リアルにファンタジーのほうがやってきた! ~謎の異世界からやってきたのは健気で可愛いモフモフでした~

ねこのにくきう

文字の大きさ
236 / 278
第6章 時の揺り籠

6-33 この場所に拘る理由

しおりを挟む
 リリたちの交流は上手くいっているようだ。
 司が渡したオヤツをきっかけにして、ララとの会話が弾んでいた。

「ねぇねぇリリ、これは何? すっごく美味しい……」

「えへへ、甘いでしょ? これはね、リンゴっていうんだよ。私も大好きなんだから!」

「これ、甘いっていうんだね。うん、すごく甘くておいしい。リンゴって凄いね!」

 何というか、非常に微笑ましい兄妹の会話。
 それを周りで見ているヴォルフとルーヴは満面の笑み、にっこにこである。

「こっちのは何? リンゴとは違うみたいだけど、こっちも甘いね」

「こっちはね、ブドウだよ。これは干したブドウだから甘いよね。でも、木に生ってるときは酸っぱいのもあるから、注意だよ?」

「酸っぱいの? どんなのだろう、そっちのも食べてみたいな」

 リリには誰とでもすぐに仲良くなる能力がある。
 さっき出会ったばかりのララとでも、もう本当の兄妹のように仲良くなっている。
 世界中がララとリリみたいな兄妹で溢れていたら、どんなに平和だろうか。


 方や、源による舞への教育的指導は、明後日の方向へ向かっていた。

「司が子供の頃は寂しがり屋でのぅ。雷が鳴ると、わしの布団によく入り込んできたものじゃった。なのに、今となっては可愛げの欠片もなくなりおってからに」

「ほうほう、やっぱり司さんも可愛い頃があったんですね。いえ、今も時々はそんな片鱗を見せる時があるんですけど」

 随分な黒歴史が暴露されていた。

「おい、じじい。舞に、ある事ない事を吹き込んでんじゃねぇ。第一、それ情緒不安定だった6歳くらいの頃の話だろうが……」

「事実は事実じゃろう? わしにとっては良い思い出よ。現実は無理なんじゃから、孫娘に聞かせる過去の話くらい楽しみにさせてくれてもいいんじゃないかのぅ?」

「まぁまぁ、司さん、良いじゃないですか。それで、他にはどんな話があるんですか?」

 舞が乗り気すぎて、手が付けられないことになっている現実。
 これはもう諦めて、本人たちの気のすむまで放置していたほうがいいのかもしれない。
 暴露会に同席するのは恥ずかしいので真っ平ごめんである。


 正直な話、司は小さい頃の記憶が曖昧だ。
 目の前で親の死を目撃してしまった衝撃で、一時的に頭が情報の処理を拒否したのだ。
 身体が完治しても、しばらくは何もかもが無気力だった。

 そんな自分を変えるきっかけをくれたのは、剛志であり、宗司だった。
 彼らとの特訓はひたすらに脳筋で、それこそ身体が力尽きるまでだったから。
 それ以外の、余計なことを考える時間がなかったせいもあるけども。

「だけど、あれが無かったら、自分が今頃何をしていたか恐ろしくなるよな」

 彼らの指導は辛く厳しいものだったけれど、決して司を1人にしなかった。
 忙しい本業の時間を縫って、出来る限り司と一緒に生活して。
 身体の動かし方を、身を守る術式を、何もない場所で生活する方法を。
 心技体、ありとあらゆることを教えてくれた。
 特訓が終われば、一緒に風呂に浸かり、筋肉痛で真面に動けない司に対し、自分も通った道だと笑い飛ばして背中を洗ったりもした。

 司は1人じゃない、そう言ってくれる人が周りにいることの、何という幸運か。

 その頃くらいから、司の見る景色は変化した。
 自分のために、どれだけ源や兎神たちが尽くしてくれていたのか。
 ろくな反応をしない司に根気強く接して、声をかけ、励ました。
 それでいて、彼らは1度として司を邪険にしたことも、司に恨み言を言ったこともなかった。
 幼くして両親を失ったことは不運だったけれど、自分はそれでも恵まれている。

 無念だった親の分まで、生きて幸せになろう。
 そして、自分が受けた幸せは、他の困っている人に少しずつでも返していこう。


 その小さな善意は、リリを拾って、次世代の大樹を育て、ウルの民を移住させて、居候がどんどん増えて、屋敷がカオスになりつつあるけれど。

 司の隣で笑い合うヴォルフたち一家を見て、あの時の選択は間違っていなかったと。

「司さーん、お話が終わったなら、こっちへ来て一緒にオヤツ食べませんかー?」

 司は声をかけられた方へ向かって、いつものようにリリを胡坐の上に乗せる。
 一瞬驚いたが、司に撫でられればすぐに笑顔になるリリは嬉しそう。
 ララは若干警戒気味だが、リリの様子を見て興味津々のよう。

 僅かな、ほんの小さな一歩だけれども、間違いなく結実していると。
 司に実感をさせてくれる瞬間だった。



 そして、存分にリリをもふって時間を潰した司は、こう切り出した。

「それで、何で死んだふりをしてまで、爺はこんなところに住んでいるんだ?」

「ん? うーむ、まぁ、な」

 歯切れの悪い源は、司を1人外へ連れ出して、目的の場所へ向かう。

 案内されたのは、家から出て、ほど近い海に面した崖の端。
 源が無言で視線を飛ばした先にあったもの。

「これ……墓、か?」

 やや丸みを帯びた石を置いただけの、簡素な造り。
 お墓の前には、少量の花が横たえてある。
 きっと、源が置いたものだろう。

「うむ、そうじゃな」

 寂しそうな、何とも言えない表情で肯定する源の姿を、司は初めて見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...