【完結】数学教員の 高尾 さん

N2O

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10 田代という男

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花村先生と付き合い始めて早いもので1ヶ月が経った。
週末は部活動の指導が終わった後、必ずあの低層マンションで過ごしている。
温かく美味しい食事に入浴補助サービス付き。

そして毎夜あの枷に繋がれて、ドロドロに溶かされている。

学校での接し方はお互い何も変わらない。
『高尾先生』『花村先生』と呼び合っているし、元々花村先生は俺の世話を焼いていたから、少々距離感が近くなっていたとしても誰も違和感を持たない。

「相変わらず仲良いですね」程度だ。


しかし目敏く変化に気付く人間もいた。
同じ数学科の3つ上の先輩、田代先生だ。
田代先生は"イケオジ,という言葉が将来似合うだろうな、という日焼けした肌、サイド刈り上げ頭の先生。
俺とは少々タイプは違うが6年も一緒に勤務すれば十分気心の知れた仲になる。


そんな田代先生がある日の放課後、花村先生不在の数学科準備室で日本茶────花村先生が冷めないようにタンブラーに入れてくれた────を飲む俺のジャージをくんくん匂いだしたのだ。

正直、ドン引きである。



「何ですか、臭いですか、すみませんね、セクハラですよ。」

「俺よりゴツい男にセクハラして何の得があんだよ。」

「相変わらずデリカシーないですね。他の人にしたらダメですよ?・・・ほら、花村先生、とか。」

「・・・お前さぁ、花村と何かあっただろ?」

「は?!えっ、」

「わかりやしー。最近お前と花村、同じ匂いすんだわ。」



花村先生の服を嗅いでいたことにもドン引きだが、まずい、気付かれた・・・?
同僚、しかも同じ数学科の人間にバレるのは避けたい展開。
どう切り返すか俺が頭を悩ませていると、プハッと田代先生が吹き出し笑い出す。



「相変わらず、分かりやすいよなぁ。そっか、付き合ってんだな?」

「あ、う・・・うん、はい。」

「やっぱりな~・・・なんか納得したわ。」

「納得・・・?」


うんうん、と頷きながら「言いふらすような悪趣味はねぇよ」と言われて一安心。
まぁ・・・そういう人だよな。
チャラチャラしてそうに見えて、意外と真面目。
意外、なんて言ったら怒られそうだけど。



「ほら、あいつ教育実習来てただろ。俺、滝本先生の補佐で実習生指導してたから、覚えてんだけどさ。」

「あ、ああ。俺は・・・あんまり接点なかったから、最初気付かなかったんですけど・・・」

「・・・マジで?」

「?は、はい、マジです。」

「・・・あいつ、隙あらば執着まみれの目でお前ばっかり見てたぞ。お前眼科行った方がいいんじゃね?」

「んなっ!?あ、あの時期はほら、俺が無駄に体育祭の雑務押し付けられて手一杯で・・・っ」



俺のことを、見ていた・・・?
花村先生はそんなこと一つも言っていなかった。(そもそも言いにくいか)

ああ、なんかだんだん顔が熱くなってきた・・・!
ずっと見られていたなんて聞いたら普通、気持ち悪がるものだろうか。
でも俺は花村先生がもしかしてその当時から俺に好意を持ってくれていたのかもなんて想像して、めちゃくちゃ嬉しくなってしまう。

顔を赤くした俺をみて田代先生は「お前もなかなか重症だな」とまた失礼な発言。
腹は立つし、恥ずかしいし。
誤魔化そうとして、引き出しにあった消しゴムをぽいぽい投げつけてやった。
側から見れば「おいこら、やめろよ♡」とイチャつくカップルの小競り合いのようにも見える最中、ガラッと準備室のドアが開き、ピタリと静止した花村先生と目があった。



「高尾先生、大事な話があるので勤務後お時間よろしいでしょうか?」


どこか威圧感のある言い方に「ひゃい」と思わず返事を噛んでしまう。
そんな俺の肩にポンと手を乗せ「栄養ドリンク準備しとくな」と謎の励ましをする田代先生のことを、鬼の形相で睨みつける花村先生。

今日は何故平日ど真ん中水曜日なのか。
水曜日に罪はないのに、心の中で恨み言を述べてしまった。
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