207 / 278
第6章 時の揺り籠
6-4 カノコの疑問と、筋肉の存在意義
しおりを挟む
数日後。
この日、司は地面に大の字で寝っ転がっていた。息が上がり、身体や服には所々に土が付着していて、土木作業でもしていたかのような様相だ。
「よし、今日はここまで。休んで良し」
司に声をかけたのは宗司。今日は週に1回の地獄の特訓デーなのであった。どうせやるなら、立てなくなるまでがっつりとやるのが宗司流なのだ。
「司さん、おつかれさまでした。どうぞ」
「あ、ありがとう」
「妹よ……兄の分はないのか?」
終わったのを見計らって、舞がスポーツドリンクとタオルを持ってやってきた。勿論、2リットルサイズ。汗だくで干からびている司にとってはありがたい大きさだ。
「おつかれさまでーす」
「いやはや、司たちはバカなのかい? そんなに自分の身体を苛めてどうするのさ。そんなにしても向上するのは微々たるものだろう?」
舞と一緒に離れて見学していたリリとカノコも司の元に合流する。
カノコにしてみれば、徹底的に身体を鍛える司たちの行動が理解できない。生まれながらに、特定の役割だけを担って生まれた特化型の彼女にしてみれば、自分の不得意なことは他人に任せればいいと思っている。それなのに同じことを延々と繰り返して特定の技術を向上させようとする宗司たちの理念がわからないのである。
「君が、カノコ君か。妹の舞から少し聞いているよ。私たちがなぜ身体を鍛えるのかが、不思議そうだね?」
「どうも。ええ、私から見れば、生物は生まれながらにして、それぞれの成すべき役割は明確に違う。司が、どれだけ自分の身体を苛め抜いて鍛えたところで、あなたには絶対に及ばないでしょう。生物に与えられる才能は等しくはない。ならば、自分の役割を伸ばすことに集中したほうが効率的、とは思いませんか?」
確かに、人が天才と呼ぶ領域に到達するのは一握りだろう。天才と全く同じことをしたからといって同じ能力が備わるかといったら、それは否。努力次第では限りなく近しい領域には届くかもしれないが、届かずに終わる人のほうが圧倒的に多い。人間の能力は千差万別で、それぞれに違った個性と可能性を持つ半面で、不可能なことも同時に存在するという矛盾を抱えている。
「では、私からは1つだけ。司は、私のような強さが欲しくて鍛えているわけではないよ。ただ、それでも司が己の大切なものを守れるだけの力を、最低限の力を必要としたから鍛えているだけだ。使うか使わないかは司次第。そもそも司と私ではタイプが違うからな」
宗司の意見を聞いても納得のいかない顔をしているカノコに対して、
「無駄なことに拘る我々が不思議かな? 自分の力で守りたい。そんなことはエゴだと。しかし! そんな建前のことは、実はどうでもいいのだ! 我々が真に欲しているもの! それは!」
なんか方向性が怪しくなってきた。いつの間にか、宗司の道着が肌蹴て肉鎧のような上半身がむき出しになっている。丁寧にポージングまで始めた。これはモストマスキュラーか。
「あえて言わせてもらおう! それは筋肉! そう、美しい筋肉を手に入れるために! 我々は日夜、研鑽を積んでいるのだ! その崇高な目的の前では、カノコ君の疑問など笑止! 力こそが全てであり、正義である! 美しい筋肉こそが至高なのだ!」
バーーン!! と効果音が付きそうなテンションで持論を宣う宗司。
「男たるもの美しい筋n……」
「恥ずかしいから、いい加減、黙りなさい!」
スパーン!! と効果音付きで頭を叩かれ、地面に倒れる宗司。このやり取りをするのも久しぶりである。倒された宗司の身体を心配してか、リリが前脚でツンツンと突くがピクピクとするだけであった。
「……なるほど、一理ある」
カノコはカノコで、なぜか納得していた。
「いやいや、何で納得しているんですか。このバカ兄の言う事は出鱈目ですよ? 司さんがそんなところを目指しているわけないじゃないですか。ないですよね?」
自分で言ってて怖くなったのか、司に確認する舞。
「まぁ、宗司さんレベルまで行くつもりはないけど、男なら大なり小なり筋肉に憧れるのはあるんじゃないか?」
「確かに。筋肉を男性の象徴と考えるならば、宗司が言う事も理解できる。日々、肉体は代謝しながら入れ替わっているわけだから、己の理想とする肉体を維持するためには日常的に負荷をかけていくのが望ましい。それに……」
「いや……たぶん、そこまで考えてないと思うぞ」
急に自分の思考に埋没していったカノコ。この手の人間は、一度こうなると放っておくのがベストだということがわかっている。優という身近な例があるので、舞たちは慣れたものである。
「司さんはこの後どうしますか? 折角ですから、お母様が夕食を食べていきませんか? と張り切って作っているのですけど……大丈夫です? もちろん、リリの分もありますよ」
「お、悪いな。ご馳走になっていこうかな。兎神たちには連絡しておくよ。夕食を頂くから少し遅くなるって」
「舞さんのお家でご飯です!?」
「そうですか! では、そう伝えてきますね!」
司に見えないように小さくガッツポーズをしてから、まるで周囲から音符が飛びそうなくらい上機嫌で走っていく舞の後ろ姿を眺めながら、地面の宗司と呟くカノコをどうしようかと考える司だった。
この日、司は地面に大の字で寝っ転がっていた。息が上がり、身体や服には所々に土が付着していて、土木作業でもしていたかのような様相だ。
「よし、今日はここまで。休んで良し」
司に声をかけたのは宗司。今日は週に1回の地獄の特訓デーなのであった。どうせやるなら、立てなくなるまでがっつりとやるのが宗司流なのだ。
「司さん、おつかれさまでした。どうぞ」
「あ、ありがとう」
「妹よ……兄の分はないのか?」
終わったのを見計らって、舞がスポーツドリンクとタオルを持ってやってきた。勿論、2リットルサイズ。汗だくで干からびている司にとってはありがたい大きさだ。
「おつかれさまでーす」
「いやはや、司たちはバカなのかい? そんなに自分の身体を苛めてどうするのさ。そんなにしても向上するのは微々たるものだろう?」
舞と一緒に離れて見学していたリリとカノコも司の元に合流する。
カノコにしてみれば、徹底的に身体を鍛える司たちの行動が理解できない。生まれながらに、特定の役割だけを担って生まれた特化型の彼女にしてみれば、自分の不得意なことは他人に任せればいいと思っている。それなのに同じことを延々と繰り返して特定の技術を向上させようとする宗司たちの理念がわからないのである。
「君が、カノコ君か。妹の舞から少し聞いているよ。私たちがなぜ身体を鍛えるのかが、不思議そうだね?」
「どうも。ええ、私から見れば、生物は生まれながらにして、それぞれの成すべき役割は明確に違う。司が、どれだけ自分の身体を苛め抜いて鍛えたところで、あなたには絶対に及ばないでしょう。生物に与えられる才能は等しくはない。ならば、自分の役割を伸ばすことに集中したほうが効率的、とは思いませんか?」
確かに、人が天才と呼ぶ領域に到達するのは一握りだろう。天才と全く同じことをしたからといって同じ能力が備わるかといったら、それは否。努力次第では限りなく近しい領域には届くかもしれないが、届かずに終わる人のほうが圧倒的に多い。人間の能力は千差万別で、それぞれに違った個性と可能性を持つ半面で、不可能なことも同時に存在するという矛盾を抱えている。
「では、私からは1つだけ。司は、私のような強さが欲しくて鍛えているわけではないよ。ただ、それでも司が己の大切なものを守れるだけの力を、最低限の力を必要としたから鍛えているだけだ。使うか使わないかは司次第。そもそも司と私ではタイプが違うからな」
宗司の意見を聞いても納得のいかない顔をしているカノコに対して、
「無駄なことに拘る我々が不思議かな? 自分の力で守りたい。そんなことはエゴだと。しかし! そんな建前のことは、実はどうでもいいのだ! 我々が真に欲しているもの! それは!」
なんか方向性が怪しくなってきた。いつの間にか、宗司の道着が肌蹴て肉鎧のような上半身がむき出しになっている。丁寧にポージングまで始めた。これはモストマスキュラーか。
「あえて言わせてもらおう! それは筋肉! そう、美しい筋肉を手に入れるために! 我々は日夜、研鑽を積んでいるのだ! その崇高な目的の前では、カノコ君の疑問など笑止! 力こそが全てであり、正義である! 美しい筋肉こそが至高なのだ!」
バーーン!! と効果音が付きそうなテンションで持論を宣う宗司。
「男たるもの美しい筋n……」
「恥ずかしいから、いい加減、黙りなさい!」
スパーン!! と効果音付きで頭を叩かれ、地面に倒れる宗司。このやり取りをするのも久しぶりである。倒された宗司の身体を心配してか、リリが前脚でツンツンと突くがピクピクとするだけであった。
「……なるほど、一理ある」
カノコはカノコで、なぜか納得していた。
「いやいや、何で納得しているんですか。このバカ兄の言う事は出鱈目ですよ? 司さんがそんなところを目指しているわけないじゃないですか。ないですよね?」
自分で言ってて怖くなったのか、司に確認する舞。
「まぁ、宗司さんレベルまで行くつもりはないけど、男なら大なり小なり筋肉に憧れるのはあるんじゃないか?」
「確かに。筋肉を男性の象徴と考えるならば、宗司が言う事も理解できる。日々、肉体は代謝しながら入れ替わっているわけだから、己の理想とする肉体を維持するためには日常的に負荷をかけていくのが望ましい。それに……」
「いや……たぶん、そこまで考えてないと思うぞ」
急に自分の思考に埋没していったカノコ。この手の人間は、一度こうなると放っておくのがベストだということがわかっている。優という身近な例があるので、舞たちは慣れたものである。
「司さんはこの後どうしますか? 折角ですから、お母様が夕食を食べていきませんか? と張り切って作っているのですけど……大丈夫です? もちろん、リリの分もありますよ」
「お、悪いな。ご馳走になっていこうかな。兎神たちには連絡しておくよ。夕食を頂くから少し遅くなるって」
「舞さんのお家でご飯です!?」
「そうですか! では、そう伝えてきますね!」
司に見えないように小さくガッツポーズをしてから、まるで周囲から音符が飛びそうなくらい上機嫌で走っていく舞の後ろ姿を眺めながら、地面の宗司と呟くカノコをどうしようかと考える司だった。
0
あなたにおすすめの小説
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる