【完結】バングル売りのナディル 〜俺のつがいは獅子獣人の次期領主様〜

N2O

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誕生日なのに

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あっという間に五日が経ち、今日はあの約束の日。


あの日のナディルは果物も買う気になれず、とぼとぼと家に帰った後、工房に籠りひたすらバングルを彫った。
彫りに彫り続けランプもつけず気付けば夜で、デートからルンルンで帰って来たサーシャが不審者と勘違いして大騒ぎになった。


サーシャにはその日のうちにあったことを全て話し、あの宝石がついた首飾りを見せると「あんたも身を固める時期かもね」と肩を叩かれた。
ナディルはそのサーシャの言葉を全く理解できないまま、今日を迎えたのである。



そして今日はたまたまナディルの誕生日。
めでたく十八歳、成人の仲間入りだ。
今日こそは自分へのご褒美に果物を買って帰ることを決意して、サーシャとともに露店へ向かう。
サーシャはまたナディルだけに店番をさせようとしたがナディルがそれを頑なに拒んだ。
「一人で店番なら俺はもうバングル彫らない」とまさかの廃業宣言まで飛び出たので、サーシャも一緒に出勤である。





「・・・あの人本当にまた来るのかなあ・・・?」

「来るわよ、絶対。」

「即答・・・何で俺なの・・・?」

「・・・あいつ、悪い奴じゃないわよ。ほら、これ。私からの誕生日プレゼント。」

「・・・え!?あ、ありがとう!帽子だ!」





開店準備の途中サーシャはナディルに帽子をプレゼントした。
鍔が広く紐がついていて、被らない時に背中側に垂らして置ける形のものだった。
一瞬でニコニコ顔になる弟ナディルの頭をサーシャはポンポン、と叩く。
そのお日様みたいな笑顔に通りすがりの男たちは釘付けなのだが、ナディルは全く気付いていない。


この可愛い可愛い弟が、もうすぐ嫁ぐかもしれない。


そんな寂しい現実が迫っていることをサーシャは内心覚悟していた。
これについても、ナディルは全く気付いていない。



そして先日のあの日と同じ時間、本当にランドルフは予告通り現れた。
嬉しそうに駆け寄ってくる大きな獅子の迫力は言うまでもなく、ナディルは失礼のない程度に自分の手をぎゅっと握りしめた。




「また会えて嬉しい。今日は素敵な帽子を下げているんだな。よく似合いそうだ。」

「そりゃ私が選んで贈ったばかりだからね。」

「受け取ってくれるのであれば俺もぜひ何か贈りたい。」

「!?い、いえ、その、これは、」

「これは?」

「きょ、今日っ、た、誕生日だから、と、特別だっただけで、そのっ、」

「・・・・・・は?」

「ひいっ」






思わず漏れたランドルフの声が思ったより重低音で、ナディルはびくっと体を揺らした。
慌てて謝るランドルフに、ナディルもなぜか謝り始めて現場は混乱中。
サーシャはそれを白い目でみながら、時折覗きにくる客には満面の笑みで笑いかけていた。






「誕生、日か。それはぜひ祝いの席を設けたかったな・・・」

「(ぶんぶんぶんぶん)」

「ナディルが困ってんでしょ。首振りすぎて取れたらどうすんの。やめなさいよ。」

「・・・ちなみにいくつになったんだ?十五くらいか?」

「・・・えっと・・・・・・十八、です・・・」

「は?十八!?」

「ひいっ、そ、そ、そうです!すみません!!」

「・・・懲りない男ね。」





愛想笑いのナディルの口角がぴくりと動いたのは、見間違いじゃない。
もしかするとその愛くるしい幼顔を気にしている?!と、察知したランドルフはまた必死に頭を下げた。(ナディルも・・・・・・以下同)


そして、ナディルの年齢を見た目で十五、六くらいだと見積もっていたランドルフは猛烈に焦り出す。

なぜならこの国では成人を迎えたものは結婚も、番になることも、本人の意思で自由に決めて良い。もちろん、相手の了承を得るのが前提にあるのだが。


人見知りであると聞いていたし、恋人らしき相手は見たことがないとサーシャから聞いていた。
だからランドルフはナディルが成人を迎えるまでに、時間をかけて関係性を築くつもりでいた。




だがしかし────・・・!






「君は成人したのか・・・?本当に・・・?」

「?は、はい。この通り・・・お、おかげさまで・・・?」

「・・・俺はランドルフ。獅子の獣人だ・・・」

「え、あ、は、はい。俺は、えっと、人間のナディル、です。」

「・・・ナディル。良い名だ。」





照れたようにはにかんだナディルの破壊力に、ランドルフは興奮を抑えきれない。


落胆ばかりしていられない。
彼が自分以外の誰かと結ばれるなんて、考えられない。

こうしてようやく彼の名を聞くことができた。
それだけでも大きな前進じゃないか、と己を奮い立たせる。



一方、突然自己紹介してきた獅子の獣人に困惑しっぱなしのナディルはサーシャの方をちらりと見て助けを求めたが、サーシャは我関せずでにっこり笑い返してくるだけだった。


目の前のランドルフをそっと見返す。
何かぶつぶつ言いながら、少し下を向き考え事をしている彼の額には玉のような汗が浮かんでいるのが見えた。
今日は風もあって涼しいのに、どうしたのかな────・・・


あ、と何か思いついたナディルは自分のカバンをガサゴソと漁り始め、革製の水筒を取り出すと恐る恐るランドルフに差し出した。






「あ、あの、これ、スーッとする薬草を浸した、お、お茶です。体が少し、ひ、冷えると思うので、よかったら・・・」

「・・・いいのか?」

「!は、はい!あっ、く、口は付けてません!安心して、飲んでください・・・」

「それは・・・残念だ。」

「・・・えっ?!」

「ありがとう。とても、嬉しいよ。」






ふわりと弧を描くミントグリーンの瞳が眩しい。
思わず手を眼前にかざし、うっ、となったが、ランドルフはナディルの突然の奇行でさえも可愛くて仕方がない。


口に含んだ茶は少し苦味があって爽やかな味。


ランドルフはその茶も、すぐに好きになった。





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