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第6章 時の揺り籠
6-43 無慈悲な現実に打ちのめされる
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司たちが遭遇した男、マリスは予想外の出来事に動揺していた。
「あのような生物が存在するとは……あれは危険です。次に合い見える時には、確実に葬る必要がありますね」
マリスは左足を引きずって歩いていた。
そんな状態にも関わらず、魔獣と同じで痛みを感じている素振りは見られない。
「私ともあろうものが、これほどの痛手を受けるとは思いませんでした。下等な生き物の中にも留意すべきものがいた、ということでしょうか」
そして、マリスの上半身には決定的な損傷が刻まれていた。
「まさか、腕を一本持って行かれるとは……この状態では、もって1日というところでしょうか。急ぎ拠点へ戻らなければなりません」
マリスの左手が、無かった。
それどころか左腕から左肩にかけてが、ごっそりと千切り取られていて、心臓に当たる位置に紅く脈打つ巨大な石が見えていた。
傷口からは血は出ていないものの、人間であれば確実に致命傷となるもの。
それは、マリスにとっても同じだった。
「この失態、マザーにどう報告すればいいものでしょうか。とても億劫です」
崩れ落ちそうになる身体を引きずって、マリスは歩き続ける。
「干支神、司と言っていましたね。一体、何者でしょうか。あのような変身する生き物は今まで見たことがありません」
「どこかで遊んでいる第二位の件も含めてマザーにお伺いを立てるとしましょう」
この世に生を受けて以来、マリスは初めて自身では解決できない問題に直面した。
宗司が母鳥に乗ってたどり着いた時、舞たちは見るのが辛くなるくらい失意のどん底だった。一行の傍らには変わり果てた司の姿があり、誰もが無気力に佇んでいた。
この状況を見ただけでは宗司には司たちに何が起こったのか窺い知れないが、少なくても最悪な状況に近いのは理解できた。
特に舞、リリ、源の様子は酷いものだった。
舞は司の横に座り込んだまま、明後日の方向をぼーっと見つめていた。その目には光が無く、何を見ているのかもわからない。完全に思考停止状態だった。
幸いなことに擦り傷などは散見されるものの、大きな外傷は見られなかった。
リリは司の周りをウロウロしたり、司の頬を舐めたり、自分の頭を司に擦り付けたりを繰り返していた。時折、くーんくーんと悲しそうに鳴くのが見ていてとても辛い。
いつも元気いっぱいなリリがこんな状態になるのは、よっぽどのことだろう。
源は司の頭を胡坐の上に乗せて、司の髪を撫でていた。すまないすまないとずっと呟きながらだ。大きな身体を丸めて嘆いている姿は、いつもの源の様子からは想像もできない。
まるで年相応の弱弱しい老人のように見えてしまう。
ヴォルフ、ルーヴ、ララは辛うじて正常だったが、舞たちがこんな状況なのをどう対応していいかわからず、右往左往している状況だった。
尤も、舞たちの手前、努めて気丈に振る舞っているだけで内心はとてもショックを受けているに違いなかった。
宗司は舞たちに有無を言わさず司の身体を回収して、舞たちを母鳥に乗せて連れ帰ることにした。このままの状態で放置しても良いことは何もない。
帰りの途中で司の身体を調べたが、
「やはり、アレを使ったか……」
心臓は、動いていなかった。
しかし、それ以外に目立った外傷はなく、不思議とまだ体温は失われていない。
そして、体内の気の流れが異常だった。
一体どれくらいの時間、初代の闘気法を使用したのかわからないが、集めた力の過剰な負荷に身体が耐えきれず崩壊し始めている兆候だった。
これを見て、宗司は自分の考えていた最悪の結果通りだということを確信した。
「クーシュ、頼んだぞ」
だから宗司は、考えていた応急処置を実行することにした。
それを聞いたクーシュは、任せろと言わんばかりにピッと片手を上げて返事をした後、司の身体にくっついて即座にスヤスヤと眠り始める。
これだけを見ると、正直何をしたいのかよくわからないと思う。
しかし、これは事前に母鳥やクーシュと打ち合わせしていたことである。
司の身体は、世界のエネルギーを過剰に取り込んだことによって肉体が耐えられなくなっているのだから、それを食べることができるフェルス族が鍵なのだ。
ただし、これはクーシュにとってもリスクがある。
母鳥が言っていたように幼いクーシュでは膨大なエネルギーを取り込んだら処理しきれない。事前に食べ過ぎはダメだと母鳥からきつく言われていた。
この後は時間との勝負である。
司の肉体が取り返しのつかない状態になる前に早く干支神家へ戻り、クーシュの姉妹にも同じことを頼んで、司への処置をする必要があるからだ。
母鳥では吸収したエネルギーを消費しきれず持て余してしまうが、まだ幼いクーシュたちは取り込んだエネルギーを自分の成長に消費することができる。
仲間の中で、これ以上の適任者は考えられなかった。
しかし、ここからは宗司にとっても未知の領域。
だが、決して失敗するわけにはいかない。義弟のためにも、実妹のためにも。
「あのような生物が存在するとは……あれは危険です。次に合い見える時には、確実に葬る必要がありますね」
マリスは左足を引きずって歩いていた。
そんな状態にも関わらず、魔獣と同じで痛みを感じている素振りは見られない。
「私ともあろうものが、これほどの痛手を受けるとは思いませんでした。下等な生き物の中にも留意すべきものがいた、ということでしょうか」
そして、マリスの上半身には決定的な損傷が刻まれていた。
「まさか、腕を一本持って行かれるとは……この状態では、もって1日というところでしょうか。急ぎ拠点へ戻らなければなりません」
マリスの左手が、無かった。
それどころか左腕から左肩にかけてが、ごっそりと千切り取られていて、心臓に当たる位置に紅く脈打つ巨大な石が見えていた。
傷口からは血は出ていないものの、人間であれば確実に致命傷となるもの。
それは、マリスにとっても同じだった。
「この失態、マザーにどう報告すればいいものでしょうか。とても億劫です」
崩れ落ちそうになる身体を引きずって、マリスは歩き続ける。
「干支神、司と言っていましたね。一体、何者でしょうか。あのような変身する生き物は今まで見たことがありません」
「どこかで遊んでいる第二位の件も含めてマザーにお伺いを立てるとしましょう」
この世に生を受けて以来、マリスは初めて自身では解決できない問題に直面した。
宗司が母鳥に乗ってたどり着いた時、舞たちは見るのが辛くなるくらい失意のどん底だった。一行の傍らには変わり果てた司の姿があり、誰もが無気力に佇んでいた。
この状況を見ただけでは宗司には司たちに何が起こったのか窺い知れないが、少なくても最悪な状況に近いのは理解できた。
特に舞、リリ、源の様子は酷いものだった。
舞は司の横に座り込んだまま、明後日の方向をぼーっと見つめていた。その目には光が無く、何を見ているのかもわからない。完全に思考停止状態だった。
幸いなことに擦り傷などは散見されるものの、大きな外傷は見られなかった。
リリは司の周りをウロウロしたり、司の頬を舐めたり、自分の頭を司に擦り付けたりを繰り返していた。時折、くーんくーんと悲しそうに鳴くのが見ていてとても辛い。
いつも元気いっぱいなリリがこんな状態になるのは、よっぽどのことだろう。
源は司の頭を胡坐の上に乗せて、司の髪を撫でていた。すまないすまないとずっと呟きながらだ。大きな身体を丸めて嘆いている姿は、いつもの源の様子からは想像もできない。
まるで年相応の弱弱しい老人のように見えてしまう。
ヴォルフ、ルーヴ、ララは辛うじて正常だったが、舞たちがこんな状況なのをどう対応していいかわからず、右往左往している状況だった。
尤も、舞たちの手前、努めて気丈に振る舞っているだけで内心はとてもショックを受けているに違いなかった。
宗司は舞たちに有無を言わさず司の身体を回収して、舞たちを母鳥に乗せて連れ帰ることにした。このままの状態で放置しても良いことは何もない。
帰りの途中で司の身体を調べたが、
「やはり、アレを使ったか……」
心臓は、動いていなかった。
しかし、それ以外に目立った外傷はなく、不思議とまだ体温は失われていない。
そして、体内の気の流れが異常だった。
一体どれくらいの時間、初代の闘気法を使用したのかわからないが、集めた力の過剰な負荷に身体が耐えきれず崩壊し始めている兆候だった。
これを見て、宗司は自分の考えていた最悪の結果通りだということを確信した。
「クーシュ、頼んだぞ」
だから宗司は、考えていた応急処置を実行することにした。
それを聞いたクーシュは、任せろと言わんばかりにピッと片手を上げて返事をした後、司の身体にくっついて即座にスヤスヤと眠り始める。
これだけを見ると、正直何をしたいのかよくわからないと思う。
しかし、これは事前に母鳥やクーシュと打ち合わせしていたことである。
司の身体は、世界のエネルギーを過剰に取り込んだことによって肉体が耐えられなくなっているのだから、それを食べることができるフェルス族が鍵なのだ。
ただし、これはクーシュにとってもリスクがある。
母鳥が言っていたように幼いクーシュでは膨大なエネルギーを取り込んだら処理しきれない。事前に食べ過ぎはダメだと母鳥からきつく言われていた。
この後は時間との勝負である。
司の肉体が取り返しのつかない状態になる前に早く干支神家へ戻り、クーシュの姉妹にも同じことを頼んで、司への処置をする必要があるからだ。
母鳥では吸収したエネルギーを消費しきれず持て余してしまうが、まだ幼いクーシュたちは取り込んだエネルギーを自分の成長に消費することができる。
仲間の中で、これ以上の適任者は考えられなかった。
しかし、ここからは宗司にとっても未知の領域。
だが、決して失敗するわけにはいかない。義弟のためにも、実妹のためにも。
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