愛さないで

くるみ

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最初から侍女視点です

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 太陽が真上がのぼる少し前、ソファーに腰掛けシャーロット様と本を読んでいた時だった。部屋の扉を叩いた音が響いた。
 返事をするとリージアが入ってきた。
 茶色い髪を高く縛り制服を着崩すことなくピシリと着て両手には大きめの旅行に行く時のような鞄を持ってきていた。
 一体何を持ってきたのやらと少し困惑しながらもこちらに招き寄せシャーロット様に紹介をした。


「こちらが先程話したリージアです」
「お久しぶりです、シャーロット様。今日からロレーナさんがいない少しの間ご一緒させて頂くことになりました、リージアと申します!  まだまだ未熟者ですがどうぞよろしくお願い致します!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」


 私には眩しいぐらいの元気一杯の挨拶をした。
 シャーロット様はその元気に少し押され気味になったが、笑顔のまま返事を返した。
 元気一杯のリージアと大人しいシャーロット様が合うのか少し不安に思っていたけれどもそれも杞憂に終わった。

 リージアは自己紹介を済ませると落ち着きが無い様子で床に鞄を置き粗く開いた。
 その鞄の中からはなんと溢れんばかりの人形や絵本、それにアクセサリー等など。
 どれも女の子が好きそうな物ばかり詰め込んでいて、ソファーの上から覗き込んでいたシャーロット様も目をまん丸にして興味深そうにしている。


「私の部屋にあったものを持ってきてみたのですが、何か気になるものありますか?」


 リージアが適当に人形や絵本を取り出しシャーロット様に問いた。
 シャーロット様はオロオロしながらも一冊の本を指さした。


「コレが、少しどんな本なのかなって……」
「コレですか!?  私この本大好きなんです!!  すごい! 
 シャーロット様見る目ありますよ!」


 目をきらきらさせて興奮気味に語るリージアと、最初リージアの変貌ぶりにビックリしながらもきちんと合図値を打ちながら聞くシャーロット様を見て自然と笑みが零れた。

 リージアも来た事だし、二人に別れを告げて部屋を出た。
 あの子達ならきっと大丈夫。

(私も頑張らなくちゃ)

 頬を叩き気合いを入れてから裏口から出て、駆け足で厩舎へ向い足が早くて体力のある馬を一頭借りた。
 乗馬はあまり得意でないし、こんなに大きい図体をした動物は少し怖くてあまり触れなかった。
 まさかこの歳になって苦手を克服しなければならない事があるなんて誰が想像したことか。それも乗馬だなんて。

 足首まであるスカート丈の制服で馬に乗るのはかなり大変だったが少し切込みを入れれば何とかいけた。
 手網を握り締め馬を走らせた。
 流石国一番の名門貴族が所有している馬だけある。
 速さが今まで乗った馬とは段違い。少しでも気を緩めたら振り落とされそうになる。
 王宮までおよそ二十km。この速さのまま行くならば差程時間はかからなそう。


 私の予想は正しく太陽がまだてっぺんにいる時に王宮に着いた。
 王宮には主に三つの入口がある。
 一つは貴族などの高い身分の者が入る入口。
 二つ目は王宮で働いている者の入口。
 三つ目は貴族ではない平民の入口。

 私は貴族でもなければ王宮でも働いていないので、三つ目の入口に向かうが、まぁこれが遠い遠い。
 さらに、着いた所で鎧を身にまとった王宮騎士が数名門番をしている。
 王宮に入るにはそれ相応の理由がなければ入れないし、大体の人が門番に要件を伝えて帰ってしまうので私が知っている限りこの門をくぐった人は居ない。

 が、そんな事考えている暇はない。
 門の方へ歩き門番の前で止まった。いや、止められた。


「何をしに王宮へ」
「少し王宮で働いている御方に用がありまして」
「誰だ?」
「ロゼ・グリフィード様です」
「お前とロゼ様はどういう関係だ?」
「私がグリフィード家で侍女として働かせて頂いております」


 ロゼ様の名前を出すと門番の顔が一気に険しくなった。
 確かに制服を着ているとは言っても泥が跳ねまくって前が破れていてボロボロ。
 そんな女があのグリフィード家の侍女だと言うのはにわかには信じ難いらしい。



「訳ありか?」


 少し間が空いた後突然聞かれた。
 その言葉に頷きを返すと門の横にある小屋のような部屋へ連れていかれた。
 部屋の中は机とベッドが一つ、恐らく門番が使う休憩所の様な場所なのだろう。


「何かロゼ様に渡すものはあるか?」


 門番にそう聞かれ一応会えなかった時ように持ってきていた手紙をポケットから取り出してそれを門番に渡した。
 やはりロゼ様には会えないのかと落胆してしまったが、どうやら私のその考えは間違ってたらしい。


「一応ロゼ様にお前が来ている事は伝えるがロゼ様がここに来るかは分からない。あの人はお忙しいからな。少し待ってろ呼びに行ってくるから」


 くれぐれも期待するなよとお気言葉を残して飛び出して言ってしまった。
 門番が出ていってからは特に何もすることが無く、ただただ窓の外にいる馬を眺めているだけだった。

 それからどれくらいしたのだろう、日が少し落ちかけて来た時だった。
 もう駄目かと、会えないかと諦めかけてしまった時に勢いよく部屋の扉が開いた。

 開いた扉から見えるたのはさっきの門番と、数年ぶりに見たロゼ様だった。

 ロゼ様を見た瞬間安心したのか涙が溢れてしまった。
 シャーロット様が屋敷に来た時から私は涙脆くなってしまった気がする。

 泣いている私にビックリしてしまったのか、二人ともかなり慌てて私を慰めてくれた。
 二人の甲斐あって直ぐに泣きやめ呼吸を整えた。

 ロゼ様は私が泣き止んだのを確認すると門番を払い、部屋に二人きりの状態にしてくれた。
 門番が出ていき一番に口を開いたのはロゼ様だった。


「あの手紙に書いてあることは本当か?」
「はい。全て本当です」


 シャーロット様が嫁がれてからの事、その嫁がれる前の事。私が知っていること全てを話した。
 話すにつれロゼ様は眉間に皺を寄せ目を釣りあげていった。



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