リアルにファンタジーのほうがやってきた! ~謎の異世界からやってきたのは健気で可愛いモフモフでした~

ねこのにくきう

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第5章 地球と彼の地を結ぶ門

5-29 空飛ぶ島①

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 皆さんは竜と言えば、どんな姿を思い浮かべるだろうか。

 最初に考えるのは日本人に馴染みのある東洋の龍だろうか? それとも、ファンタジーでお馴染みの西洋の竜だろうか? 大凡、この2パターンが多いと思われる。

 しかし、司たちの目の前にいる竜は、そのどちらでもなかった。

「何を呆けておる。これが、おぬしたちが求めていたもの。竜の本体だろう?」

 原子力空母のような大きさの甲羅。ところどころに見える亀甲模様は見覚えがありすぎる。甲羅が大きすぎて視界を埋め尽くしているので、ここから頭部は見ることができない。

 司たちはあまりの衝撃に頭の処理能力がキャパオーバーを迎えており、クーシュの母鳥が話しかける内容も半分しか頭に入っていないだろう。

「まぁ、よい。しかし、また移動されても敵わぬから、とりあえず降りようぞ」

 母鳥は広大な甲羅の上に降り立つ。空を飛んでいることと生物であることを度外視すれば、ちょっとした大陸である。かなりの速度で飛行しているはずだが、甲羅の近くは不思議なほど空気抵抗を感じない。むしろほぼない、というレベルである。不思議パワー恐るべし。

 最初に動き出したのは姉妹たちだった。着陸して母鳥の動きが止まると、お腹の袋からちょこんと顔を出して周囲を確認する。彼女たちにとっても未知の光景のようで興味津々な様子である。

「甲羅の上に、大陸がある……」

 所々に甲羅が見え隠れしているのだが、甲羅の上には土がこびり付いており、見た目はほとんど地面だ。さらに、そこからコケや草や樹が生えていた。向こうには、ちょっとした岩山のようなものも見えるし、笑えることに滝の流れ落ちる池もある。これで生き物まで生息していたら冗談の世界である。まるで、どこかの大陸の一部を引っこ抜いて、背中に装備しているみたいな光景だった。

「あまりにも現実味が無さ過ぎて、何をどうすればいいのかわかりません……」

 舞はもちろん、司や宗司も呆然とする中で、リリだけは平常運転であった。ぴょんぴょんとジャンプして地面の感覚を確かめると、次の瞬間にしゅぱーっと駆け出した。

 リリは司の屋敷に住んでいる時、まったりと過ごすことも好きだったが、毎日散歩は欠かしていなかった。しかし、母鳥に会ってからというもの、まともな運動ができていない。好きな時に運動ができないことは、リリにとってかなりのフラストレーションになっていたのかもしれない。

「あっ!? リリ! 待てって!」

 突然、リリが駆け出したのを見て正気に戻る司。すぐに追いかけようとしたが、お腹にくっついているクーシュが邪魔で走れない。そうこうしている間に、リリの姿は見えなくなってしまった。完全に見失ってしまったようだ。

「案ずるな。ここには、あやつに敵対するものはおらんよ。あの若き守護狼も、それがわかっているから、呼ばれた場所に行ったのだろう。それにしても、おぬしは少し過保護すぎるよ。たまには、子に1人の時間を与えてやることも親の務めよ」

 リリと逸れて、別の意味で顔が真っ白になるほど呆然としている司に母鳥が説明をする。確かに司は、自他ともに認めるほどの過保護である。ただし、誰にでもというわけではなく、リリには特に、なのである。それを出会って数日の母鳥に見破られるのだから、相当に解り易いのだろう。

 しかし考えてみれば、母鳥もクーシュと喧嘩をし、家出されて、血眼で探し回り、勘違いで宗司たちに襲い掛かった経緯がある。

 自分の子に、どう接すればベストなのか。常に、親はそれを考えて、時には悩みながら行動していることだろう。親とて完全無欠ではない。初めての子ともなれば、日々が試行錯誤の連続だろう。だが、母鳥と司に共通していることは、クーシュやリリをとても大切に想っているということだ。例え、自分を犠牲にしてでも守りたいと考えるくらいに。

「ほれほれ、いつまで呆けておる。もうすぐ日も暮れる。はよう、行動せよ」

 宗司と舞は、慰めるように司の肩を1回叩いてから、キャンプの用意をし始めた。勿論、宗司達だってリリの事は心配である。

「ぴぴぃ……」

 司の気落ちを察したのか、クーシュがぐりぐりと頭を擦り付ける。元気出せ、と言わんばかりに。子供のクーシュにここまでさせて、それでも落ち込んでいる司ではない。それが、例え空元気だとしてもだ。

「ありがとう、クーシュ。リリは……大丈夫なんですよね?」

「案ずるな。あの守護狼は、ここの主(ぬし)に呼ばれたから行っただけよ。事が済めば、すぐに戻ってくる。主とて悪いようにはせぬよ。ここに入れたこと自体が、その証左。主に招かれねば、近寄れもせぬ聖域ゆえ」

 司はリリが向かった先をもう一度だけ見つめると、踵を返して宗司たちを手伝いに向かった。不安は消えることはないが、今はぐっと心の中に押し殺して。
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