漆黒帝と呼ばれた男 ~異世界から来たのでステータスやスキルはありませんけど、こちらには科学文明の力があるので最強です~

ねこのにくきう

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第一章 謎の組織、異世界へ行く

悪事3 黒竜王の悪夢、遠足編

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 『統領』は空を飛んで移動していた。
 尤も、飛んでいるのは竜で、『統領』は竜の頭の上で胡坐をかいているだけである。

「ボスー、どこまで行くんです?」

「ん? 航空写真だと、もう少し行ったところに大陸があるはずなんだが……」

「じゃ、このまま真っすぐ飛びますねー」

「うむ、頼むぞ、ニッグ。それにしても今日はいい天気だな、遠くまで良く見える」

「飛ぶには絶好の天気ですねー。尤も、僕は何百年もあの島から出たことないんですけどねー、飛び方忘れてなくてよかったです。あはははは!」

「お前さんは、ちと引きこもりが過ぎるぞ……」

「竜なんて引きこもってナンボですよー。うっかり出歩くと、騒ぎになって大変なんですもん。むかーし、襲われたのが頭にきて、1回だけ仕返しに行きましたけど、相手側は国を総出でお祭り騒ぎでしたよ」

「そういうものなのか?」

「そういうもんなんです」

 黒い巨竜が時折羽ばたいて飛ぶ様は荘厳で、頭上では暢気な会話が繰り返されているとは当人たち以外は誰も思わなかった。



 『統領』たちが拠点にしている島から東の方向に大陸にある、ニブルタール王国は未だかつてないほどに騒然としていた。

 王城内では、文官や大臣と思われるような人々が忙しなく走り回り、齎された情報に間違いがないかを確認中のようだ。

「おい! 本当か!? 本当に動き出したのか!? 未だかつて、そんなことは1度もなかったのにか!? 間違いじゃないのか!?」

「は、はい! 間違いではありません。凄まじい魔力波動の拡散を確認しました。あれほどの魔力波動は人間の物では有り得ません。そして、その波動は、徐々に王都に向かってきています!」

「くそっ!? 王に何と報告したらいい……王都破滅の危機、か」

 全てを察したような悲壮感を滲ませる宰相風の男は、腹をくくったようだった。


「真か!? まことに……」

「はい、何度も確認いたしました。間違いはございません」

 王様風の老人に、先ほどまでの内容を報告する宰相風の男。

「黒竜王ニグドヴァギラスが、我が王国に向けて、進行中です……」

 報告を聞いた王様風の老人は、何も言葉を発することができず、豪華に装飾された椅子に倒れ込んだ。

「もしも、もしも王都に飛来したとして、我が王国を守ることは可能か? 全戦力でだ」

「恐らくですが……無理かと思われます。禁書庫に伝来している書物では、黒竜王の息吹は一息で1000人を葬り、地形すら変えたとあります。さらに、鉄製の剣や槍では頑強な鱗を傷つけることすらできず、怒りの咆哮を聞いたものは恐怖に囚われ動けなくなる、と」

「過去、かの魔導帝国は、竜王の島へ討伐隊を繰り出しました。その数は100隻の戦船で5万の兵を運んだと記されていますが、生きて帰った者は一握り。その討伐戦で自慢の戦船は全て沈み、国力の6割以上を失いました。さらには報復として飛来した黒竜王によって帝都は僅か1日で灰燼に帰した、と」

 宰相風の男以外は、誰一人しゃべろうとしない。

「そもそも、現在黒竜王は飛翔して王都に接近中なのです。何が目的なのかもわかりませんが、それでもわざわざ地上に降りてきて、我々を接近させてくれるとは到底思えません。魔導帝国と同様に遥か上空から王都を直接攻撃されてしまえば、我々には為す術が……」

 誰しもが、それが正論だと感じていることだろう。

 正々堂々と、1対1で、などと考えてくれるわけがない。
 相手は騎士ではなく、最強種の竜なのだから。

「現時点を持って、緊急事態を発令する。進行の直線状に位置する各街に緊急伝達、王都の国民には速やかに避難を呼びかけよ。王都守備隊を含む全部隊に出撃待機命令。また対策会議を1時間後に執り行う。各担当を招集せよ」

「真実を、告げてもよろしいのですか? 大混乱になりますぞ」

「それ以外に手があるのか? 真実を隠して、それが公になった場合、今度は暴動だけではすまんぞ? 執政者の信用が失墜するのだからな」

「……承知いたしました」

「かつての、滅ぼされた魔導帝国の二の舞だけは避けねばならぬ……」

 今何をするのが正しいのか、かつてない危機的状況に誰もが頭を悩ませる。



 そんな状況をつゆ知らず、『統領』と黒竜ニッグは海を渡り陸地に到達した。
 今後の方向性を決めるべく、上空をホバリングしながら話し合う。

「写真だと、ここから東の方向に街のようなものがあるみたいだな」

「ボス。お肉が目的なら、その辺の獲物を適当に狩ればいいんじゃないです? わざわざ人間の街とやらに行く必要があるんですか?」

「ニッグよ、それでは必要になるたびに毎回狩りにこなければいけなくなるじゃないか。我々が求めているのは自給自足だ。扱いやすく増やしやすい、そんな生き物が必要なのだよ。そして、欲を言えば世話をしてくれる人も見つけたい」

「へー、皆さん色々考えて生きてるんですねー」

 竜の感性では必要な時に狩ればいいだけなので、家畜として管理するという思考は存在しない。圧倒的強者だからこその脳筋発想で、力技解決ができてしまうからだ。

「そう言えば、お前は何を食べて生きてるんだ? 竜なのに、肉は食わないのか?」

「竜は基本的に何も食べなくても生きていけるのですけど、たまに魔素(マナ)結晶が欲しくなりますね。それ以外には島では気が向いた時に果物をたまに嗜む程度でした。僕はほとんど寝て過ごしていたので、必要になる頻度は低い方だと思います」

「何という不思議生態……それに魔素結晶って何だ……」

「魔素結晶っていうのは、キラキラした石みたいなのですね。島の山の方、僕がネストにしていたところなんですけど、そこを少し掘ると結構すぐに見つけられると思いますよ」

「ほほう、実物を見てみたいな。『参謀』に連絡してサンプル確保しておいてもらうか」

 そう言うと『統領』はどこかに連絡し始めた。無線バンザイである。
 簡潔に、島の竜巣地下に未知の鉱物が存在するとだけ伝えれば、それだけで頭の良い彼女なら理解するだろう。

「ん? あれは何だ?」

「あー、あれはヨロイトカゲですね」

「お前の同類か?」

「違いますよう! 僕はこれでもドラゴンなんですって! 失礼しちゃうなぁ、ぷんぷん」

 上空から目視なのでよくわからないが、複数の人間がトカゲに追われているようだった。
 このまま進めば、後少しで竜の真下を通過するだろう。

「まぁいい、ニッグの仲間でないならば何も問題はないな、お前はここで待っていろ」

 そう言い残すと、『統領』は飛翔する竜の頭から飛び降りた。
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