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3 花村 楓という男
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あの封印した記憶を思い出した日から、約三週間。
毎日変わらないブラック職務をこなし、今日も朝7時15分には学校に着いた。
国産の軽SUV車で到着すると俺より先に見慣れない車が駐車場に停めてある。
俺の好きな四角くてゴツいSUVの外国車。
誰か新しく車買い直したのか?いつもこの時間に来るのは教頭と理科の香村先生ぐらいだけど・・・あの2人電車通勤だしな。
自分の車から降り、ジロジロその車を見ていると突然後ろから声を掛けられた。
「おはようございます。僕の車に何か御用ですか?」
少し高い、若い男の声だった。
慌てて後ろを振り返るとスーツ姿の背の低い可愛らしい顔立ちの男が立っている。
瞬時に若いのにこんないい車乗ってんだな、と少し僻みっぽい気持ちが浮かんだが、すぐに心の奥に押し込んだ。
「あ、すまん、とても、かっこいい車だったから・・・つい。」
「在学中に少々儲けて買いました。褒めていただきとても嬉しいです。」
「す、すごいな。えっと、君は・・・実習生・・・かな?」
「・・・今日からこちらに数学の常勤講師として勤務することになった花村、と言います。お久しぶりです・・・高尾先生。」
「・・・え?」
眉を下げて少し寂しそうな顔で笑う目の前の男に突然苗字を呼ばれ俺は思わず首を傾げた。
記憶を辿るが思い出せない。
もしかしてここの卒業生か?
こんな可愛い童顔の男、なかなかいないから一度会ったら覚えてそうだけど・・・
そんな戸惑う俺の気持ちが伝わったのか目の前のイケメンはふふと笑いをこぼした。
「2年ほど前に教育実習でお世話になったんです。その時の担当教員は主任の滝本先生だったので、あまり高尾先生とは接点がありませんでしたが・・・」
「2年、前・・・ああっ!あの時の・・・でも、ん?だいぶ印象違わない、か・・・?」
2年前の教育実習、確かに覚えている。
あの3週間はちょうど体育祭の時期と被っていて「高尾先生、体育教員っぽいから沢山仕事任せますねっ」と謎の屁理屈で大量の体育祭関係の仕事が俺に加算されたのだ。
ただでさえ忙しいのに、意味不明の仕事がドドドド、と増えて、本当に死にそうだった。
翌年その地獄の先生は異動でいなくなったから、一回だけで終わったけど。二度と御免だ。
その地獄の期間に教育実習生が確か4、5人来ていた。
この高校の卒業生だけではなく、近隣の大学からも受け入れた、と校長が言っていた気がする。
数学にも1人。
今、目の前にいる花村・・・君?が来ていた。
背は俺よりだいぶ低い。165cmくらいか?もっと、低いかもしれない。
スラっと細身の小顔で背が低い割に足が長かったのを覚えている。
薄い茶色のふわふわしたゆるいウェーブがかった髪だったが、前髪が長く、あまり表情が分からなかった。
当時数学主任だった滝本先生が「前髪ぐらい切ってこいっつーの、舐めてんのか」とパワハラまがいの発言を裏でこぼしていて宥めたのを覚えている。
その長い前髪から時折見える瞳も同じような薄い茶色だった。
色素が元々薄いのだろう。
肌の色も白く猫背気味だったから土日は絶対家でゲームしてる子だな、と勝手に推察したはずだ。
それが・・・どうだ。
目の前にいる男は体型はそのまま、長かった前髪は目の少し下あたりまでに切られセンターで分けられている。
あの色素の薄いアーモンド型の瞳がよく見えた。
猫背だった記憶があるがピンと背筋も伸びていて、ややあの時よりも背が高く見える。(それでも小さいけど)
肌は白いままだが、とても同一人物には見えなかった。
無意識にジロジロ見ていた俺に「そんなに見られると緊張、します」と恥ずかしそうに溢した。
赴任早々、セクハラになってはいけない、と花村くんに平謝りして、俺は一緒に校内へと入っていった。
毎日変わらないブラック職務をこなし、今日も朝7時15分には学校に着いた。
国産の軽SUV車で到着すると俺より先に見慣れない車が駐車場に停めてある。
俺の好きな四角くてゴツいSUVの外国車。
誰か新しく車買い直したのか?いつもこの時間に来るのは教頭と理科の香村先生ぐらいだけど・・・あの2人電車通勤だしな。
自分の車から降り、ジロジロその車を見ていると突然後ろから声を掛けられた。
「おはようございます。僕の車に何か御用ですか?」
少し高い、若い男の声だった。
慌てて後ろを振り返るとスーツ姿の背の低い可愛らしい顔立ちの男が立っている。
瞬時に若いのにこんないい車乗ってんだな、と少し僻みっぽい気持ちが浮かんだが、すぐに心の奥に押し込んだ。
「あ、すまん、とても、かっこいい車だったから・・・つい。」
「在学中に少々儲けて買いました。褒めていただきとても嬉しいです。」
「す、すごいな。えっと、君は・・・実習生・・・かな?」
「・・・今日からこちらに数学の常勤講師として勤務することになった花村、と言います。お久しぶりです・・・高尾先生。」
「・・・え?」
眉を下げて少し寂しそうな顔で笑う目の前の男に突然苗字を呼ばれ俺は思わず首を傾げた。
記憶を辿るが思い出せない。
もしかしてここの卒業生か?
こんな可愛い童顔の男、なかなかいないから一度会ったら覚えてそうだけど・・・
そんな戸惑う俺の気持ちが伝わったのか目の前のイケメンはふふと笑いをこぼした。
「2年ほど前に教育実習でお世話になったんです。その時の担当教員は主任の滝本先生だったので、あまり高尾先生とは接点がありませんでしたが・・・」
「2年、前・・・ああっ!あの時の・・・でも、ん?だいぶ印象違わない、か・・・?」
2年前の教育実習、確かに覚えている。
あの3週間はちょうど体育祭の時期と被っていて「高尾先生、体育教員っぽいから沢山仕事任せますねっ」と謎の屁理屈で大量の体育祭関係の仕事が俺に加算されたのだ。
ただでさえ忙しいのに、意味不明の仕事がドドドド、と増えて、本当に死にそうだった。
翌年その地獄の先生は異動でいなくなったから、一回だけで終わったけど。二度と御免だ。
その地獄の期間に教育実習生が確か4、5人来ていた。
この高校の卒業生だけではなく、近隣の大学からも受け入れた、と校長が言っていた気がする。
数学にも1人。
今、目の前にいる花村・・・君?が来ていた。
背は俺よりだいぶ低い。165cmくらいか?もっと、低いかもしれない。
スラっと細身の小顔で背が低い割に足が長かったのを覚えている。
薄い茶色のふわふわしたゆるいウェーブがかった髪だったが、前髪が長く、あまり表情が分からなかった。
当時数学主任だった滝本先生が「前髪ぐらい切ってこいっつーの、舐めてんのか」とパワハラまがいの発言を裏でこぼしていて宥めたのを覚えている。
その長い前髪から時折見える瞳も同じような薄い茶色だった。
色素が元々薄いのだろう。
肌の色も白く猫背気味だったから土日は絶対家でゲームしてる子だな、と勝手に推察したはずだ。
それが・・・どうだ。
目の前にいる男は体型はそのまま、長かった前髪は目の少し下あたりまでに切られセンターで分けられている。
あの色素の薄いアーモンド型の瞳がよく見えた。
猫背だった記憶があるがピンと背筋も伸びていて、ややあの時よりも背が高く見える。(それでも小さいけど)
肌は白いままだが、とても同一人物には見えなかった。
無意識にジロジロ見ていた俺に「そんなに見られると緊張、します」と恥ずかしそうに溢した。
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