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俺がつがい?

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ランドルフは真っ赤な顔のまま、ナディルとサーシャに今の状況を話し始めた。途中でバングルを見にきた客もいたようだが、ランドルフの後ろに控えた護衛3人に睨まれると、そそくさとその場からいなくなったが、それにナディル、サーシャは気づかない。

ランドルフから番であること、ナディルが今日成人したことでが強くハッキリとしたことを聞かされた。ナディルは終始困惑顔だが、サーシャは今まで割と透かし顔だったランドルフの、番を目の前にした真っ赤な顔でオロオロしている顔を何やら楽しんでいる。それに途中で気付いたランドルフは頭に巻いている布を被り直していたが、あまり意味はなかった。


「お、俺が、ランドルフ、さんの、つがい・・・?ご、めんなさい・・・俺は・・・わから、ない・・・です・・・」

「・・・ああ、そうだろうな。人間だから分からないのは当然だ。でも、間違いなくナディルが俺の番だ。」

「・・・そう、ですか・・・」


「安心してくれ。無理やり連れて行ったりしない。ナディルに俺のこと知ってほしいんだ。あと・・・お願いが、ある。聞いてくれるか?」

何やら心配そうなナディルにランドルフは出来るだけ優しい声で話しかける。獣人に強い苦手意識がある上に、いきなり番と言われても困惑するだけなのは分かっていた。だがみすみすこのまま逃そうとも考えていない。他の獣人から狙われないようにランドルフは作戦を考えていたのだ。

「お、ねがい、ですか?・・・・・・内容次第、ですが・・・何でしょう、か?」

「その首飾りはそのまま持っていて欲しい。実は君のために作ったんだ。」

「へっ、こ、こんな高価そうな、もの、貰えない、です!」

「・・・気に入らなかったか?なら、他のものを作らせるまでだ。」

「ちちちち違います!と、ても素敵なもの、だと思い、ます・・・俺には勿体ない、ってことです・・・」

「そんな事は無い!可愛い君にとても似合っている!その細く白い首に映える華奢な鎖が何とも美しく、その宝石も・・・とても良い。早くその色の指輪も準備したいところだがまずは父上に挨拶をーーーー」
「ランドルフ様、ナディル様が固まっておいでですよ。」

「・・・ああ!す、すまない。ナディルと話せてつい嬉しくて・・・。と、兎に角、君以外それを付けるものはいない、ということだ。どうか受け取ってほしい。」

「・・・・・・・・・・・・わかり、ました。あ、ありがとう・・・ございま、す・・・?」

困惑顔は変わらないが、とりあえず受け取ってくれるようだ。ランドルフはホッと息を吐く。そしてサーシャはそんなランドルフに終始ニヤニヤだ。美しい男が困っている顔はこんなにも楽しいのか、と新しい扉が開きそうである。
そんなサーシャのニヤけ顔を他所に、ランドルフがまた口を開いた。

「ナディル、あとこれも・・・お願いなんだが、君のつけているもので・・・何か一つ譲ってくれるものはないだろうか。」

「へっ?お、俺の、ですか?き、汚いですよ!身につけるもの、そ、んなに買い替えたりしない、から、ふ、古いし。」

「むしろその方がいい。君の匂いが染み付いたもの・・・んんっ、失礼。・・・匂いを嗅がれるなんて気持ち悪いかもしれないが、俺は無理強いをして君を連れ帰るなんてこと絶対にしたくない。だが・・・限界もあるんだ。だから、匂いで誤魔化す。頼む、何でも良いんだ・・・。」

ランドルフは懇願するような目でナディルを見つめている。先週まで会ったこともない、歳下の男にこんな必死にお願いをするなんて、獣人にとって番とはそれほどまで大事なものなんだな、とナディルは考えた。本当はそんなレベルのもので済まされるものでもないのだが、ランドルフはそこまでナディルを追い詰めるつもりはない。

ナディルはうーん、と頭を悩ませた後「あっ」と思いついたように長袖のシャツを捲った。ナディルの日に焼けていない白肌が露わになり、思わずランドルフはごくり、と喉を鳴らす。ナディルに見られては大変だ、と慌てて咳をして誤魔化したが。

「あ、の。これでも、いい、ですか?俺が何年か前、から、付けてるバングル・・・なんですけど。練習、で作ったやつで・・・彫りはうまくない、けど、き、気に入ってて・・・」

ナディルが、これ、と差し出したのは自分の細腕に付けていたバングルだった。ずっと付けているものと分かるくらい、金属の色が少しくすんでいる。ランドルフは花が咲いたように、パア、と笑顔になり、差し出されたバングルを喜んで受け取った。

「も、勿論だ!ありがとう!本当に嬉しいよ・・・!お代はいくら払えば良い?言い値で買おう。」

「へっ?!お、お代なんて、いただけません!そ、それに、先日の、お釣りもあります!」

「・・・ではこのバングルはありがたくいただくよ。あと、先日の釣りの金で、俺に似合いそうなバングルを一つ、見繕ってくれないか?ナディルに選んでもらいたいんだ。」

「お、おれが、選ぶ・・・んですか?そ、そうです・・・ね・・・えっと・・・」


そう言ったきり目の前のバングルを真剣な顔で見始めた。どうやらランドルフに合うものを選んでいるらしい。ランドルフはナディルのその顔だけでもお代の価値がある、と内心ハアハアしていたが、顔には出さなかった。漏れ出す喜びから尻尾がまたゆらゆら揺れている。そしてサーシャは目敏くそれに気づき、ニヤリ、と意地悪そうにランドルフを見るのだった。


「・・・えっと、こ、これなんかどうでしょうか・・・?」

ナディルが手に取ったのは、美しい森の風景が彫られたバングルだった。大きな大木が緻密に彫られ、生命力に溢れている。

「ランドルフ、さん、からは、エ、エネルギーを感じる、ので。これが、いいかな、と思って・・・好みじゃ、なかったら他のも」
「好みだ。ナディルが俺のために選んだ、というだけてで価値がある。ありがとう。大事にする。」

ランドルフはナディルからそのバングルを受け取ると、嬉しそうに腕にはめた。

あまりの嬉しそうな顔にナディルもつられて笑う。ちょうどその時、ふわっと風が吹き、ナディルの癖毛前髪が舞い上がる。それと同時にナディルの美しい黒い瞳が露わになり、ランドルフの目に入ってきたのである。

風が止み、急いで前髪を整え出したナディル。
そしてそのナディルの目の前では更に顔を真っ赤にして、口を押さえたランドルフがナディルを食い入るように見つめていたのだった。
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