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グレイス編
8 ◎
しおりを挟む────それは、まるで、満天の星が散らばるような、美しい光景だった。
「団長っ!!!ディーナっ、ディーナさんの隊がっ、こちらへ合流直前で魔物に・・・っ!!」
慌てふためいた様子でテント に入ってきたのは、先程まで俺を揶揄っていたフォルだった。
「・・・っ、すぐ行く。救護所だな?」
フォルのあの表情からして、悪い状態だと言うことは予想がついた。
俺は抱えていたシンを簡易ベッドにそっと寝かせ、テントを出た。
だが・・・あの、ディーナがやられる?
とても想像ができなかった。
半信半疑のまま、救護所に着くと、黒い血に塗れ、無惨に横たわったディーナの隊の者達が目に飛び込んできた。
「・・・まさか、そ、んな・・・っ、」
よほどの数の魔物を相手したのだろう。
無数の傷跡、そして黒い血に溢れ、ディーナがそこに倒れていた。
「おいっ、ディーナ!!!目ぇ開けろ!!この程度で死ぬ奴じゃねぇーだろ!?」
「・・・何、よ。その顔、ゴボッ、あたしに、触ると、魔、素が、ゴホッゴボッ、」
「喋んな!でも絶対寝るなよ?!目は開けておけ!いいな!!?クソッ、」
「・・・んふふ、顔、が良い男が、苦しむのは・・・ゴボッ、見ていて、気持ちいい、ゴボッ」
「馬っ鹿野郎!!」
ディーナが咳き込むたび、口からは黒い血が溢れる。
こいつとは腐れ縁だ。
子どもの頃から、一緒にいる。
俺と同じくらい強くて、クソ性格が悪い。
だが、憎めない奴だ。
そいつが・・・・・・・・・っ!
治癒魔法は得意ではないが、かけないよりはマシだろう。
団医は他の団員の治療にあたっているし、何よりディーナはこう見えて部下を大事にする。
自分の治療は後回しにするよう、命じたはずだ。
だからと言って・・・このままじゃ・・・・・・!
嫌な汗が背中を伝う。
その時だった。
ふわりと、あの甘い香りがした。
まさか、と思って顔を上げた先には、裸足のままのシンの姿。
シンに気付いた団員達は、ざわざわと騒ぎ出している。
何たって、あの美しい黒髪に、前髪から覗く黒い瞳。
そしてあの儚げな相貌だ。
こんなところでも、目を引く存在だろう。
「・・・っ!シンっ!何故ここに!?今すぐテントに戻れ!!」
気づけば声を張り上げていた。
俺の声に気付いたシンが振り向く。
そして、俺の抱えるディーナに気がつくと、血相を変え、一目散にこちらへ走り出したのだ。
そして、ディーナに向かって手をかざし、何か小さな声で呟いた。
その直後、シンの手から満天の星が弾けたように、輝く無数の光の粒が散らばっていった。
何とも、神秘的で、美しい光景だった。
「・・・あれ?傷が・・・、魔素も・・・えっ?!」
「本当だ・・・・・・!!完全に浄化されてる!!?」
「何だ?!今の光は!もしかして、あの人間が・・・?!」
横たわっていたディーナの隊の者や、治療に加わっていた他の団員が一様に騒ぎ出す。
そして、俺の目の前のディーナも、先程までの死相が嘘のような顔つきだった。
「何よ、これ・・・!」
ディーナがそう言うのも無理はない。
これが、シンの浄化の力。
最早、奇跡そのものだ。
国一つを、一人で浄化していたと言うのは本当だったのだ。
自分の身体の変化に騒ぎ出すディーナから視線を移し、シンの方を見る。
俺と目が合うと、心底安心したような、優しい顔で微笑んだ後、そのまま身体が前にぐらりと倒れていった。
「シンっ!!!!」
受け止められない・・・!!
その焦りで息が止まりそうになったが、シンが倒れる直前、渦を巻いた風がシンを受け止めてくれた。
ディーナお得意の風魔法だ。
「・・・あんた、口より先に魔法使いなさいよ。馬鹿ね。私、頭打ったじゃない。」
俺が急に立ち上がったせいで、足元に転がった状態のディーナ。
ジト、と俺を睨みつけるその赤い瞳は、健康体そのものだ。
「・・・すまない。礼を言う。助かった・・・」
「・・・あんたが素直に礼を言うなんて、よっぽどね。」
「ああっ!ディーナさんっ!無事っすか!?良かったっす・・・!」
「フォル、五月蝿い。・・・・・・んん?あれ?何よ。あの子の首輪、あんたのじゃない。・・・えッ?!ええ?!」
「・・・お前は本当に目敏いな、ディーナ。」
「えっ、ちょ、アハハハハハハハハ!展開がっ、は、早すぎて!!アハハハハハハハハ!」
「・・・ふは、あは、あははは!みんな無事で良かったっす!ハハハハハハハハ!」
「・・・はぁ。」
笑い転げるディーナを横目に、俺はシンを抱きかかえた。
「無茶をして・・・後でお仕置きだな、シン。だが・・・ありがとう。」
ディーナには聞こえないように、小さな小さな声でそうシンの耳元で呟いた。
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