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俺がつがい?
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ランドルフはナディルに話すことにした。
長年探していた番がナディルだということや、これから先共に生きていきたいということを。
人間が獣人の番になるのはそう珍しいことではない。
人間と獣人が共に暮らすようになって幾年が過ぎただろうか。
その特徴が表に現れていないだけで、どの人間にだって獣人の血が少なからず混ざっている。
番特有の甘い匂いだって、感じることができる人間もごく僅かだが存在すると聞く。
残念ながら、ナディルは該当しなかっただけで。
ランドルフの話の途中、店のバングルを見にきた客もいたようだがランドルフの後ろに控えた護衛三人に睨まれるとそそくさと離れていった。
(営業妨害に姉弟は気づかない────)
ナディルは終始困惑顔だったが、一方サーシャは今まで割と透かし顔だったランドルフの挙動がおかしくてたまらない。
番を目の前にするとこの獅子も一人の男になるわけだ。
なんと甘い豹変ぶり。
「ご、めんなさい・・・俺は・・・わから、ない・・・です・・・」
「当然だ。でも、間違いなくナディルが俺の番なんだ。」
「そ、そう、ですか・・・」
「まずはナディルに俺のこと知ってほしい。あと・・・頼みがある。聞いてくれるか?」
心配そうな表情を浮かべるナディルにランドルフは出来るだけ優しい声で話しかけた。
獣人に強い苦手意識がある上に番だと急に言われても困惑するだろうと分かっていた。
だが、みすみすこのまま逃そうなんてこれっぽっちも考えていない。
他の獣人から手を出されないようランドルフは作戦を考えていた。
「内容次第、です、けど・・・何でしょうか?」
「その首飾りはそのまま持っていて欲しい。実は君のために作ったんだ。」
「っ、こ、こんな高そうなもの、貰えない、です!」
「・・・気に入らなかったか?なら、他のものを用意しよう。」
「ちちちち違います!と、ても素敵なもの、だと思い、ます・・・俺には勿体ない、ってことです・・・」
「そんな事は無い!君にとても似合っている!その鎖が映える細く白い首!何とも美しい・・・っ!早く指輪も準備したいところだがまずは父上に挨拶を────」
「ランドルフ様、ナディル様が固まっておいでですよ。」
「・・・ああ、す、すまない。話ができるのが嬉しくて・・・っ、と、とにかく、どうか受け取ってほしい。」
「・・・っ、わかり、ました。あ、ありがとう・・・ございま、す・・・?」
ランドルフはほっと息を吐く。
とりあえず受け取ってくれるようだ。
そしてサーシャはそんなランドルフに終始ニヤニヤが止まらない。
美しい男が困っている顔はこんなにも楽しいのか、と新しい扉が開きそう。
そんなサーシャのニヤけ顔を他所に、ランドルフがまた口を開いた。
「ナディル、あとこれも・・・頼みなんだが、君が身につけている物で・・・何か譲ってもらえないだろうか。」
「お、俺の、ですか?そんな上等な物持ってないです!」
「君の匂いがする物なら何だって、」
「コホンッ、ランドルフ様。」
「・・・・・・失礼した。だが、本当に・・・ナディルの物なら何でもいいんだ。頼む。」
「・・・!?」
懇願する目でナディルを見つめるランドルフ。
番って色々大変なんだな、とナディルは思い────本当はその程度で済む問題でもない────一方でランドルフはナディルを身近に感じたいがために必死。
ナディルは熟考したのち「あっ」と声を上げ、着ていた長袖シャツの袖を捲った。
予期せぬ形で白肌が露わになり、ランドルフは思わずごくりと喉を鳴らす。
だが、そんな姿をナディルに見られては大変だと慌てて咳をして誤魔化した。
「こ、これでも、いいですか?俺が何年か前、から、付けてるバングル・・・なんですけど。」
「・・・とても綺麗だ。」
「・・・っ、ありがとうござい、ます・・・!練習で作ったやつで・・・彫りはうまくない、けど、き、気に入ってて・・・」
ナディルが差し出したのは自分の腕に付けていたバングルだった。
ずっと付けていたことがすぐにわかるほど、金属の色がくすんでいる。
ランドルフは伸ばした自分の手が微かに震えていることに気づかないふりをしてバングルを手にとると、自分でもおかしくなるくらい口角が上がるのがわかった。
「ありがとう・・・本当に嬉しい・・・!言い値で買おう。」
「お、お代なんて、いただけません!そ、それに、先日の、お釣りもあります!」
「・・・では、このバングルはありがたくいただこう。あと、先日の釣りで俺に似合いそうなバングルを一つ見繕ってほしいんだが、頼めるか?」
「あ、えっ、俺が、選んでいいんですか?そ、そうです・・・ね・・・えっと・・・」
そう言うと目の前のバングルを真剣な顔で見始めた。
ランドルフに合うものを選んでいるらしい。
ここぞとばかりに、作り手の血が騒ぐ。
ランドルフはナディルのその顔だけで十分価値がある、と内心興奮していたが、もちろん顔には出さなかった。
だが尻尾は素直なものでまたゆらゆら揺れている。
そしてサーシャは目敏くそれに気づき、また静かに笑った。
「・・・えっと、こ、これ、どうでしょうか・・・?」
ナディルが選んだのは大きな大木が緻密に彫られたバングルだった。
「ランドルフさんからは力強さを感じるので、こ、これが、いいかな、と・・・・・・好みじゃ、なかったら他のもありま、」
「これがいい。ありがとう・・・大事にする。」
ランドルフはナディルからそのバングルを受け取るとすぐ腕にはめた。
あまりの嬉しそうな顔にナディルもつられて笑う。
ちょうどふわっと風が吹いてナディルの髪が大きく揺れた。
ナディルの美しい黒い瞳が露わになり、ランドルフは一瞬たりとも目が離せない。
風が止み、急いで前髪を整えるナディル。
そしてそのナディルの様子を食い入るように見つめていたのはもちろんランドルフだった。
長年探していた番がナディルだということや、これから先共に生きていきたいということを。
人間が獣人の番になるのはそう珍しいことではない。
人間と獣人が共に暮らすようになって幾年が過ぎただろうか。
その特徴が表に現れていないだけで、どの人間にだって獣人の血が少なからず混ざっている。
番特有の甘い匂いだって、感じることができる人間もごく僅かだが存在すると聞く。
残念ながら、ナディルは該当しなかっただけで。
ランドルフの話の途中、店のバングルを見にきた客もいたようだがランドルフの後ろに控えた護衛三人に睨まれるとそそくさと離れていった。
(営業妨害に姉弟は気づかない────)
ナディルは終始困惑顔だったが、一方サーシャは今まで割と透かし顔だったランドルフの挙動がおかしくてたまらない。
番を目の前にするとこの獅子も一人の男になるわけだ。
なんと甘い豹変ぶり。
「ご、めんなさい・・・俺は・・・わから、ない・・・です・・・」
「当然だ。でも、間違いなくナディルが俺の番なんだ。」
「そ、そう、ですか・・・」
「まずはナディルに俺のこと知ってほしい。あと・・・頼みがある。聞いてくれるか?」
心配そうな表情を浮かべるナディルにランドルフは出来るだけ優しい声で話しかけた。
獣人に強い苦手意識がある上に番だと急に言われても困惑するだろうと分かっていた。
だが、みすみすこのまま逃そうなんてこれっぽっちも考えていない。
他の獣人から手を出されないようランドルフは作戦を考えていた。
「内容次第、です、けど・・・何でしょうか?」
「その首飾りはそのまま持っていて欲しい。実は君のために作ったんだ。」
「っ、こ、こんな高そうなもの、貰えない、です!」
「・・・気に入らなかったか?なら、他のものを用意しよう。」
「ちちちち違います!と、ても素敵なもの、だと思い、ます・・・俺には勿体ない、ってことです・・・」
「そんな事は無い!君にとても似合っている!その鎖が映える細く白い首!何とも美しい・・・っ!早く指輪も準備したいところだがまずは父上に挨拶を────」
「ランドルフ様、ナディル様が固まっておいでですよ。」
「・・・ああ、す、すまない。話ができるのが嬉しくて・・・っ、と、とにかく、どうか受け取ってほしい。」
「・・・っ、わかり、ました。あ、ありがとう・・・ございま、す・・・?」
ランドルフはほっと息を吐く。
とりあえず受け取ってくれるようだ。
そしてサーシャはそんなランドルフに終始ニヤニヤが止まらない。
美しい男が困っている顔はこんなにも楽しいのか、と新しい扉が開きそう。
そんなサーシャのニヤけ顔を他所に、ランドルフがまた口を開いた。
「ナディル、あとこれも・・・頼みなんだが、君が身につけている物で・・・何か譲ってもらえないだろうか。」
「お、俺の、ですか?そんな上等な物持ってないです!」
「君の匂いがする物なら何だって、」
「コホンッ、ランドルフ様。」
「・・・・・・失礼した。だが、本当に・・・ナディルの物なら何でもいいんだ。頼む。」
「・・・!?」
懇願する目でナディルを見つめるランドルフ。
番って色々大変なんだな、とナディルは思い────本当はその程度で済む問題でもない────一方でランドルフはナディルを身近に感じたいがために必死。
ナディルは熟考したのち「あっ」と声を上げ、着ていた長袖シャツの袖を捲った。
予期せぬ形で白肌が露わになり、ランドルフは思わずごくりと喉を鳴らす。
だが、そんな姿をナディルに見られては大変だと慌てて咳をして誤魔化した。
「こ、これでも、いいですか?俺が何年か前、から、付けてるバングル・・・なんですけど。」
「・・・とても綺麗だ。」
「・・・っ、ありがとうござい、ます・・・!練習で作ったやつで・・・彫りはうまくない、けど、き、気に入ってて・・・」
ナディルが差し出したのは自分の腕に付けていたバングルだった。
ずっと付けていたことがすぐにわかるほど、金属の色がくすんでいる。
ランドルフは伸ばした自分の手が微かに震えていることに気づかないふりをしてバングルを手にとると、自分でもおかしくなるくらい口角が上がるのがわかった。
「ありがとう・・・本当に嬉しい・・・!言い値で買おう。」
「お、お代なんて、いただけません!そ、それに、先日の、お釣りもあります!」
「・・・では、このバングルはありがたくいただこう。あと、先日の釣りで俺に似合いそうなバングルを一つ見繕ってほしいんだが、頼めるか?」
「あ、えっ、俺が、選んでいいんですか?そ、そうです・・・ね・・・えっと・・・」
そう言うと目の前のバングルを真剣な顔で見始めた。
ランドルフに合うものを選んでいるらしい。
ここぞとばかりに、作り手の血が騒ぐ。
ランドルフはナディルのその顔だけで十分価値がある、と内心興奮していたが、もちろん顔には出さなかった。
だが尻尾は素直なものでまたゆらゆら揺れている。
そしてサーシャは目敏くそれに気づき、また静かに笑った。
「・・・えっと、こ、これ、どうでしょうか・・・?」
ナディルが選んだのは大きな大木が緻密に彫られたバングルだった。
「ランドルフさんからは力強さを感じるので、こ、これが、いいかな、と・・・・・・好みじゃ、なかったら他のもありま、」
「これがいい。ありがとう・・・大事にする。」
ランドルフはナディルからそのバングルを受け取るとすぐ腕にはめた。
あまりの嬉しそうな顔にナディルもつられて笑う。
ちょうどふわっと風が吹いてナディルの髪が大きく揺れた。
ナディルの美しい黒い瞳が露わになり、ランドルフは一瞬たりとも目が離せない。
風が止み、急いで前髪を整えるナディル。
そしてそのナディルの様子を食い入るように見つめていたのはもちろんランドルフだった。
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