【完結】数学教員の 高尾 さん

N2O

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2 トラウマ

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櫻子、というとても慎ましい名前の彼女とはバイト先で出会った。
在学中から教員採用試験を受けていた俺は自分の為になるバイトをしようと塾講師のアルバイトをしていた。
そこの受付をしていた当時24歳の櫻子さんから何故か猛アタックを受け、めでたく付き合うことになったのである。


初彼女が歳上ということに当時の俺は浮かれていた。
当時21歳にして童貞だった俺には少し引っ張ってくれる大人の女性がちょうどいいと思っていたからだ。
条件ぴったりの彼女にアピールされて悪い気はしなかった。
むしろめちゃめちゃ嬉しかった。

俺は昔から美しいものや可愛いものが好きだ。
美しい絵、可愛い動物、美しい景色。
そして櫻子さんのように美しい人も大好きだった。
自分には無いものに惹かれてしまうのは人間の性。

俺は182cm、92kgの所謂ガチムチ体型だ。
幼稚園からずっと剣道をしていたこともあり、筋肉質で、特にふくらはぎの筋肉は自慢の一つ──── 自慢相手は勿論運動をしている男────である。
目は細めの切長で髪は黒のベリーショート、一度も染めたことはない。
前髪で隠れるか隠れないかぐらいの位置に昔剣道の練習中に怪我をした痕が3cm程残っている。
友達とふざけていた時に防具が思いっきり当たり、血が噴き出た。
先生からはめっっっちゃくちゃ怒られて(内緒だが少しちびった)、それ以来痛みに超敏感。
剣道の技もかなり痛いがそれはもう慣れているのでギリ・・セーフ。
だがそれ以外の痛みは耐性がなく肘を黒板にちょっとぶつけたりするだけでも悶絶。
授業中に何度かやってしまい、生徒にくすくす笑われたことだってある。



とりあえずそんな顔・体格をしてるもんだから初対面の人には一線を引かれる。
どうも怖く見えるらしい。
小学校教員も楽しそうで憧れたがこの凶悪顔じゃ難しいだろうな、と諦め高校教員になったぐらいだ。
しかも自分が男子高卒だったものだから、大学でもほとんど男としかつるまず(つるめず)、女の人と話すだけで顔が強張り「高尾くん、そんなにつまらないなら帰ってもいいんだよ?」と言われるぐらいだった。

だからこそ!櫻子さんは俺の天使だった。

いつもニコニコ優しく話しかけてくれるし「かっこいい」だの「好き」だの、身体をぺたぺた触りながらめちゃめちゃ褒め散らかしてくれたのだ。
俺の不注意で指を少しカッターで切り、隠れて悶絶していた時もどこからともなく現れて、絆創膏を貼ってくれた。
貼る時の少し力が強くて「う゛っ」とみっともない声をあげても、天使の顔で微笑んで「大丈夫?」と聞いてくれるぐらい優しい人だった。

あの夜までは。



その日は付き合って3ヶ月記念日だった。
夜バイト終わりに一緒にご飯に行こう、と声をかけられ、顔には出さないがルンルンでロッカーを閉めた。


近くの夜カフェで夜プレートとパフェまで食べた後、櫻子さんからまさかのお誘いがあった。


はじめくん、今日・・・一緒に行きたいところがあるんだけど、いーい?・・・明日授業無いから、朝寝坊しても大丈夫だよね?」


そっと手を重ねられ、下から覗き込むように櫻子さんが話し出す。
俺は生唾を飲み込んで、静かに首を縦に振った。
そして連れていかれたのは、ラブホテルだった。
紛うことのない人生初のラブホテル。
そして部屋のドアの前に2人で立つと櫻子さんは「サプライズがあるから、目隠ししてもいい?」とどこからともなく取り出した黒い目隠しを取り出しすでに緊張している俺の目元を隠したのである。
訳がわからないまま何も見えなくなり、ドキドキが高まる俺は櫻子さんの甘い香水の香りと柔らかい手を頼りに部屋の中へ入った。


手を引っ張られ部屋の奥へと連れていかれると、ぼすん、とスプリングの効いたところに座らされた。
おそらくベッドだろう、と俺は隠れている目をキョロキョロさせた。
すると突然耳元で櫻子さんの声が響いたのである。


「・・・はぁ、本当可愛い、元くん。イジメ甲斐がありそうだわぁ・・・。」

「・・・は?さ、櫻子さ、ん?」


妖艶な囁き声と共に俺はドンと肩を押されベッドに倒された。
その後すぐ両足首にカシャリ、と何かが嵌る音がしたのである。
呆然としていた俺は両手首にも同じ金属質なものを手際よく付けられてしまい、完全に身動きができなくなってしまった。

そしてその状態のままようやく目隠しを外された。
開けた目の前に広がるのは特殊なに使うと思われる小道具、大道具の数々。
俺が寝かされているのはまるで外国の牢屋にあるベッドのような造りで、そこに両手両足を固定されているのだ。

もう訳がわからない。


「わぁ~!その怯えてる顔堪んなーい!もうだーいすき、かわいい!」

「・・・え、なに?櫻子さん、これ外して、ください。」

「ダメだよぉ。今から私とイイコトするんだから♡はぁ~、やっとここまできたわぁ。」



艶かしいため息をつき、俺を見つめる目はまさに獲物を狙う目だった。
どうやらこれはまずい状況だ、とようやく結論に至った俺は持ち前の馬鹿力を駆使してガシャガシャ手足を動かしたが、全くそれが外れる気配がない。
かなり頑丈な手枷のようだった。
俺が暴れるたび手枷が皮膚に食い込み痛みが走る。
前述の通り痛みに弱い俺はその痛みのたびに「う゛う」と唸り声を上げるのだ。
   


「かんわいい~!痛い?痛いのぉ?元くん。あとでいっぱい舐めてあげるからねぇ。」

「い、いらないです!もう、やめてください!警察呼びますよ!?」

「あはっ、警察呼んでなんて言うのぉ?彼女にイタズラされそうになって怖くなりましたって言うのぉ?そういうプレイも・・・まあ、ありかなぁ?あはは。」



いつものニコニコ慎ましい櫻子さんはどこいった?
いやそもそも同一人物なのか?
全く人格が違う。
俺はついにカタカタと身体が小刻みに震えだした。
それを見た櫻子さんの目は、弧を描くばかりだったが。



「元くん身体大きいし、顔もいい感じに怖いからぁ。あそこも大きいんでしょ?はぁ、早く根本縛りたい。じゃ、失礼するねぇ?」

「う、あ!やめろっ、やめてください!櫻子さん!!」



櫻子さんはニタニタ笑いながら俺のジーパンのベルトをカチャカチャと外し、パンツごとずるっと引き下げた。

俺はあまりの出来事に息が止まる。


「・・・はぁ?何この極小サイズ?粗チンじゃん。」


俺はもうこのまま気絶してしまいたい、という言葉が喉まで出てきたが、恐怖と羞恥心で何も出てこなかった。


その後はもう酷いものだった。
俺の極小ちんこを見て気持ちが萎えまくりの櫻子さんは「巨チンのガチムチを調教するのが趣味なのに」と勝手に憤慨していた。
カチャカチャと俺の手枷を雑に外すと「もう、君、用無しだから。ばいばーい」と部屋を出て行ったのである。

残された俺はと言うと恐怖で涙が滝のように出てくるしカタカタ震えが止まらないししばらく部屋で泣いた。

3日後、恐る恐るバイトに行くと「あ、あの派遣の人?昨日突然辞めたんだよ、困るよねぇ」と事務の人が愚痴を垂れていた。
会わなくて済んだという安堵感と、美しい人には裏の顔があるという恐怖心を深く深く残して俺の初めての恋は終わりを告げた。


・・・とまあ、長くなったが、俺はとりあえずもう恋人はいらない。
櫻子さん曰く俺の粗チンを誰かに見られるのも嫌だし、痛い思いもしたくない。
女性とはほとんど接点なく生活している。
幸いにも今の高校は男性の教員の方が多いし「仕事だ」と割り切って仕舞えば普通に接することもできる。
34歳、もういい大人だ。
そのくらい平然を装うことなんて楽勝だ。

俺のことは大体こんなもんで説明ができただろう。
童貞ガチムチ凶悪ヅラで痛みに弱い高校数学教員、それが俺。

封印した記憶を突然思い出し、はぁ、と俺はため息をついてパソコンの画面を記憶と共に静かに閉じた。
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