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第6章 時の揺り籠
6-3 女の闘いは勘違いで終結
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司とリリは、なぜ舞が不機嫌になったのかがわからなかった。
会った瞬間はいつもと同じだった。問題なのは、その後、カノコが話しかけてからである。しかし、話した内容も別に不自然な点はない。だが、舞の目線の動きから、カノコが何らかの原因になっていることは確実なのだ。
意味はわからない。しかし、これを放置するのはもっと危ない。
「それで、そちらのカノコさんと言われる方は、どこのどちら様なのでしょうか?」
「舞、よくわからんが、兎に角、落ち着け」
自分の言葉だけでは不安になった司は、最終兵器を投入することを決定した。それは、リリによる懐柔攻撃である。司は視線だけで指示を出すと、リリは無言で頷いて行動を開始した。まさに以心伝心、阿吽の呼吸である。
「なんだ、それならそうと早く言ってくれればいいのに……勘違いしちゃいましたよ」
リリを膝に乗せてモフモフする舞には、先ほどまでビシビシと放っていた修羅の様相は微塵にも感じられない。反面、誠心誠意、懇切丁寧に説明した司は精神的に疲労困憊だった。結局のところ、何がトリガーかわからなかったので経緯を全部説明したのだ。笑みが浮かんでいるのを見る限り、誤解は解けたのだろう。
「あははは、君、面白いね! 気に入ったよ!」
約1名、他人事のように楽しそうだったが、きっと後で影ながらの報復があるだろう。ちょっとだけ仕事量が増えるかもしれないし、おかずが1品消えるかもしれないが気のせいである。
「カノコさん、でしたっけ?」
そう問いかける舞の視線は鋭い。鬼気迫る雰囲気も、冷徹な雰囲気も、柔らかい雰囲気もない。ただ、鋭く、研ぎ澄まされた刃物の切っ先のような鋭さだけがそこにあった。
「この場所は、どう思いますか?」
投げかけたのは、たった一言。まるで、相手の答えで品定めをするかのような。
「うん、そうだね……好ましいとは思っているかな」
「そうですか。それでは、これからよろしくお願いしますね。見たところ、そんなに歳が変わらないように思えますので、私の事は舞と呼び捨てで構いません」
「仲良くしましょう?」
研ぎ澄まされたような鋭さは和らいだものの、その目に宿る力は少しも衰えていない。特に、最後の一言には、心に突き刺さる楔のような強い感情が込められている。もし裏切ったら許さない、と。
「う、うん、よろしくね」
(おー、こわこわ、この子もか。まったく、確かに藪は突いたけど、入ってみたら蛇穴どころか猛獣の巣窟とか洒落にもならないよ。まぁ、しばらくは大人しく様子見かな。ただ、マザーは大丈夫だろうけど、第一位がなぁ、私が音信不通になったことで暴走しなければいいけど……ていうか、下手したら私、戻った瞬間に裏切者とか言われて第一位に殺されるんじゃない? 不安)
考え込むカノコに対して、舞はじっと観察していた。しかし、リリをモフモフする手の動きには澱みがないのが流石である。
(うーん、悪意は無さそうですね。早急に対処しなければならないタイプではないでしょう。尤も、本当の事も隠していそうなので、少し注意が必要ですが。司さんは無意識に色々な人を引き付ける傾向があるので、付き合うべき人は周りが注意してあげる必要がありますからね。強いのは……好奇心でしょうか? 念のため、宗司兄にも見てもらいましょう。何となくですが優に似ているタイプな気がします。会わせてみたら面白そうですね)
舞は交流するべき人としない人を心の中で明確に分ける傾向がある。もちろん表面上の付き合いくらいはソツなくこなすが、それ以上は踏み込ませない立ち回りをするのだ。自分にとって本当に信頼できるのか、そうでないのか、人は大なり小なり無意識でしていることだが、舞は非常に顕著なのである。心の底から親友と呼べるのが、あの3人しかいないことで察してほしい。
反して、司は対人関係に関して若干ぽやんとしている傾向がある。基本的にくる者拒まずだし、異文化を取り入れることに忌避感もない。良く言えば、人類は皆兄妹感覚。悪く言えば、危機感がない。しかし、直感だけは割と鋭いので、本気の悪意に対しては何となく回避できる主人公体質を持っている。さらには兎神を筆頭に周りが優秀なので問題らしい問題は今まで一切起きていない。
(それよりも問題なのは、話を聞く限り、しばらくはこの女が四六時中、司さんの側にいることです。今のところ、そういう雰囲気は欠片もありませんが、いつどういったことがきっかけで仲が進展するかわかったものではありません。近ければ近いほど接点が増えるのですから、注意しなければ。いっそのこと、私も干支神家に住ませてもらうとか? いえ、学校があるので難しいですね。何かいい案がないか、お母様に相談してみましょう)
舞に撫でてもらってリラックスしたリリが欠伸を1つ。リリの無邪気さに癒される横で、打算だらけの思惑が渦巻いていたのだが、説明で力尽きた当の本人は窺い知ることはなかった。
(むしろ、これをきっかけにして、司さんとの仲を深める案を考えましょうか。フフフ)
恋する女は強かなのである。
会った瞬間はいつもと同じだった。問題なのは、その後、カノコが話しかけてからである。しかし、話した内容も別に不自然な点はない。だが、舞の目線の動きから、カノコが何らかの原因になっていることは確実なのだ。
意味はわからない。しかし、これを放置するのはもっと危ない。
「それで、そちらのカノコさんと言われる方は、どこのどちら様なのでしょうか?」
「舞、よくわからんが、兎に角、落ち着け」
自分の言葉だけでは不安になった司は、最終兵器を投入することを決定した。それは、リリによる懐柔攻撃である。司は視線だけで指示を出すと、リリは無言で頷いて行動を開始した。まさに以心伝心、阿吽の呼吸である。
「なんだ、それならそうと早く言ってくれればいいのに……勘違いしちゃいましたよ」
リリを膝に乗せてモフモフする舞には、先ほどまでビシビシと放っていた修羅の様相は微塵にも感じられない。反面、誠心誠意、懇切丁寧に説明した司は精神的に疲労困憊だった。結局のところ、何がトリガーかわからなかったので経緯を全部説明したのだ。笑みが浮かんでいるのを見る限り、誤解は解けたのだろう。
「あははは、君、面白いね! 気に入ったよ!」
約1名、他人事のように楽しそうだったが、きっと後で影ながらの報復があるだろう。ちょっとだけ仕事量が増えるかもしれないし、おかずが1品消えるかもしれないが気のせいである。
「カノコさん、でしたっけ?」
そう問いかける舞の視線は鋭い。鬼気迫る雰囲気も、冷徹な雰囲気も、柔らかい雰囲気もない。ただ、鋭く、研ぎ澄まされた刃物の切っ先のような鋭さだけがそこにあった。
「この場所は、どう思いますか?」
投げかけたのは、たった一言。まるで、相手の答えで品定めをするかのような。
「うん、そうだね……好ましいとは思っているかな」
「そうですか。それでは、これからよろしくお願いしますね。見たところ、そんなに歳が変わらないように思えますので、私の事は舞と呼び捨てで構いません」
「仲良くしましょう?」
研ぎ澄まされたような鋭さは和らいだものの、その目に宿る力は少しも衰えていない。特に、最後の一言には、心に突き刺さる楔のような強い感情が込められている。もし裏切ったら許さない、と。
「う、うん、よろしくね」
(おー、こわこわ、この子もか。まったく、確かに藪は突いたけど、入ってみたら蛇穴どころか猛獣の巣窟とか洒落にもならないよ。まぁ、しばらくは大人しく様子見かな。ただ、マザーは大丈夫だろうけど、第一位がなぁ、私が音信不通になったことで暴走しなければいいけど……ていうか、下手したら私、戻った瞬間に裏切者とか言われて第一位に殺されるんじゃない? 不安)
考え込むカノコに対して、舞はじっと観察していた。しかし、リリをモフモフする手の動きには澱みがないのが流石である。
(うーん、悪意は無さそうですね。早急に対処しなければならないタイプではないでしょう。尤も、本当の事も隠していそうなので、少し注意が必要ですが。司さんは無意識に色々な人を引き付ける傾向があるので、付き合うべき人は周りが注意してあげる必要がありますからね。強いのは……好奇心でしょうか? 念のため、宗司兄にも見てもらいましょう。何となくですが優に似ているタイプな気がします。会わせてみたら面白そうですね)
舞は交流するべき人としない人を心の中で明確に分ける傾向がある。もちろん表面上の付き合いくらいはソツなくこなすが、それ以上は踏み込ませない立ち回りをするのだ。自分にとって本当に信頼できるのか、そうでないのか、人は大なり小なり無意識でしていることだが、舞は非常に顕著なのである。心の底から親友と呼べるのが、あの3人しかいないことで察してほしい。
反して、司は対人関係に関して若干ぽやんとしている傾向がある。基本的にくる者拒まずだし、異文化を取り入れることに忌避感もない。良く言えば、人類は皆兄妹感覚。悪く言えば、危機感がない。しかし、直感だけは割と鋭いので、本気の悪意に対しては何となく回避できる主人公体質を持っている。さらには兎神を筆頭に周りが優秀なので問題らしい問題は今まで一切起きていない。
(それよりも問題なのは、話を聞く限り、しばらくはこの女が四六時中、司さんの側にいることです。今のところ、そういう雰囲気は欠片もありませんが、いつどういったことがきっかけで仲が進展するかわかったものではありません。近ければ近いほど接点が増えるのですから、注意しなければ。いっそのこと、私も干支神家に住ませてもらうとか? いえ、学校があるので難しいですね。何かいい案がないか、お母様に相談してみましょう)
舞に撫でてもらってリラックスしたリリが欠伸を1つ。リリの無邪気さに癒される横で、打算だらけの思惑が渦巻いていたのだが、説明で力尽きた当の本人は窺い知ることはなかった。
(むしろ、これをきっかけにして、司さんとの仲を深める案を考えましょうか。フフフ)
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