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まめな男
しおりを挟むランドルフの猛アタックが始まった。
ナディルは基本露店に顔を出すことはない。
人見知りも獣人見知りもそう簡単に変わらない。
だからランドルフは毎日手紙を書いた。
自分のことを知ってもらうためと、ナディルのことを教えてもらうためである。
ランドルフが露店に顔を出せない日は護衛の誰かに手紙を渡し、店まで届けてもらった。
「あいつ意外とマメな男よね」とサーシャは呆れていたが、ランドルフは手紙を書くのをやめなかった。
一方ナディルはランドルフからの手紙に返事を出せなかった。
番と言われてもナディルにはこれっぽっちも分からない。
気まぐれに返事を出して、変に気を持たせるのも良くないと考えた。
しかし、手紙は毎日届く。
ランドルフの生い立ちやその日あったこと、流行りの菓子や演劇のこと。
そして、ナディルに会いたくてたまらないということ。
手紙の最後にはあのナディルが選んだバングルの大木に似た木が必ず描かれていた。
決してうまいとは言えない絵だったがナディルにはそれが何かすぐに分かった。
大木の絵を見るたび、ナディルの中で何かが芽生えるような気がした。
----------------
一方通行の手紙が三ヶ月ほど続いた頃、サーシャが風邪をひいた。
いつものように露店の店番をしていた時、突然雨が降ってきた。
この地域は雨があまり降らない。
雨具になるようなものを持っておらず、バングルを守るためサーシャはびしょびしょに濡れてしまい、翌日熱が出た。
滅多に体調を壊さないサーシャの熱にナディルはかなり狼狽えた。
しかし「店は開けてこい」とサーシャから言い付けられ、渋々、露店に向かった。
「ナ、ディル・・・?」
「あ・・・ここここんにちは・・・ランドルフ、さん・・・」
いつものようにナディル宛の手紙をサーシャに届けに来たランドルフの目の前に、ナディル本人がちょこんと座っている。
ランドルフはついに幻覚が見え始めたのか、と何度か瞬きをしたが、何度見てもそこに座っていたのは愛しいナディルだった。
黒髪のゆるい癖毛、白く細い四肢、柔らかそうな頬、そして首にはランドルフが送ったあの首飾り。
首飾りを外さずに付けていてくれていた事実に思わずランドルフは舞い上がりそうになったが、ナディルの近くに番犬がいないことに気付き、慌てた様子でナディルの元へ駆け寄った。
「サーシャはどうしたんだ?ま、まさか一人でここに?!」
愛しい番がまさか一人で店番だなんて!と内心慌てふためいて、抑えが効かないランドルフはナディルに詰め寄った。
ナディルはその勢いにビクッと体を震わせながらもサーシャが熱を出したことを必死に伝えた。
「あの元気が取り柄のサーシャが?それは大変だ。医者を手配しよう。家に案内してくれ。」
「あ、え、い、医者なんて、そんな・・・」
「大事なナディルの姉だ。何かあっては困る。それに人の好意はありがたく受け取るようにしなさい。分かったか?」
ランドルフは力強く、そして優しく微笑んで、恐る恐るではあったが自分の大きな手をナディルの頭にそっと乗せた。
壊れやすいものを触るように、ゆっくり、ゆっくりと撫でる。
そんなランドルフにナディルは思わず、ふふ、っと笑いをこぼした。
笑い出したら止まらなくなって、肩を揺らし、小さくだが笑い続けている。
ランドルフは突然小さく揺れ出したナディルに驚いて、急いで頭から手を離した。
「わ、悪い。怖かった・・・だろう。気安く触ったりしてすまない。」
「ふっ、ふふ、ちがいま、す。俺、そ、そんなに、か弱く見えるのかなって・・・ふふっ、ふっ、」
「・・・・・・ナディルが大事なんだ。」
ナディルの言葉にランドルフはむす、っと顔を顰めた。
立派な耳もピンと張って外を向いているように見える。
確かこれはちょっと怒ってる時の耳────!
ナディルはランドルフにそっとを手を伸ばし、そろり、そろり、と頭を撫でた。(かなり遠慮がちに)
「・・・お、怒りましたか?お、俺、そんなにか弱くない、ので、普通に触っても壊れません。笑っちゃって、ごめんなさい。」
「・・・・・・・・・・・・もっと撫でてくれるなら許す。」
「ふっ、ふふ、はい。わかりました。ふふっ、」
ナディルはその後しばらくランドルフの頭を撫で続けた。
ランドルフが満足することはなかったが────欲深い男────そろそろナディルの腕が疲れてきた頃、どこからともなく現れた護衛ザックと医者のおじ様と共に、森の中の自宅へと帰った。
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