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渡された紙を持ち私は誰にも気付かれないようにこっそりと部屋に戻った。
この紙を書いた張本人である侯爵様は私でも知っている程とても有名な人物。
侯爵様は確か“アンドレイ・グリフィード”と言い、グリフィード侯爵家は代々優秀な宰相や文官を輩出してきた名門中の名門貴族である。
そして、グリフィード侯爵家の男性達は多くの愛人を囲っていることでも有名。
この紙を書いた侯爵様はその中でも特に愛人の数が多いいと聞く。
噂には愛人に何人もの子供を産ませ、子供を産んだ愛人は子供と共に侯爵様が住む大きな大きな御屋敷で正妻や他の愛人と共に住むことになるらしい。
その為女性の誰が一番寵愛を受けてるかの言い争いや、新入り愛人へのイビリが止まらないらしい。
私は正直そんな家には嫁ぎたくもない。
今回、侯爵夫人が亡くなってしまったと言うことで、次は誰が侯爵夫人になるのか争っているのが目に見える。
余計嫁入りなどしたくない。
だけれども、この紙に書いてある慰謝料は家を売ろうが領地を売ろうが到底貧乏男爵家では払いきれない金額。
もう私が嫁ぐことは決定事項のようなもの。
諦めることしか私にはできない。
紙を握り締め眠りに着いた。
◆◆◆
翌朝父の叫び声で目が覚めた。
母の叫び声で目が覚めることは以前にも何度かあったけれど、父の叫び声で目が覚めてしまったのは初めてだった。
元々空気のような無口で母の言うことに頷くだけだった父が声を出すどころか叫んでいるのが本当に珍しくてこっそり扉に耳を当て盗み聞きをした。
『お前という奴は...ざけるな!』
『...を裏切れば気が済むんだ!!!』
『何故......を出すんだ!!』
『ふざけているのか!!.....母親か!!』
『.....阿婆擦れが!!』
途切れ途切れで聞こえてきたそれは母への恨み節のようなものばかりだった。
それに時々父の言葉に混じって使用人の悲鳴も聞こえてきた。
恐らく手を上げたのだろう。
「ドンッ」という何かが壁にぶつかった音が使用人の悲鳴の前に聞こえてきた。
父が母を阿婆擦れと罵った所で扉から耳を離し、ベッドへと戻った。
私の目には父と母は仲良く見えた。
よく話をしているし、二人でよく兄を褒めちぎったりプレゼントを上げたりとしていた。
少なくとも仲は悪くはなかったと思う。
だけれども、兄が帰ってきた翌日に父は母を罵り、その上手まで上げた。
一体何があったのか。
「ん?」
ベッドに大の字に寝転がった時手に何かが当たった。
手の方を向くと昨日握り締めて眠ってしまった紙がそこにあった。
ぐしゃぐしゃになった紙を手に取りもう一度一枚目から目を通す。
カーテンの隙間からこぼれる朝日をロウソクの灯りがわりに一文字一文字目でなぞっていくとある事に気づいた。
三枚目の紙の裏に何かが書いてあった。
昨日は夜中にロウソク一本の灯りを頼りに眠い目をこすりながら読んでいたので全く気づかなかった。
紙の裏には表に書かれていること以上に衝撃的な事が書かれてあった。
兄が人妻と不倫した事や私が嫁がなくてはいけなくなるかもしれない事よりも、もっと酷い。
三枚目の裏には兄の出生の事や兄と母の秘密が書かれていた。
兄は母と父の間にできた子供では無かった。
この紙に書かれていることが本当だとしたら兄は母と祖父の子供らしい。
母は祖父目当てでこの家に嫁いで来て祖父が亡くなるまで不倫関係にあったと。
祖父は兄が産まれた年にはまだ生きていたらしいけれど、私が産まれる三年程前に流行病で亡くなっている。
そして、母は祖父が居なくなってしまってからは祖父から得るはずだった愛情を祖父との間に生まれた兄を祖父の代わりとし、深く愛し合っていたらしい。
気持ち悪い。
胃の中には胃液しか入っていなかったけれど、胃の中に入っていたもの全てが口の中に押し寄せてきた。
急いで手で抑えたけれど、間に合わずに口から溢れてしまった。
吐いた瞬間に母と兄が話していた光景が頭に鮮明に浮かんできた。
目を合わせ、頬を朱に染めて話す様はまさに恋人のよう。
母の愛おしそうに兄を呼ぶ甘ったるい声。
その声に応える兄の得意げに笑う顔。
何故、私は二人の関係に気づかなかったのだろう。
今思い出したら恋人の様にしか見えないというのに。
嗚呼、気色悪い。
胃の中のもの全て出し切ったはずなのに、また吐き気がする。
胃がひっくり返って口から飛び出してしまいそう。
そもそも、祖父とも不倫関係にあったというところから可笑しい。
祖父とは会ったことは無いし、あまり話を聞かなかったからどんな人かは分からない。
けれども、私は祖母にはとても可愛がられていた。
いつも優しく話しかけてきてくれて、頭を撫でてくれて、絵本を読んでくれた。
両親がしてくれない事を全て祖母がしてくれた。
そんな優しい祖母を傷付けて祖父と如何わしい関係にあった母が人間ではない何かに思えてしまう。
そんな母から産まれてきた私自身も今すごく気持ち悪くて仕方がない。
さっきから腕を掻く手が止められない。
例え血が滲んできても、爪に肉が抉られようと止まらない。
自分がすごく汚れているように見えて反吐が出る。
今すぐ消えてしまいたい。
もしよろしければ感想や評価よろしくお願い致します┏○┓
この紙を書いた張本人である侯爵様は私でも知っている程とても有名な人物。
侯爵様は確か“アンドレイ・グリフィード”と言い、グリフィード侯爵家は代々優秀な宰相や文官を輩出してきた名門中の名門貴族である。
そして、グリフィード侯爵家の男性達は多くの愛人を囲っていることでも有名。
この紙を書いた侯爵様はその中でも特に愛人の数が多いいと聞く。
噂には愛人に何人もの子供を産ませ、子供を産んだ愛人は子供と共に侯爵様が住む大きな大きな御屋敷で正妻や他の愛人と共に住むことになるらしい。
その為女性の誰が一番寵愛を受けてるかの言い争いや、新入り愛人へのイビリが止まらないらしい。
私は正直そんな家には嫁ぎたくもない。
今回、侯爵夫人が亡くなってしまったと言うことで、次は誰が侯爵夫人になるのか争っているのが目に見える。
余計嫁入りなどしたくない。
だけれども、この紙に書いてある慰謝料は家を売ろうが領地を売ろうが到底貧乏男爵家では払いきれない金額。
もう私が嫁ぐことは決定事項のようなもの。
諦めることしか私にはできない。
紙を握り締め眠りに着いた。
◆◆◆
翌朝父の叫び声で目が覚めた。
母の叫び声で目が覚めることは以前にも何度かあったけれど、父の叫び声で目が覚めてしまったのは初めてだった。
元々空気のような無口で母の言うことに頷くだけだった父が声を出すどころか叫んでいるのが本当に珍しくてこっそり扉に耳を当て盗み聞きをした。
『お前という奴は...ざけるな!』
『...を裏切れば気が済むんだ!!!』
『何故......を出すんだ!!』
『ふざけているのか!!.....母親か!!』
『.....阿婆擦れが!!』
途切れ途切れで聞こえてきたそれは母への恨み節のようなものばかりだった。
それに時々父の言葉に混じって使用人の悲鳴も聞こえてきた。
恐らく手を上げたのだろう。
「ドンッ」という何かが壁にぶつかった音が使用人の悲鳴の前に聞こえてきた。
父が母を阿婆擦れと罵った所で扉から耳を離し、ベッドへと戻った。
私の目には父と母は仲良く見えた。
よく話をしているし、二人でよく兄を褒めちぎったりプレゼントを上げたりとしていた。
少なくとも仲は悪くはなかったと思う。
だけれども、兄が帰ってきた翌日に父は母を罵り、その上手まで上げた。
一体何があったのか。
「ん?」
ベッドに大の字に寝転がった時手に何かが当たった。
手の方を向くと昨日握り締めて眠ってしまった紙がそこにあった。
ぐしゃぐしゃになった紙を手に取りもう一度一枚目から目を通す。
カーテンの隙間からこぼれる朝日をロウソクの灯りがわりに一文字一文字目でなぞっていくとある事に気づいた。
三枚目の紙の裏に何かが書いてあった。
昨日は夜中にロウソク一本の灯りを頼りに眠い目をこすりながら読んでいたので全く気づかなかった。
紙の裏には表に書かれていること以上に衝撃的な事が書かれてあった。
兄が人妻と不倫した事や私が嫁がなくてはいけなくなるかもしれない事よりも、もっと酷い。
三枚目の裏には兄の出生の事や兄と母の秘密が書かれていた。
兄は母と父の間にできた子供では無かった。
この紙に書かれていることが本当だとしたら兄は母と祖父の子供らしい。
母は祖父目当てでこの家に嫁いで来て祖父が亡くなるまで不倫関係にあったと。
祖父は兄が産まれた年にはまだ生きていたらしいけれど、私が産まれる三年程前に流行病で亡くなっている。
そして、母は祖父が居なくなってしまってからは祖父から得るはずだった愛情を祖父との間に生まれた兄を祖父の代わりとし、深く愛し合っていたらしい。
気持ち悪い。
胃の中には胃液しか入っていなかったけれど、胃の中に入っていたもの全てが口の中に押し寄せてきた。
急いで手で抑えたけれど、間に合わずに口から溢れてしまった。
吐いた瞬間に母と兄が話していた光景が頭に鮮明に浮かんできた。
目を合わせ、頬を朱に染めて話す様はまさに恋人のよう。
母の愛おしそうに兄を呼ぶ甘ったるい声。
その声に応える兄の得意げに笑う顔。
何故、私は二人の関係に気づかなかったのだろう。
今思い出したら恋人の様にしか見えないというのに。
嗚呼、気色悪い。
胃の中のもの全て出し切ったはずなのに、また吐き気がする。
胃がひっくり返って口から飛び出してしまいそう。
そもそも、祖父とも不倫関係にあったというところから可笑しい。
祖父とは会ったことは無いし、あまり話を聞かなかったからどんな人かは分からない。
けれども、私は祖母にはとても可愛がられていた。
いつも優しく話しかけてきてくれて、頭を撫でてくれて、絵本を読んでくれた。
両親がしてくれない事を全て祖母がしてくれた。
そんな優しい祖母を傷付けて祖父と如何わしい関係にあった母が人間ではない何かに思えてしまう。
そんな母から産まれてきた私自身も今すごく気持ち悪くて仕方がない。
さっきから腕を掻く手が止められない。
例え血が滲んできても、爪に肉が抉られようと止まらない。
自分がすごく汚れているように見えて反吐が出る。
今すぐ消えてしまいたい。
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