【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】十一日目:今となっては、ちょっぴり後悔しかけてしまっている

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「私の好きにして宜しいのでしょう? でしたら、お願い致します……愛しい妻が私の為にと健気に頑張って下さる御姿を、どうか……拝見させて頂きたいのです……」

 縋るように細められた眼差し。穏やかな低音に混じった寂しそうな響き。寂しそうに下げられた眉と二本の触角。どれもこれも俺が弱い彼の仕草だった。

 その目で見つめられてしまうと、その声で強請られてしまうと堪らない。何でも叶えてあげたくなってしまう。

「そっか……分かった、頑張るね……他にもして欲しいことがあったら、遠慮なく言ってね?」

 口にしたばかりの俺は、心の底から思っていた。バアルに喜んでもらえるなら、どんなことでも頑張ろうって。そう本気で思っていたんだ。

「誠に宜しいのでしょうか?」

「へ……? う、うん」

 両手をぎゅっと握り締められる。何やら空気が張り詰めているような。

 丸々としたどんぐりのような目をしていた可愛らしい子犬が、一瞬の内に大きな口から白い牙を覗かせる勇ましい狼になってしまったような。彼から発せられている強い気迫に、気持ちがちょっぴり怖気づいてしまう。

 バアルからのお強請りは嬉しい。嬉しいハズなのに。何だか今だけは聞いてしまうのが怖いような。先の自身の言葉をすでに後悔してしまっているような。

「では、また拝見させて頂いても? 私を受け入れてくれたまま……ご自身を……慰めてみては、頂けないでしょうか?」

「え」

 してしまっているような、どころじゃない。してる。滅茶苦茶。数分前に戻って、俺の口を塞いでしまいたいくらいには。

 そう言えば、約束しちゃってたんだっけ。一人でするのを見せ合いっこをした時に、時々ならいいよって。好きなだけ見せてあげるって。

「やはり、難しいでしょうか?」

「へ?」

 鮮やかな期待を孕んでいた瞳がみるみる内に沈んでいってしまう。頭の片隅では分かっていた。いつものパターンだって。これは罠だって。でも、俺は。

「アオイのお気持ちは、大変嬉しく存じます……ですが、私も貴方様のご負担になりたくはございません……お優しいお気持ちだけで、十分で」

「だ、大丈夫っ、ちょっと恥ずかしいなって思っただけで、ダメなんかじゃないからっ! 遠慮しなくていいんだからね?」

「……では、お願いしても?」

「う、うんっ、任せて! バアルの期待に応えられるように頑張るよ!」

「ありがとうございます」

 分かっていながらも、また俺は彼の手のひらの上でくるくると踊ってしまっていた。

 案の定、バアルは隠す気もないくらいにころっとご機嫌になり、満足そうな笑顔を見せてくれている。

 触角と羽も賑やかだ。ぶんぶん揺れて、ぱたぱたはためいて。俺にその上機嫌っぷりを伝えてくれている。可愛いな。こういうところも含めて、バアルの全部が。

「でも、代わりにって訳じゃないんだけどさ……ちょっと、俺からもお願いが、あるんだけど……」

「はいっ、どうぞ、何でも仰って下さい」

「ありがと……あのね」

 その時の俺は、彼にしたお願いを妙案だと思っていた。

 バアルにそうしてもらえることで、勇気をもらえそうだなって。恥ずかしくても、彼の口から聞くことで頑張れそうだなって、思っていたんだ。

 今となっては、ちょっぴり後悔しかけてしまっている。またしても、少し前に戻って自分の口を塞いでしまいたいくらいには。
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