幸狂曲第5番〈Girasole〉

目玉木 明助

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第一楽章 カルマファミリー編

7、初仕事・陽動のヨウ①

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「そういえばボス、こんな真っ昼間から連絡寄越したヤツは誰だったんです?」

 薄型のトランシーバーが、恵業のポケットの中へと仕舞われていく。

恵業は電話に出るからと言って、しばらく席を外していたのだ。

「見回りの部下からだ。
どうやら新宿のデパートに、ヤクの密売人バイニンどもが紛れ込んでやがるとの情報が、今しがた入った。準備が整いしだい行くぞ」

その場に、静寂が広まる。

「オレの機関銃の出番っスね。戦力的には一人でも十分だろうから、ボスはゆっくり休んでてくださいよ」

 いやいや、と恵業はかぶりを振る。

「俺も向かわせてもらう。これはボス命令だ」

 さすがの影助も、仕方なく引き退る。

「それから、ヨウに朗報だ。配属早々ではあるが、陽動作戦を開始する」
 
 陽は予期せぬタイミングでそう告げられ、戸惑ってしまった。

「へっ⁈ 急に陽動作戦って言われても、私一体、何をすればいいのか……」
 
あたふたする陽。

「ーー陽動作戦というくらいですから、やっぱり、踊り子の格好に扮するんでしょうか」
 
 キリッ。

 陽は至って大真面目である。決していつものスタンスを崩さない。

「……ぶっ、くくっ! あァそーそー。ヨウはマヌケに腹踊りでもしてりゃいいンだよ」

クライアントをいろんな意味で誘き出せるかもしンねぇぜ? ーーと、影助は意地悪く言う。

 陽はまた影助に馬鹿にされているのだと感じ、むむ、と口を震わせた。

 恵業は一瞬、意外だとでもいうような顔をする。

「何言ってんだ、ヨウには一つしかねえだろ? "プレゼン"っつー武器を使うのさ」

(私のプレゼンが、武器になるの?)

 陽はだんだん、不安で不思議な、なんともいえない気持ちになってくる。

「別に、お前のホワイトボードで密売人バイニンぶった斬れって言ってるワケじゃあねえんだ。むしろその逆だよ、逆。ヨウのプレゼンで一般人の気を引き、その隙に俺らが密売人バイニンを誘き寄せるんだ。」

 恵業はバン!と銃を撃つジェスチャーをしてみせた。
 
びくりとしつつも、たしかに、と陽は考える。

(もし私のプレゼンが上手くいったら、危ない場所からお客さんたちを避難させられるかもしれないってことだよね。)

 不幸中の幸いというべきか、影助に破壊されたホワイトボードも、裏面は無事だった。

「分かりました。人助けならどんとこいです!」

陽は胸のあたりに拳をつくる。

「趣旨はずれてるような気もするが……まあ良しとするか。そのやる気は高く買ってやるよ。さ、準備ができたら車に乗んな」

恵業は苦笑いを浮かべる。

「さァて、ひよっこヨウチャンにお役目は全うできるんでちゅかねー?」

 陽の肩に手を回しながら、影助は言う。

「前途洋洋ですからね。頑張りますよう!」

(あと私の年齢は、少なくとも若鶏くらいだと思う!)

陽のまっすぐな瞳に、うげー、と影助。

(あ、一応トランペットも持っていこうかな)

 なんだかんだ、陽とともに死線をくぐり抜けてきた、お守りのようなトランペット。かつてはヒマワリ楽器店のものだったけれど、陽が大切に扱うのなら、バチは当たらないような気がした。

「下っ端の運転する車だし、お前助手席決定な」
「あだっ⁈ 不覚でした!」

 影助に後ろを蹴られ、楽器ケースを抱えた陽は、助手席にスライディングする形になる。

「お前らァ、ガキの遠足じゃねえんだからよ。ちゃんと気ィ引き締めていけよ」

「Sì(はい)、ボス」

影助は、まるで人が変わったようにニッコリと微笑んだ。

__________________________________________

 

 新宿まで到着して、陽は重要なことを忘れていたのを思い出し、口をあんぐりと開ける。

 2人と、ボディガードの構成員たちはすでに、銃の手入れの最終チェックをし始めていた。

「ど、どうしましょう! プレゼンの資料も何も用意してませんでした!」

恵業は、大して驚きもせずに陽にささやく。

 「ああ、そういえばそうだったな。……ウチはせっかく貿易会社(表向きは)なんだから、武器のプレゼンでもしたらいいんじゃねぇか?」

今度は影助が慌てる。

「表向きの意味がなくなっちまいますよ、ボス! オイヨウ! いいか、ここはシャバだ。包丁とでも言って誤魔化しとけよ⁈」

 お前は変なとこイカれてるんだからな、と付け加えられる。


 デパート内を、RPGの勇者一行のように歩くと目立ってしまうので、時間差で目的地に向かうことにした。

 
 先発、陽。
一番のりで行って、場を温めてくるよう恵業に言われてしまったのだ。

さっきから、心臓がけたたましく早鐘を打っている。

元・社会人の陽にとって、原稿のないプレゼンテーションほど怖いものはなかった。

(かつてないほど緊張する……!)

でも、と陽は決心して前を向く。



(これはきっと私にしかできない仕事、なんだよね)



 一階、調理器具コーナー。

 陽は昼下がり、散歩がてら買い物へ来た主婦をターゲットに、プレゼンを始める。


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