王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第38話 結託

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「もうすぐ出来ますからねえ」

今日も今日とて上機嫌のフロスト。僕が夜になって突然訪ねてきたにも関わらず、歓迎して飲み物を用意してくれている。キッチン越しの無邪気な笑顔、そして素であろう陽気な鼻歌を聴いていると、やはり憎みきれない奴だな、と思う。城にはこういうタイプの人間はいなかったはずなのに、どこか親しみやすく感じる、不思議だ。

「今日はその、雑談をしに来ただけなんだが‪……‬」
「結構ですよ。どうせ暇していますし。お相手になれて光栄です」

いつもの嫌味も今晩は息を潜めている。とても話しやすい空気に僕は感謝した。だって今から話すことは、僕の中ではとても重大だが、きっとフロストにとってはどうでもいいことだ。

「いいことがあったのでしょう? もうわかっていますよ」
「え、ああ、そう‪……‬じゃあもう言っちゃうんだけどさ。僕、」

ここまで言って言葉に詰まった。急に羞恥心がブワッと胸の中に芽吹いたのだ。やっぱり帰ろうかな、でも‪……‬フロストはワクワク顔で待っている。どこかで見たことのあるこの顔を、僕はなんとなく裏切りたくはなかった。なので思い切って、自分に起きた人生最大の出来事を口にする。

「今日ね、ぷ、プロポーズされたんだ‪……‬ジャオに」

フロストはニコニコと微笑んだまま頷いている。やはり、驚きとかのリアクションはナシか。まあわかってたけど。

「僕とずっと一緒にいたいから、け、結婚したいんだって‪……‬えへ、恥ずかしい奴だよね~‪……‬でもまあ、ジャオらしいっていうかなんていうか」
「なるほどー。つまり、わざわざそんなうざったい惚気話をしくさりにベル様は私の部屋にきやがったんですね?」

ん? なんだか今ものすごい敵意を感じたけど‪……‬気のせいだよな? コイツって難解な敬語を使うよな。

「まあ、まだ色々な問題もあるから保留にしたんだけどなっ? こういうのっていきなりくるんだな、ビックリしたよ。またしてくれるって言ってたから、一生に一度の経験をもう一回できちゃうなんてある意味ラッキーかも? なーんて」
「‪……‬なんかもう、ジャオ様のこと大好きなのを隠さなくなってきましたよね、あなた」

言われてみればそうだ。すっかり吹っ切れてしまった。本人に言うまでは僕も意地を張っていたけど、そんな場合じゃなくなって必死にジャオに気持ちをぶつけたら、わかったんだ。

「恋ってさ、掴み取るものだから。意地を張ってる暇なんかないんだよ」
「色ボケがすごい‪……‬そんな調子だったらさっさともう一つの報告もしてください」
「もう一つの報告?」

なんだろう。フロストに報告する義理なんてそもそも僕にはないのだ。最初に言ったように、このプロポーズされた話だってただの雑談。誰かに言いたくて仕方なくって、だけど気兼ねなくこんなこと話せる相手となればコイツしかいないんだもん。
しかもそれを重大発表として言うにはまだ羞恥心が邪魔をするから、あくまで「日常の何気ない話」の体で聞いてもらおうと目論んだ。完璧にできたつもりだ。そうだよな。僕にとって、これ以上の報告なんて……。

「ヤったんですよね? ジャオ様と」
「ヤっ‪……‬‪……‬」

ぷしゅう。一瞬にして顔が燃えて焦げた。即座に顔を覆って隠す。こんなの否定しなきゃ認めてるのと同じだってわかってるのに、あいにく今の僕には器用に嘘つける余裕がない。
まあ、こっちの話題でもやぶさかではない、かな‪……‬恥ずかしいけど……。

「もーバレバレです。急に色気づいちゃって」
「‪……‬そうなのか?」
「えーえー。もうメスのフェロモンムンムンで。体つきも少し見ない間にすっかり女性ですしね‪。下着まで変えたんですね~」

ううっ。さすがに目敏い。寝る時はさすがに胸当てしないが、フロストも男だからと一応身につけてきたのだ。それが仇となるとは。

「これは‪……‬ジャオに胸当てしろってうるさく言われたから‪……‬」
「この国に胸当てなんてものがよくありましたね?」
「ミヤビさん‪……‬ジャオのお母さんが作ってくれたんだ」

ピリッ。部屋の空気が変わった。フロストは口をひん曲げて少し変な顔をする。しかしそれも一瞬で、すぐにいつもの笑顔にすり替わった。

「あちらのご家族ともうまくいってるんですねえ」
「ま、まあ‪……‬ミヤビさんはメチャクチャいい人だし、それに‪……‬ジャオのお父さんもは無口でわかりにくいけど、意外と優しくてさ‪……‬何より、僕らのこと認めてくれてるみたいなんだ‪」
「へえ~何よりで」

何の変哲もない相槌のはずなのに、そこはかとない怒気を感じる。僕は探るようにフロストを見つめるけど、奴は不自然なほどに笑顔を崩さなかった。それはまるで貼り付けたかのように、少しの隙もない。

「妹さん達もいつも歓迎してくれるんだ。お姉さん達はもう嫁入りしちゃったみたいで、まだ一人も会ったことはないんだけど‪‬」
「‪……‬ジャオ様より上の方々はもう全員?」
「そう。ちょうどジャオが結婚を認められる年齢だからね」

そうだ、僕らももう結婚できる年齢なんだよな。結婚‪……‬。儀式までそんなの考えたこともなかった。この国で結婚が認められる年齢になったからといって、それはおよそ英雄と女子にしか関係がない。僕ら男子は同世代の英雄がオトメと儲けた女子と結婚をする順番待ちをするしかないのだ。王族の僕は別だが、一般の国民にとってその順番待ちは途方に暮れるほど長い。僕らの父親世代でも、まだ嫁を待っている人がいる状況なのだ。
そう、考えると‪……‬あんなあどけない天使のような子達が、自分の父親よりも歳上の男たちに嫁ぐことになる。あまりに酷だ。僕は大好きなジャオにプロポーズされて浮かれているけれど、この国で僕のこの状況は奇跡に近い。僕だって本来の性別を捻じ曲げられているという煽りは受けているが、それはこの際置いておこう。この国の女人の誰も、結婚相手を選べない。他の国のことを知らない僕でも、そんなのは理不尽だと思う。
我が身に降り掛かってわかった。好きな相手と結ばれて、生涯を共にするなんてことは、許されて当然の権利だろう。改めて認識する。この国は、異常だ。

「今この瞬間にも、ジャオのお姉さん達はつらい思いをしているかもしれないんだよな。それだけじゃない。僕の親世代‪……‬母さんや、母さんの妹達だって」

僕のほとんど自問自答の言葉に、フロストは反応しない。彼は彼で深い思考の海に潜っているようだ。

「この問題は解決しなければいけない。僕だけが幸せになるわけには‪……‬」
「そう‪……‬ですね」

ようやく彼が口を開いた。いつになく真剣な瞳が僕を向いたのをきっかけに、僕も彼を真っ直ぐに見る。

「間違いは正さなければならない。性別関係なく、国民全員の人権が守られるべきだ。僕はこの国を、変えたい」
「そのために、ベル様はどうすればいいとお考えですか?」
「父上が王ではダメだ」

自分でも驚くくらいに、すんなりと返答した。ずっと無意識に避けていた結論が、僕の中ではもうとっくに出ていたのだ。

「許されるなら僕がこの国の舵を取ろう。女人だからダメだと言われたらジャオでも‪……‬他の者でもいい。とにかく父上を王の座から引きずり下ろさなければ」
「‪……‬結界を張っておいてよかった‪」

フロストが小さく息をつく。机の中央に置いてあった、花瓶のような細長くオーロラに輝く器に、棚から取り出した水を継ぎ足していく。

「ここでの会話が他の者に聞かれることがないよう、師匠直伝の聖水で結界を張っております。作戦会議といきましょうか」

フロストがおもむろに眼鏡をかける。より理知的な顔立ちになった彼は、棚の下にある開きから数冊の歴史書を出してきた。今までとは何やら雰囲気が違う。もうにこりともしないし、静かだ。しかしその瞳は怒りに満ちている。目の前にいる僕を通して、父上の姿でも見ているのだろうか。

「ベル様、あなたはやはり私の敵ではなかった。共に王を討ちましょう」

引き締められた口元からもう軽口が発せられることはないのかもしれないと思うと、少しさみしい。だがようやく僕は前進した。未来への大事なピースを一つ手に入れた心地だ。
差し出された手をそっと握る。華奢だが、しっかりとした骨格に筋張った感触。中性的な容姿にそぐわず、大きな爪は凹凸が目立ち、甘皮も荒れている。見せかけではない、彼の隠された内面の一端なのだろう。

「フロスト。僕を認めてくれたようだが、僕もお前を信頼したい。信頼に足る情報が欲しい」
「ごもっともです」

フロストは顎に手を添え、しばらく何か考えていた。しかしやがて吹っ切れたように、穏やかな笑みを湛える。

「まず、私はこの国の人間ではありません」
「え」
「師匠と呼んでいる祈祷師とは知り合いでもなんでもないです。ただ魔力を扱う道具をいろいろとかっぱらってきただけの相手です」
「ちょっと待って待って待って」

いきなりはっちゃけすぎだろう。もっとゆっくり頼む。いやコイツのこういう無駄がないところ、好感が持てなくもないんだけど、正直いつも心が波立って気が気じゃないんだよな。そんなコイツを敵にまわしたくないから、僕も距離感を測りかねていたのだ。

「今のところのお前、僕からしたら異国から来た泥棒なんだが」
「おっしゃる通りです」
「信頼できる要素ゼロだぞ?」
「そうですね。ですが信念はありますよ。この国を滅ぼすために、あなた程の年齢から今に至るまで人生の時間をすべて費やした。そうしてようやくこの地に辿り着いたのです」

異国の者がなぜそうまでしてこの国の破滅を願うのだろう。冷静なフロストは今までの遊びがなく、澱みなくものを言う。それが僕には正直、恐ろしい。

「お前の目的って、復讐‪……‬だったよな」
「そのお話はまた後日。ひとまずは、異国から来た私がこの閉鎖された国に辿り着いたこと、そして王子本人すら知らない王国の真の歴史を掴んでいることを評価していただきたい」

どうやら身元を明かす気はまだないらしい。だが、まあ‪……‬確かにフロストの知識は膨大だ。今まで相談した問題ごとのすべて、解決してくれたといっても過言ではない。
復讐者という不気味な自己申告を差し引けば、今までのフロストの行動って、僕を目覚めさせてここまで導いてくれたともいえる。今さらそう警戒する必要性も感じないというのが正直なところだ。

「その、ルアサンテ王国の歴史や成り立ちはどこで学んだんだ? わざわざこんな辺境の地の小国について学ばせる国があるのか」
「私が独自で研究してまいりました。この国には自国の民を騙す歴史書しか存在しておりません。どれも無意味で無価値です。真実はすべてここに」

先ほどフロストが出してきた本が示される。同じ言語が起源のようだが、たまに知らない難解な文字が混じり、どんどん読む気が削がれていく。幼児が大人の使う参考書を読まされている心地、それくらいに読み解くには時間がかかるかかりそうだ。
仕方なく読み飛ばしてぱらぱらと捲っていくと、ある挿絵に僕は目を奪われた。

豊かな髪を靡かせ、質素な麻のワンピースを着て天に祈りを捧げる少女‪……‬背中からは薄い翅が生えており、天使と見紛うほどに美しい。趣は少し違うが、僕は確信していた。

「トルテ‪……‬‪……‬」
「なぜ、その名を?」

フロストが眼鏡を上げて顔を顰める。ジャオも彼女の名を知っていた。僕の知らない彼女を、彼らは知っているのだろうか。

「トルテは、僕の友人だ‪……‬ずっとそばにいる‪……‬僕にしか見えない」

はじめて人に打ち明けた。ジャオにすらまだ話していなかったのに。手の中に描かれた彼女があまりにも僕の知る彼女の純真さを、献身を、克明に表現していて‪……‬心を打たれてしまった。反射的に挿絵の端のサインを見る。そして息を呑んだ。そこには確かにこうあったのだ。

――――Bell.


「ベル‪……‬‪……‬?」
「おや‪? これは‪……‬私も気がつきませんでした」

どうして。こんな偶然があるのだろうか? いや、絶対にないというわけではないが‪……‬できすぎている。フロストに揶揄われているのかと本を調べるが、かびた皮表紙の匂い、一昔前の印刷技術が見える線状に掠れた文字に……‬この本が途方もない時を重ねた物であると、信じる他なかった。
手が震える。涙が溢れ出してくる。僕は誰だ。そうだこんなふうにトルテを描けるのは僕しかいない。では今の僕は一体? 絵を描く才能はまるでない、心の中にこの彼女が存在していてもこんなにも繊細に、抒情的に表現できるだけの技術は持ち合わせていない。そもそもこんな絵を描いた記憶もない。元よりこの本は僕が産まれるずっとずっと前の‪……‬旧時代の遺物だ。

「トルテ‪……‬一体‪……‬‪……‬」
「‪……‬少し休憩しましょう」

フロストが飲み物を淹れ直してくれる。僕はカップを持って手を温め、芳醇な茶葉の香りで落ち着きを取り戻そうとした。しかし意味のない思考はぐるぐる巡る。

「この挿絵は異国に取り残された者が、移民として旅立つ家族への餞として贈ったものだと記されています。遠い昔には我が国にもあった精霊信仰‪……‬それを少女の形として描いたものだと」
「移民‪……‬って」
「以前に話した忌み族のことですね。そうして彼らはこの地に辿り着き、送り出した者が願った通りに精霊の加護を得て、この国を建立した」

‪……‬フロストは先ほど「我が国」と言った。この書物はフロストの国のものなのだ。そこに記してある「忌み族」。つまり、僕たちの祖先は――――

「そう。私の育った国から旅立ったのがあなた達ルアサンテ王国の最初の民。つまり私達はもともと、一つの国に共存していたのですよ」

そうだったのか。だからフロストはこんなにもルアサンテについて詳しく知ることができたんだ。

「待て。少しだけでいいからお前の国のことを教えてくれ。いまだに魔力で栄えている大国なのか?」
「大国‪……ではありますね。ただ同盟国が多くてほとんど国の境界なんてありませんが。それが私の住んでいた「世界」です」
「なるほど‪……‬?」
「ちなみに魔力はもう存在しません。最初から存在しなかったのではないか、という説が信じられているほどに、もう魔力の欠片もない」
「そうか‪……‬エッ、じゃあフロスト、お前も」
「魔力なんてゼロです。今までの予言や助言もテキトーですし、必要な時は魔力を帯びた道具を使ってきたまでです」
「嘘だろ‪……‬!? じゃ、じゃあどうやってこの地に来たんだ!?」
「徒歩です。気が遠くなるほどの時間がかかりましたが」
「ええ~‪……‬!?!?」

今明かされる衝撃の事実。祈祷師然とした雰囲気にすっかり騙されていた。コイツ、完全なる脳筋タイプじゃないか。演者にでもなった方がいいんじゃないか‪……‬‪……‬?

「しかしそんな長い間、一人で旅を‪……‬? この国の存在はそちら側からも明らかではないだろう? あるかもわからない国を目指してひたすら歩いてきたっていうのか?」
「ええ。来てみないと始まらないので。実際にありましたしね」
「お前、意外と根性あるんだな‪……‬はじめて尊敬したよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「と、いうことは‪……‬この国からも他国へ行けるのか!? この地は精霊の守護によって他の地とは分断されているから、外部との出入りは不可能だと‪」
「真っ赤な嘘ですね。国民を流出させないためでしょう。召喚したオトメや、国に不満を持つ女性らに逃げられてはたまりませんから」
「そんな‪……‬僕らはずっと騙されていたのか‪‬」
「ようやく実感が湧いてきましたか?」

この国の歴史も何もかも嘘だと聞かされてはいたものの、古い話だしどこか他人事の気持ちでいた。だがどうだ。こんなにも簡単に異国の民の侵入を許している。この国は民が信じているより脆弱だ。精霊の加護が現代に残っているのかも正直怪しい。
それに、古い歴史書に残っている「ベル」が描いた「トルテ」――――これがどうしても気になる。

「フロストは‪……‬「トルテ」を知っているのか?」
「ええ。彼女はこの国を加護する精霊です」

あっけなく放られた言葉に、僕の胸が灼かれるように傷む。やはりトルテが「精霊」――――僕やジャオが産まれた頃どころか、もう何百年も前から存在していた存在‪……‬移民がこの地に到着した際、彼らと契約を結びこの国の建立に助力した、偉大な魔力を持つ精霊‪……‬。

「そんな、トルテは‪……‬ずっと、一緒にいたんだ‪……‬いつも一人ぼっちの僕の傍にいて、心を癒してくれた‪……‬友だち、なんだ‪……‬」
「‪……‬どういう理由かは私にもわかりませんが、あなたはよほど精霊に愛されているようですね」

それは、そうなのかもしれない。実際、危険な目に遭った時はいつも助けてくれた。そういう精霊の力を顕わし始めてからは、まったく僕の前に姿を現すことはなくなったが‪……‬‪……‬そこも気がかりなのだ。トルテは自分の意思で隠れているのか? それとも、なんらかの事情があって出てこられない――――?

「‪今も、近くにいるのでは?」

おもむろに窓が開け放たれる。王の張った結界でここからも出られないんですよ、と注釈するフロストの声を遠くに聞きながら、僕は窓の外を眺めた。木立が爽やかな風に吹かれて、葉の擦れ合う音を立てる。
何の手入れもされていないのに、森は美しくその姿を保つ。僕とジャオを受け入れてくれる優しさをも包括している。これも彼女の意志なのだとしたら――――トルテ、僕は君に、何をしたらこの恩を返せるのだろう。

「最近は会っていないんだ‪……‬ジャオと親しくなってからかな」
「それも何か、関係があるのかもしれませんね」
「うん‪……‬」
「ただ、精霊が味方についているのなら勝機はあります」

フロストは他の本を開いてあるページを示す。真剣な面持ちで、僕には読めない文面を指差した。

「精霊は魔力を失った地を見限ります。自らの手で滅ぼすと記述している本もありました」
「トルテがそんな恐ろしいことを? 信じられない‪……‬」
「ですが、ベル様の意思になら沿ってくれるかもしれません。あなたはこの国を「滅ぼしたい」のではなく「再興したい」のですよね?」
「ああ‪……‬やはり僕の故郷だ、民のためにもこの国は残したい‪……‬しかし今までと同じようにはしたくない」

フロストは本から顔を上げる。眼鏡を外して僕を見つめた。値踏みするように紫水晶が輝いて気後れするが、呼吸を落ち着けて、宣言する。

「フロスト。お前の国とも交流できるような開かれた国づくりがしたい。他国の文化を取り入れて、もっと豊かな国にしたいんだ」
「‪……‬ご立派です」

くしゃ、とフロストの目元が畳まれた。見たことのない、不器用な笑顔だった。握手を交わして無言で協定を結ぶ。僕らはもう疑い合うことをしない。敵を同じくして繋がった仲間だ。

「精霊のことも詳しく調べておきます。何かわかったらお呼びしますね」
「頼んだ」

まだ具体的に僕のやる仕事がないのが歯痒いが、問題解決に向けて大きく前進した心地だ。この国の者は王には逆らえない。僕とフロストと、そしてジャオが、道を切り拓くしかない。
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