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あの事故からひと月半が経ち、僕は杖をついてタクシーから降りた。もう空や町の装いは秋のそれに変わっていた。
静寂な寺の境内に敷き詰められた砂利に杖をつき刺しながら、一歩一歩進む。ようやくたどり着いた黒く横長の真新しい墓石に彼の名は無く、天に向かってはばたく白いペガサス……天馬の彫刻が施されていた。
「天馬……やっと来た。遅くなって悪い……」
風がざーっと吹き抜け、竹林を揺らした。
「天馬……僕、あれから泣けないんだよ。涙が一滴も出ないんだ……」
僕は、天馬に向かって話しかけた。返事はない。だけど語り掛けずにはいられなかった。
「おまえがいなくなって、僕は心の中の大事な部品が抜けてしまったみたいなんだ……」
頭の上から野鳥の鳴き声がした。見上げると、天を突くように背丈を伸ばした竹の先端に鷹が一羽止まっていた。
――こんな場所にも鷹はいるんだ。
灰褐色の全身に、白っぽい腹と茶褐色の縞模様が見える。かなり大型の鷹だ。竹が弧を描きしなっている。
その姿に見惚れながら、僕はふと笑みがこぼれた。
「おまえなのか? 天馬。いつからそんなにカッコ良くなっちゃったんだよ……」
不意に名前を呼ばれ振り向くと、そこには麻樹がいた。
麻樹は、天馬が好きだった白くてふわりと風に揺れるワンピースを着ていた。もう秋なのに半袖だ。
彼女は微笑みながら僕に近づいてきた。
「陽太くん。お見舞いに行けなくてごめんね」
「いや……そんなことはいいんだ。僕はただ天馬に会いたくて……」
そう言って、手にしていた杖を持ち上げて見せた。
「私もね、彼に逢いたくて来るんだけど、まだ逢えていないの」
空を仰いだ麻樹は天馬の恋人だった。その天馬を彼女から奪ったのは僕かもしれない。
「麻樹。僕、目覚めてから涙が出ないんだ……胸が押しつぶされそうなほどに苦しくて辛くて……でも天馬に泣いて詫びることさえできないんだ……ごめん」
歩みの遅い僕に合わせて、麻樹はゆっくりと歩いてくれた。ほんの少しの距離を時間をかけて歩いた僕たちは、本堂前の階段に腰かけた。麻樹がコーヒーを買ってきて、一本を僕に渡してきた。
「陽太くん……事故のこと、話してくれるかな……」
静寂な寺の境内に敷き詰められた砂利に杖をつき刺しながら、一歩一歩進む。ようやくたどり着いた黒く横長の真新しい墓石に彼の名は無く、天に向かってはばたく白いペガサス……天馬の彫刻が施されていた。
「天馬……やっと来た。遅くなって悪い……」
風がざーっと吹き抜け、竹林を揺らした。
「天馬……僕、あれから泣けないんだよ。涙が一滴も出ないんだ……」
僕は、天馬に向かって話しかけた。返事はない。だけど語り掛けずにはいられなかった。
「おまえがいなくなって、僕は心の中の大事な部品が抜けてしまったみたいなんだ……」
頭の上から野鳥の鳴き声がした。見上げると、天を突くように背丈を伸ばした竹の先端に鷹が一羽止まっていた。
――こんな場所にも鷹はいるんだ。
灰褐色の全身に、白っぽい腹と茶褐色の縞模様が見える。かなり大型の鷹だ。竹が弧を描きしなっている。
その姿に見惚れながら、僕はふと笑みがこぼれた。
「おまえなのか? 天馬。いつからそんなにカッコ良くなっちゃったんだよ……」
不意に名前を呼ばれ振り向くと、そこには麻樹がいた。
麻樹は、天馬が好きだった白くてふわりと風に揺れるワンピースを着ていた。もう秋なのに半袖だ。
彼女は微笑みながら僕に近づいてきた。
「陽太くん。お見舞いに行けなくてごめんね」
「いや……そんなことはいいんだ。僕はただ天馬に会いたくて……」
そう言って、手にしていた杖を持ち上げて見せた。
「私もね、彼に逢いたくて来るんだけど、まだ逢えていないの」
空を仰いだ麻樹は天馬の恋人だった。その天馬を彼女から奪ったのは僕かもしれない。
「麻樹。僕、目覚めてから涙が出ないんだ……胸が押しつぶされそうなほどに苦しくて辛くて……でも天馬に泣いて詫びることさえできないんだ……ごめん」
歩みの遅い僕に合わせて、麻樹はゆっくりと歩いてくれた。ほんの少しの距離を時間をかけて歩いた僕たちは、本堂前の階段に腰かけた。麻樹がコーヒーを買ってきて、一本を僕に渡してきた。
「陽太くん……事故のこと、話してくれるかな……」
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