6 / 18
6 夢と塾
夢を見た。
これは俺が塾でアルバイトをしていた頃の記憶だ。
ふわふわした髪の・・・そう、花村先生とよく似た高校生が通っていた。
メガネをかけていていつも俯いている。
俺が担当しているクラスとは別のクラス、特進のクラスだったから直接関わることはなかったけど、本当にいつも俯いていたから何か気になっていた。
その日も彼は俯いていていつもに増して元気が無さそうだった。
俺はおもむろにポケットをゴソゴソ漁り、後で食べようと思っていた一粒のアーモンドチョコを取り出す。
そしてそっと彼の机に置いた。
「甘いもの食べると元気になるよ」と言葉を添えて。
ピクリと彼は反応していたが、顔を上げることはなかった。
そしてその数日後、俺の靴箱に「ご馳走様でした」と丁寧な字で書かれたカードと共にいちご味のチョコが置かれていた。
自然と口角が上がり、心が温かくなったことを覚えている。
しかし、彼と関わったのはそれっきりだった。
俺がその後すぐバイトを辞めたからだ。
櫻子さんとのあの一件もあったし、残り少なくなった大学生活を謳歌しようと3年勤めた塾を辞めた。
そういえば、あの彼は元気にやっているだろうか。
レベルの高いあの塾の特進クラスだから頭はかなり良いし、良い大学にでも入って高給取りにでもなっているだろう。
綺麗なふわふわ髪をしていたのだから、俯かず、真っ直ぐ前を見て元気に生活してくれてると良いな。
そんな夢を見ていた。
「────い、高尾せんせ。おーい、起きて下さーい。」
「・・・んん。あ、れ?花村せんせ、い。俺、もしかして寝て・・・」
「そりゃあもうすやすやと。仮にも男の部屋に来てるんですから。少しは緊張感持って欲しいですね。」
「・・・・・・へ?な、何言って・・・は?」
目が覚めた俺の上にはニコニコ笑っている花村先生が跨っていた。
そして俺の両腕、両足は固定されている。
見たことのある枷だ。
でもあの時の手枷と足枷とは違い、痛くないように内側に可愛いピンクのファーがついている。
そのファーに似合わず、ベッドに繋がっている鎖はかなり太い。
一筋縄では切れそうにないなと分かるくらいのものだった。
足は俺からは見えないが、おそらく感触からして同じファーが付いたものだろう。
ふわふわしているが、がっしり固定されている。
俺はあの櫻子さんとの一件を思い出し、血の気が引いていく。
忘れていた。
美しいものには棘があることを。
花村先生も、そういう趣味ってことなのか?
俺の頭の中は理解できないこの状況とあの時の恐怖と羞恥心で支配され、身体はすでに小刻みに震え出している。
「な、んで?花村先生、これ、取って、くれ。お願いだ。」
「んー?だめです。俺、花村先生のこと好きなんです。愛してます。ずっと昔から。」
「ず、っと・・・むかし・・・?」
「どうして震えてるんですか?もしかして、こういうこと他の人からされたことあるの?許せないなぁ・・・」
怒りに満ちた色素の薄い目で、俺のことをじっと見ている。
お互いの鼻先があとちょっとでくっついてしまうくらいの距離だ。
俺は緊張でうまく息ができなくなってきた。
だが、花村先生は俺から目を逸らさない。
俺は観念して、少し震える声で返事をした。
「は、花村先生が思ってるような、内容じゃ、ない。」
「ふーん。でもあるんだ?詳しく話してごらんよ。良い子だから、ね?」
よしよし、と俺の頭を撫でながら有無を言わさない瞳で見つめてくる。
俺は重い重い記憶の蓋を開け、あの櫻子さんとの一件を包み隠さず説明した。
----------------⭐︎
説明している間もピンクファーの枷は外してもらえなかった。ベッドに182cmの男が大の字に鎖で繋がれて寝ているという異様な光景。
俺の辿々しい話を花村先生は俺の頭を撫でながら聞いていた。
全て話終わると花村先生は何も言わずにしばらく黙り込んだ。
その美しい目は、完全に据わっていた。
「・・・くそ、思い出してもどの女か分からん!ほとんど枯れたようなジジイしかいなかったから・・・油断した!」
「・・・ん?あの塾のこと・・・知ってるのか?」
「・・・ああ、そうだったね。いちごチョコの冴えない高校生、って言えば分かる?」
「・・・わ、かる、けど・・・?」
「あれ、俺。」
「・・・・・・・・・はぁぁぁぁあ?!」
つい先ほど夢で思い出していた彼が目の前にいて、俺に跨っていて、手枷をつけている?
混乱する俺を見てくすくす笑いながら「ちょっと待っててね」と寝室から出て行き、アクリルで出来た小さな箱を持って戻ってきた。
その箱の中にはあのアーモンドチョコの包み紙が保管されている。
何年か前にリニューアルされて、あの柄のデザインではなくなったから分かる。
箱に入った包み紙は、俺があげたアーモンドチョコだ。
驚きで口が開いた俺を見下ろしながら花村先生は頭ではなく、俺の胸辺りを撫で始める。
「俺ね、あの頃からずっと高尾先生が好きだったんだ。」
「へ?えっ?」
「だから大学も自由に教育実習先選べる大学にしたし、」
「・・・は?!」
「高尾先生の異動先も逐一調べ上げて追いかけてたんだよ?講師の話だって、喜んで引き受けたし。同じところで働けるなんて・・・はあ、俺、超幸せ。」
「・・・なっ、な?!」
うっとりとした目で俺を見ながらまたも情報量を増やしていく花村先生。
胸を撫でる手はどんどんねっとりとしたものになっていく。
くすぐったさで、落ち着かない。
すると突然花村先生が俺の大きめの両乳首をギュッと摘んだ。思ってもみなかった刺激に俺の身体は大袈裟なくらい跳ねた。
「高尾先生って痛みに敏感だよねぇ?こないだもプリントで少し切っただけで涙目だったし。」
「?!!は、早くこれ外してくれ!ち、乳首も摘むのやめてくれ!」
「外すわけないじゃん。俺、痛いことするつもりじゃないし。痛みに敏感な人ってさ・・・感度がいいってことなんだよ?」
そう言うとその美しい顔を俺の耳元に近づけ「そんなの最高だと思わない?」と囁いた。
「俺がどろどろになるまで、気持ちよくするからね。」
花村先生の顔が俺に近づいてくる様が、まるでスローモーションのように見えた。
これは俺が塾でアルバイトをしていた頃の記憶だ。
ふわふわした髪の・・・そう、花村先生とよく似た高校生が通っていた。
メガネをかけていていつも俯いている。
俺が担当しているクラスとは別のクラス、特進のクラスだったから直接関わることはなかったけど、本当にいつも俯いていたから何か気になっていた。
その日も彼は俯いていていつもに増して元気が無さそうだった。
俺はおもむろにポケットをゴソゴソ漁り、後で食べようと思っていた一粒のアーモンドチョコを取り出す。
そしてそっと彼の机に置いた。
「甘いもの食べると元気になるよ」と言葉を添えて。
ピクリと彼は反応していたが、顔を上げることはなかった。
そしてその数日後、俺の靴箱に「ご馳走様でした」と丁寧な字で書かれたカードと共にいちご味のチョコが置かれていた。
自然と口角が上がり、心が温かくなったことを覚えている。
しかし、彼と関わったのはそれっきりだった。
俺がその後すぐバイトを辞めたからだ。
櫻子さんとのあの一件もあったし、残り少なくなった大学生活を謳歌しようと3年勤めた塾を辞めた。
そういえば、あの彼は元気にやっているだろうか。
レベルの高いあの塾の特進クラスだから頭はかなり良いし、良い大学にでも入って高給取りにでもなっているだろう。
綺麗なふわふわ髪をしていたのだから、俯かず、真っ直ぐ前を見て元気に生活してくれてると良いな。
そんな夢を見ていた。
「────い、高尾せんせ。おーい、起きて下さーい。」
「・・・んん。あ、れ?花村せんせ、い。俺、もしかして寝て・・・」
「そりゃあもうすやすやと。仮にも男の部屋に来てるんですから。少しは緊張感持って欲しいですね。」
「・・・・・・へ?な、何言って・・・は?」
目が覚めた俺の上にはニコニコ笑っている花村先生が跨っていた。
そして俺の両腕、両足は固定されている。
見たことのある枷だ。
でもあの時の手枷と足枷とは違い、痛くないように内側に可愛いピンクのファーがついている。
そのファーに似合わず、ベッドに繋がっている鎖はかなり太い。
一筋縄では切れそうにないなと分かるくらいのものだった。
足は俺からは見えないが、おそらく感触からして同じファーが付いたものだろう。
ふわふわしているが、がっしり固定されている。
俺はあの櫻子さんとの一件を思い出し、血の気が引いていく。
忘れていた。
美しいものには棘があることを。
花村先生も、そういう趣味ってことなのか?
俺の頭の中は理解できないこの状況とあの時の恐怖と羞恥心で支配され、身体はすでに小刻みに震え出している。
「な、んで?花村先生、これ、取って、くれ。お願いだ。」
「んー?だめです。俺、花村先生のこと好きなんです。愛してます。ずっと昔から。」
「ず、っと・・・むかし・・・?」
「どうして震えてるんですか?もしかして、こういうこと他の人からされたことあるの?許せないなぁ・・・」
怒りに満ちた色素の薄い目で、俺のことをじっと見ている。
お互いの鼻先があとちょっとでくっついてしまうくらいの距離だ。
俺は緊張でうまく息ができなくなってきた。
だが、花村先生は俺から目を逸らさない。
俺は観念して、少し震える声で返事をした。
「は、花村先生が思ってるような、内容じゃ、ない。」
「ふーん。でもあるんだ?詳しく話してごらんよ。良い子だから、ね?」
よしよし、と俺の頭を撫でながら有無を言わさない瞳で見つめてくる。
俺は重い重い記憶の蓋を開け、あの櫻子さんとの一件を包み隠さず説明した。
----------------⭐︎
説明している間もピンクファーの枷は外してもらえなかった。ベッドに182cmの男が大の字に鎖で繋がれて寝ているという異様な光景。
俺の辿々しい話を花村先生は俺の頭を撫でながら聞いていた。
全て話終わると花村先生は何も言わずにしばらく黙り込んだ。
その美しい目は、完全に据わっていた。
「・・・くそ、思い出してもどの女か分からん!ほとんど枯れたようなジジイしかいなかったから・・・油断した!」
「・・・ん?あの塾のこと・・・知ってるのか?」
「・・・ああ、そうだったね。いちごチョコの冴えない高校生、って言えば分かる?」
「・・・わ、かる、けど・・・?」
「あれ、俺。」
「・・・・・・・・・はぁぁぁぁあ?!」
つい先ほど夢で思い出していた彼が目の前にいて、俺に跨っていて、手枷をつけている?
混乱する俺を見てくすくす笑いながら「ちょっと待っててね」と寝室から出て行き、アクリルで出来た小さな箱を持って戻ってきた。
その箱の中にはあのアーモンドチョコの包み紙が保管されている。
何年か前にリニューアルされて、あの柄のデザインではなくなったから分かる。
箱に入った包み紙は、俺があげたアーモンドチョコだ。
驚きで口が開いた俺を見下ろしながら花村先生は頭ではなく、俺の胸辺りを撫で始める。
「俺ね、あの頃からずっと高尾先生が好きだったんだ。」
「へ?えっ?」
「だから大学も自由に教育実習先選べる大学にしたし、」
「・・・は?!」
「高尾先生の異動先も逐一調べ上げて追いかけてたんだよ?講師の話だって、喜んで引き受けたし。同じところで働けるなんて・・・はあ、俺、超幸せ。」
「・・・なっ、な?!」
うっとりとした目で俺を見ながらまたも情報量を増やしていく花村先生。
胸を撫でる手はどんどんねっとりとしたものになっていく。
くすぐったさで、落ち着かない。
すると突然花村先生が俺の大きめの両乳首をギュッと摘んだ。思ってもみなかった刺激に俺の身体は大袈裟なくらい跳ねた。
「高尾先生って痛みに敏感だよねぇ?こないだもプリントで少し切っただけで涙目だったし。」
「?!!は、早くこれ外してくれ!ち、乳首も摘むのやめてくれ!」
「外すわけないじゃん。俺、痛いことするつもりじゃないし。痛みに敏感な人ってさ・・・感度がいいってことなんだよ?」
そう言うとその美しい顔を俺の耳元に近づけ「そんなの最高だと思わない?」と囁いた。
「俺がどろどろになるまで、気持ちよくするからね。」
花村先生の顔が俺に近づいてくる様が、まるでスローモーションのように見えた。
あなたにおすすめの小説
キミが、僕を選ぶまで
天かす
BL
誰にも選ばれなかった僕を選んだのは、白い獣だった。
人間と、人間と以外の生物の特徴を併せ持つ“半人”が共に生きる世界。
この世界では、人は六歳から十六歳までの間に、自らのパートナーとなる半人の幼体を選び、育てる義務を負っている。
けれど深森 夜(フカモリ ヨル)は、十五歳になった今も、パートナーがいなかった。
周囲に置いていかれ、価値がないような痛みを抱えながらも、彼が半人を求め続けるのには理由がある。
ある日突然姿を消した幼馴染――薮颯太。
「彼は半人と共に消えたらしい」
その噂をきっかけに、夜は半人保護機関へ入るため、自分のパートナーを探し続けていた。
そんなある雨の日。
保護施設の奥で夜が出会ったのは、傷だらけで倒れた白い獣。
その出会いはやがて、選ぶはずだった少年と、選ばれることを望んでいた半人、二人の運命を大きく変えていく――。
これは、ずっと誰にも選ばれなかった少年が、たった一人の半人に選ばれるまでの物語。
そして、やがてその白い獣に平凡男子な夜が、溺愛執着されるまでの二人の出会いの話。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。