ラヴソングと君の嘘

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序章

ある夜の序曲

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 夜の裏路地に悲鳴がひとつ、響いた。

「やばいやばいやばいやばいやばい!!」
 そう叫びながら、後ろから迫る刃物を持った女性から逃げる有馬は、しかしビルによって退路を絶たれることとなった。
「ちょ、マジやばいって…...お姉さん、正気?ほら、武器おろそうぜ、な?」
ゆらゆらと迫り来る危機に、汗を垂らして必死に説得を試みるも、女性は聞く耳を持たない。
「くっそ……てか、女王様はどこで何やってんだよ!?さっさと助けに来いっての!」
 自身の協力者パトロンである「女王様」の助けを求めるも、その声は届かず、女性は手に持った刃物を振りかざす。
 有馬が本格的に死を覚悟した、刹那、
「ああああ!!」
 乾いた銃声。そして耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
 目の前で苦痛を訴える女性の手からはナイフが滑り落ち、赤い血が溢れ出す肩を抑えて地面にしゃがみこんだ。動かないから、気絶したのだろう。
「……助かった……」
 ほっと息をつく。
 有馬が銃声がしたほうを見上げると、黒いコートを羽織った、母親くらいの年代の女が、拳銃を片手に飛び降り、華麗に着地した。
「遅えんだよ、女王様。ほんとに死ぬかと思った」
「間に合ったんだから文句を言うな、小僧」
 クールビューティという言葉が良く似合う、美しい顔立ち、ひとつにまとめられた黒い髪。
 海外セレブのような風貌の「女王様」は、しかしその見た目に見合わず口が悪く、かなりの上から目線だ。
 「女王様」は、右手に握られた拳銃を肩にかけて、地面に倒れ込む女性を見下ろした。
「それで、この女はいったい何だ?とりあえず、死なないようには撃ったが」
「今回の依頼人クライアントのストーカー。調査中に気付かれちゃってさぁ?とりあえず、今夜の記憶はなかったことにしてもらえる?」
 命の危険を間一髪回避したばかりなのに、へらへらと笑う有馬に、「女王様」は深くため息をつく。
「阿呆。おまえ、私がいるからいいやとかいってまた無茶をしたのだろう。迷惑だからやめろと何度いえば分かる」
「いやー、でもさ、決定的証拠を掴めたのは無茶したおかげだからさ?そのために、あんたを雇ったんだから」
 有馬はひらひらとUSBメモリを顔の近くで振ってみせる。
「この中に依頼人の部屋を盗聴、盗撮したデータが入ってる。これで依頼完遂だ。あとは、俺のことは君には忘れてもらうよ」
 そう言って、少し笑いながら、横目で倒れる女を見た。
「じゃ、お願いできます?女王様」
 綺麗な笑顔で笑いかけると、またため息をつかれた。
 そして女王様は銃口を女性に向けた。
「今夜あったことは、全部忘れろ」
 そう告げて、引き金を引いた。

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