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夢の終わり
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夢を見た。
これは俺が塾でアルバイトをしていた頃の記憶だ。
ふわふわした髪の、そう、花村先生とよく似た高校生が通っていた。メガネをかけていていつも俯いている。
俺が担当しているクラスとは別のクラス、特進のクラスだったから、関わることはなかったけど、本当にいつも俯いていたから何か気になっていた。
その日も彼は俯いていて、いつもに増して元気が無さそうだった。俺はおもむろにポケットをゴソゴソ漁ると、後で食べようと思っていた一粒のアーモンドチョコを取り出す。そしてそっと彼の机に置いた。「甘いもの食べると元気になるよ」と言葉を添えて。ピクリと彼は反応していたが、顔を上げることはなかった。
そしてその数日後、俺の靴箱に「ご馳走様でした」と丁寧な字で書かれたカードと共に、いちご味のチョコが置かれていた。自然と口角が上がり、何だか心がぽかぽかしたのを覚えている。しかし、彼と関わったのはそれっきりだった。俺がその後すぐバイトを辞めたからだ。櫻子さんとのあの一件もあったし、残り少なくなった大学生活を謳歌しようと3年勤めた塾を辞めたのだ。
そういえば、あの彼は元気にやっているだろうか。レベルの高いあの塾の特進クラスだから頭はかなり良いし、良い大学にでも入って高給取りにでもなっているだろう。綺麗なふわふわ髪をしていたのだから、俯かず、真っ直ぐ前を見て元気に生活してくれてると良いな。
そんな夢を見ていた。
「・・ーせ、高尾せんせ。おーい、起きて下さーい。」
「・・・んん。あ、れ?花村せんせ、い。俺、もしかして寝てた?」
「はい、寝てましたよ。そりゃあもうすやすやと。仮にも男の部屋に来てるんですから。少しは緊張感持って欲しい、ですね?」
「へ?な、何言って・・・は?」
目が覚めた俺の上にはニコニコ笑っている花村先生が跨っていた。そして俺の両腕、両足は固定されている。
見たことのある枷だ。
でもあの時の手枷と足枷とは違い、痛くないように内側に可愛いピンクのファーがついている。そのファーに似合わず、ベッドに繋がっている鎖はかなり太い。一筋縄では切れそうにないなと分かるくらいのものだった。足は俺からは見えないが、おそらく感触からして同じファーが付いたものだろう。ふわふわしているが、がっしり固定されている。
俺はあの櫻子さんとの一件を思い出し、サァーと血の気が引いていく。
忘れていた、美しいものには裏の顔があることを。花村先生もそういう趣味ってことなのか?
俺の頭の中は理解できないこの状況と、あの時の恐怖と羞恥心で支配され、身体はすでに小刻みに震え出している。
「な、んで?花村先生、これ、取って、くれ。お願いだ。」
「んー?だめです。俺、花村先生のこと好きなんです。愛してます、ずっと昔から。どうして震えてるんですか?もしかして、こういうこと他の人からされたことあるの?許せないなぁ・・・」
「へ?は?お、俺のことがす、すき?昔から?ど、どういうことだ?」
「先に僕の質問に答えてください。こういうことされたことあるの、って聞いてるんだよ、俺。」
怒りに満ちた色素の薄い目で、俺のことをじぃっと見ている。お互いの鼻先があとちょっとでくっついてしまうくらいの距離だ。
俺は緊張でうまく息ができなくなってきた。だが、花村先生は俺から目を逸らさない。
俺は観念して、少し震える声で返事をした。
「あ、ある。ある、けど、花村先生が思ってるような、ことじゃない。」
「ふーん。ある、んだ?詳しく話してごらんよ。良い子だから、ね?」
よしよし、と俺の頭を撫でながら、有無を言わさない瞳で見つめてくる。
俺は重い重い記憶の蓋を開け、あの櫻子さんとの一件を包み隠さず説明した。
これは俺が塾でアルバイトをしていた頃の記憶だ。
ふわふわした髪の、そう、花村先生とよく似た高校生が通っていた。メガネをかけていていつも俯いている。
俺が担当しているクラスとは別のクラス、特進のクラスだったから、関わることはなかったけど、本当にいつも俯いていたから何か気になっていた。
その日も彼は俯いていて、いつもに増して元気が無さそうだった。俺はおもむろにポケットをゴソゴソ漁ると、後で食べようと思っていた一粒のアーモンドチョコを取り出す。そしてそっと彼の机に置いた。「甘いもの食べると元気になるよ」と言葉を添えて。ピクリと彼は反応していたが、顔を上げることはなかった。
そしてその数日後、俺の靴箱に「ご馳走様でした」と丁寧な字で書かれたカードと共に、いちご味のチョコが置かれていた。自然と口角が上がり、何だか心がぽかぽかしたのを覚えている。しかし、彼と関わったのはそれっきりだった。俺がその後すぐバイトを辞めたからだ。櫻子さんとのあの一件もあったし、残り少なくなった大学生活を謳歌しようと3年勤めた塾を辞めたのだ。
そういえば、あの彼は元気にやっているだろうか。レベルの高いあの塾の特進クラスだから頭はかなり良いし、良い大学にでも入って高給取りにでもなっているだろう。綺麗なふわふわ髪をしていたのだから、俯かず、真っ直ぐ前を見て元気に生活してくれてると良いな。
そんな夢を見ていた。
「・・ーせ、高尾せんせ。おーい、起きて下さーい。」
「・・・んん。あ、れ?花村せんせ、い。俺、もしかして寝てた?」
「はい、寝てましたよ。そりゃあもうすやすやと。仮にも男の部屋に来てるんですから。少しは緊張感持って欲しい、ですね?」
「へ?な、何言って・・・は?」
目が覚めた俺の上にはニコニコ笑っている花村先生が跨っていた。そして俺の両腕、両足は固定されている。
見たことのある枷だ。
でもあの時の手枷と足枷とは違い、痛くないように内側に可愛いピンクのファーがついている。そのファーに似合わず、ベッドに繋がっている鎖はかなり太い。一筋縄では切れそうにないなと分かるくらいのものだった。足は俺からは見えないが、おそらく感触からして同じファーが付いたものだろう。ふわふわしているが、がっしり固定されている。
俺はあの櫻子さんとの一件を思い出し、サァーと血の気が引いていく。
忘れていた、美しいものには裏の顔があることを。花村先生もそういう趣味ってことなのか?
俺の頭の中は理解できないこの状況と、あの時の恐怖と羞恥心で支配され、身体はすでに小刻みに震え出している。
「な、んで?花村先生、これ、取って、くれ。お願いだ。」
「んー?だめです。俺、花村先生のこと好きなんです。愛してます、ずっと昔から。どうして震えてるんですか?もしかして、こういうこと他の人からされたことあるの?許せないなぁ・・・」
「へ?は?お、俺のことがす、すき?昔から?ど、どういうことだ?」
「先に僕の質問に答えてください。こういうことされたことあるの、って聞いてるんだよ、俺。」
怒りに満ちた色素の薄い目で、俺のことをじぃっと見ている。お互いの鼻先があとちょっとでくっついてしまうくらいの距離だ。
俺は緊張でうまく息ができなくなってきた。だが、花村先生は俺から目を逸らさない。
俺は観念して、少し震える声で返事をした。
「あ、ある。ある、けど、花村先生が思ってるような、ことじゃない。」
「ふーん。ある、んだ?詳しく話してごらんよ。良い子だから、ね?」
よしよし、と俺の頭を撫でながら、有無を言わさない瞳で見つめてくる。
俺は重い重い記憶の蓋を開け、あの櫻子さんとの一件を包み隠さず説明した。
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