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第二話 幼馴染にバラまけない復興支援
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【ジルベール王、またもお友達にえこひいき!?】
昨日、開かれた王国議会にてジルベール王はシュバルツハイム辺境伯領への経済支援を独断で決行した。
王の目に余る横暴に質疑のために召喚されたフランシスコ財務大臣も抗議したが、
「シュバルツハイム卿は余の昔からの友人。
だから金を使うのだ。
本当なら領地を与えたい」
と聞く耳を持たないどころか、自身に反抗的な貴族から領地を取り上げることを示唆した。
さらには、
「余の邪魔をすればシュバルツハイムは隣国に与するだろう」
言外にシュバルツハイムが周辺領に危害を加えることを匂わせ、周辺領と繋がりの深い議員たちを震え上がらせた。
それにしても友人である辺境伯を使って他の議員を脅迫するとは……
あまりに悪辣で恥を知らないジルベール王。
この悪政はいったいいつまで続くのか。
————————————
またしても……新聞の一面を飾ってしまった。
「おのれっ!!
醜悪なるマスコミどもめっ!!
言葉をつぎはぎにして私の発言を捏造しおったな!!」
自室で新聞を破り捨てながら声を荒げた。
記事が掲載されたのはウォールマンニュース。
ジャスティンは王国議会の議員という立場を利用して議会の出来事を新聞の記事として掲載しており、新聞購読層の約6割がウォールマンニュースを目にしている。
だが、そこに書かれていることは必ずしも真実ではない。
というのも私に関わる記述の多くは捏造や印象操作で塗り固められている。
私が王子時代にやられた時とやり口は変わらない。
冷静に考えれば色々な矛盾に気づきそうなものだが、新聞を読んでいる民のほとんどは記事を信じて私を暴君と思っている。
『王国議会の議員でもあるジャスティンが嘘など書くはずもない。
つまり新聞に書いてあることに間違いはない』
という神話が確立されてしまっているのだ。
メディアは新聞だけではない。
新聞の記事は即座に新聞社がパトロンを務めている劇団によって大衆向けの劇として都の至る所で上演される。
報道劇と呼ばれるこれらの演目の内容は大方、
『悪い王様が悪いことをしているけれど止められない』
という不条理な喜劇。
それは観客側も怒りを溜め込むものだが、そうやって怒ること自体が庶民の娯楽だというのだ。
文字すら読めない民が捏造された情報に踊らされ、私を批判している。
「ため息で自室を暖めているのですか?」
「そんなにため息吐いていたか?」
「ハイ、それはもう絶え間なく」
いつの間にかレプラが部屋の中に入っている。
最近は形式的なドアノックすらもしなくなったし、僕に対する態度も荒っぽい感じがする。
「で、どうだった。
報道劇の内容は?」
「新聞記事の内容に加えて、陛下とシュバルツハイム卿がデキているという内容でした」
「またしても酷い内容だな!
私に男色の気はない!」
「ちなみにタチはバルト様でネコの陛下は悶えよがっておりました」
「太刀? 猫?」
「知らぬなら知らぬで問題ないことです」
レプラは目線を遠くにやった。
「と、ともかく、此度の支援計画を国民は余のお友達への賄賂のように考えているということか」
「そうですね。陛下とバルト様が幼馴染の大親友であることは周知の事実なので」
レプラの言うとおりだ。
バルトことバルトロメイ・フォン・シュバルツハイム辺境伯はほんの5年ほど前まで王宮暮らしをさせられていたのだ。
名目は遊学のためだったが実際のところ、重要拠点に大勢力を持つ貴族の王家への忠誠を試す人質だった。
そんなデリケートな関係にも関わらず僕たちは馬が合って、ともに時間を過ごした。
年齢は五つ離れていたがバルトは気さくで鷹揚であるから年下の僕の偉そうさを笑って許してくれていた。
レプラもその事をよく知っている。
「今となってはあのままバルト様には王都に残ってもらいたかったですね。
前国王が亡くなられた後、あの方を宰相にでも引き込んでおけば陛下の良き相談相手となられたのに」
「たらればの話をしても詮無いさ。
元々バルトは故郷で暮らしたがっていたし。
それに宮廷で暗躍させるより、モンスター相手に暴れさせたり、敵国の兵と酒酌み交わさせる方が彼の性に合ってる。
適材適所さ」
と、レプラに説いて聞かせたが実際のところバルトがここにいない方がいい理由はもう一つある。
それは僕と親しいというだけで彼にどんな累が及ぶか分かったものではないからだ。
即位して三年。
自分なりに頑張ってきたと思う。
だが、それらがマスコミに評価されたことは一度だって無い。
それどころか偏向報道により、王室への不信や反感は王国始まって以来最悪の状態になっている。
今では私個人に留まらず、近しくしている者たちまでマスコミの魔の手が及ぶことが多い。
もし、中央にバルトなんかがいようものなら格好の餌食となることだろう。
レプラはつまらなさそうにため息をついた後、僕に尋ねる。
「辺境伯にお手紙でもしたためられますか?」
「いいや。個人的な付き合いはしていないと答弁してしまったしな。
せっかくまとまりかけている計画を壊したくない」
「御意」
スカートをつまみ上げて、軽く頭を下げたレプラはまたしても音を立てずに寝室から出て行った。
【ジルベール王、またもお友達にえこひいき!?】
昨日、開かれた王国議会にてジルベール王はシュバルツハイム辺境伯領への経済支援を独断で決行した。
王の目に余る横暴に質疑のために召喚されたフランシスコ財務大臣も抗議したが、
「シュバルツハイム卿は余の昔からの友人。
だから金を使うのだ。
本当なら領地を与えたい」
と聞く耳を持たないどころか、自身に反抗的な貴族から領地を取り上げることを示唆した。
さらには、
「余の邪魔をすればシュバルツハイムは隣国に与するだろう」
言外にシュバルツハイムが周辺領に危害を加えることを匂わせ、周辺領と繋がりの深い議員たちを震え上がらせた。
それにしても友人である辺境伯を使って他の議員を脅迫するとは……
あまりに悪辣で恥を知らないジルベール王。
この悪政はいったいいつまで続くのか。
————————————
またしても……新聞の一面を飾ってしまった。
「おのれっ!!
醜悪なるマスコミどもめっ!!
言葉をつぎはぎにして私の発言を捏造しおったな!!」
自室で新聞を破り捨てながら声を荒げた。
記事が掲載されたのはウォールマンニュース。
ジャスティンは王国議会の議員という立場を利用して議会の出来事を新聞の記事として掲載しており、新聞購読層の約6割がウォールマンニュースを目にしている。
だが、そこに書かれていることは必ずしも真実ではない。
というのも私に関わる記述の多くは捏造や印象操作で塗り固められている。
私が王子時代にやられた時とやり口は変わらない。
冷静に考えれば色々な矛盾に気づきそうなものだが、新聞を読んでいる民のほとんどは記事を信じて私を暴君と思っている。
『王国議会の議員でもあるジャスティンが嘘など書くはずもない。
つまり新聞に書いてあることに間違いはない』
という神話が確立されてしまっているのだ。
メディアは新聞だけではない。
新聞の記事は即座に新聞社がパトロンを務めている劇団によって大衆向けの劇として都の至る所で上演される。
報道劇と呼ばれるこれらの演目の内容は大方、
『悪い王様が悪いことをしているけれど止められない』
という不条理な喜劇。
それは観客側も怒りを溜め込むものだが、そうやって怒ること自体が庶民の娯楽だというのだ。
文字すら読めない民が捏造された情報に踊らされ、私を批判している。
「ため息で自室を暖めているのですか?」
「そんなにため息吐いていたか?」
「ハイ、それはもう絶え間なく」
いつの間にかレプラが部屋の中に入っている。
最近は形式的なドアノックすらもしなくなったし、僕に対する態度も荒っぽい感じがする。
「で、どうだった。
報道劇の内容は?」
「新聞記事の内容に加えて、陛下とシュバルツハイム卿がデキているという内容でした」
「またしても酷い内容だな!
私に男色の気はない!」
「ちなみにタチはバルト様でネコの陛下は悶えよがっておりました」
「太刀? 猫?」
「知らぬなら知らぬで問題ないことです」
レプラは目線を遠くにやった。
「と、ともかく、此度の支援計画を国民は余のお友達への賄賂のように考えているということか」
「そうですね。陛下とバルト様が幼馴染の大親友であることは周知の事実なので」
レプラの言うとおりだ。
バルトことバルトロメイ・フォン・シュバルツハイム辺境伯はほんの5年ほど前まで王宮暮らしをさせられていたのだ。
名目は遊学のためだったが実際のところ、重要拠点に大勢力を持つ貴族の王家への忠誠を試す人質だった。
そんなデリケートな関係にも関わらず僕たちは馬が合って、ともに時間を過ごした。
年齢は五つ離れていたがバルトは気さくで鷹揚であるから年下の僕の偉そうさを笑って許してくれていた。
レプラもその事をよく知っている。
「今となってはあのままバルト様には王都に残ってもらいたかったですね。
前国王が亡くなられた後、あの方を宰相にでも引き込んでおけば陛下の良き相談相手となられたのに」
「たらればの話をしても詮無いさ。
元々バルトは故郷で暮らしたがっていたし。
それに宮廷で暗躍させるより、モンスター相手に暴れさせたり、敵国の兵と酒酌み交わさせる方が彼の性に合ってる。
適材適所さ」
と、レプラに説いて聞かせたが実際のところバルトがここにいない方がいい理由はもう一つある。
それは僕と親しいというだけで彼にどんな累が及ぶか分かったものではないからだ。
即位して三年。
自分なりに頑張ってきたと思う。
だが、それらがマスコミに評価されたことは一度だって無い。
それどころか偏向報道により、王室への不信や反感は王国始まって以来最悪の状態になっている。
今では私個人に留まらず、近しくしている者たちまでマスコミの魔の手が及ぶことが多い。
もし、中央にバルトなんかがいようものなら格好の餌食となることだろう。
レプラはつまらなさそうにため息をついた後、僕に尋ねる。
「辺境伯にお手紙でもしたためられますか?」
「いいや。個人的な付き合いはしていないと答弁してしまったしな。
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