王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第70話 時を越えた誓い

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城の地下倉庫には幼い頃に一度だけ立ち入ったことがある。城にある部屋をすべて制覇しようと探検ごっこをしていた時だ。誰に聞いても鍵の在処がわからなくて見つけるのに骨が折れたし、いざ入ったらひどく埃っぽかったのを覚えている。
宝物を探そうとして棚に手を伸ばしたが最後、乱雑に置かれた宝飾品がドサササササ!! と頭上に降ってきた。その後、母上にものすごく怒られた。怪我はなかったかと聞かれたけど、僕は平気だって答えたっけな。
そうだ、あの時も、トルテが魔法で護ってくれたから‪……‬。

「ケホ、ケホッ、ケホッ」
「母上、ご無理なさらず」
「いえ‪、私だって皆の役に立ちたいもの。必ず有用なものを見つけてみせるわ」
「張り切りすぎないでくださいね‪……‬?」

フロストに言われた通り、僕は母上を連れて倉庫を訪れた。その乱雑な景色は幼少期の頃のままに僕らを待ち受けていた。僕が崩した棚からこぼれ落ちた真珠すら、そのまま床で埃にまみれていて、あれから誰一人として立ち入っていないのだと知れる。

「母上は、ここに来たことは?」
「嫁入りしてすぐに一度‪……‬城の中をすべて見たいと言って開けさせました。ですがあまりに古ぼけていたので失望してすぐに扉を閉ざしましたが」
「ですよね‪……‬誰も管理していないのでしょうか」
「きっと私達の何代も前の王族が詰め込みすぎて、もう誰も価値がわからないのでしょう」
「でもそれなら、思わぬ掘り出し物が眠っている可能性がありますね!」

元気付けるようにそう言うと母上の顔が輝く。単純な人でよかった。長いドレスを鬱陶しそうにたくし上げて奥へ奥へと進んで行ってしまう後ろ姿は、母上その人とは思えないほどに無邪気だ。

本来ならこんな埃っぽいところに王族を立ち入らせる召使いなどいない、僕らが自ら志願した。今は戦えない者や人質になる可能性のある者は働く場所がないから、こうして自分たちで動くより他ないのだ。
戦を始めたのは元を辿れば父上と母上、それに僕だ。こうなった責任を取りたい。母上も僕と同じ使命感を持って一緒に来てくれた。父親には恵まれなかったが、この人はいい母親だ。この人に拾われて、よかった。

よし。僕も腕まくりをして手袋を身につける。あの時みたく棚を崩さないように慎重に見ていこう。奥は母上が見ているから、僕は手前から。魔具のようなものは散乱しているが、これがそうだと正確な判別はできない。後で詳しい者に見てもらおうとずた袋の中に次々と放り込んでいく。
幼い頃に見た通り、宝飾品もたくさんあった。これまた煌びやかな、しかし古ぼけた宝箱から金のチェーンや宝石やらが飛び出ている。年代ものだが‪……‬これも戦が無事に終わったら精査しよう。国を立て直す資金源になるかもしれないぞ。
これまでわが国は幸い財政難に陥ったことはないが、今後は王族だけが贅沢をせず、国民に等しく分け与えて皆で豊かな生活を送りたい。夢物語かもしれないが、この倉庫に眠るお宝の数を勘定に入れたら、一歩その理想に近づけるかも。
物を動かすたびに埃が舞って、窓の外から差し込む陽光にキラキラと照らされる。綺麗に掃除された城内では見られない光景だ。これもまた冒険か。だんだん愉快な気分になってきて、鼻歌を口ずさみながら上の物を退けていく。

小さな小瓶も大量にあった。ラベルに「魔」という文字が書いてあるものはすべて回収した。母上が作ってくれた聖水もこの類だ。きっと魔導士が魔力を込めて作った、なんらかの効果がある代物だろう。

「ベル! ちょっとこれを見て! アイテッ!」
「母上!?」

盛大に転けた音がしたので慌てて奥へと進む。ゴミか宝かわからない遺物の山に母上が顔を突っ込んでいる。‪……‬上等なドレスが台無しだ。

「もう、大丈夫ですか?」
「平気よ、バランスを崩しただけ‪。それよりこれ」

母上が身体をずらす。そこに立て掛けられていたのは額縁に入れられた大きな絵画だ。父上と母上と、それから赤子‪の姿が単色で克明に描かれている。今や敵となってしまった父上が隣に寄り添っているのに、母上はこれを見つけてひどく嬉しそうだ。

「あなたが私達の元に来てくれた記念に宮廷画家に描かせたの。素晴らしいでしょう?」
「ええ、とても‪……‬しかしなぜこんな場所に?」
「‪……‬言い争いになった際に、あの人の腹いせにこの絵を取り上げられてしまったのです。どこにいったのかと探していたの、まさかまた巡り合えるなんて」

しばらく惚けてその絵を見ていた母上だが、僕の視線にハッとして、その辺にあった布をかけてしまった。

「これは処分します」
「よろしいのですか?」
「あなた達に子どもが産まれたら描いてもらいましょう。それを宝物にするわ」

そうなれば、いいな。約束はできないが、僕にだってそうなってほしいという願いはある。「そうですね」と返して、さらに奥の部屋を覗き込んだ。

「まだまだ見るところがありそうですね。一度、魔具に詳しい者のところに持っていきましょうか」
「そうね」

尻もちをついたままだった母上が立ち上がる。すると何か光る物がポロリと床に落ちた。

「今何か‪……‬」

屈んでその後を追うと、突然視界が強烈な虹色に覆われる。

ハッ‪……‬!

息を呑んで、見えない中で手を伸ばしそれを掴んだ。視界が戻ってくる。クラクラとする頭を抱えてそれを眼前に掲げると‪……‬。

「指輪‪……‬?」
「先程見つけたのです。妙に気になって、あなたが気に入ればと」

ゴールドのリングには細やかなピンクの石がいくつか嵌め込まれている。‪
……‬‪……‬僕は、これを知ってる。

泣きたくなるような気持ちを抑えて、そっと両手で触って確かめた。ダメだ。涙が溢れてくる。母上に見られないように顔を伏せて、手元を隠し、そっと左手の薬指に嵌めた。
‪……‬ピッタリだ。

「ベル、どうしたの?」
「母上、これは‪……‬僕のものです」
「確かにピッタリだけど、あなた女人になって指が痩せたでしょう? もともとのサイズでは‪とても‪……‬」

母上の手によって指輪が抜かれる。そしてややあってから、ハッと息を呑む音が聞こえた。隣を見ると、母上も‪……‬泣いている‪……‬?

「ああ‪……‬これは奇跡かしら‪……‬?」
「母上‪……‬?」
「ベル、確かにこれはあなたのもののようね」

母上の手の平の上に乗せられた指輪。示してくれた角度で、裏に文字が彫られていることに気付いた。

「ディア、ベル‪……‬フロム‪……‬ジャオ‪……‬ぇ‪……‬‪……‬?」
「なぜここにこんなものがあるのか‪……‬そうとう古いものには違いありませんが‪……‬やはり、あなた、この国の王女なのですよ‪……‬!」

これは、もしかして前世の‪……‬?
ジャオはこの地に辿り着き、そして王族として子孫を残した。違う人と結婚したのかもしれない、けれど‪……‬僕にくれた指輪はずっと、ここに取っておいてくれたんだ‪……‬こんなにも近くに、僕の前世は、眠っていた……‬。

「僕、心当たりがあります‪……‬これは僕に必要なものなんです‪……‬」
「ええ、ええ、そうに違いないわ」
「これを持って誓いの儀式に臨みたいです」
「もちろん。素敵な式になるわ」

魔具探しという目的も吹き飛んでしまうくらいに、僕と母上は歓喜にむせび泣いた。
物理的には何の役にも立たない物かもしれない、それでも――――この宝物は、過去と未来を結んでくれる。僕らに希望を与えるために、ここで待ってくれていたような……そんな気が、したんだ。
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