2 / 2
第一章
白い季節の依頼人
有馬探偵事務所に流れるラジオからは、人気絶頂中の歌手、成瀬あんりの曲が流れていた。
『成瀬さんの銀髪、とても綺麗ですよね。地毛ですか?』
『あはは、ありがとうございます。染めてますよ。元は真っ黒なんです。デビューするときに、思い切って染めちゃいました。でも、綺麗でしょ?すごく気に入ってるんです』……。
ラジオから流れる成瀬あんりの綺麗な声。丁寧な対応。
有馬は芸能人というものにさして興味はないが、成瀬あんりに関してはファンといっても過言ではなかった。
笑い声、笑顔。とにかく彼女の笑い方が好きだ。
歌もいい。人を魅了する声をしている。
成瀬あんりは非常に目立つ。ラジオでも言っていたとおり、一際目を引く長い銀色の髪は、きっと通りを歩けば誰もが「彼女だ」と気づくだろう。
軽いトークが終わり、次に流れ出したのは今の季節にぴったりな彼女の新曲、『雪の降る街』だ。
昨晩の事件の資料を整理しながら、曲に合わせて小さく鼻歌を歌っていると、カランコロン、とドアの開く音が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
パソコンを叩く手を止め、ドアの方を見ると、
「あの……有馬探偵事務所、であってますか?」
おずおずと、手に持った鞄を握りしめて小さな、しかし綺麗な声で尋ねる若い女性。
「……成瀬あんり?」
髪は黒かったが、声は成瀬あんりそのものだった。
「えっ」
少女は驚いたような声を上げる。
普段の銀髪とは違って黒い髪、バレないと思った、というよりも、今までもバレたことはなかったんだろう。
「黒髪はウイッグかな?メイクの仕方も変えてるんだ?でも俺の目……というか耳は誤魔化せないよ。なんたって、探偵だから」
にっこりと笑いかける。
そう、俺は探偵だ。一般人と一緒にされちゃ困る。
「脱帽です……」
成瀬あんりは、参りました、というように苦笑い。
それから、有馬にしっかりと向き合って、微笑んだ。
「探偵さんに依頼するのはこれで3度目なんです。今までの2社は、私の名前を聞くまで私が『成瀬あんり』だと当てることはできませんでしたし、依頼の方も……。でも、貴方のことは、信じてみようと思います」
「それで、依頼に関してなんですけど」
成瀬あんりをソファーに座らせ、コーヒーを入れて持っていく。
一口飲んで、成瀬あんりは話し始めた。
「兄を、探して欲しいんです」
「兄?」
「三年前に家を出て以来、消息不明で」
そういって成瀬あんりは、桃色のおしゃれな鞄から、小さな茶封筒をとりだした。
「お兄さんがいなくなったのは、三年も前なんですよね。どうして突然?」
コーヒーを片手に尋ねると、詳しくはちょっと、と苦笑い。
「これ、兄の写真です」
きっと高校の卒業アルバムか何かを印刷したんだろう。三人の男子高校生の笑う楽しそうな写真から、成瀬あんりが指さした黒髪の少年は、友人達に肩を組まれ、ピースをしながらも、ひとり、少し困ったような笑顔を見せていた。
「写真、他にはないですか?」
「私も兄も写真を撮る人じゃなかったので……兄の友達に聞けばあるかもしれませんが、私は兄の交友関係も知らなくて」
妹が兄の交友関係を知らないとなると、たしかに調査は少し難航するかもしれない。
兄だという人の顔は、さすが成瀬あんりの兄だ、綺麗な顔立ちをしているが、特にこれといった特徴があるわけでもない。そのあたりに普通に歩いていそうなタイプのイケメンだ。
だが、この写真が高校の卒業アルバムだとしたら、希望は大いにある。
逆になぜ、今まで2社の探偵社がこの依頼を達成できなかったのか不思議なくらいだ。
「わかりました。では、あといくつか、お兄さんについて、おしえていただけますか?」
姿勢を正してそう言うと、成瀬あんりは、はい、とにっこりと微笑んだ。
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします
柊
ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。
マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。
それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。
※複数のサイトに投稿しております。
いつまでもドアマットと思うなよ
あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
都合のいい女をやめた日、私は空へ戻る
凪ノ
恋愛
自他ともに認める禁欲主義の御曹司と付き合って四年目、彼は今もなお、彼女を拒んでいた。
そこで小林時絵(こばやし ときえ)は母親に電話をかけた。
「お母さん、前に言ってたパイロットの面接、もう手配してもらえる?」
電話の向こうで、時絵の母は驚きを隠せなかった。
「本当なの?でも、海浜市に残って結婚するって言ってたじゃない……あんなに好きだったパイロットの仕事も全部諦めたんじゃなかったの?」
薄暗い光の中、彼が夢中でその女に手を伸ばし、理性を失っていく彼の姿を眺めながら──
時絵は自嘲的に笑った。
──H市に戻れば、また自分のキャリアを取り戻せる。
これからはまた、大空を自由に飛ぶパイロット、小林時絵として生きていく。
不倫に溺れた……惨めな女なんかじゃなくて……