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番外編 パウロの話 1

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「ねーえ、今日寮に泊まってもいいでしょ?お願い。・・・もうっ!聞いてる?!」

「・・・・・・っ、あんま、近づくな、って!パウロ!噛みたく、なるだろう!分かってるのか!?」

「分かってて誘ってんの~。はあ、堅物だなぁ、ほんと。」

「・・・・・・マセガキめ。」

「・・・・・・匂い強く出してもいいの?さん。」

僕、パウロ。
歳は最近15歳になったばかりのリスの獣人。
見た目は焦茶色のふわふわした触り心地のいい髪に、少し垂れた目、ラピ兄さんよりも少し高い163cm。
垂れ目がそう見せるのか、見た目から「さぞ穏やかな性格なんだろうねぇ」なんて言われるけど、仲良くなると「パウロはあざとい」って言われる。可愛い見た目をうまく使ってるって。

でも僕は思う。「使えるものはなんでも使わなきゃ!」と。自分のこの可愛い見た目だって、存分に利用して、欲しいものは手に入れるんだ。そう、目の前にいる僕の未来の番、兼、旦那様(予定)のハニルさんだってね。

僕がハニルさんのことを知ったのは、ラピ兄さんが隣領地のミハスの騎士団に何やら?のお菓子を作って持って行った数日後だった。何のお詫びなのかは、何回聞いても教えてくれなかったけど、何か恥ずかしがるようなことをしたのは分かった。ラピ兄さんは昔から分かりやすい。顔が全てを物語っている。


まあ、そんなラピ兄さんがある日、フィードさんと一緒に荷物を持って昼過ぎに家に帰ってきた。朝ジルさんと一緒にミハスへ行ったところまでは僕も見ている。何故かジルさんはおらず、代わりにフィードさんと帰ってきた。

僕に気付いたフィードさんが大きく手を振ってくれる。フィードさんは1年半くらい前にこの家を訪ねてきてくれてから僕の友達だ。目つきが怖い、なのに、少し抜けたところもある。だけど、それもまたフィードさんの魅力だ。歳上だから、と威張ることもない。尚更大好きだ。

僕はフィードさんが遊びに来て嬉しくて耳もぴこぴこ、尻尾もふりふり。獣人は人間よりも感情が分かりやすく外に表れちゃうから、隠すのも大変だ。フィードさんにはもう隠してないけど。

「フィードさん、いらっしゃい!久しぶりじゃない?ここにくるの。サルマンにはこないだ一緒に遊びに行ったけどさ。ジルさんはどうしたの?」

帰ってきた2人から事情を聞いたところによると、ジルさんはその日急に団長さんに捕まり、外せない仕事が出来たらしく(めちゃめちゃ嫌がっていたらしい)、一緒にミハスまで買い物に来たラピ兄さんを家まで送れなくなってしまった。代わりに非番だったフィードさんを突然呼び出し、こうして家まで送らせたのだ。本当過保護だと思う。ミハスなんか歩いて30分くらいなのに。サルマンのリリー姉さんの家より近いよ?
まあ、僕はフィードさんにも会えるからいいけどさ。

「さすが、ジルさん。過保護~!ところで、フィードさん。それ、兄さんの荷物持ってくれてるんでしょ。僕が持つよ?」

「あ、これか?違う違う。俺の兄貴の・・・お前会ったことないよな?ジョルテって、言う一番上の兄貴なんだけど、ラピとパウロに贈り物だってさ。こないだクッキーとマフィン貰った、って喜んでたぞ。いつ食っても美味いもんな~!」

「僕は木の実集めるだけだよ。あとは篭って絵描いてるし・・・いいのかな?僕にまで。」

「僕もお詫びしたかっただけなのに・・・何か申し訳ないなぁ・・・」

「いいっていいって。貰ってくれ。このまま持って帰ったら俺が怒られる。」

「あはは!分かった!ありがたく貰おう、ラピ兄さんも。・・・開けていい?」

うんうん、と頷いたフィードさんを確認して、僕はガサガサ紙に包まれた箱を開ける。中には金の綺麗なバングルが入っていた。
そういえばサルマンのどこかの露店通りに、『身につけたら願いが叶う』って評判のバングル屋があるって聞いたな。これだけ繊細で美しい彫刻だから、きっとそこのだろう。

でも僕はそのバングルの彫りの美しさよりも、それを包んでいた包装紙と箱から衝撃的にがしたことに驚いて、咄嗟に口を押さえた。心臓がどくんどくん、と早鐘を打ってるのが分かる。
目の前の2人には気付かれないように咳で誤魔化して、こっそりまた匂いを嗅いだ。これはおそらくだ。ラピ兄さんも言ってたもん。「番の匂いはとっっても良い匂い」だって。

・・・おかしい。僕は匂いには疎いはずなのに。・・・あれ?でもあの時の耳飾りの匂いが分からなかったのは、ジルさんの威嚇する匂いだから気付かなかっただけなのかな?こうして今、バングルから香る甘~い匂いは分かるし。

バングルを見て動かなくなった(まさか包装紙だとは思ってない)僕を不思議に思ったのかフィードさんが心配そうに顔を覗き込んできた。フィードさんからは別に何も匂いがしない。

「どうした、パウロ。・・・バングル、好みじゃなかったか?」

「へっ?ううん、そんなことないよ!!こんなに繊細な彫刻初めて見た。これのバングルなんじゃないの?よく手に入ったね。」

「前話したことがあるだろ、俺の。その人の伝手で買ったみたいだ。縁だよな~、これも。」

「本当素敵なバングルだね。パウロのと僕のとで彫刻も違うみたいだ。あとでゆっくり見せ合いっこしよう?」

「う、うん。そうしよう。あ、あのフィードさん、これ、その、ジョルテさん?が包んでくれたのかな?」

「ん?包み?ああ、これはジョルテにいじゃなくて、従兄弟の兄ちゃんが包んだんだ。その箱も兄ちゃんが選んだんだぜ。良い趣味してるだろ。昔からそうなんだ。器用だし、気が遣えるし。・・・俺たちには結構厳しいんだけどな!」

「へ、へえ。そうなんだ。確かサルマンで騎士やってる・・・んだったよね。」

「そうだよ。どうした?何か気になるのか?」


僕はふるふると首を横に振って、いつもの満面の笑みパウロスマイルで誤魔化した。まだ従兄弟のお兄さんその人だと確定したわけじゃないし、ラピ兄さんが知ったら絶対大騒ぎになる。それは避けたい。

その日から僕はバングルそっちのけで、その包装紙と箱の匂いを嗅ぐのが日課になった。


「早く会いたいなぁ・・・僕の番。どんな人なんだろう。」

箱を抱きながらウトウトとする僕の頭には(勝手にフィードさん似の)まだ会ったこともない番の想像が浮かぶばかりだった。
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