらに、俺も手伝わせてもらえるようになったのがごく最近。
強請って少し触れさせてもらっていた時とは違って、隅から隅までこの手で触れさせてもらっているからか、バアルからも自然に触れてきてくれている機会が増えてきたような気もする。じゃれつくように触角をくっつけてきてくれたり、抱き締めてくれるように全身を羽で包み込んできてくれたり。
とはいえ、やっぱりずっと高嶺の花というか、触れるのもおこがましいような憧れに近いものを抱いていたからか、今も特別感は強いのだ。なのに。
「愛しい妻の事となると、年甲斐もなく我慢が効かなくなるようでして……どうか、お許し下さい」
「そ、んな……許すも、何も……」
そもそも怒ってなんかいない。というか、怒る理由なんてありゃしない。そりゃあ、びっくりはしたけどさ。
「……俺からも、していい?」
「はい。その御言葉を、待ち望んでおりました」
「っ、ありがとう……その、出来ればバアルの顔を見ながらがいいんだけど……」
「畏まりました」
お願いすれば、すぐにバアルの笑顔を見ることが出来た。俺の目の前で、俺とバアルを遮って、つぼみのように閉じていた四枚の羽。それらがふわりと開いていったのだ。
触れれば見た目の通りに磨かれた硝子のような感触と硬さを感じる半透明な羽。けれども、その柔軟さは布のよう。彼の背から生えている四枚ともふにゃりと下がって、俺の前で待ってくれている。今か今かと期待してくれているように小さくふわふわと揺れながら。
水晶のように透き通った四枚の内、一枚をそっと手に取る。触れた感じは、やっぱり硬い。
でも、手のひらの上でされるがままに大人しくしてくれている様は、上質な布地を手にしているような。
あ、羽衣が一番合っているかもしれない。あの、天女が身に着けていたって昔話で出てくるヤツ。それが現実にあればこんな感じなんじゃないだろうか。
神秘的な美しさを持つ羽に口を寄せようとして、ふと気がついた。何だか熱い視線を感じる。
見つめてしまえば最後、瞬く間に囚われてしまいそうな。見惚れるばかりで何も出来なくなってしまいそうな予感がした。
けれども、堪えられなかった。此方を見て欲しい、構って欲しいと主張してくれているような視線の強さに心の中で白旗を上げてしまっていた。
目が合った途端、熱を孕んだ緑はゆるりと微笑んだ。無邪気にも見えたし、惹きつけて止まない艶っぽさも感じた。
聞こえてきた声は楽しげだった。
「失礼、お先に奪ってしまいました」
その言葉で確信が持てた。
突然、俺とバアルとの間に現れた薄い隔たり。その正体がバアルの羽だということに。
「あ……ぅ……」
一気に顔が熱を持つ。変な汗まで額に滲んできてしまう。
胸の内もぐちゃぐちゃだ。喜びやら、驚きやら、してはいけないことをしてしまったような、色々な気持ちが入り混じっているだけじゃない。熱く滾ってあふれてしまいそう。
触れてしまった。いや、バアルの方から触れてきてくれたんだけれども。
俺にとってバアルの羽と触角は特別なところだった。
俺が望めば大抵のことは笑顔で了承してくれていた彼が、それらのお手入れの時だけは別室で行なっていた。それも俺には考えられないほどに長い年月を共にしたコルテを伴ってだ。
そんな聖域とも呼べそうなプライベートなことがらに、俺も手伝わせてもらえるようになったのがごく最近。
強請って少し触れさせてもらっていた時とは違って、隅から隅までこの手で触れさせてもらっているからか、バアルからも自然に触れてきてくれている機会が増えてきたような気もする。じゃれつくように触角をくっつけてきてくれたり、抱き締めてくれるように全身を羽で包み込んできてくれたり。
とはいえ、やっぱりずっと高嶺の花というか、触れるのもおこがましいような憧れに近いものを抱いていたからか、今も特別感は強いのだ。なのに。
「愛しい妻の事となると、年甲斐もなく我慢が効かなくなるようでして……どうか、お許し下さい」
「そ、んな……許すも、何も……」
そもそも怒ってなんかいない。というか、怒る理由なんてありゃしない。そりゃあ、びっくりはしたけどさ。
「……俺からも、していい?」
「はい。その御言葉を、待ち望んでおりました」
「っ、ありがとう……その、出来ればバアルの顔を見ながらがいいんだけど……」
「畏まりました」
お願いすれば、すぐにバアルの笑顔を見ることが出来た。俺の目の前で、俺とバアルを遮って、つぼみのように閉じていた四枚の羽。それらがふわりと開いていったのだ。
触れれば見た目の通りに磨かれた硝子のような感触と硬さを感じる半透明な羽。けれども、その柔軟さは布のよう。彼の背から生えている四枚ともふにゃりと下がって、俺の前で待ってくれている。今か今かと期待してくれているように小さくふわふわと揺れながら。
水晶のように透き通った四枚の内、一枚をそっと手に取る。触れた感じは、やっぱり硬い。
でも、手のひらの上でされるがままに大人しくしてくれている様は、上質な布地を手にしているような。
あ、羽衣が一番合っているかもしれない。あの、天女が身に着けていたって昔話で出てくるヤツ。それが現実にあればこんな感じなんじゃないだろうか。
神秘的な美しさを持つ羽に口を寄せようとして、ふと気がついた。何だか熱い視線を感じる。
見つめてしまえば最後、瞬く間に囚われてしまいそうな。見惚れるばかりで何も出来なくなってしまいそうな予感がした。
けれども、堪えられなかった。此方を見て欲しい、構って欲しいと主張してくれているような視線の強さに心の中で白旗を上げてしまっていた。
目が合った途端、熱を孕んだ緑はゆるりと微笑んだ。無邪気にも見えたし、惹きつけて止まない艶っぽさも感じた。
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