ラヴソングと君の嘘

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第一章

白い季節の依頼人


 有馬探偵事務所に流れるラジオからは、人気絶頂中の歌手、成瀬あんりの曲が流れていた。
『成瀬さんの銀髪、とても綺麗ですよね。地毛ですか?』
『あはは、ありがとうございます。染めてますよ。元は真っ黒なんです。デビューするときに、思い切って染めちゃいました。でも、綺麗でしょ?すごく気に入ってるんです』……。
 ラジオから流れる成瀬あんりの綺麗な声。丁寧な対応。
 有馬は芸能人というものにさして興味はないが、成瀬あんりに関してはファンといっても過言ではなかった。
 笑い声、笑顔。とにかく彼女の笑い方が好きだ。
 歌もいい。人を魅了する声をしている。
 成瀬あんりは非常に目立つ。ラジオでも言っていたとおり、一際目を引く長い銀色の髪は、きっと通りを歩けば誰もが「彼女だ」と気づくだろう。
 軽いトークが終わり、次に流れ出したのは今の季節にぴったりな彼女の新曲、『雪の降る街』だ。
 昨晩の事件の資料を整理しながら、曲に合わせて小さく鼻歌を歌っていると、カランコロン、とドアの開く音が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
 パソコンを叩く手を止め、ドアの方を見ると、
「あの……有馬探偵事務所、であってますか?」
 おずおずと、手に持った鞄を握りしめて小さな、しかし綺麗な声で尋ねる若い女性。
「……成瀬あんり?」
 髪は黒かったが、声は成瀬あんりそのものだった。
「えっ」
 少女は驚いたような声を上げる。
 普段の銀髪とは違って黒い髪、バレないと思った、というよりも、今までもバレたことはなかったんだろう。
「黒髪はウイッグかな?メイクの仕方も変えてるんだ?でも俺の目……というか耳は誤魔化せないよ。なんたって、探偵だから」
 にっこりと笑いかける。
 そう、俺は探偵だ。一般人と一緒にされちゃ困る。
「脱帽です……」
 成瀬あんりは、参りました、というように苦笑い。
 それから、有馬にしっかりと向き合って、微笑んだ。
「探偵さんに依頼するのはこれで3度目なんです。今までの2社は、私の名前を聞くまで私が『成瀬あんり』だと当てることはできませんでしたし、依頼の方も……。でも、貴方のことは、信じてみようと思います」


「それで、依頼に関してなんですけど」
 成瀬あんりをソファーに座らせ、コーヒーを入れて持っていく。
 一口飲んで、成瀬あんりは話し始めた。
「兄を、探して欲しいんです」
「兄?」
「三年前に家を出て以来、消息不明で」
 そういって成瀬あんりは、桃色のおしゃれな鞄から、小さな茶封筒をとりだした。
「お兄さんがいなくなったのは、三年も前なんですよね。どうして突然?」
 コーヒーを片手に尋ねると、詳しくはちょっと、と苦笑い。
「これ、兄の写真です」
 きっと高校の卒業アルバムか何かを印刷したんだろう。三人の男子高校生の笑う楽しそうな写真から、成瀬あんりが指さした黒髪の少年は、友人達に肩を組まれ、ピースをしながらも、ひとり、少し困ったような笑顔を見せていた。
「写真、他にはないですか?」
「私も兄も写真を撮る人じゃなかったので……兄の友達に聞けばあるかもしれませんが、私は兄の交友関係も知らなくて」
 妹が兄の交友関係を知らないとなると、たしかに調査は少し難航するかもしれない。
 兄だという人の顔は、さすが成瀬あんりの兄だ、綺麗な顔立ちをしているが、特にこれといった特徴があるわけでもない。そのあたりに普通に歩いていそうなタイプのイケメンだ。
 だが、この写真が高校の卒業アルバムだとしたら、希望は大いにある。
 逆になぜ、今まで2社の探偵社がこの依頼を達成できなかったのか不思議なくらいだ。
「わかりました。では、あといくつか、お兄さんについて、おしえていただけますか?」
 姿勢を正してそう言うと、成瀬あんりは、はい、とにっこりと微笑んだ。
 

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