漆黒帝と呼ばれた男 ~異世界から来たのでステータスやスキルはありませんけど、こちらには科学文明の力があるので最強です~

ねこのにくきう

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第一章 謎の組織、異世界へ行く

悪事8 謎の組織、モフモフなご近所さんと遭遇する

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 定期連絡時点での『参謀』たちの様子はと言うと。

「先ほど『統領』から連絡がありました。現地人と接触、一部交渉中とのこと。また、魔獣と呼称される固有生命体と遭遇し撃破、入手サンプルは後日。経緯は記録にて確認を。取得目標は未達成で進捗中。他、何か不明点や質問、調査依頼があれば私まで、以上」

 『参謀』がチャット機能で話しかけると、3人から即座に了解が返ってくる。

「あ、『怪人』は私のところまで来てください。畑用に切り開いた場所を一部利用して、家畜用の小屋を作ります。あの言い回しだと、恐らく何らかの成果は持ち帰って頂けるでしょうから、計画を前倒ししておきましょう」


 『参謀』と『怪人』が集めてきた木材で小屋を建設していると、

「お前たち! ここで一体何をしている!? まさか、竜神様が島から消えてしまわれたのは、お前たちの仕業か!?」

 森の中から続々と人影が現れた。そして、それらは一様に木で出来た槍を携えていた。

「き……」

 武器を所持した複数の人影に囲まれた『参謀』は、

「きゃーーーーーーー!!!」

 場違いなほど黄色い叫び声をあげた。



 突然『参謀』からの緊急コールを受け取った『教授』と『医者』は首を傾げた。

「何かあったのかな? でも、『怪人』が一緒にいるから問題ないよね?」

「通信を呼びかけているけど、出ない」

 主に外で肉体労働している『怪人』たちと比べると、彼らは基本的に星間航行船内での作業が多く、それ故に、自分たちの足で外を確認しにいくという行動は面倒くさい。
 自分の興味のあること以外のフィールドワークは断固お断り派なのである。

「外部カメラでモニターに映像を出す。『参謀』の座標は……出た」

「あの人、一体何してんの……」

 モニターに映し出されたのは、二足歩行の人影を撫で繰り回している『参謀』だった。
 一方的に拉致された人影はがっちりとホールドされていて逃げ出すことが出来ず、周りの人影たちもどうやって仲間を救出しようか焦っているようだった。

「って、何あれ!? 二足歩行の犬!? おい! 『医者』! 私は外に行くぞ!」

「私はパス、作業の続きしてる。いってらっしゃい」

 くりくりとした円らで大きな黒い瞳、ふさふさで艶やかな金糸のような毛並み。
 『参謀』が撫で繰り回しているのは、二足歩行するゴールデンレトリーバーのような生き物。意外かもしれないが、彼女はメンバーの中で最も可愛いものに目がないのである。


 犬たちは焦っていた。
 女に声をかけたら急に襲い掛かってきて、仲間の1人を奪われてしまった。

「な、なぁ、やめてやってくれ! 仲間を解放してくれ!」

「なぜですか? 先に脅したのはそちらのほうです。しかも、そんな武器を持った大人数で私を囲んでですよ? 私は正当防衛で身を守っただけにすぎません。ええ、これは正当防衛の結果なのです」

「ぐっ、それは……なぁ、そこのあんた、あの女はあんたの仲間なんだろう? あの子を解放するように説得してくれ!」

「無理。『参謀』は一度ああなったらしばらく治らない。あいつの気が済むまで我慢しろ」

「「「そんなぁ……」」」

「おお、絹のような素晴らしい手触りです。このお腹のぷにぷに感も堪りません。余り筋肉質ではないということは狩猟民族ではないのでしょうね。いや、むしろこれは完璧な条件なのではないでしょうか!?」

「あー、しっぽ、しっぽはやめてー!」

 犬たちは全員が木で出来た槍を持ってはいるが、実のところ狩りなんてしたこともなく、ましてや戦闘経験は皆無。彼らの主食は森の植物や木の実。草食系ワンコなのである。
 実際、『参謀』に声をかけた時も足が震え、尻尾が股の間に入り込んだ状態であった。
 竜が住んで外敵のいない島で長年過ごしてきたため、超平和主義者なのである。

「狡いよ、『参謀』! 自分だけそんな良い思いをするなんて! 私も混ぜてくれ!」

「ええ、良いでしょう。しかし、これは正当防衛、不慮の事故なのです。あなたもそのつもりでいるように」

「了解だよ! おお、近くで見ると何という愛らしさ。見る限り、手足は発達していないね、肉球はありか。だとすると、道具を使うことにあまり慣れていないのかな? この島で生活しているのかい? うーん、楽しくなってきた!」

 船からダッシュで向かってきた『教授』は、未知の生物との遭遇に興味津々。早速、『参謀』にホールドされている個体をじっくりと観察し始めた。


 不慮の遭遇から2時間。
 そこには、いじけて蹲る犬がいた。『参謀』にホールドされていた個体である。

「しっぽ、しっぽはやめてって言ったのに……もうお婿にいけない……わうう」

 仲間たちが必死に慰めているが、天敵への不用意な接近によって彼が負ってしまった心の傷は根深い。復活するには少しの時間を要するだろう。

「犬モフ族と言うのですか。なかなかファンシーで素晴らしい種族です。あのトカゲを信仰して、この島に古くから住んでいたようですね」

「島を空から調べた時には、それらしい痕跡が発見できなかったのは残念だったけど、結果オーライかな? 森の中で果物とかを取って生活していたようだから、見落としちゃったんだね」

「まぁ問題ないでしょう。実際に敵対するような生物はいませんでしたし。彼らは非常に友好的な部類に属しますから。良き隣人として、これからも末永く交流すべきです」

 悪いことを考えているとしか思えない顔で話し合う2人を見て、ビクッとする犬モフ族たち。彼らの顔には自ら関わってしまった後悔がありありと浮かんでいた。

「落ち着け、2人とも。犬モフ族たちが怯えている。交流するつもりがあるなら、怖がらせたまま服従させてはデメリットしかない。それは『統領』も怒るだろう。お前たちは、この星に何をしにきたんだ?」

「「はっ!?」」

 『怪人』に諭されて正気に戻った2人は、犬モフ族たちが集まっている方向を恐る恐る見る。すると、案の定、一様に怯えた目で2人のことを見ていたのだった。


 物理的に誤解を解いた『参謀』たちは、犬モフ族たちから事情を聞いた。
 それ以外にも、何を食べているのかとか根掘り葉掘りと聞き出していたが……。

「なるほど、あなたたちはあのトカ…竜神が消えた理由が知りたかったのですね。今は、私たちの仲間の1人と島外へ出かけていますが、もう何日かしたら戻ってきますよ」

「それを聞けて安心しました。では、私たちはそろそろ帰りますね……」

 自分たちが信仰する竜神が戻ってくることを聞いた犬モフ族たちは、目的を果たすことができて自然にフェードアウトして森へ戻ろうとしたが、

「待ちなさい」

 『参謀』によって阻まれると、全員が絶望的な表情になってしまった。

「犬モフ族の人たちにお願いがあります。少し協力して頂けませんか?」

 しかし、急に優しい声で話しかけられると不思議に思い揃って首をコテンと傾げる。
 犬モフ、可愛い。

「みなさん、これからは竜神様のおひざ元で、竜神様のために農業をしてみませんか?」

 農業って何だろう? 犬モフ族たちは疑問に思ったが、竜神様のためならば、と『参謀』の提案を受け入れるのだった。



 そうと決まったら犬モフ族たちの行動は速かった。
 定住するような家を持たない彼らは着の身着のままの生活だ。一度、森に帰って家族たちを連れてくると、それだけで移住が完了してしまったのだ。
 大人と子供を合わせて、総勢で20名弱。
 大小様々な二足歩行のゴールデンレトリーバーたちに『参謀』は歓喜しっぱなしだった。

 すぐさま、計画は変更。
 途中まで作っていた家畜小屋は大幅に改装されて、彼らの住居に早変わりした。

「おとうちゃん、おうちってすごいね! これなら、あめがふってもからだがぬれないし、さむくもないね! すごいね!」

 身体を綺麗に洗われてから、順番に家の中に入っていく犬モフ族たち。
 初めて、雨にも風にも曝されることない住居に大人も子供も興奮を抑えられない。
 家の中で子犬たちが興奮して尻尾をふりふり喜んでいる姿はとても可愛らしい。
 ちなみに、犬モフ族たちは子供の頃は四足歩行、成長して大人になると二足歩行になるらしい。謎の生態である。

 農業というものが何なのか、彼らにはわからないし、不安もある。
 しかし、竜神様の近くで一族が安全に暮らすことができるということを約束してくれた。
 そして、彼らの勘が、この変な格好の人達は悪い人ではないと告げている。愛情表現は少しおかしいかもしれないが……。

 時には人を疑うということも必要だ。だが、こんなにも素直で純粋な一族だからこそ、悪意に曝らされることもなく、今までこの島で細々と生活できていたのかもしれない。
 黒竜王のおひざ元では、悪意を持つ者はすべからく焼き尽くされる運命なのだから。

「『参謀』様、ありがとうございます。それで、農業とはどんなものなのでしょう? 私たちにもできるようなものなのでしょうか……」

 興奮しすぎてお昼寝タイムに突入した子供たちを女たちに任せて、犬モフ族の男たちは『参謀』の元に集まった。

「何も難しいことはありません。森に果実が生っている木があったでしょう? あのようなものをここで育てるだけです。あなたたちは初心者ですが真面目で純粋ですからね、まずはこれから試してみましょう」

 そう言って『参謀』が取り出したのは、赤くて拳2つ分くらいある瑞々しい果実。

「これはアプレットという果実で、早く育ち、たくさん収穫できて、味も栄養価も高いという素晴らしい植物です。ただ、ちょっと変わった特性があって育てるにはコツがいるのが難点ですが……あなたたちなら大丈夫でしょう」

 アプレットは蔓状に育ち、鈴なりに果実をつける。
 高温低温に適応し、痩せた土地や砂漠などあらゆる過酷な環境でも生育が可能だが、という頭のおかしい性質があるため、積極的に増産しようとは思われない残念な植物である。
 しかも、注がれた愛情の量によって成長の度合いも変わり、収穫ペースが増減するという意味不明さなので、とても農業初心者に進めるものではありえない。
 しかし、それらに目を瞑れば、間違いなく神植物であることには間違いないのだ。

「いいですか? この植物は大切に大切に育てられた場合のみ、実を付けることがわかっています。しかし、私たちは過去1度も栽培に成功していません」

 『参謀』の説明を聞いて、犬モフ族の男たちがゴクリと息を呑む。

「これを育てることができたのなら、あなたたちはとても有能な一族ということになるわけです。さすがは、竜神を信仰する誇り高い犬モフ族だと」

 あなたたちには期待している。
 そこにいる犬モフ族たちは、『参謀』の想いを感じ取っていた。皆、真剣な顔して尻尾をふりふりとしている。

(まぁ、実際はそんなに難しいわけじゃないんですけどね。でも、こうやって言っておけば自分たちの仕事に意味を感じられるでしょう。未知の仕事は、きっと不安でしょうし)

「『参謀』様! その役目、俺たちに任せてください! なぁ、みんな! ワオーーン!」

 1人が声をかけると、皆がわふわふわおーんと遠吠えをあげた。

「では、種を渡しておきますので、今日から試してみてください。そのうち水も必要になるでしょうから、今日中にため池を作っておきます」

 それだけを伝えると、犬モフ族たちは早速仲間内で話し合いを始めた。
 農業は初心者でも、もともと森の中で木の実などを食べて生活していた彼らは植物がどうやって育っていくのかは熟知していた。

 それを見て、『参謀』は満足そうにその場を後にした。
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