世界の涙を拭う旅 〜霊が見える少年は伝説の英霊に弟子入りして英雄の道を歩む〜

五月雨きょうすけ

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第一章 少年は姫騎士と出逢う

間話 ヴァーリの報告書

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 隣村の牧場にダイアウルフが現れた件について以下の通り、報告する。

 ダイアウルフは左目に古傷を持っていた。
 これは一年前にデジュラの街で冒険者パーティが遭遇したダイアウルフと同一個体と思われる。
 Bクラス冒険者、大剣使いのロンは味方のパーティを逃すためにしんがりを務め、敢えなく戦死してしまったがその際にダイアウルフの目を切り裂いたとの証言があり、それに一致するからだ。

 そのロンの両親が持つ牧場にダイアウルフが辿り着いたのは偶然ではない。
 遺品として届けられた大剣の匂いを追ってきたのだろう。
 道中、野犬や山猫がダイアウルフの餌食にあい、逆に天敵がいなくなったことで大量の下級モンスターたちが大量に村に迫っていた。
 もし、先遣隊のゴブリンたちが牧場を占拠し、家畜や農産物を手に入れていれば後続のモンスターたちが村になだれ込み、全滅していた可能性が高い。

 だが、ダイアウルフは首を斬り落とされ、村の外には夥しい数のモンスターの死骸が転がっていた。
 唯一の目撃者である牧場の主人に尋ねるも、気が動転していたのか荒唐無稽な作り話ばかりするので証言としては使えない。

 しかし、モンスターの死骸の傷を見る限り、たった一人の大剣使いがこのとてつもない戦果を挙げたことは間違いない。
 もし、これが在野の冒険者だというのであれば、戦力増強のために是非、我が騎士団への勧誘を行いたい。



 ヴァーリは報告書を直接団長に手渡した。
 白嶺騎士団長イワークはヴァーリと同年代の偉丈夫である。

「この大剣使い、特Aクラス冒険者ではないのか?」
「照会をかけましたがユーレミア国内に該当する冒険者はいませんでした。
 国外の冒険者か、あるいはランクを過少申告している輩かと」
「嘆かわしいことだ。冒険者風情が騎士よりも大きな戦果を挙げるなど。
 同じことができる騎士が我が国にどれだけいる?」
「少なくとも、私の目の前に一人」
「フッ、洒落臭いことを」

 ヴァーリの言葉にイワークは厳しい顔を緩める。

 昔ながらの武人といった風貌のイワークは部下から恐れられがちだが、ヴァーリはかわいがられていた。
 火事で屋敷を失くしたヴァーリと息子のアレクを居候させただけでなく、新しい住まいをすぐに手配した。
 ヴァーリは心の底からイワークに心酔し、彼のためならばどのような命令でも受けようと心に決めている。

「ところで……細君を亡くして半年以上だ。
 そろそろ後妻をもらったらどうだ。
 お前が身を固めなければ、アレクも嫁を貰いづらいだろう」

 イワークは似合わない下世話な笑みを浮かべて語りかける。
 ヴァーリは困ったように眉をハの字にして返答する。

「……私には、その資格はございません。
 一生をかけてお護りするからと拝み倒して結婚してもらった妻に……あんな惨い死に方をさせてしまったのですから」

 ヴァーリは今でも夢に見る。
 黒焦げの遺体となった妻アナスタシアの姿を。


 今にも泣き出しそうなほど憔悴した姿を見せるヴァーリを見て、イワークは鼻を鳴らし、追い払うように下がらせた。



 騎士団の屯所の廊下を歩くヴァーリ。
 彼は報告書の内容を頭の中で反芻し、敢えて削除した内容を思い返していた。

(牧場主の証言……10歳の子供が息子の形見の大剣を使ってダイアウルフを斬り殺した。か。
 それから数日後、子供は短い別れの言葉を告げ、旅に出てしまった。
 牧場主は失くした自分の長男とその少年を重ねており、「せがれの魂が俺たちを助けるために帰ってきてくれた」と涙ながらに語っていた。
 そんなことはあり得ない。
 死人は天に帰るだけで、誰か別の人間になって戻ってきたりはしない。
 荒唐無稽で邪教じみた話だ。
 しかし…………)

「少年の名はリスタ。
 我が子アリスタルフの愛称……」

(……失笑ものだな。
 上司の機嫌を取るために捨てた息子だというのに。
 そうだ。これは無駄な感傷だ。
 最愛の妻を失った悲しみが妻の忘れ形見である息子を想わせるのだ。
 あやつが生きているわけがない。
 いつも何かに怯え、部屋から出ることができなかった臆病者がひとりで隣村まで辿り着けるわけないのだ。
 まして、牧場主の言うリスタ少年は教えもしていない牧場の仕事を一人で完璧にこなしていたらしい。
 さらには仕事の合間には常人がとてもこなせない速度と負荷の鍛錬を続けていたという。
 極めつけがダイアウルフの退治。
 死体から判るその剣の冴えはベテラン騎士の私から見ても舌を巻くものだった。
 体と変わらぬ大きさの大剣を振り回していたと言うが、まるで数百年前の剣豪のようではないか)

 ヴァーリは昂った感情を鎮めようと務めて冷淡であろうとする。
 しかし…………

(アリスタルフなんてありふれた名前だ。
 ……ああでも、アナスタシアはどこか自分の名前に似ている、と喜んでいたな)

 半年経っても、彼の胸に抜けないナイフのように最愛の人の死という残酷は突き刺さっている。
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