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第20章
第572話 国籍についての議論
次はウィンダルシアから。
「この帰化とは何なのですか?」
「私も疑問に思ってました」
「俺も知らんぞ」
トーマスとフィンツさんが加わる。
「この世界って国籍の概念が無いんですか?」
「国籍はあるが、『帰化』の意味が分からん」
「その国へ帰属する、つまりその国の国民になるってことなんですけど……」
「『国民』になる? お前さんの故郷ではそんな明確に『国籍』があるものなのか?」
むしろあるのが当然だと思ってたんだけど……
「じゃ、じゃああなた方はどうやって自分が国に所属していると認識してるんですか?」
私の質問にまずフィンツさんが答える。
「生まれたところが自分の国という認識だが?」
「別の国に移ることはできないってことですか?」
その質問にトーマスが答える。
「いえ、移るのは可能です。我々水の国では騎士団に所属した時点でその国の所属になります。騎士団に入る時に試験があり、厳格に調査され、その上で審査されますから」
「一般人は?」
「五年以上国で仕事に従事すると審査してもらえる権利が与えられます。そこで問題無いと判断されれば国に所属したことになります。ダメな場合の次の審査は一年後です。つまりは“信用”に足る人物でないとならないわけですね。国に所属した際に身分証明のカードが国所属の物に交換されます。それまでは外国人向けの身分証明カードです」
「じゃあフィンツさんも?」
「そうだな。俺は生まれも育ちも水の国だから水の国の所属だな。で、特段の貢献をすれば貴族階級だ」
ああ、そんなこと言ってたな、そう言えば。 (第543話参照)
「この世界のヒトって二重に国籍持ってるってこともあるんですか?」
これにはダイヤラさんが答えてくれた。
「有り得ることです。信用のある商人は色んな国で重用されますので。ただ、やはりそう簡単ではありません。最初から怪しい者はどこの国も欲しくないわけですし、そんな者を国民にさせたらどんなトラブルが起こるか分かりません。今内戦に近い火の国や氷の国のことは私には知る由もありませんが、大抵の場合は信用されてなければ別の大国の国民になるのは無理と考えていただいた方がよろしいと思います。二ヵ国以上の複数の国で国民と認められるには数十年単位の月日が必要ではないかと。多くは生まれた国で生を終えますね」
「な、なるほど」
とんでもなく気の長い話だな……それなら二重国籍でも文句無いわ。
しかし、これについて少々反論めいた情報をトーマスが提示。
「今代のレヴィアタン陛下の下では水の国は二ヵ国以上の国籍を持つことを認めていません。水の国の国民になるには定住も条件にありますね。これは時の魔王によって変わることがあり、今代のレヴィアタン陛下になってから現在のようになったと聞いています」
「なるほど」
魔王が法律より上に位置するってのが分かるエピソードだな。
二重国籍を認めていないのは安全性を考えてのことかな?
「時の魔王によってってことは、魔王が代替わりして制度が変わったら、水の国への定住を選んで捨てた二重国籍はどうなるの? 復活するの?」
「私は水の国の兵士ですので分かりませんが……復活せず、最初から信用を積み直して再び取得しなければならないのではないでしょうか? 水の国に定住を選んだ時点で、他の複数国家のことを裏切ったことになるわけですし」
「な、なるほど……確かに……」
「水の国に定住するなら、それくらいの覚悟を持って国に尽くすと考えねばならないわけですね」
流石にそんな甘いもんじゃないか……
ただ、一ヵ国しか選べないってところは日本に似てるな。
「ああ、一つ例外がありました。水の国出身の者は、一度国を離れても他の国の国民である身分を捨てることで、比較的簡単な手続きで戻って来ることができます」
そこはちょっと優しいな。
「ってことは……トーマスって今どうなってるの?」
「もちろん水の国所属ですよ。同じくリナも、妹ですので」
「フィンツさんは?」
「俺も水の国所属だな」
「ってことは、もし仮にうちと戦争することになったら……」
「心苦しいですが、敵同士になってしまうでしょうね……」
そんなことにはならないようにしよう!
「あと、水の国は悪党が住み着くのは不可能に近い。何せ魔王が毎日フラフラ出歩いてるからな。あれ以上の安全装置は無い」
と、フィンツさん。
そう言えば、国民に愛されてるって言ってた気がするな……いや、『国民が嘆く』って言ってたような…… (第57話)
まあいずれにしても親しまれてることには変わりないか。私のようにパトロールして目を光らせているのかもしれない。
確かに水の国を訪れた時は、凄く平和に時間が流れてた気がするわ。野盗みたいなのが居なくて、犯罪が少ないから穏やかでいられるわけか。
「他の国は二重国籍認めてないってところあります?」
……
…………
………………
誰も何も言わない。
「ってことは、水の国以外のこの場の四ヵ国は多重国籍でも問題無いってことなんですね? 何で国家所属が曖昧なところが多いんですか?」
疑問に思ったので聞いてみたところ、再びダイヤラさんが答えてくれた。
「私たちにとっては当然のシステムですので、アルトラ殿のところと比較できませんが……恐らく行商人として生活している方が多いからではないかと思われます。世界各地に家を持ってる商人は多くおりますので。それと商人に連れられて一般人も旅をした末に住み着く地を決めることが多いためではないかと」
日本国籍しか持ってない私には不思議な世界だな。地球にも二重国籍認めてる国はあるけど、その人たちも似たような (それぞれの国で商売したいとかの)理由なのかしら?
輸送技術がまだ馬車がメインだからってところがあるのかな?
航空輸送がメインになると、また制度が変わってくるのかも?
「じゃあ、審査してみてスパイが侵入してたのが判明したってこととかは……?」
これにはトーマスが答えてくれた。
「ありましたよ。審査の時点で調査したところ、怪しい経歴が多くて洗い出された感じですね。また、余りに怪しい場合はスパイでなくても審査は通りませんね」
やっぱりスパイってあるんだな……
「ちなみに、スパイは国へ帰れません」
「えっ!? それって殺……?」
「いえ、そうとも限りませんが、その辺りの詳細までは機密のため言えません。が、それほど厳しいってことですね」
私がスパイ疑惑かけられて逮捕されて吊るされたのって、そういう背景もあるってことなのか?
暗部を覗き見てしまった気がする……
「トーマスがそういう部署で働いてたってこと?」
暗部がアルトレリアに居るって、それ国防的には大丈夫なのか?
「いえ、我々は警ら部署なので、拷問までは許されておりません」
「え……だってあの時私はリッチに……?」
「ですから私はあの時止めたんですよ。ただ、彼の性格が性格でしたので……」
「あ~あ……な~るほど」
あれはリッチの暴走か。
私が七大国のどこの国にも所属してない空間魔術師だったから、『スパイである』と断定して、勇み足であのような拷も……尋問の手段に出たわけか。 (第65話参照)
そう考えると、アルトレリアから解放してしまったのは、少々温情をかけ過ぎたかな……この町に居られないと言うならやっぱりきちんと水の国にお返しするべきだったかも。ルーファスさんが大ごとにしないでくれたようだけど、実は結構な国際問題だった? (第108話)
「風の国はどうなってるの? ウィンダルシア」
「我々の国は少々険しいところにありますから、好んで訪れる者は少ないですね。そのため住み着けばほぼ国民と認められます」
「審査とか無いの?」
「住み着く時の簡単なものだけですね。更に言うなら水の国のように国の所属を一ヵ国に限定するということもありませんし、いついつから住み着いてるなんて厳格な調査は無いので、流れ着いた者がしばらく生活してて『そろそろ住んでいることを役所に報告しよう』なんてこともままあります」
水の国より更にゆったり時間が流れてるわけか。
「ってことは身分を偽って生活してるヒトも?」
「居るでしょうね。ただ、トラブルさえ起こさなければある程度寛容ですので、積極的に追い出そうという話にはなりません」
山の中腹にあるような国だから、トラブルも起こりにくいのかもな。
しかもキノコ岩なんていう歩きにくい土地に建ってるから犯罪した後に逃げ難いと。
でも安全とは言い難い……何やってんだ前々世の私!
「もっとも、医療大国と呼ばれてるくらいなので、病人が訪れることは多いです。中には悪人が訪れることもありますが、お金さえ払ってもらえれば分け隔てなく治療はしますね」
「え……悪人がわざわざ治療受けに来るの? その際に逮捕とかは?」
「国際指名手配されている場合はその時点で通報されて逮捕されます。国の立地が立地なので犯罪も起こりにくく、大事件でも起こらない限りは身分制度が厳格になることは無いでしょう。我が国は有翼種族が多い上に怪鳥種は強い者が多いので、犯罪が起きてもすぐに飛んで行って対処しますし」
怪鳥種の鳥人は身体が大きいから制圧するのにそれほど手間がかからないってわけか。
しかも、空から探せるという優位性もある上に、キノコ岩上は進路が制限されるからなお逃げ難い。
「ウィンダルシアのところの騎士団は身分とかはっきりさせないの?」
「流石に国を守る要ですからね。きちんと身分証明カードが発行されてますよ」
カードを取り出して見せてくれた。
「一応希望者向けにも『風の国の国民です』と認める証明書はあります。外国で商売したい場合などは証明が必要なことがありますから。ただ、こちらを取得するには悪用されないように審査が設けられています。その点でトーマス殿、フィンツ殿、ダイヤラ殿が仰る通り『信用』が必要ですね」
風の国はちょっと緩いが、水の国は考えようによっては日本と大して変わらないようにも見えるな……
その国に貢献すれば国民になれるわけだから。
「ところで樹の国は悪人多いですよね?」
とクリストさんに話を振ってみたが、言葉選びが悪かったと発言後にハッとした――
「その言い方は語弊がありますね」
――が、幸いにも苦笑い気味に返答されるだけで済んだ。
「……すみません、失言です……悪し様に言うつもりはありませんでした、何度か森賊に遭遇してるので、何気なく言葉として出てしまって……。重ねてすみません」
「まあ少し前は三大盗賊団なんてのが居たくらいなので事実ではありますね。今は大分縮小されて二つになったと聞いてますが」
「二つ? 残ってるのは霊獣旅団だけなのでは? 青いトゲ強盗団も悪巨人強盗団も頭目が逮捕されたのに、もう一つはどこから発生したんですか?」
「青いトゲ強盗団と悪巨人強盗団の残党が合流して一つの盗賊団になったそうですよ。今の森賊は盗賊と義賊の二分状態ですね」
合流したんだ……何て名称で呼ばれてるのか気になるわ。
『青い巨人』? 『悪いトゲ』? どっちも変だね……まあ名前の象徴となってた頭目が居ないんだからそんな名前じゃないか。
「じゃあ後は残党を拘束するだけってわけですね」
「ところがそう簡単な話でもないんですよ。大森林全体が把握し辛い地形ですし。ただの残党とは言え、根絶させるのは難しいのではないかと思います。昔から盗賊が多かった土地でもありますし、恐らく少し経てばまた別の盗賊団が台頭してくると思います」
「な、なるほど」
実際に現地を訪れた者だから分かる。
大森林の名の通り、木ばかり生えているから『隠れるところがある』と言うよりは『隠れるところしかない』と形容する方が正しいくらい植物が生い茂った状態である。
これはもう『盗賊団』というものが地域的な伝統に至っているのかもしれない。
「悪人が隠れ住んでるのも仕方の無い部分ではありますね。森の中に入られてしまえば魔力感知でもしない限り見つけるのは困難ですし。魔力感知しても隠れ方によっては見つからないことがありますし、木の入り組み具合では逃げられることも珍しくないですから」
ジャイアントアントが国へ進入していたことすら知られていない可能性があるわけだしな……
「国籍の方はどうなってるんですか?」
「第一首都は第一世代の外国人が定住するのを認めていません。認められるのは第一世代が国民として認められた第二世代からですね。第二首都は国際化が強くなっている傾向にあります」
「第一首都は認められていないってのは、どういう理由があるんですか?」
「やはり巨大樹ユグドラシルの守護というのを、樹の大精霊様から仰せつかったという伝説がありますので、真に国を愛する者以外は認められないということなのでしょう。ユグドラシルを守ってもらわねばなりませんから。とは言え、国も一枚岩というわけではないですが……」
「何かトラブルが?」
「あ、いえ、我が国のことなのでお気になさらず。第二首都の方では国民として定住することを認められていますね」
「大森林内部は?」
「森林内にある村落などは基本的には現地民だけですね。外国から来た者が住み着くのはほぼ皆無です。危機意識もありますので排他的な文化が多いと思います」
確かに……
エルフヴィレッジの真のエルフたちは、外から入って来るヒトを邪見にしてたしな……
獣人の村とかもあるって聞いたけど、多分そっちも似たようなもんだろう。
「ただ、ヒトが住んでいる村落以外はほぼ無法地帯と考えた方が良いと思います。森賊がちらこちらに居ますし、木々が鬱蒼と生い茂っていて、何が行われているかも把握し辛いので。守護志士の方々や樹人たちが日々見回ってくださっていますが、それでも無法地帯という認識です。観光客でも物好き以外は足を踏み入れないですね。ただ歴史的建造物もありますから歴史家は好んで歩を進めますけど」
う~ん……無法地帯か……
それでも森林内に属国があるからには行かないといけないヒトも居たってことだね…… (第303話参照)
「ダイヤラさんの国はどうでしょうか?」
「土の国の治安は水の国と風の国の中間くらいと言ったところでしょうか。水の少ない土地ですが、ドワーフの出身国とされていて、鉱石が豊富に採掘されるため技術者が好んで定住を希望します。技術は雷の国に及ばずとも水の国に匹敵するので行商人は多いですね。犯罪もそれなりに多いですが、水の国ほど厳格に管理されているわけではないと思います。魔王陛下は寝ていることが多いので、他国とは違って寝ている期間の政治は政治家に重心があります」
ああ、そう言えばかなりの時間寝てるんだっけな……
その間、第一首都のアーテラスを含め半径百キロくらいの範囲は『怠惰』の権能で時間が止まるって言うし。
「その代わり、起床された時にはその寝ていた期間の間違いを正され、その後の指導までして導いてくださいます。更には魔王周囲が物凄い早さで動き出しますので、この時に技術レベルが一段階上がることがよくあります。そして代々ヴェルフェゴールの発言は間違いがほとんど無いとして有名です」
「ホントですか!?」
「はい、どうやら“そういう能力”とのことですが、詳細までは下々の私には知り得ません」
寝てる魔王だからこその能力ってわけか。予知夢みたいなものだろうか?
「この帰化とは何なのですか?」
「私も疑問に思ってました」
「俺も知らんぞ」
トーマスとフィンツさんが加わる。
「この世界って国籍の概念が無いんですか?」
「国籍はあるが、『帰化』の意味が分からん」
「その国へ帰属する、つまりその国の国民になるってことなんですけど……」
「『国民』になる? お前さんの故郷ではそんな明確に『国籍』があるものなのか?」
むしろあるのが当然だと思ってたんだけど……
「じゃ、じゃああなた方はどうやって自分が国に所属していると認識してるんですか?」
私の質問にまずフィンツさんが答える。
「生まれたところが自分の国という認識だが?」
「別の国に移ることはできないってことですか?」
その質問にトーマスが答える。
「いえ、移るのは可能です。我々水の国では騎士団に所属した時点でその国の所属になります。騎士団に入る時に試験があり、厳格に調査され、その上で審査されますから」
「一般人は?」
「五年以上国で仕事に従事すると審査してもらえる権利が与えられます。そこで問題無いと判断されれば国に所属したことになります。ダメな場合の次の審査は一年後です。つまりは“信用”に足る人物でないとならないわけですね。国に所属した際に身分証明のカードが国所属の物に交換されます。それまでは外国人向けの身分証明カードです」
「じゃあフィンツさんも?」
「そうだな。俺は生まれも育ちも水の国だから水の国の所属だな。で、特段の貢献をすれば貴族階級だ」
ああ、そんなこと言ってたな、そう言えば。 (第543話参照)
「この世界のヒトって二重に国籍持ってるってこともあるんですか?」
これにはダイヤラさんが答えてくれた。
「有り得ることです。信用のある商人は色んな国で重用されますので。ただ、やはりそう簡単ではありません。最初から怪しい者はどこの国も欲しくないわけですし、そんな者を国民にさせたらどんなトラブルが起こるか分かりません。今内戦に近い火の国や氷の国のことは私には知る由もありませんが、大抵の場合は信用されてなければ別の大国の国民になるのは無理と考えていただいた方がよろしいと思います。二ヵ国以上の複数の国で国民と認められるには数十年単位の月日が必要ではないかと。多くは生まれた国で生を終えますね」
「な、なるほど」
とんでもなく気の長い話だな……それなら二重国籍でも文句無いわ。
しかし、これについて少々反論めいた情報をトーマスが提示。
「今代のレヴィアタン陛下の下では水の国は二ヵ国以上の国籍を持つことを認めていません。水の国の国民になるには定住も条件にありますね。これは時の魔王によって変わることがあり、今代のレヴィアタン陛下になってから現在のようになったと聞いています」
「なるほど」
魔王が法律より上に位置するってのが分かるエピソードだな。
二重国籍を認めていないのは安全性を考えてのことかな?
「時の魔王によってってことは、魔王が代替わりして制度が変わったら、水の国への定住を選んで捨てた二重国籍はどうなるの? 復活するの?」
「私は水の国の兵士ですので分かりませんが……復活せず、最初から信用を積み直して再び取得しなければならないのではないでしょうか? 水の国に定住を選んだ時点で、他の複数国家のことを裏切ったことになるわけですし」
「な、なるほど……確かに……」
「水の国に定住するなら、それくらいの覚悟を持って国に尽くすと考えねばならないわけですね」
流石にそんな甘いもんじゃないか……
ただ、一ヵ国しか選べないってところは日本に似てるな。
「ああ、一つ例外がありました。水の国出身の者は、一度国を離れても他の国の国民である身分を捨てることで、比較的簡単な手続きで戻って来ることができます」
そこはちょっと優しいな。
「ってことは……トーマスって今どうなってるの?」
「もちろん水の国所属ですよ。同じくリナも、妹ですので」
「フィンツさんは?」
「俺も水の国所属だな」
「ってことは、もし仮にうちと戦争することになったら……」
「心苦しいですが、敵同士になってしまうでしょうね……」
そんなことにはならないようにしよう!
「あと、水の国は悪党が住み着くのは不可能に近い。何せ魔王が毎日フラフラ出歩いてるからな。あれ以上の安全装置は無い」
と、フィンツさん。
そう言えば、国民に愛されてるって言ってた気がするな……いや、『国民が嘆く』って言ってたような…… (第57話)
まあいずれにしても親しまれてることには変わりないか。私のようにパトロールして目を光らせているのかもしれない。
確かに水の国を訪れた時は、凄く平和に時間が流れてた気がするわ。野盗みたいなのが居なくて、犯罪が少ないから穏やかでいられるわけか。
「他の国は二重国籍認めてないってところあります?」
……
…………
………………
誰も何も言わない。
「ってことは、水の国以外のこの場の四ヵ国は多重国籍でも問題無いってことなんですね? 何で国家所属が曖昧なところが多いんですか?」
疑問に思ったので聞いてみたところ、再びダイヤラさんが答えてくれた。
「私たちにとっては当然のシステムですので、アルトラ殿のところと比較できませんが……恐らく行商人として生活している方が多いからではないかと思われます。世界各地に家を持ってる商人は多くおりますので。それと商人に連れられて一般人も旅をした末に住み着く地を決めることが多いためではないかと」
日本国籍しか持ってない私には不思議な世界だな。地球にも二重国籍認めてる国はあるけど、その人たちも似たような (それぞれの国で商売したいとかの)理由なのかしら?
輸送技術がまだ馬車がメインだからってところがあるのかな?
航空輸送がメインになると、また制度が変わってくるのかも?
「じゃあ、審査してみてスパイが侵入してたのが判明したってこととかは……?」
これにはトーマスが答えてくれた。
「ありましたよ。審査の時点で調査したところ、怪しい経歴が多くて洗い出された感じですね。また、余りに怪しい場合はスパイでなくても審査は通りませんね」
やっぱりスパイってあるんだな……
「ちなみに、スパイは国へ帰れません」
「えっ!? それって殺……?」
「いえ、そうとも限りませんが、その辺りの詳細までは機密のため言えません。が、それほど厳しいってことですね」
私がスパイ疑惑かけられて逮捕されて吊るされたのって、そういう背景もあるってことなのか?
暗部を覗き見てしまった気がする……
「トーマスがそういう部署で働いてたってこと?」
暗部がアルトレリアに居るって、それ国防的には大丈夫なのか?
「いえ、我々は警ら部署なので、拷問までは許されておりません」
「え……だってあの時私はリッチに……?」
「ですから私はあの時止めたんですよ。ただ、彼の性格が性格でしたので……」
「あ~あ……な~るほど」
あれはリッチの暴走か。
私が七大国のどこの国にも所属してない空間魔術師だったから、『スパイである』と断定して、勇み足であのような拷も……尋問の手段に出たわけか。 (第65話参照)
そう考えると、アルトレリアから解放してしまったのは、少々温情をかけ過ぎたかな……この町に居られないと言うならやっぱりきちんと水の国にお返しするべきだったかも。ルーファスさんが大ごとにしないでくれたようだけど、実は結構な国際問題だった? (第108話)
「風の国はどうなってるの? ウィンダルシア」
「我々の国は少々険しいところにありますから、好んで訪れる者は少ないですね。そのため住み着けばほぼ国民と認められます」
「審査とか無いの?」
「住み着く時の簡単なものだけですね。更に言うなら水の国のように国の所属を一ヵ国に限定するということもありませんし、いついつから住み着いてるなんて厳格な調査は無いので、流れ着いた者がしばらく生活してて『そろそろ住んでいることを役所に報告しよう』なんてこともままあります」
水の国より更にゆったり時間が流れてるわけか。
「ってことは身分を偽って生活してるヒトも?」
「居るでしょうね。ただ、トラブルさえ起こさなければある程度寛容ですので、積極的に追い出そうという話にはなりません」
山の中腹にあるような国だから、トラブルも起こりにくいのかもな。
しかもキノコ岩なんていう歩きにくい土地に建ってるから犯罪した後に逃げ難いと。
でも安全とは言い難い……何やってんだ前々世の私!
「もっとも、医療大国と呼ばれてるくらいなので、病人が訪れることは多いです。中には悪人が訪れることもありますが、お金さえ払ってもらえれば分け隔てなく治療はしますね」
「え……悪人がわざわざ治療受けに来るの? その際に逮捕とかは?」
「国際指名手配されている場合はその時点で通報されて逮捕されます。国の立地が立地なので犯罪も起こりにくく、大事件でも起こらない限りは身分制度が厳格になることは無いでしょう。我が国は有翼種族が多い上に怪鳥種は強い者が多いので、犯罪が起きてもすぐに飛んで行って対処しますし」
怪鳥種の鳥人は身体が大きいから制圧するのにそれほど手間がかからないってわけか。
しかも、空から探せるという優位性もある上に、キノコ岩上は進路が制限されるからなお逃げ難い。
「ウィンダルシアのところの騎士団は身分とかはっきりさせないの?」
「流石に国を守る要ですからね。きちんと身分証明カードが発行されてますよ」
カードを取り出して見せてくれた。
「一応希望者向けにも『風の国の国民です』と認める証明書はあります。外国で商売したい場合などは証明が必要なことがありますから。ただ、こちらを取得するには悪用されないように審査が設けられています。その点でトーマス殿、フィンツ殿、ダイヤラ殿が仰る通り『信用』が必要ですね」
風の国はちょっと緩いが、水の国は考えようによっては日本と大して変わらないようにも見えるな……
その国に貢献すれば国民になれるわけだから。
「ところで樹の国は悪人多いですよね?」
とクリストさんに話を振ってみたが、言葉選びが悪かったと発言後にハッとした――
「その言い方は語弊がありますね」
――が、幸いにも苦笑い気味に返答されるだけで済んだ。
「……すみません、失言です……悪し様に言うつもりはありませんでした、何度か森賊に遭遇してるので、何気なく言葉として出てしまって……。重ねてすみません」
「まあ少し前は三大盗賊団なんてのが居たくらいなので事実ではありますね。今は大分縮小されて二つになったと聞いてますが」
「二つ? 残ってるのは霊獣旅団だけなのでは? 青いトゲ強盗団も悪巨人強盗団も頭目が逮捕されたのに、もう一つはどこから発生したんですか?」
「青いトゲ強盗団と悪巨人強盗団の残党が合流して一つの盗賊団になったそうですよ。今の森賊は盗賊と義賊の二分状態ですね」
合流したんだ……何て名称で呼ばれてるのか気になるわ。
『青い巨人』? 『悪いトゲ』? どっちも変だね……まあ名前の象徴となってた頭目が居ないんだからそんな名前じゃないか。
「じゃあ後は残党を拘束するだけってわけですね」
「ところがそう簡単な話でもないんですよ。大森林全体が把握し辛い地形ですし。ただの残党とは言え、根絶させるのは難しいのではないかと思います。昔から盗賊が多かった土地でもありますし、恐らく少し経てばまた別の盗賊団が台頭してくると思います」
「な、なるほど」
実際に現地を訪れた者だから分かる。
大森林の名の通り、木ばかり生えているから『隠れるところがある』と言うよりは『隠れるところしかない』と形容する方が正しいくらい植物が生い茂った状態である。
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「国籍の方はどうなってるんですか?」
「第一首都は第一世代の外国人が定住するのを認めていません。認められるのは第一世代が国民として認められた第二世代からですね。第二首都は国際化が強くなっている傾向にあります」
「第一首都は認められていないってのは、どういう理由があるんですか?」
「やはり巨大樹ユグドラシルの守護というのを、樹の大精霊様から仰せつかったという伝説がありますので、真に国を愛する者以外は認められないということなのでしょう。ユグドラシルを守ってもらわねばなりませんから。とは言え、国も一枚岩というわけではないですが……」
「何かトラブルが?」
「あ、いえ、我が国のことなのでお気になさらず。第二首都の方では国民として定住することを認められていますね」
「大森林内部は?」
「森林内にある村落などは基本的には現地民だけですね。外国から来た者が住み着くのはほぼ皆無です。危機意識もありますので排他的な文化が多いと思います」
確かに……
エルフヴィレッジの真のエルフたちは、外から入って来るヒトを邪見にしてたしな……
獣人の村とかもあるって聞いたけど、多分そっちも似たようなもんだろう。
「ただ、ヒトが住んでいる村落以外はほぼ無法地帯と考えた方が良いと思います。森賊がちらこちらに居ますし、木々が鬱蒼と生い茂っていて、何が行われているかも把握し辛いので。守護志士の方々や樹人たちが日々見回ってくださっていますが、それでも無法地帯という認識です。観光客でも物好き以外は足を踏み入れないですね。ただ歴史的建造物もありますから歴史家は好んで歩を進めますけど」
う~ん……無法地帯か……
それでも森林内に属国があるからには行かないといけないヒトも居たってことだね…… (第303話参照)
「ダイヤラさんの国はどうでしょうか?」
「土の国の治安は水の国と風の国の中間くらいと言ったところでしょうか。水の少ない土地ですが、ドワーフの出身国とされていて、鉱石が豊富に採掘されるため技術者が好んで定住を希望します。技術は雷の国に及ばずとも水の国に匹敵するので行商人は多いですね。犯罪もそれなりに多いですが、水の国ほど厳格に管理されているわけではないと思います。魔王陛下は寝ていることが多いので、他国とは違って寝ている期間の政治は政治家に重心があります」
ああ、そう言えばかなりの時間寝てるんだっけな……
その間、第一首都のアーテラスを含め半径百キロくらいの範囲は『怠惰』の権能で時間が止まるって言うし。
「その代わり、起床された時にはその寝ていた期間の間違いを正され、その後の指導までして導いてくださいます。更には魔王周囲が物凄い早さで動き出しますので、この時に技術レベルが一段階上がることがよくあります。そして代々ヴェルフェゴールの発言は間違いがほとんど無いとして有名です」
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なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。
これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
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アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
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スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
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【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います
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妻に先立たれた 後藤 丈二(56)は、その年代に有りがちな、家事が全く出来ない中年男性。
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再び妻に巡り合う為に、家族や仲間を増やしつつ、異世界で旅をしながら幸せを求める…………話のはず。
独自世界のゆるふわ設定です。
誤字脱字は再掲載時にチェックしていますけど、出てくるかもしれません、すみません。
毎日0時にアップしていきます。
タグに情報入れすぎで、逆に検索に引っかからないパターンなのでは?と思いつつ、ガッツリ書き込んでます。
よろしくお願いします。
※この話は小説家になろうさんでアップした話を掲載しております。
※なろうさんでは最後までアップしていますけど、こちらではハッピーエンド迄しか掲載しない予定です。
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「従魔のレンタルはじめました!」
僕の名前はロキュス・エルメリンス。10歳の時に教会で祝福を受け、【テイム】と言うスキルを得ました。
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そのうち分かりますよ、そのうち・・・・