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第26話 囚われの復讐者
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「なんっだよこれ……!?!?!?」
今、僕が目の当たりにして驚愕しているのは、鏡に映った他ならぬ僕自身の肉体だ。中途半端な女体。いやそこはわかってる。問題は……。
「いくつキスマーク付けてるんだよ、あいつ~!?」
わざわざそんなことを叫んでしまうのは、ほんとうにそのキスマークが数え切れないほどに刻まれていたからだ。全身におびただしい鬱血の痕……奇病だと診断され隔離されても仕方がないほどには気味が悪い。
それらは特定の箇所に集中していくつも折り重なっているように見える。キスマークを付けるのが可能な場所に小さな痣が重なって、一つの大きな痣に……つまり今の僕の裸体は、キスマークをつけられすぎて、キスマークがつけられる部位指標のようになってしまっているというわけだ。
気付いたのが一人きりの浴場で助かった。今は気候が暖かいから人に肌を晒す機会はないし、きっとバレやしない。大丈夫だ。だから落ち着け僕。肌色を覆い尽くさんばかりの大きな青藍色の水玉模様は、いずれ消える……。
驚きすぎてまだ鼓動がうるさい。じっと鏡を見つめる。これが、ジャオの執着を受けた僕の姿……アイツの怖いくらいの愛情が可視化されたようでゾッとする。こんなにも吸い付かれて……きっと全身、ジャオの唾液まみれだ、洗わないと。
桶に湯を汲むがすぐに足元に戻した。痣の乗った二の腕を掲げて下から覗き込む。ゆっくりと顔を近づけて……ペロ。なんとなく、舐めてみる。とくに味はしない。だけどジャオと間接キスだと思うと妙にドキドキして、何度かペロペロと往復してしまった。
ジャオ、今日は唇へのキス少なめだったな……もっとしたかった、な……。
チュプチュプ。勢い余って二の腕にキスをする。唇を埋めてその中でベロベロ舐めまわすと、存外気持ち良くて「ンッンッ」と声が出た。鏡を見つめ、しばし呆然とする。
ジャオ……あんなに触られた後なのに……もう、お前に触れられたくて仕方ないよ……。
「アッ……あん……」
指でこわごわと乳首を摘んだ。捏ねて動かしてみてもジャオにされた時のような爆発的な快感はない。でも、少しだけ、気持ちいいかも……?
「ジャオお……だめ……」
ジャオに触られてる妄想をして、出来うる限りに指を巧みに動かした。鏡の中には僕一人なのに……湯けむりに隠れたジャオが、ほんとうに後ろから触ってくれているような気がして……僕は……。
「だめぇ、あんっ……アッアッ……あぁんっ……そんな強く、しないでっ……」
ハアッ、気持ちいい……自分の喘ぎ声で臨場感増す……!
ジャオの指みたいに乳首引っ張って爪先でカリカリしながら、こうやって、おっぱいも全部揉まれちゃって……!
「あん、あぁん、それ、いいよぅ、もっとさわってえ~……」
本人には絶対に聞かせられないようなことを口走ってしまう。
大丈夫。浴場には誰も入ってこない。いつも我慢してる、ジャオにおねだりする、妄想しながら、いっぱいカラダ触れる……!
「はあ、ジャオのエッチ……ダメだったら……」
手が下半身に伸びる。鏡の前で開脚して、窪みができてきたそこをそっと指先で撫でてみる。
「はぁあああん……アッ……ああ……ダメ……」
指をあてたままクニクニと左右に動かす。触れた場所から下半身全部に電流が走って腰が跳ねた。もうとても竿だなんて言えない……小さく縮こまって玉と同化しているのに、元の大きさよりかなり小さいし……尿道なんてガパリと縦に割れている……これが女性器……なのかな……?
「ンッ……いれたいの……? ダメだよ……? ジャオ……ダメ……ね……?」
目を閉じて浸り切る。後ろからジャオに抱きかかえられる妄想をしながら、少しずつ指の摩擦を強くしていく。
濡れて、きちゃったよお……ぬるぬる、する……どうしよ、僕このままじゃ……。
「あっ……」
グプッ。勢い余って指の先っぽが挿入ってしまう。少し力を込めただけでグプグプと飲み込まれて、ナカが締め付けるように収縮する……ちょっと怖い、から……これ以上ナカには挿入れずに、少しだけ回転させてみよう……。
「あうぅ……!?」
アッ、これはダメ、ほんとに……良すぎて……どうしよう、ハマっちゃう……もっと挿入れたい……動かしたい……!
「ジャオ、挿入っちゃうよお……あぁ……あぁ~~……!!」
指が第二関節まで入った。思ったより大きな声が出てしまってさすがに口を押さえる。でも指は挿入ったままだ。恐る恐る抜き差しする。ズチュ……ズチュッチュッ……すごい、いけないことしてる、僕……勝手にジャオの指だって思い込んで、自分の女の子の部分弄って、興奮しちゃってる……!
「ハァん、ジャオイっちゃう、イっちゃうイっちゃうぅンッ」
ジャオの胸の中にもたれている時と同じ甘えた声が出てしまう。乳首もコネコネして、内腿を撫でて、自身に性感の限りを尽くす。
僕のカラダ、柔らかい、こんなことしたらもっと女の子になっちゃうってわかってるのに、ジャオにサレた時のこと思い出したら、ハアッ、我慢できなくなっちゃうよお……っ!
「イくぅ、ジャオごめんなさい、ごめんなさいぃ~~……!」
腰が大きく跳ねる。その瞬間、僕は見た。鏡に向かって大開脚する僕の穴から、大量の水がプシャアッと噴き出て……鏡を濡らすほどに勢いよく飛び散るのを……。
「ハァ……ハァ……ハァん…………」
股を閉じるのも忘れてその場にへたり込んだ。天井が……光ってる……ちがうか……僕の目が勝手にチカチカしてるんだ……。
「ジャオお……」
手を伸ばしても掴んでくれる彼はいない。今日シたばかりなのに……切なくて泣きそうになる。こんなにも好きなのに、ジャオの子を孕む決心はどうしてもできない。やっぱり行為はまだ怖いし、それに……みすみす子を成して、父上に奪られでもしたら……。
ジャオにこんなこと、相談できない。まだ言う段階ではないと思う。
僕は問題を先送りにした。
今はごまかしながらでも……ジャオと恋人同士のように、穏やかな日々を過ごしていたい。
「……で、何の用?」
「まあまあそうつんけんせずに。ほうじ茶ラテ飲みます?」
風呂上がりの僕はフロストに呼び出されて、いつものごとく彼の部屋に訪問させられていた。美味しい飲み物が出ると聞いて少しだけ機嫌を直す。我ながら現金だ。
「英雄様とは最近どんな感じですか?」
「どうって……まあ、普通」
「うまくいってるんですねえ」
にこお、と頭上に文字が浮かんでくるほど上手にフロストは笑う。一見すると人懐っこい印象だ。そんな奴が腹の中では何を考えているかわからないから余計に恐ろしいのだが……。
「私に胸を触られたと聞いて嫉妬して触ってきたでしょう?」
「うぐ……いいから、ジャオの話は」
「そういうわけにはまいりません。私はベル様のお目付役なんですよ。お二人の進度もしっかり把握しておかないと」
「デリカシー死んでるのか?」
憎まれ口を叩いてもフロストは聞こえないふりだ。にこやかにカップを僕の前に置く。
まったく。と言いつつもやっぱりこれが美味しくて、またも機嫌を取り戻してしまう僕。
「まあ、じゃあ、おおまかでいいです。もうヤりました?」
「ヤっ……!? てない! まだっ……大体ヤれないだろ、穴もないのに……!」
「ふ~ん」
途端に意地の悪い笑顔にすり替わる。
コイツの言葉選びってどうしてこうも直接的で下品なんだ? どうしても好きになれない。
「“まだ”ヤっていないと……いずれなさる気はあるんですね?」
「だっ……黙れ!!」
「ベル様におかれましては今日もおばかでお可愛らしい♪」
「黙れって言ってるのがわからないのかこのエセ祈祷師!!」
フロストは僕の攻撃をかわしてケラケラと笑う。最初から笑顔が胡散臭い奴だったけど、近頃は少しだけ、無邪気な素の顔を見せてくれているような気もしてるんだ。いい歳した男にそんなこと思うのも変かもしれないけど……最初に感じていた棘は抜けてきたのかもなんて。希望的観測だろうか。
「……お前ってさあ。楽しそうだよな、いつも」
「ええ。敬愛するベル様とお話ししている時限定で」
「敬愛の意味知ってる?」
「いやほんとうに今これくらいしか楽しみがないので」
清々しい笑顔だ。しかし目が合った瞬間、フロストは笑みを消して僕を見つめてきた。人が感情を隠す瞬間を目撃してしまうのは妙に恐ろしい。そういえばもう何度も会っているのに、僕って、フロストのこと何も知らないよな……。
「他に何かないのかよ。趣味とかさ」
「ないですねえ」
「そういえばお前いつもこの部屋にいるよな。研究とか……勉強とかしているのか?」
「いえ、特には」
「特には、って……」
確か最初はコイツ、儀式のことを調べるためにここに来たと言っていなかっただろうか。もしかして解決済み? 僕がオトメになるということで話がまとまっている? それならそうでせめて報告くらいはしてほしい……こちらにだって心の準備というものがあるのに。
「じゃあお前は一体ここで何をしているんだ?」
「ベル様が来てくれるのをずっと待っています」
「……ハア。そうだお前言おうと思ってたんだよ。仮にも僕は王子だぞ? いつもいつも偉そうに呼びつけて、一度くらい自分から出向いてきたらどうなんだ」
「はあ……そう言われましても」
突然歯切れが悪くなった。フロストは何かを迷っているかのように目を泳がせて口籠もる。しばらく待っていると、やがて意を決したように、眩しい笑顔を復活させた。
「実は、出られないんですよねー! この部屋から!」
「はっ……?」
「王に封印結界を張られてしまって! いやー参っちゃいますよ」
「は? は!?」
今サラッと衝撃発言があったような。僕は思わず立ち上がる。部屋中を見渡して、気付いた。部屋の四隅に打たれた釘から……何かすごくいやな感じがする。これは……邪悪な魔力の気配、というやつなのだろうか。
「……おい」
「あっご心配なく。ベル様は出入り自由です、私が出られないだけなので」
「いや……だって……え?」
フロストは王の命で僕のお目付役になったはずだ。先日だって王もこの部屋に出入りしていた。王はフロストを信頼してこの城に招き入れたのではないのか……?
「最初は信頼されていたのですが……バレちゃったんですよねえ」
「なに、が……?」
ドッドッと鼓動が逸る。この得体の知れない男の正体が、ついに明かされる時が来たのかもしれない。僕は最初から怪しい奴だと思っていたけど……明確な悪意は感じなかったから様子を見ていた。呼びかけにも応じた。それがまさか、王に監禁されていただなんて。
「王は気に入らなかったのですよ。私がこの国の“本当の歴史”を知っていたから」
「本当の……歴史?」
この国の歴史……授業で誰もが習うことだ。
僕たちの最初の祖先がこの地に身を置いたのは、もう数百年も昔の話。はじめの人類がここに文化を築き、国を建てたのだ。精霊と共に森を守り、魔力で豊かな暮らしを得て、少しずつ人口を増やしていった……。
特段、劇的なものではないが、恐竜などの話よりはよほど真実味がある。僕は何の疑いもなくそれらを知識として受け入れていた。
それがなんだ。この国の歴史には“ウソ”と“本当”があるというのか?
「ここはね。自分の国を追われた忌み族が始めた、世界で最も愚かな国なのですよ」
「いみ、ぞく……?」
フロストの顔にはもう一欠片の笑みもない。僕の瞳をまっすぐに見つめ、重々しい空気を漂わせている。
「彼らはあまりに人道を外れた行いをして他者の怒りを買ったのです。そして当然滅ぼされ……逃げ延びた残党が人類未開の地であるこの場所を見つけた」
「彼らって……」
「無論、あなた方王族の祖先です」
ドクン。心臓が痛む。切り裂かれるような四肢の痛みを感じる。僕はそれを堪えてフロストの冷ややかな瞳を見返す。
「僕の、祖先が……? 何をしたっていうんだ……?」
「さあ、そこまでは……ただ今の行いを見れば容易に想像はつくでしょう。儀式の成り立ちもそこからきている。おかしな思想を持った者がたまたま類稀なる魔力を有していたのが、異国の者にとっては不運でしたね」
「フロスト、お前は……」
なぜそんなことを知っているんだ。嘘をついているようには見えない。
真実を知るのが怖くてそれ以上問えないでいると、フロストから口火を切った。
「私を、ここから助け出してくれませんか?」
ぞわり。薄い笑みは邪悪そのもので、だんだんと影に侵食されているかのようだ。先程まで戯れあっていた彼とはまるで別人のようで。
……逃げなければ。立ち上がって及び腰になる。フロストは腰掛けたままだ。
「お前は……王族の敵なんだな?」
「さあ。誰を敵とするかは、今、見極めている最中なんです」
「お前は……どこから来た?」
「あなた様では考えも及ばないほど遠き地より」
「何のために……?」
「復讐」
ニヤア……フロストの真っ白な顔が影に満ち満ちた。僕は扉を開けて外からフロストを見る。追いかけてくる様子はない。本当にここから出られないのか。
「襲いませんよ。私には今あなたをここで襲う理由がない」
「父上はどうしてお前を僕のお目付役にした……? 地下牢に幽閉なり国外追放なりしたほうが安全だろう?」
「さあ……あのお方も決めかねているのかもしれませんね」
「…………」
僕だけでは到底答えを出せる事態じゃない。父上に直接聞くのも憚られるし……調べる? どうやって? 図書館に置いてある歴史の本は幼い頃にすべて読まされた。どれもフロストの言っていることなんて欠片も書かれてはいない。国ぐるみで隠蔽されているのだとしたら、僕の力でなんて何も……。
「……また、話に来る」
「はい! お待ちしております!」
フロストは心底嬉しそうに微笑んで、椅子の背もたれを抱きかかえる格好で僕にバイバイと手を振る。おちゃらけているフロストはどこか憎めない雰囲気があるけど……奴は奴なりの目的があってこの国に侵入したんだ。警戒しないと。
しかし今のところ僕の情報源はフロストしかない。アイツには今すぐ僕をどうこうする気はなさそうだ。やるなら最初にやっていただろう。だから……また話を聞きに行く。
今、僕が目の当たりにして驚愕しているのは、鏡に映った他ならぬ僕自身の肉体だ。中途半端な女体。いやそこはわかってる。問題は……。
「いくつキスマーク付けてるんだよ、あいつ~!?」
わざわざそんなことを叫んでしまうのは、ほんとうにそのキスマークが数え切れないほどに刻まれていたからだ。全身におびただしい鬱血の痕……奇病だと診断され隔離されても仕方がないほどには気味が悪い。
それらは特定の箇所に集中していくつも折り重なっているように見える。キスマークを付けるのが可能な場所に小さな痣が重なって、一つの大きな痣に……つまり今の僕の裸体は、キスマークをつけられすぎて、キスマークがつけられる部位指標のようになってしまっているというわけだ。
気付いたのが一人きりの浴場で助かった。今は気候が暖かいから人に肌を晒す機会はないし、きっとバレやしない。大丈夫だ。だから落ち着け僕。肌色を覆い尽くさんばかりの大きな青藍色の水玉模様は、いずれ消える……。
驚きすぎてまだ鼓動がうるさい。じっと鏡を見つめる。これが、ジャオの執着を受けた僕の姿……アイツの怖いくらいの愛情が可視化されたようでゾッとする。こんなにも吸い付かれて……きっと全身、ジャオの唾液まみれだ、洗わないと。
桶に湯を汲むがすぐに足元に戻した。痣の乗った二の腕を掲げて下から覗き込む。ゆっくりと顔を近づけて……ペロ。なんとなく、舐めてみる。とくに味はしない。だけどジャオと間接キスだと思うと妙にドキドキして、何度かペロペロと往復してしまった。
ジャオ、今日は唇へのキス少なめだったな……もっとしたかった、な……。
チュプチュプ。勢い余って二の腕にキスをする。唇を埋めてその中でベロベロ舐めまわすと、存外気持ち良くて「ンッンッ」と声が出た。鏡を見つめ、しばし呆然とする。
ジャオ……あんなに触られた後なのに……もう、お前に触れられたくて仕方ないよ……。
「アッ……あん……」
指でこわごわと乳首を摘んだ。捏ねて動かしてみてもジャオにされた時のような爆発的な快感はない。でも、少しだけ、気持ちいいかも……?
「ジャオお……だめ……」
ジャオに触られてる妄想をして、出来うる限りに指を巧みに動かした。鏡の中には僕一人なのに……湯けむりに隠れたジャオが、ほんとうに後ろから触ってくれているような気がして……僕は……。
「だめぇ、あんっ……アッアッ……あぁんっ……そんな強く、しないでっ……」
ハアッ、気持ちいい……自分の喘ぎ声で臨場感増す……!
ジャオの指みたいに乳首引っ張って爪先でカリカリしながら、こうやって、おっぱいも全部揉まれちゃって……!
「あん、あぁん、それ、いいよぅ、もっとさわってえ~……」
本人には絶対に聞かせられないようなことを口走ってしまう。
大丈夫。浴場には誰も入ってこない。いつも我慢してる、ジャオにおねだりする、妄想しながら、いっぱいカラダ触れる……!
「はあ、ジャオのエッチ……ダメだったら……」
手が下半身に伸びる。鏡の前で開脚して、窪みができてきたそこをそっと指先で撫でてみる。
「はぁあああん……アッ……ああ……ダメ……」
指をあてたままクニクニと左右に動かす。触れた場所から下半身全部に電流が走って腰が跳ねた。もうとても竿だなんて言えない……小さく縮こまって玉と同化しているのに、元の大きさよりかなり小さいし……尿道なんてガパリと縦に割れている……これが女性器……なのかな……?
「ンッ……いれたいの……? ダメだよ……? ジャオ……ダメ……ね……?」
目を閉じて浸り切る。後ろからジャオに抱きかかえられる妄想をしながら、少しずつ指の摩擦を強くしていく。
濡れて、きちゃったよお……ぬるぬる、する……どうしよ、僕このままじゃ……。
「あっ……」
グプッ。勢い余って指の先っぽが挿入ってしまう。少し力を込めただけでグプグプと飲み込まれて、ナカが締め付けるように収縮する……ちょっと怖い、から……これ以上ナカには挿入れずに、少しだけ回転させてみよう……。
「あうぅ……!?」
アッ、これはダメ、ほんとに……良すぎて……どうしよう、ハマっちゃう……もっと挿入れたい……動かしたい……!
「ジャオ、挿入っちゃうよお……あぁ……あぁ~~……!!」
指が第二関節まで入った。思ったより大きな声が出てしまってさすがに口を押さえる。でも指は挿入ったままだ。恐る恐る抜き差しする。ズチュ……ズチュッチュッ……すごい、いけないことしてる、僕……勝手にジャオの指だって思い込んで、自分の女の子の部分弄って、興奮しちゃってる……!
「ハァん、ジャオイっちゃう、イっちゃうイっちゃうぅンッ」
ジャオの胸の中にもたれている時と同じ甘えた声が出てしまう。乳首もコネコネして、内腿を撫でて、自身に性感の限りを尽くす。
僕のカラダ、柔らかい、こんなことしたらもっと女の子になっちゃうってわかってるのに、ジャオにサレた時のこと思い出したら、ハアッ、我慢できなくなっちゃうよお……っ!
「イくぅ、ジャオごめんなさい、ごめんなさいぃ~~……!」
腰が大きく跳ねる。その瞬間、僕は見た。鏡に向かって大開脚する僕の穴から、大量の水がプシャアッと噴き出て……鏡を濡らすほどに勢いよく飛び散るのを……。
「ハァ……ハァ……ハァん…………」
股を閉じるのも忘れてその場にへたり込んだ。天井が……光ってる……ちがうか……僕の目が勝手にチカチカしてるんだ……。
「ジャオお……」
手を伸ばしても掴んでくれる彼はいない。今日シたばかりなのに……切なくて泣きそうになる。こんなにも好きなのに、ジャオの子を孕む決心はどうしてもできない。やっぱり行為はまだ怖いし、それに……みすみす子を成して、父上に奪られでもしたら……。
ジャオにこんなこと、相談できない。まだ言う段階ではないと思う。
僕は問題を先送りにした。
今はごまかしながらでも……ジャオと恋人同士のように、穏やかな日々を過ごしていたい。
「……で、何の用?」
「まあまあそうつんけんせずに。ほうじ茶ラテ飲みます?」
風呂上がりの僕はフロストに呼び出されて、いつものごとく彼の部屋に訪問させられていた。美味しい飲み物が出ると聞いて少しだけ機嫌を直す。我ながら現金だ。
「英雄様とは最近どんな感じですか?」
「どうって……まあ、普通」
「うまくいってるんですねえ」
にこお、と頭上に文字が浮かんでくるほど上手にフロストは笑う。一見すると人懐っこい印象だ。そんな奴が腹の中では何を考えているかわからないから余計に恐ろしいのだが……。
「私に胸を触られたと聞いて嫉妬して触ってきたでしょう?」
「うぐ……いいから、ジャオの話は」
「そういうわけにはまいりません。私はベル様のお目付役なんですよ。お二人の進度もしっかり把握しておかないと」
「デリカシー死んでるのか?」
憎まれ口を叩いてもフロストは聞こえないふりだ。にこやかにカップを僕の前に置く。
まったく。と言いつつもやっぱりこれが美味しくて、またも機嫌を取り戻してしまう僕。
「まあ、じゃあ、おおまかでいいです。もうヤりました?」
「ヤっ……!? てない! まだっ……大体ヤれないだろ、穴もないのに……!」
「ふ~ん」
途端に意地の悪い笑顔にすり替わる。
コイツの言葉選びってどうしてこうも直接的で下品なんだ? どうしても好きになれない。
「“まだ”ヤっていないと……いずれなさる気はあるんですね?」
「だっ……黙れ!!」
「ベル様におかれましては今日もおばかでお可愛らしい♪」
「黙れって言ってるのがわからないのかこのエセ祈祷師!!」
フロストは僕の攻撃をかわしてケラケラと笑う。最初から笑顔が胡散臭い奴だったけど、近頃は少しだけ、無邪気な素の顔を見せてくれているような気もしてるんだ。いい歳した男にそんなこと思うのも変かもしれないけど……最初に感じていた棘は抜けてきたのかもなんて。希望的観測だろうか。
「……お前ってさあ。楽しそうだよな、いつも」
「ええ。敬愛するベル様とお話ししている時限定で」
「敬愛の意味知ってる?」
「いやほんとうに今これくらいしか楽しみがないので」
清々しい笑顔だ。しかし目が合った瞬間、フロストは笑みを消して僕を見つめてきた。人が感情を隠す瞬間を目撃してしまうのは妙に恐ろしい。そういえばもう何度も会っているのに、僕って、フロストのこと何も知らないよな……。
「他に何かないのかよ。趣味とかさ」
「ないですねえ」
「そういえばお前いつもこの部屋にいるよな。研究とか……勉強とかしているのか?」
「いえ、特には」
「特には、って……」
確か最初はコイツ、儀式のことを調べるためにここに来たと言っていなかっただろうか。もしかして解決済み? 僕がオトメになるということで話がまとまっている? それならそうでせめて報告くらいはしてほしい……こちらにだって心の準備というものがあるのに。
「じゃあお前は一体ここで何をしているんだ?」
「ベル様が来てくれるのをずっと待っています」
「……ハア。そうだお前言おうと思ってたんだよ。仮にも僕は王子だぞ? いつもいつも偉そうに呼びつけて、一度くらい自分から出向いてきたらどうなんだ」
「はあ……そう言われましても」
突然歯切れが悪くなった。フロストは何かを迷っているかのように目を泳がせて口籠もる。しばらく待っていると、やがて意を決したように、眩しい笑顔を復活させた。
「実は、出られないんですよねー! この部屋から!」
「はっ……?」
「王に封印結界を張られてしまって! いやー参っちゃいますよ」
「は? は!?」
今サラッと衝撃発言があったような。僕は思わず立ち上がる。部屋中を見渡して、気付いた。部屋の四隅に打たれた釘から……何かすごくいやな感じがする。これは……邪悪な魔力の気配、というやつなのだろうか。
「……おい」
「あっご心配なく。ベル様は出入り自由です、私が出られないだけなので」
「いや……だって……え?」
フロストは王の命で僕のお目付役になったはずだ。先日だって王もこの部屋に出入りしていた。王はフロストを信頼してこの城に招き入れたのではないのか……?
「最初は信頼されていたのですが……バレちゃったんですよねえ」
「なに、が……?」
ドッドッと鼓動が逸る。この得体の知れない男の正体が、ついに明かされる時が来たのかもしれない。僕は最初から怪しい奴だと思っていたけど……明確な悪意は感じなかったから様子を見ていた。呼びかけにも応じた。それがまさか、王に監禁されていただなんて。
「王は気に入らなかったのですよ。私がこの国の“本当の歴史”を知っていたから」
「本当の……歴史?」
この国の歴史……授業で誰もが習うことだ。
僕たちの最初の祖先がこの地に身を置いたのは、もう数百年も昔の話。はじめの人類がここに文化を築き、国を建てたのだ。精霊と共に森を守り、魔力で豊かな暮らしを得て、少しずつ人口を増やしていった……。
特段、劇的なものではないが、恐竜などの話よりはよほど真実味がある。僕は何の疑いもなくそれらを知識として受け入れていた。
それがなんだ。この国の歴史には“ウソ”と“本当”があるというのか?
「ここはね。自分の国を追われた忌み族が始めた、世界で最も愚かな国なのですよ」
「いみ、ぞく……?」
フロストの顔にはもう一欠片の笑みもない。僕の瞳をまっすぐに見つめ、重々しい空気を漂わせている。
「彼らはあまりに人道を外れた行いをして他者の怒りを買ったのです。そして当然滅ぼされ……逃げ延びた残党が人類未開の地であるこの場所を見つけた」
「彼らって……」
「無論、あなた方王族の祖先です」
ドクン。心臓が痛む。切り裂かれるような四肢の痛みを感じる。僕はそれを堪えてフロストの冷ややかな瞳を見返す。
「僕の、祖先が……? 何をしたっていうんだ……?」
「さあ、そこまでは……ただ今の行いを見れば容易に想像はつくでしょう。儀式の成り立ちもそこからきている。おかしな思想を持った者がたまたま類稀なる魔力を有していたのが、異国の者にとっては不運でしたね」
「フロスト、お前は……」
なぜそんなことを知っているんだ。嘘をついているようには見えない。
真実を知るのが怖くてそれ以上問えないでいると、フロストから口火を切った。
「私を、ここから助け出してくれませんか?」
ぞわり。薄い笑みは邪悪そのもので、だんだんと影に侵食されているかのようだ。先程まで戯れあっていた彼とはまるで別人のようで。
……逃げなければ。立ち上がって及び腰になる。フロストは腰掛けたままだ。
「お前は……王族の敵なんだな?」
「さあ。誰を敵とするかは、今、見極めている最中なんです」
「お前は……どこから来た?」
「あなた様では考えも及ばないほど遠き地より」
「何のために……?」
「復讐」
ニヤア……フロストの真っ白な顔が影に満ち満ちた。僕は扉を開けて外からフロストを見る。追いかけてくる様子はない。本当にここから出られないのか。
「襲いませんよ。私には今あなたをここで襲う理由がない」
「父上はどうしてお前を僕のお目付役にした……? 地下牢に幽閉なり国外追放なりしたほうが安全だろう?」
「さあ……あのお方も決めかねているのかもしれませんね」
「…………」
僕だけでは到底答えを出せる事態じゃない。父上に直接聞くのも憚られるし……調べる? どうやって? 図書館に置いてある歴史の本は幼い頃にすべて読まされた。どれもフロストの言っていることなんて欠片も書かれてはいない。国ぐるみで隠蔽されているのだとしたら、僕の力でなんて何も……。
「……また、話に来る」
「はい! お待ちしております!」
フロストは心底嬉しそうに微笑んで、椅子の背もたれを抱きかかえる格好で僕にバイバイと手を振る。おちゃらけているフロストはどこか憎めない雰囲気があるけど……奴は奴なりの目的があってこの国に侵入したんだ。警戒しないと。
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偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
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