王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第34話 諦めない

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翌朝から一人の登下校が始まった。

当然ジャオは迎えに来てくれない。いつも恋人らしい会話をしていたわけじゃないけど‪……‬ジャオが隣にいて、僕の話に相槌を打ってくれるだけで、毎日楽しかった。何より、絶えず繋いでいた手の温度が失われたのがひどく、さみしい。

今さら気付いても遅い。バカだな、僕は。



さりげなくジャオのクラスの前を通り掛かってみると、すでに奴は自分の席に着いていた。誰とも話すことなく窓際で頬杖をついて黄昏ている。絵になるなあ‪……‬。
ハッ。見惚れてしまってることに気付き、慌てて自分の教室へと逃げ帰った。あんなふうに未練がましく盗み見て、ジャオにますます嫌われたらどうする。他の生徒にも僕らの不仲が気付かれるかもしれない。いい加減、ちゃんと身の振り方を覚えないとダメだ。

「ベル、おはよーっ」

ユーリがにこやかに駆け寄ってくる。しかし必要以上に近づいて耳打ちの距離にくる頃には、その笑顔も消え失せていた。

「ジャオとケンカした? ‪……‬よね?」
「‪……‬なんで?」
「ベルが昨日アルヤ先輩とキスしてたってもっぱらの噂だよ!」
「ヒエ‪……‬‪……‬」
「んで今日の朝はジャオと別々に登校してくるもんだからさあ……‬ねえ、大丈夫?」

全然大丈夫じゃない。
改めて教室中に視線を巡らせると、全員がサッと僕から目を逸らす。ということは、今まで凝視されてあることないこと噂されていたというわけだ。
ジャオとうまくいってこっち、ようやく皆がそれに慣れてきて、僕も一般生徒としてつつがなく学校生活を送れていたというのに‪……‬なんてことだ。

「ああ‪……‬」

頭を抱えて縮こまりたくなるのを堪え、気付けに母上の魔力がこもった聖水をちびりと飲んだ。これすっごく苦いんだけど、やっぱり一刻も早く淫紋を消さないとって気持ちが逸る。
急がないと、取り返しのつかないことになる気がする‪……‬。

「何それ」
「気にしないでくれ‪……‬」
「ねえ。ベルはジャオのことが好きなんだよね?」
「‪……‬‪……‬ああ。心配かけてすまない」

実際、僕とアルヤ先輩の間に何があったのかユーリは聞かなかった。ルシウスから言い含められているのだろうか、彼も少し離れた位置から心配そうにこちらを見ている。気遣ってくれる友人をもって幸せだ。
だけれど、僕は欲張りだ。

僕にはジャオが必要なんだ。ジャオが一番必要なんだ。
早くジャオと、元通りになりたい‪。





昼休み。そういえば今日はミヤビさんの弁当が食べられない。
ユーリ達と食堂に行こうか‪……‬。
思案していると、にわかに教室の外がざわめき出す。群がる生徒らを押し退けて入ってきたのは意外な人物だった。

「ベル様」
「えっ、えっ‪……‬!?!?」

落ち着いた大人の声でそう呼ばれて僕は思わず立ち上がる。呑気に座ってなんていられない。だってわざわざ教室まで僕を訪ねてきたのは、ジャオのお父さん‪……‬この国の、英雄だ‪……‬!

「な、なぜ!?」
「ミヤビの弁当です」

そう言って彼は事もなげに僕の机に弁当の包みを乗せる。一等美しく煌めく蒼の髪は、見間違いようもない、この国の英雄たる象徴だ。ジャオは英雄には珍しい赤髪なのであまり学校内でも英雄視されていないのだが、やはり先代英雄に憧れている生徒は多いのだろう、クラス中の羨望の眼差しを一身に受けている。

「み、ミヤビさんに、頼まれて‪……‬?」
「いえ、私から申し出ました。外出を禁じているのにミヤビときたら‪……‬自分がお届けするといって聞かないもので」

ミヤビさん、やっぱり外出を許されていないのか。でも‪監禁とかそういう類ではなく、単純に外に出すのが心配なのだろうな。口ぶりや表情からそう解釈できる。
ジャオとお父さんって外見はまったく似ていないけれど、朴訥とした雰囲気とかオーラはそっくりだ。この人も、周囲に誤解されやすそうだな。

「すみません、わざわざ。ジャオと仲直りできるまではもうお持ちいただかなくて大丈夫です」

小声でそう告げる。すると彼は僕と同じように声を潜めてくれた。

「ベル様ほどのお相手はいらっしゃらないでしょうに‪……‬バカな息子で申し訳ない」
「いえ、‬僕がジャオを怒らせてしまったんです‪。わかってもらうまで頑張ります。お父様には余計なご心労を」
「お父様‪……‬」

ほわ、と彼の頬が色づく。ジャオが喜んでいる時の表情とよく似ていた。
はてしかし、僕は今彼を喜ばせるようなことを言っただろうか?

「コホン。では私はこれで」
「あ、ありがとうございます‪……‬!」

彼は相変わらず注目を浴び続けながら教室を出て行った。ユーリが「カッコ良かったね!!」と騒ぎ散らかしてルシウスが不機嫌になってしまったので、ランチタイムは地獄の空気となったけれど‪……‬ミヤビさんの弁当は今日も最高で、涙が出るくらいに、美味しかった。





放課後。ダメもとでジャオの教室を覗くがやはりもういない。先に帰ったのだ。干渉しないって、言ってたもんな‪……‬。
深く首を垂れて落ち込む。弁当箱は後日返そう。そう思って振り返ると、間近に人の顔があって思わず悲鳴をあげてしまった。

「ヒッ!」
「こんにちは、ベルくん」
「あ、アルヤ先輩‪……‬!?」

先輩はごく自然に僕の手をとって人気のない教室へと連れて行く。二人きりになるのは危険だが、人目のあるところで話すこともしたくない。僕が警戒すればいいだけの話だ。
思い切って手を振り解き、距離を十分に取って対峙した。

「英雄くんとケンカしたんだって? ようやく僕にもチャンスが回ってきたのかな」
「す、すぐに仲直りします‪……‬! あの! 何のつもりであんなものを‪……‬!?」
「ああ。ちゃんと付けられたんだ。見せてよ」

一歩近づかれるごとに一歩後退する。先輩、助長している。淫紋を無許可で僕に刻みつけたことに対してもちっとも悪びれていやしない。

「‪……‬それにしてもあれくらいでケンカとはねえ。心の狭い男だ。やっぱり僕にしないか?」
「しません!」

持てうる限りの気迫を乗せてキッと睨みつけた。ここで決着をつけないと。この人はきっとこの先も、僕とジャオの障害になる。

「僕はジャオに決めたんです。先輩と結ばれることはありません。諦めてください!!」
「へえ‪……‬本当にいいの? このままだと君‪……‬王によっていろんな男と交配させられるよ?」
「なっ‪……‬?」
「王は何とかして君に大量の女子と跡継ぎの男子を産ませようと計画している。英雄だけでは追いつかないだろう。国民たちの性欲処理と寄付金の増進を兼ねて君の身体を貸し出したほうが、よっぽど話が早いし合理的だ」
「なっ、なっ‪……‬」

吐き気がするほどに、侮辱的な話だ。どうか作り話であれと願いたいほどに。
本当のことだとして、これを涼しい顔してサラッと説明する先輩にも腹が立つ。

「確かな筋からの情報だよ。君も身に覚えがあるだろう。王は、君を子を産む道具としてしか見てはいないからね」

確かに父上はそういう人だ。横暴で、粗雑で、まったく人の気持ちを考えない。僕のことを女人扱いして蔑んだあの日のことを思い出して身震いする。あれ以上の屈辱を、一生与えられ続けることになるのか。

「魔力の高い僕が進言したよ。僕と君が子を成せばまた以前のように魔力溢れる国になる。オトメ召喚の儀式も復活できるはずだってね」
「なんて、ことをっ‪……‬!」

儀式の復活。それは新たなる悲劇の幕開けだ。僕はミヤビさんと約束したんだ。もう異国のオトメを攫うような真似はしないと。僕自身、誰かの犠牲のもとに成り立つ国なんて滅びたほうがいいと思っている。
皆が自分の人生を謳歌できるように。そんな国でないと、存在する意味などない‪。

「僕は、絶対にあなたたちの思い通りにはならない」
「考え直しなって。他の男とキスしたくらいで別れるなんていう男‪……‬どうせ早かれ遅かれこういう結末になってたさ」
「お前がそれを言うのか‪……‬!」
「じゃあ質問を変えようか。君は特定の相手を作らずにこの国の子作りマシーンにでもなりたいの?」
「そんなわけがないだろ‪……‬!?」

なんという侮辱。なんという不敬。‪……‬いやもう僕は王族ではないのだ。僕という人間は僕でしかないのに、性別が女に変わったことで奪われてしまう誇りなど‪……‬こちらから願い下げだ。

「誰にだって自分の人生を生きる権利があるんだ。それを王族と英雄一族は‪……‬こんなの、間違ってる」
「ではミヤビというオトメも不幸か?」

ミヤビさん。彼女はいつも満面の笑みでいて、可愛らしい娘たちに囲まれ最高の幸せの中にいる。いや、彼女自身が自分の置かれている環境を変えたのだ。自身で、幸せを勝ち取った。そんな彼女を不幸だと、僕は言いたくない。

「幸せそうだろう? 人間には適応能力というのがあるんだ‪。今までのやり方で問題はない」
「あなたは‪……‬! ミヤビさんがこれまでにどんな思いをしてきたか知らないからっ‪……‬‬!」
「女人の苦労なんてどうでもいいだろう。大事なのはこの国の民の幸せだ」

ドクン。衝動的に身体が動いていた。
ジャオはあまり積極的に教えてくれなかったけれど、身体が覚えてる。僕の全体重をかけて、アルヤ先輩の頬に拳を振り抜く。魔力が高かろうと不意打ちの攻撃を避けることはできない。僕と先輩は一緒になって床に倒れ込み、そして‪……‬

驚くべき姿に形を変えた。

「お前は‪……‬!? ユーステン!?!?」
「チッ」


間違いない。以前に僕に乱暴を働いて城の地下に投獄された、元理科教師のユーステンだ。てっきり国外追放されたと思っていたのに‪、今確かに、僕の目の前に、いる。

「アルヤの尾行はもういい」

ユーステンはおもむろに懐に囁きかける。そこから一羽の鳩が窓の外に飛び出した。そしてユーステン自身ももがくように立ち上がり、よろよろと部屋から逃げ出す。外から「ユーステンだ!」「えっでも確かあの人って‪……‬」とざわめきが聞こえてきた。
僕は一人になって、高揚した身体をそっとさする。奴の顔を思い出すと一瞬にして、荒ぶる熱が気持ちの悪い寒気に変わる。

ユーステン‪……‬なぜこの国にまだいるんだ。しかもアルヤ先輩に化けて、何をしようとしていた? 僕を、懐柔して‪……‬アルヤ先輩のふりをしたまま、僕を手に入れようとしていた‪……‬のか?

「こわい‪……‬」

こわいよ。こわくてたまらない。己の身体を抱き締めて腕をさする。
姿の見えない敵の全貌が、どんどん明らかになっていく‪……‬それは、彼が話していたようにおそらく‪……‬。
僕は落ち着くまで、しばらくそこから動けなかった。
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