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『フィンリー・エバンズ』


この魔法学校で、この名前を知らない奴はいないと思う。

人付き合いが面倒で必要最低限の人間としか関わらない俺でも知ってるからだ。



公爵家次男でこの学校の現生徒会長、背が高くて、頭がよくて、魔力も高い。
卒業後は超超狭き門の魔法省への入省が決まってて、将来的にも超有望だ。
権力も、人気も、実力も、三拍子・・・いや十拍子くらい兼ね備えた、化け物みたいな男。


その上、びっっっくりするぐらい顔が良いらしい。
とんでもなく広いホールに集められた時に砂粒くらいの大きさでしか見た事ないから、俺はよく分からんが。
顔については俺もピノに言われる(気に食わない)んだけど、俺なんかの比じゃないレベルなんだと思う。

金髪ショートヘアに菫色の瞳。
歴代の偉大な魔法使い達もみんな同じ瞳の色だったと聞く。なかなか現れない瞳の色だ。
俺の黒い瞳も珍しいけど、菫色って何か強そうでいいよな。

さらにさらに全てにおいてスマート。
不良に絡まれた後輩を助けた上に、その不良を更生に導いたこともあるんだとか。

ま、そんな相手と関わるどころか寮も違うから話したこともないんだけど。
確か二歳上で・・・今四年生か?だったら今年は最高学年だから、あと半年もすれば卒業。



・・・と、フィンリー・エバンズという人物について、クラスの女子達が話してたことを中心に説明したんだが。



その十拍子揃った男、フィンリー・エバンズと思わしき人物が、何故元孤児で貧乏子爵家の養子の俺、アルフレッド・ベンジャミン、の鞄(義兄のおさがり)の中を漁り、俺の食べかけチョコレートを手に取ったかと思えば、持参した密封できる袋の中へ入れて、大事そうに見てるのはどうしてだ?


・・・え?チョコ好きなの?・・・いやいやいや、『エバンズ様は甘い物苦手らしーぜ!俺と一緒じゃん!』って数日前に何故かピノが言ってたからきっと違う。

いや、そうじゃなくて、今考えなきゃならないことは・・・・・・待て待て。
情報過多すぎる。



俺は頭を横に振り、昨日の教室をもう一度よく見ようと顔を上げた。




「・・・・・・っ、ひっ、」



あの美しい菫色の瞳が、俺を捉えていた。
今確実にフィンリー・エバンズと目が合ってる。
しかもにこにこ笑ってないか?
今、俺・・・過去を見てるよな?



・・・・・・・・・何か違う。
俺が思ってた案件と違う。
これって単なる『イジメ』じゃなくて、まさか・・・・・・



「・・・・・・ストーカー・・・・・・?」



思わずぶるりと身震いをすると気が緩んでしまったらしく、セピア色の視界がぐにゃりと歪んだ。
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