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第19章 土の国ヒュプノベルフェ探訪・アルトラの解呪編
第551話 不死の根源の謎
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「よし、じゃあ呪いを抑止している分身体の魔力が尽きる前に早く根源を潰しちゃいましょう。壊されても再生する身体だけど、何か有力な情報は無いの? 色々検証してるんだよね? あっちのボーンスネークも解呪に関係してると思う?」
「現時点では確実性が無いが、実験を繰り返すうちに一つだけ効果があるのではないかと希望を持ったものがある」
一呼吸を待つ。
「とある協力者の手を借りて光魔法を試した時に叫び声のようなものを上げたことがあってな、光でならダメージらしきものが与えられることが分かったのじゃ」
「なるほど、叫び声を……」
確かにさっき身体を壁面に叩きつけられても、左半身をバクっと食いちぎられても、一言も苦しんでるような声を上げなかったし、そういった素振りも見せなかった。
叫び声を上げたってことは痛みか何か、それに類似するような感覚を与えられたと判断したということか。
「その時首は斬れなかったの?」
「その実験自体が危険な試みだったためそこまではできんかった。それで斬れておればあるいは……」
「どれくらいの傷を与えたの?」
「ほんのかすり傷程度の傷じゃ。にもかかわらず、あまりにも叫び声が大きかったことから、ヤツらにとって何かしらの致命的な効果があると確信しておる。そして今ここにはちょうど強力な光魔術師と『祓魔の鉄』がある」
「あ、なるほど! その実験を鑑みて私に同行を頼んだわけか!」
光魔術師の私と解呪刀である『祓魔の鉄』が揃っているから、絶好の機会ってわけだ。
「その通りじゃ! そなたは強い光魔法を持っておるとの情報も得ておるしな」
いつから調査されてたんだろう……国を開いて行商人が多くなってから? あの中に混じって霊獣旅団の団員が居るってことかしら?
まあ他人が居るところで本当にバレちゃいけない能力は使ってないはずだから、多少情報を握られたところで大丈夫だとは思うけど……
「そういうわけなんでさっさとあれらの呪いを解いてしまってくれぬか?」
「う、うん……」
でも、この解呪刀で祓魔の力を振るえるのは三百回しか無いのに、ここであと二回も使ってしまって良いものか……
場合によってはこれ一回で数千万の価値だろ?
何回も使ってしまうと用意されているクジの数と足りないことになるし、ムラマサ寺院側へも迷惑がかかるのでは?
フィリアちゃんへ使った一回分だけなら、 (カイベルが当ててくれた)私のクジで相殺するにしても、二回目、三回目のクジはどうすれば……
かと言って、使わなければ倒せないなら『使う』以外の選択肢が無い。放置すればフィリアちゃんの命が無いから先送りは絶対に否……
「……う~ん…………」
「どうした? 何を悩んでおる?」
「いや……『祓魔の鉄』を何度も使うのもどうかと……」
「しかし他に方法があるか? 七百年続く強力な呪いじゃぞ? 早くせねばフィリアの命が危うい!」
今フッと思ったが、アイツらって私自身の光魔法だけでどうにかならないだろうか?
そうすれば『祓魔の鉄』もこれ以上使わなくて済む。
私の光魔法はLv10。呪いがそれ以下なら何とか対処できる可能性は低くない。
先日魔王たちの強さを目の当たりにし (第486話から第489話参照)、『暴食』の大罪を得た私から見ると、あのボーンスネークは大したことないように見えるんだけど……フレアハルトにはどう見えてるのかしら?
聞いてみるか。
「ねぇフレアハルト、あなたから見てあのボーンスネークはどれくらいの強さに見える?」
「い、今はゾンビ化していて近寄りたくもないが……身体能力だけなら我と同等程度だな。い、今の状態が呪いで強化されているというのなら、恐らく生前なら我の相手にならん、大分格下だろう。そ、その呪いとやらが不確定要素だから分からんが、生前なら多分一瞬で焼死体にできる」
と、豪語するものの、相変わらず青い顔で答える。
「やっぱりそう見える?」
フレアハルトから見ても格下に見えてるのは分かった。
だとしたらこの呪い、予測でしかないものの『祓魔の鉄』を用いずとも私の力だけでどうにかなる可能性は高い。
と言うか、私自身にかけられてる呪い染みたもの (『冥獄の枷』と『蘇生耐性Lv10』)が解けないだけで、それ以外の呪いは大抵何とかなりそうな気がする。
「そなたら、そんなに強いのか!?」
こんな言葉が出てくるってことは調べられ始めてまだ日が浅いな。
長く調べてるなら普段のほほんとしている私はともかく、町中をあちこち走り回っているフレアハルトの身体能力を知らないわけがない。度々ドラゴンに変身してるのも見るし。
「そ、それよりも気になるのはタマモゾンビの方だ……お主ホントに獣人だよな? 多分あっちの方がボーンスネークより強いぞ。あの腐り落ちた細腕で巨体を一撃二撃で粉砕するのだからな」
私から見てもタマモゾンビは獣人にしては異常だと思う。
でも何で守り神であった大蛇より獣人の方が強いんだろう?
「もしかして生前も単身でボーンスネークを倒せるほど強かったの?」
魔界に転生してから今まで見て来た戦闘シーンを思い浮かべると、あのタマモゾンビは獣人にしてはあまりに規格外。
同じような条件下 (例えば同じ軍所属とか)にある場合、相性によっては獣人と高位存在の実力差が近付くこともあるにはあったものの大抵は――
『高位ドラゴン ≧ ドラゴン以外の高位存在 = 魔人 ≧ 竜人 > 下位ドラゴン ≧ 獣人』
――個人差はあるが大抵こんな感じの戦力差になるのが普通だった。雷獣の獣人であるエトラックさんのように獣人の能力を著しく外れるヒトは居るには居るが……そんなのは少数の獣人に限られるのではないかと予想している。
フレアハルトの言葉から推測するに、あの大蛇は高位ドラゴンとその他の高位存在の間くらいの能力を有すると思われる。それと対等以上に戦えてるタマモゾンビがおかしいのだ。
余程研鑽した獣人と、怠けまくってる高位存在なら実力が近くなるのも分からなくはないが……
「バカを申せ! 一介の獣人があの巨大生物を単身で倒せるわけなかろう! 討伐隊を編成して集団で戦って、ギリギリ勝ったに過ぎぬわ。呪いを受けたその時点で生きていたのはワシ一人だけじゃったよ」
確かに……エトラックさんも巨人に苦戦してたようだし。 (第531話参照)
「……もっとも、今の精霊化したワシなら単身でも何とかなるかもしれぬがな」
何だか……このセリフのとこだけちょっとドヤ顔に見えるのは気のせいだろうか?
それだけ自信があるとするなら、彼女の今の力量は少なくとも獣人でありながら高位存在に匹敵することになる。
以前、フレアハルトは砂の精霊に限定的な条件ながら苦しめられたことがあった (第401話参照)から、それよりも上位存在になった彼女ならもしかしたらフレアハルトを凌ぐ能力を持つ可能性も……
「タマモゾンビがボーンスネークより強い理由は、恐らくワシが精霊化したことによって、元々のワシの肉体であるゾンビの方にも影響があり、強化されたと見るのが自然じゃな。元々は同一の肉体と魂じゃから、何らかの繋がりがいまだに残っておるのじゃろう」
肉体と魂は見えない霊線で繋がってるって話を聞いたことがある。もしかしたら分離しても影響し合ってるのかもしれない。
と言うことは、呪いを受けた肉体の方が魂に影響して精霊に昇華し、精霊に昇華したために肉体に影響してあのような強靭なゾンビに変質したとも考えられる。
「それで……さっきから悩んでおるようだが方針は決まったか?」
とフレアハルトからの一言。
「そうだね。『祓魔の鉄』を使うのは最終手段かな。まずは私の光魔法が通じるかどうかを確かめてみようと思う」
「では気付かれぬうちにスパッとやってくれ」
「了解」
【亜空間収納ポケット】から『真剣斬丸Ver.2』を取り出す。
「何だその凶悪な刀は! ノコギリか!?」
「相手を絶対殺す武器。硬い外骨格を持つジャイアントアントを斬る時に使ったヤツだよ。これならボーンスネークの太い骨も簡単に斬れるはず」
「ほう、そなた面白い武器を持っておるな。魔道具か? どこで手に入れた?」
盗賊だからこの手のことに敏感なのか?
「い、今そんなことはどうでも良いでしょ? じゃあ行って来る」
岩壁の高所から一瞬でタマモゾンビとの間合いを詰め――
「魔法剣【解呪魔法】」
――光魔法で解呪の能力を刀に付与し、タマモゾンビの首筋を一閃!
速度に勢いが付いていたため、タマモゾンビの首は勢いよく遠くへ飛んで行く。
その途端、
「ギャアアァァァ!!」
という断末魔の悲鳴。生きている生物なら首を斬られれば声すら上げないはずだが……飛んで行った首が発声しているらしい。
ゾンビは声帯が繋がってるかどうかとか、そういうのは関係無いのか?
骨だけで身体を動かせているように、筋肉や神経が無くてもその生物が持つ生態的な面だけで動いてるようだ。
しかし、光魔法は相当の痛みがあるのか、悲鳴の大きさが凄まじい。
すかさずボーンスネークの方へ向き直り、頭蓋骨の直下に潜り込んで上昇する剣筋で首を切断した。
ボーンスネークの頭蓋骨は元の位置から落下し、ズズウゥンと重たい音を立てて地面にめり込む。
二体の首を刎ねるまでの所要時間三秒以下。
「ギシャアアアァァァァ!!」
こちらも、切り落とした首が悲鳴とも咆哮とも取れる大声を上げる。
思わず指で耳を塞ぐ。
「終わり……かな?」
随分呆気ない気がするけど……
「アルトラ! 終わっておらん! タマモゾンビが復活しかけておるぞ!」
「えっ!?」
フレアハルトの言葉で振り返ると、凄い早さで首が再生している。
まさか……私の光魔法じゃ倒せない?
「今度はボーンスネークが再生しておる!!」
「そっちも!?」
何てこった……やっぱり解呪刀じゃないと倒せないのか……
黒いオーラが少し減った気がするが……光魔法で何回も倒して消費し切らせないといけないとか?
が、その考えは次の瞬間に間違っているであろうことを直感させる。完全再生した瞬間をもって首を斬る前よりも黒いオーラが増したのだ。恐らく不死の肉体に対して“死の体験”が起こったために呪いの力が増したのだろう。
これでは光魔法で少し減っても、すぐに恨みの力でそれ以上に強化されてしまうため減っていくことはない。
再生したタマモゾンビはすぐに私に襲い掛かって来る。右拳を振りかぶるのが見えたため当たらないように避けたところ……拳圧で地面が割れた!
「こ、こんなに力が強いの!?」
直撃したら岩壁だって抉り取られるんじゃないのか!?
こんなのもはや獣人の力じゃない! ドラゴンにも匹敵する力を得てるってことか。
「くっ!」
再びタマモゾンビの首を斬り飛ばす。
すぐさまその後ろに控えていたボーンスネークに一瞬で接近し、斜め上へジャンプするような動きで通り抜けざまに首の骨を両断した。
今度はさっきより速い。体感で所要時間二秒以下。
双方共に再びの悲鳴。
「今度はどう!?」
「ダメだ! 斬った瞬間から再生が始まっておる!」
首を斬って一息つく間もなく振り返ると、さっきまで敵対していたはずの双方が私だけを狙って攻撃してきている。
「何で!? さっきまで二体で喧嘩してたのに!」
独り言のつもりで言ったことが思いのほか大声だったらしく、崖上に居るタマモからそれに対する答えが返って来た。
「ゾンビは生者から優先して襲う!」
「それは先に言っておいてよ!!」
あれ……でも私は亡者……『疑似生者』だからか?
「一度戻って来い!」
「了解!」
このままでは倒せないと判断し【次元歩行】で一旦離脱、彼らの目の届かない岩壁の上へ戻った。
振り返って崖下を覗いたところ、私がその場を離れたことで目の前から生者が消えたと判断したのか、また二体同士で争いを始めた。
本当に感情のようなものは全く無いらしい。
◇
崖の上に戻ってみると、真っ先にタマモの一言。
「さて、やはりコイツを使うべきかの」
『祓魔の鉄』を顔の前にかざして、少しだけ刀身を引き抜くタマモ。
「待って! まだ手はあるかもしれない!」
「しかし、ヤツらの黒いオーラを見たであろう? また増大したぞ? 殺す度に呪いが強くなるというそなたの見立ては恐らく間違っておらん。しかもどうやら強い魔力を込めて殺すほど増大する量も多くなるようだ。このままいたずらにヤツらの肉体を壊し続ければ、タマモゾンビと血縁で繋がっておるフィリアへの影響も強くなっておるかもしれん。早くせねば身が持たんぞ?」
「うぅ……」
確かにもう時間も無い……
ただ……『祓魔の鉄』で本当に倒せれば良いが、下手すると今までと同じ結果になる可能性がある上に、この刀が私以上の解呪能力を持っているなら更なる大きい餌を与えてしまいかねない……
それに……もう一つ問題がある。
この刀には刃が無いから直接首が斬れない。“解呪して”、“首を斬る”という二段工程が必要になる。
ここで黙っていたフレアハルトが口を開く。
「ずっと上から見ていて少し気付いたことがあるのだが……」
「「 何!? 何でも言って! 」」
私とタマモの声がシンクロした。
俯瞰で見ていたフレアハルトの気付きが活路を開いてくれるかもしれない!
「お、おう……あの二体、片方が死ぬと、もう片方から黒い魔力が出て一時的に繋がるのだ」
「繋がる? それは気付いてたけど……」
「何か意味があるのではないか?」
「繋がることに意味か……」
「更によく見ておったところ、繋がる時には首を切断した瞬間に繋がって、再生が完了するとその繋がりが切れる」
「なに!? では敵同士で回復し合っておるのか!?」
「そ、そう見えたが……」
た、確かに……何て奇妙な関係なんだ……
間近で見ていた時には気付かなかったが、片方が片方を復活させる仕組みだったのか……
……
…………
………………
あ! そういえば行きがけにカイベルが『黒は同期しています』とか言ってたな……
多分このことを言ったんだろう。占いの範疇を超えるから直接『呪い』とは言わず、『黒』と濁した表現をしたんじゃないかと思うが……
この『黒』が呪いのことを暗示しているならリンクしているというのは恐らく……ゾンビたちの倒し方か?
多分二体同時に呪いを解かなければいけない。つまり『光魔法による二体同時の斬首』と予想される。
「現時点では確実性が無いが、実験を繰り返すうちに一つだけ効果があるのではないかと希望を持ったものがある」
一呼吸を待つ。
「とある協力者の手を借りて光魔法を試した時に叫び声のようなものを上げたことがあってな、光でならダメージらしきものが与えられることが分かったのじゃ」
「なるほど、叫び声を……」
確かにさっき身体を壁面に叩きつけられても、左半身をバクっと食いちぎられても、一言も苦しんでるような声を上げなかったし、そういった素振りも見せなかった。
叫び声を上げたってことは痛みか何か、それに類似するような感覚を与えられたと判断したということか。
「その時首は斬れなかったの?」
「その実験自体が危険な試みだったためそこまではできんかった。それで斬れておればあるいは……」
「どれくらいの傷を与えたの?」
「ほんのかすり傷程度の傷じゃ。にもかかわらず、あまりにも叫び声が大きかったことから、ヤツらにとって何かしらの致命的な効果があると確信しておる。そして今ここにはちょうど強力な光魔術師と『祓魔の鉄』がある」
「あ、なるほど! その実験を鑑みて私に同行を頼んだわけか!」
光魔術師の私と解呪刀である『祓魔の鉄』が揃っているから、絶好の機会ってわけだ。
「その通りじゃ! そなたは強い光魔法を持っておるとの情報も得ておるしな」
いつから調査されてたんだろう……国を開いて行商人が多くなってから? あの中に混じって霊獣旅団の団員が居るってことかしら?
まあ他人が居るところで本当にバレちゃいけない能力は使ってないはずだから、多少情報を握られたところで大丈夫だとは思うけど……
「そういうわけなんでさっさとあれらの呪いを解いてしまってくれぬか?」
「う、うん……」
でも、この解呪刀で祓魔の力を振るえるのは三百回しか無いのに、ここであと二回も使ってしまって良いものか……
場合によってはこれ一回で数千万の価値だろ?
何回も使ってしまうと用意されているクジの数と足りないことになるし、ムラマサ寺院側へも迷惑がかかるのでは?
フィリアちゃんへ使った一回分だけなら、 (カイベルが当ててくれた)私のクジで相殺するにしても、二回目、三回目のクジはどうすれば……
かと言って、使わなければ倒せないなら『使う』以外の選択肢が無い。放置すればフィリアちゃんの命が無いから先送りは絶対に否……
「……う~ん…………」
「どうした? 何を悩んでおる?」
「いや……『祓魔の鉄』を何度も使うのもどうかと……」
「しかし他に方法があるか? 七百年続く強力な呪いじゃぞ? 早くせねばフィリアの命が危うい!」
今フッと思ったが、アイツらって私自身の光魔法だけでどうにかならないだろうか?
そうすれば『祓魔の鉄』もこれ以上使わなくて済む。
私の光魔法はLv10。呪いがそれ以下なら何とか対処できる可能性は低くない。
先日魔王たちの強さを目の当たりにし (第486話から第489話参照)、『暴食』の大罪を得た私から見ると、あのボーンスネークは大したことないように見えるんだけど……フレアハルトにはどう見えてるのかしら?
聞いてみるか。
「ねぇフレアハルト、あなたから見てあのボーンスネークはどれくらいの強さに見える?」
「い、今はゾンビ化していて近寄りたくもないが……身体能力だけなら我と同等程度だな。い、今の状態が呪いで強化されているというのなら、恐らく生前なら我の相手にならん、大分格下だろう。そ、その呪いとやらが不確定要素だから分からんが、生前なら多分一瞬で焼死体にできる」
と、豪語するものの、相変わらず青い顔で答える。
「やっぱりそう見える?」
フレアハルトから見ても格下に見えてるのは分かった。
だとしたらこの呪い、予測でしかないものの『祓魔の鉄』を用いずとも私の力だけでどうにかなる可能性は高い。
と言うか、私自身にかけられてる呪い染みたもの (『冥獄の枷』と『蘇生耐性Lv10』)が解けないだけで、それ以外の呪いは大抵何とかなりそうな気がする。
「そなたら、そんなに強いのか!?」
こんな言葉が出てくるってことは調べられ始めてまだ日が浅いな。
長く調べてるなら普段のほほんとしている私はともかく、町中をあちこち走り回っているフレアハルトの身体能力を知らないわけがない。度々ドラゴンに変身してるのも見るし。
「そ、それよりも気になるのはタマモゾンビの方だ……お主ホントに獣人だよな? 多分あっちの方がボーンスネークより強いぞ。あの腐り落ちた細腕で巨体を一撃二撃で粉砕するのだからな」
私から見てもタマモゾンビは獣人にしては異常だと思う。
でも何で守り神であった大蛇より獣人の方が強いんだろう?
「もしかして生前も単身でボーンスネークを倒せるほど強かったの?」
魔界に転生してから今まで見て来た戦闘シーンを思い浮かべると、あのタマモゾンビは獣人にしてはあまりに規格外。
同じような条件下 (例えば同じ軍所属とか)にある場合、相性によっては獣人と高位存在の実力差が近付くこともあるにはあったものの大抵は――
『高位ドラゴン ≧ ドラゴン以外の高位存在 = 魔人 ≧ 竜人 > 下位ドラゴン ≧ 獣人』
――個人差はあるが大抵こんな感じの戦力差になるのが普通だった。雷獣の獣人であるエトラックさんのように獣人の能力を著しく外れるヒトは居るには居るが……そんなのは少数の獣人に限られるのではないかと予想している。
フレアハルトの言葉から推測するに、あの大蛇は高位ドラゴンとその他の高位存在の間くらいの能力を有すると思われる。それと対等以上に戦えてるタマモゾンビがおかしいのだ。
余程研鑽した獣人と、怠けまくってる高位存在なら実力が近くなるのも分からなくはないが……
「バカを申せ! 一介の獣人があの巨大生物を単身で倒せるわけなかろう! 討伐隊を編成して集団で戦って、ギリギリ勝ったに過ぎぬわ。呪いを受けたその時点で生きていたのはワシ一人だけじゃったよ」
確かに……エトラックさんも巨人に苦戦してたようだし。 (第531話参照)
「……もっとも、今の精霊化したワシなら単身でも何とかなるかもしれぬがな」
何だか……このセリフのとこだけちょっとドヤ顔に見えるのは気のせいだろうか?
それだけ自信があるとするなら、彼女の今の力量は少なくとも獣人でありながら高位存在に匹敵することになる。
以前、フレアハルトは砂の精霊に限定的な条件ながら苦しめられたことがあった (第401話参照)から、それよりも上位存在になった彼女ならもしかしたらフレアハルトを凌ぐ能力を持つ可能性も……
「タマモゾンビがボーンスネークより強い理由は、恐らくワシが精霊化したことによって、元々のワシの肉体であるゾンビの方にも影響があり、強化されたと見るのが自然じゃな。元々は同一の肉体と魂じゃから、何らかの繋がりがいまだに残っておるのじゃろう」
肉体と魂は見えない霊線で繋がってるって話を聞いたことがある。もしかしたら分離しても影響し合ってるのかもしれない。
と言うことは、呪いを受けた肉体の方が魂に影響して精霊に昇華し、精霊に昇華したために肉体に影響してあのような強靭なゾンビに変質したとも考えられる。
「それで……さっきから悩んでおるようだが方針は決まったか?」
とフレアハルトからの一言。
「そうだね。『祓魔の鉄』を使うのは最終手段かな。まずは私の光魔法が通じるかどうかを確かめてみようと思う」
「では気付かれぬうちにスパッとやってくれ」
「了解」
【亜空間収納ポケット】から『真剣斬丸Ver.2』を取り出す。
「何だその凶悪な刀は! ノコギリか!?」
「相手を絶対殺す武器。硬い外骨格を持つジャイアントアントを斬る時に使ったヤツだよ。これならボーンスネークの太い骨も簡単に斬れるはず」
「ほう、そなた面白い武器を持っておるな。魔道具か? どこで手に入れた?」
盗賊だからこの手のことに敏感なのか?
「い、今そんなことはどうでも良いでしょ? じゃあ行って来る」
岩壁の高所から一瞬でタマモゾンビとの間合いを詰め――
「魔法剣【解呪魔法】」
――光魔法で解呪の能力を刀に付与し、タマモゾンビの首筋を一閃!
速度に勢いが付いていたため、タマモゾンビの首は勢いよく遠くへ飛んで行く。
その途端、
「ギャアアァァァ!!」
という断末魔の悲鳴。生きている生物なら首を斬られれば声すら上げないはずだが……飛んで行った首が発声しているらしい。
ゾンビは声帯が繋がってるかどうかとか、そういうのは関係無いのか?
骨だけで身体を動かせているように、筋肉や神経が無くてもその生物が持つ生態的な面だけで動いてるようだ。
しかし、光魔法は相当の痛みがあるのか、悲鳴の大きさが凄まじい。
すかさずボーンスネークの方へ向き直り、頭蓋骨の直下に潜り込んで上昇する剣筋で首を切断した。
ボーンスネークの頭蓋骨は元の位置から落下し、ズズウゥンと重たい音を立てて地面にめり込む。
二体の首を刎ねるまでの所要時間三秒以下。
「ギシャアアアァァァァ!!」
こちらも、切り落とした首が悲鳴とも咆哮とも取れる大声を上げる。
思わず指で耳を塞ぐ。
「終わり……かな?」
随分呆気ない気がするけど……
「アルトラ! 終わっておらん! タマモゾンビが復活しかけておるぞ!」
「えっ!?」
フレアハルトの言葉で振り返ると、凄い早さで首が再生している。
まさか……私の光魔法じゃ倒せない?
「今度はボーンスネークが再生しておる!!」
「そっちも!?」
何てこった……やっぱり解呪刀じゃないと倒せないのか……
黒いオーラが少し減った気がするが……光魔法で何回も倒して消費し切らせないといけないとか?
が、その考えは次の瞬間に間違っているであろうことを直感させる。完全再生した瞬間をもって首を斬る前よりも黒いオーラが増したのだ。恐らく不死の肉体に対して“死の体験”が起こったために呪いの力が増したのだろう。
これでは光魔法で少し減っても、すぐに恨みの力でそれ以上に強化されてしまうため減っていくことはない。
再生したタマモゾンビはすぐに私に襲い掛かって来る。右拳を振りかぶるのが見えたため当たらないように避けたところ……拳圧で地面が割れた!
「こ、こんなに力が強いの!?」
直撃したら岩壁だって抉り取られるんじゃないのか!?
こんなのもはや獣人の力じゃない! ドラゴンにも匹敵する力を得てるってことか。
「くっ!」
再びタマモゾンビの首を斬り飛ばす。
すぐさまその後ろに控えていたボーンスネークに一瞬で接近し、斜め上へジャンプするような動きで通り抜けざまに首の骨を両断した。
今度はさっきより速い。体感で所要時間二秒以下。
双方共に再びの悲鳴。
「今度はどう!?」
「ダメだ! 斬った瞬間から再生が始まっておる!」
首を斬って一息つく間もなく振り返ると、さっきまで敵対していたはずの双方が私だけを狙って攻撃してきている。
「何で!? さっきまで二体で喧嘩してたのに!」
独り言のつもりで言ったことが思いのほか大声だったらしく、崖上に居るタマモからそれに対する答えが返って来た。
「ゾンビは生者から優先して襲う!」
「それは先に言っておいてよ!!」
あれ……でも私は亡者……『疑似生者』だからか?
「一度戻って来い!」
「了解!」
このままでは倒せないと判断し【次元歩行】で一旦離脱、彼らの目の届かない岩壁の上へ戻った。
振り返って崖下を覗いたところ、私がその場を離れたことで目の前から生者が消えたと判断したのか、また二体同士で争いを始めた。
本当に感情のようなものは全く無いらしい。
◇
崖の上に戻ってみると、真っ先にタマモの一言。
「さて、やはりコイツを使うべきかの」
『祓魔の鉄』を顔の前にかざして、少しだけ刀身を引き抜くタマモ。
「待って! まだ手はあるかもしれない!」
「しかし、ヤツらの黒いオーラを見たであろう? また増大したぞ? 殺す度に呪いが強くなるというそなたの見立ては恐らく間違っておらん。しかもどうやら強い魔力を込めて殺すほど増大する量も多くなるようだ。このままいたずらにヤツらの肉体を壊し続ければ、タマモゾンビと血縁で繋がっておるフィリアへの影響も強くなっておるかもしれん。早くせねば身が持たんぞ?」
「うぅ……」
確かにもう時間も無い……
ただ……『祓魔の鉄』で本当に倒せれば良いが、下手すると今までと同じ結果になる可能性がある上に、この刀が私以上の解呪能力を持っているなら更なる大きい餌を与えてしまいかねない……
それに……もう一つ問題がある。
この刀には刃が無いから直接首が斬れない。“解呪して”、“首を斬る”という二段工程が必要になる。
ここで黙っていたフレアハルトが口を開く。
「ずっと上から見ていて少し気付いたことがあるのだが……」
「「 何!? 何でも言って! 」」
私とタマモの声がシンクロした。
俯瞰で見ていたフレアハルトの気付きが活路を開いてくれるかもしれない!
「お、おう……あの二体、片方が死ぬと、もう片方から黒い魔力が出て一時的に繋がるのだ」
「繋がる? それは気付いてたけど……」
「何か意味があるのではないか?」
「繋がることに意味か……」
「更によく見ておったところ、繋がる時には首を切断した瞬間に繋がって、再生が完了するとその繋がりが切れる」
「なに!? では敵同士で回復し合っておるのか!?」
「そ、そう見えたが……」
た、確かに……何て奇妙な関係なんだ……
間近で見ていた時には気付かなかったが、片方が片方を復活させる仕組みだったのか……
……
…………
………………
あ! そういえば行きがけにカイベルが『黒は同期しています』とか言ってたな……
多分このことを言ったんだろう。占いの範疇を超えるから直接『呪い』とは言わず、『黒』と濁した表現をしたんじゃないかと思うが……
この『黒』が呪いのことを暗示しているならリンクしているというのは恐らく……ゾンビたちの倒し方か?
多分二体同時に呪いを解かなければいけない。つまり『光魔法による二体同時の斬首』と予想される。
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本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
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4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
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