3 / 15
護衛たちの心配
しおりを挟む「ランドルフ様、何やら機嫌がよろしいですね。あの人間の少年が随分と気に入られましたか?」
護衛の一人、牛の獣人ダレスの目の前には屋敷に戻って来てからも尻尾をずっと揺らすランドルフがいた。
書類を見ながら鼻歌まで歌っている。実に分かりやすい。分かりやすすぎて心配になるくらいである。
声を掛けられた本人のランドルフはニヤリと笑い、手に持っていた書類をポイと机に放った。
「ああ、バングルの店の子だろ。あの子は俺の番だ。」
「・・・・・・・・・何ですって?」
「だからつ・が・いだよ、番!お前も可愛い可愛い番のリリーさんがいるだろ。ったく、いいよなぁ。」
「・・・・・・・・・はああ?!」
「っ、うおっ、びっくりした。」
ダレスは声がでかい。物凄くでかい。
こんな密室でその声量。
五感の鋭い獣人にとって、大変迷惑な話。
だが今の反応は、ダレスからすれば当然の反応であった。
「な、なぜもっと早く言わないのですか!?番となれば、話は別です!今日にでも屋敷に連れ帰って旦那様にご報告をっ、」
「落ち着けって。まだきっと未成年だろ。これからゆっくり仲を深めることにするさ。」
「~~っ、隠し事が多いから、最近こうやって護衛まで付けられたのお忘れですか?!」
ダレスの突進して来そうな勢いにランドルフは「はいはいはい、わかってますよ」と頭を掻く。
全く分かってなさそうだ。
このランドルフという獅子の獣人、実は領主の息子。
ここ大都市サルマンにとてつもなく大きな屋敷を構えている。
そして実はこのナディルとの出会いには裏話がある。
全てはランドルフの父である領主ターリヤが持っていたバングルから始まった────
ターリヤが友人から貰った贈り物とやらを見る機会があった。
何やら大層嬉しそうな顔のターリヤに内心面倒臭くてたまらなかったランドルフだが、これは自慢を聞かないと収拾がつかない。
そしてランドルフは父の自慢話に付き合う過程で偶然目にしたバングルから香る僅かな匂いに、生まれて初めて"番"の存在を感じることになる。
居ても立ってもいられず何とかそのバングルの購入先を調べあげ、今日訪れたあのカリムにある露店の一つだということがわかった。
毎日のように時間を見つけてはその店に通い、店番のサーシャという人間の女性からようやく製作者について情報を得ることができたのはほんの数日前のこと。
「私の弟が作ったのよ。」
「・・・お、弟ぉ?!!」
「そうよ。しかもあの子、気付いてないだけで、めちゃめちゃモテるの・・・・・・男にね。」
だから私がこうして店番してんのよ、とため息をついたサーシャ。
なかなかナディルのことを教えたがらない理由が分かった気がした。
この手の軟派もさぞ多かろう。
約一ヶ月間、何度も何度も時間を見つけて足を運び、ようやくランドルフが本気で番を探していることが伝わった。
信用して話してくれたんだろうと解釈し、ランドルフは心が躍る。
『自分の番がこんなにも近くにいるなんて!』
声に出してはいないのに、体全体が喜びで溢れていたランドルフ。
そんな彼を一瞥し、サーシャは容赦なく言い放った。
「あの子、獣人にはかなり苦手意識あるから。」
「・・・え・・・っ」
「しかも私たち見た通り人間だしね。番なんて正直知ったこっちゃないわよ。」
サーシャの言葉に内心・・・いや、全面的に小躍りしていたランドルフは固まった。
番、というのは獣人にしかない独自の本能。
男、女、獣人、人間に関わらず、一生を添い遂げる存在、それが番である。
獣人同士であれば互いに番特有の香りに気付くことができるため話が早いのだが、人間にはその匂いが全く分からない。
獣人だけが分かる話。
人間であるサーシャにも実のところ番の重要度が理解できていない。
口がポカンと開き、鋭い牙が無防備に見えた。
サーシャはその光景を無表情で見ていたがあまりにも悲壮感漂うランドルフに半ば仕方なく助け舟を出すことにした。
「・・・私、実は来週デートなの。その日は弟に店番頼むつもりなん、」
「いいいいつだ?!お、教えてくれ!頼む!」
「・・・・・・食いつき凄いわね。さすが肉食。」
鋭い牙が急に近づてきて、流石のサーシャも驚き後退りした。
そんなことはお構いなしのランドルフの熱意に負け、自分がいない日を教えた。
しかし、いつものようにランドルフは一人で行くはずだったのだが、あまりにもカリムに通う様を不審に思われ、父から護衛という名の見張りを三人もつけられてしまった。
本来ならば名前だけでも聞きだしたかったが、見事失敗。
だが実際に目の前にしたまだ名前も知らない人間の少年が自分の番だとすぐ分かった。
これはランドルフにとって大きな収穫だった。
平然を装っていたが心臓はバクバクと早鐘を打ち、すぐにでも屋敷に連れて帰りたい、という衝動に駆られていた。
しかし、サーシャからも聞かされていた通り少年はかなり人見知り・・・いや、獣人見知り。
ランドルフを前にして、ただただおろおろしていた。
ここでランドルフが強行突破してしまえば、おそらくその苦手意識が強まるばかりか嫌われてしまう可能性だってある。
必死に堪え、何とか次に会う約束・・・という名の強引な手を使ったのである。
「早く会いたい。隠れた瞳は一体何色なんだろう。」
ランドルフはナディルのあの甘い匂いを思い出すだけで、胸の高鳴りが抑えられなかった。
251
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
短編版【けもみみ番外編】卒業の朝〜政略結婚するつもりで別れを告げた宰相子息ユリウスは黒豹エドワードの策略に嵌る〜
降魔 鬼灯
BL
銀の髪が美しい銀狼獣人ユリウスは宰相家の一人息子だ。
留学中、同室になった黒豹獣人のエドワードと深い仲になる。
子供の頃からエドワードに想いを寄せていたが、自国では同性の婚姻は認められていない。しかも、文官トップの宰相家と武官トップの騎士団長家の仲は険悪だ。
エドワードとは身体だけの関係。そう言い聞かせて、一人息子のユリウスは、帰国を期にエドワードと別れ政略結婚をする決心をする。
一方、エドワードは……。
けもみみ番外編
クロードとアンドレアに振り回される学友2人のお話。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす
水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。
死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。
贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。
「お前は、俺だけのものだ」
孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。
キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。
しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。
迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。
手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。
これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。
──運命なんて、信じていなかった。
けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。
全8話。
私の番がスパダリだった件について惚気てもいいですか?
バナナマヨネーズ
BL
この世界の最強種である【バイパー】の青年ファイは、番から逃げるために自らに封印魔術を施した。
時は流れ、生きているうちに封印が解けたことを知ったファイは愕然とする間もなく番の存在に気が付くのだ。番を守るためにファイがとった行動は「どうか、貴方様の僕にしてください。ご主人様!!」という、とんでもないものだったが、何故かファイは僕として受け入れられてしまう。更には、番であるクロスにキスやそれ以上を求められてしまって?
※独自バース設定あり
全17話
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる