【完結】数学教員の 高尾 さん

N2O

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4 優秀な同僚

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花村くん改め、常勤講師の花村先生は病休に入った先生の代わりに半年程勤務してくれる人だった。
毎日ヒィヒィ言っていた俺は心から感謝したし、花村先生も「お役に立てて嬉しいです」と何故か嬉しそうだった。

花村先生は最近25歳になったばかりだと言う。
教員として勤務するのは今回が初めてらしくそれまでは別の仕事をしていていたがこの学校が数学の講師を探しているという話を聞き、その仕事を辞めてまで働きに来てくれたとのことだった。


まさに救世主、花村様。


そして花村先生は恐ろしく仕事ができた。
その童顔で可愛らしい見た目から生徒に舐められるんじゃ無いかと最初余計な心配をしていたのだが、全く問題なかった。
生徒との距離の取り方が非常にうまく、授業もとても分かりやすいとすこぶる評判である。
来てからまだ1ヶ月しか経ってないぞ。

そしてよく周りを見ていて気配りを忘れない。
特に数学科の準備室ではいつも日本茶を入れてくれるし、その横に小さなチョコレートまで添えられている
俺は見た目によらず甘いものが大好きだ。
いつもありがたくいただいている。



「高尾先生、次の授業この資料使うって言ってましたよね?準備しておきました。」
「あ、それまだ印刷してないんですか?印刷しておきますよ!」
「日本茶お好きでしたよね?この鹿児島のお茶美味しかったんで、持ってきました。後で入れますね。今日は小さな饅頭もありますよ。」


もう、天使。
目の前に天使がいる。

ふわふわの髪を揺らしながら、自分の仕事もきっちりこなし、10歳近く歳上の俺の面倒まで見てくれている。
色んな意味で涙が出そう。
花村先生のおかげで帰りもぐんと早くなって18時には学校を出られることが多くなった。
もたれ気味だった胃も、疲れすぎて眠れなかった夜も、だいぶ改善してきて隈も薄くなった。


そんなある金曜日、俺は花村先生から夕飯に誘われた。
料理が趣味で作り過ぎてしまった、とのことだった。
俺は最初やんわり断った────おっさんといても楽しくないだろう────が、花村先生は譲らなかった。
毎日のように助けてもらってる挙句、飯までご馳走になっていいのか?とも思ったがそのあまりの必死さに俺でよければ、と了承したのである。

花村先生の周りには間違いなく花が飛んでいた。
それぐらい嬉しそうだった。


そしてこの時の俺は忘れていた。
『美しい人には裏の顔がある』というあの苦ーい教訓を。


----------------⭐︎


花村先生は定時ぴったりに帰っていった。
最近交換したばかりのSNSで住所を送ってくれて「駐車場は9番に停めてください」と駐車場の心配までしてくれた。
やはり出来る男だ。


俺は18時前に仕事を終わらせ学校を出発した。
花村先生の家は静かな住宅街にある低層マンションらしく、学校から車で15分くらいのところだった。


「・・・本当にここかよ?」


着いた低層マンションは俺が住んでるアパートなんかよりよっぽど立派で外観のデザインも洗練されていて美しかった。
思わず見惚れてしまい、しばらく外構やエントランスホールをまじまじと観察した。
美しいものは、やはり心惹かれる。
そしてようやく花村先生の部屋番号を入力して、鍵のかかった重厚な扉を開けてもらった。


「お疲れ様です!少し遅かったですね、迷いましたか?分かりにくくてすみません。」

「いや、すぐ分かったよ。立派なマンションだったからつい癖で・・・観察してしまって。」

「面白い癖ですね。あ、どうぞ!一応片付けましたけど、汚いところあっても目を瞑ってください。」


花村先生はいつものスーツ姿ではなく、ラフな部屋着に着替えていた。
某有名なアウトドアブランドの長袖白シャツに、黒の少しゆるっとしたズボンを履いている。
俺も着替えてくればよかったかな、と一瞬後悔したが部屋の奥から手招きをされ、急いで花村先生の元に歩いていった。

結果から言うと外観のイメージ通り、花村先生の部屋はめちゃめちゃ広かった。

廊下の途中で4つは扉があった。
リビングも広いし、洗練された家具が品よく置かれている。
一人暮らしの男が住む部屋にはとても思えない埃ひとつ落ちていない部屋だった。



「・・・花村先生、答えたくなかったらいいんだが、以前の仕事何してたんだ?」

「株のトレーダー、って分かりますか?歳の離れた兄と一緒にやってたんです。それでこのマンションとあの車も買いました。」

「・・・かなり収入が良いということは分かった。でも・・・よかったのか?教員とそちらとではかなり収入違う、だろう?」

「全く問題ありません!高尾先生と働けて俺本当に嬉しいんです。」

「へっ?!そ、そうか・・・い、いつも助かってる・・・あ、ありがとう。」



俺がそう言うと花村先生はにこ~、と嬉しそうに笑った。
少し不思議に思ったが、深く考え出す前に花村先生から椅子に座るよう促され、あれよあれよと美味しそうな食事がテーブルに並べられた。

和食中心の料理で、普段コンビニ弁当ばかりの俺にとってはかなりありがたかったし、めちゃくちゃ美味しかった。
「これ、魚の煮付けに合うんです」と高そうな日本酒まで出してくれた。
車で来たこともあって遠慮したが「着替えもあるから泊まってください!部屋もあります!」と涙目で訴えられて、俺は渋々酒に口をつけた。


「高尾せんせ、日本酒美味しかったですか?」

「ん・・・ああ、少々飲み過ぎ、たかもしれない。あまり酒は、強くないん、だ。」

「・・・シャワーどうします?そのまま部屋に案内しましょうか?」

「シャワー浴び、たいな・・・」

「あっ、じゃあ俺が手伝いますよ!酔っ払った兄のシャワーよく手伝ってたんです!任せてください!さっ、こっちです!」

「シャワー、手伝い・・・?んん?」



美味しい料理に美味しい日本酒という組み合わせについつい飲み過ぎてしまった俺は頭がうまく回らない。
どんなに酔っていても寝る前には必ず身体を綺麗にしたい派。
だが、手伝うって普通か?
うう、頭がぐるぐるしてきた。

俺は覚束ない足取りで何やらルンルンな花村先生にやや強引に手を引かれ、風呂場へと連れて行かれた。

そして俺と花村先生の長い夜が始まった。
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