この世界が乙女ゲームの舞台だとは知らない俺の物語

ユキさん

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第8話 ~とりあえず頼みます。

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何か知らんけど、俺が甘っちょろいと言う母上。婚約者を決めれば安心なんじゃないの? 父上もそう言っていた筈だけど。しかしながら母上曰く、



「婚約した男女にちょっかいを出すことは禁じられているけれど、友人知人との関係を禁ずるわけにはいかないでしょ? …そこから恋に発展することもあるのよ。」



…とのこと。…確かにそれはある、前世でも見たことあるしな。そして何より、それが原因で終わった関係も知っている。悲しいことにそれらは全て、俺の友人知人…に近いと思っている後輩子分の話になるんだが。男女間での友人知人は諸刃の剣、恋人がいなくとも知った悲しい現実だった。



前世のことを思い出し、微妙に切なくなる俺。この世界でも同じなのかと思う俺に、



「それを狙って友人知人になろうとする者もいるからね? 多属性は狙われるの、そのことを忘れずに友人知人をきちんと選ぶのよ? 寝取られたりしたら…「馬鹿者! ミュゼに何ということを!!」…クルゼイ、邪魔しないで!!」



母上がとんでもないことを言った瞬間、父上が全てを言う前にそれを遮った。…寝取られ? …恋愛に疎い俺には意味が分からない、しかしろくでもないことであるのは何となく分かる。父上が遮る程だもの、きっとヤバイ意味を持つ言葉なのだろう。



意味が分からない寝取られは置いといて、その前の方がショックなんですけど。…人様の婚約者を狙うとかってさ、…それに自分も含まれているけど。それを狙って仲良くなろうとするんだろ? …最悪じゃないか! 奪われたら立ち直れないぞ、寝込むこと確実だわ。…因みに俺は、他の女の子には色目を使わないぜ? 婚約者を第一に考えると思う。……というか、人間不振になりそうだよね? 初見の人はお断りっていう信条でも持とうか? それともまずは疑うことから始めようか? それか世の中そんなもんだとやや諦めの心境で日々を過ごすか? …悶々と考えてしまう。













自分のこれから築くであろう交友関係について、色々と考えていると…、



「ミュゼよ、先程ルセリナの言ったこと…そう気にすることはない。それはアホが辿る道、お前はいつも通りでいい。さすれば何の問題もない故、…何度も言うが自信を持つんだ。」



そう言ってくれた。…父上は何時でも俺を評価してくれる、ありがたいことだ。母上も母上で、悪いケースを教えることで俺に警戒心を持たせようとしていたようで。これもまたありがたいことではあるが、一歩間違えたら人間不振になるぞ。現に俺は片足を突っ込んだわけだし、…なりかけたよ人間不振。



…いつも通りでいいというわけで、悶々と考えていた交友関係についてはもういいだろう。とにかく婚約者だ、婚約者さえ決めれば当面の厄介事を避けることが出来る。今日まで同世代近くの女の子とは関わっていない、故にこの件は父上と母上に任せるしかない。



「父上の言うように、私はいつも通りの自分で行動するように心掛けます。…して恥ずかしながら、私は同世代のご令嬢とは面識がありません。婚約者の件は父上と母上に任せます、どうかよろしくお願いしますね。」



と言えば父上が、



「うむ、そこは任せるといいミュゼ。お前は三属性と偽っているが、いずれは十二属性であることを明かさなければならぬ身。そこを踏まえて婚約者を決めさせてもらう、…と言っても既に数人の候補は頭の中にあるのだがな。」



…仕事が早いというか何というか、父上のことだからとても良い女の子を候補に挙げているだろう。頼りになるぜ父上! そういう目で父上を見れば、どことなく誇らしげに笑みを浮かべる父上。そんな俺と父上を間近で見ていた母上は、



「待って待って! 私にも婚約者の目星はあるのよ? だから私にもその素敵な眼差しを頂戴ミュゼちゃん!」



焦った顔で身振り手振りを大きく、物凄くアピールをしてくる。…一応母上のことも頼りにしてますよ? 俺のことを大事に思うあまり少し…いや、わりと過激なことを言ったりやったりするけど。そんな母上を俺はきちんと尊敬していますとも、…父上には劣るけれどもね。不貞腐って父上に迷惑を掛けぬよう、自らキモいと思う程の上目遣いで母上を見上げれば大喜び。小躍りするその様を俺と父上は、若干の冷めた目で見るのであった。













俺は目の前でゴニョゴニョと相談をする両親を見ている。



「…俺はミュゼのことを閣下に話しつつ、…ついでに閣下の………。」



「私もそれは考えていたわ。…でもミハイルの……、だから後ろ楯紛いの相談役を………。」



俺の婚約者の件について真剣に話し合っているみたいだが、本人を前に相談をしないでもらいたい。所々聞こえて気になるんだよ、閣下? ミハイル? …凄く気になる単語がチラホラと。



…まぁこの調子なら婚約者の件は大丈夫だろう。その件は二人に任せて、俺は隠蔽術のことや鍛練のことを考えればいい。…後は女の子が好む話題をメイドの二人、ネムとダリアに色々と聞いておかなければ。無骨な類いである俺には、女の子が好む話題など皆無に等しい。故に婚約者が出来た時の為に、様々な情報を仕入れておく必要がある。つまらない婚約者と言われたら、全てを投げ捨てて非行に走ってしまうこと確実である。元不良の俺を舐めんなよ? …意外に繊細な生き物なんだよ。



俺がこれからのことを考えていると…、



「……どの道ミュゼは十二属性、…最低でも五、六人は………。」



「……ここはやっぱり閣下を第一にする? ……ミハイルが了承をすれば第二は……

。」



不穏な単語が聞こえたような気がする。五、六人? 第一第二? ……気のせいだよね? …うん、…気のせいに違いない。…俺はそう信じている!
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